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ALIにおける理学的所見とPACデータの関連~はじめに [critical care]

Association of physical examination with pulmonary artery catheter parameters in acute lung injury

Critical Care Medicine 2009年10月号より

肺動脈カテーテル(PAC)で得られる情報に基づいて重症症例の治療を行ったり、心係数(CI)や混合静脈血酸素飽和度(SvO2)の目標値を設定して管理を行ったりする手法について研究が行われてきたが、転帰の改善が得られるという結果は得られていない。重症患者の循環動態の評価や治療方針の決定には、PACは必要ではなく、理学的所見や、PACを使わなくても得られる客観的パラメータからPACに引けを取らない情報が得られると考えられている。循環動態が不良であることを示す理学的所見は、毛細血管再充満時間の延長、膝のまだら模様および皮膚温低下である。PACなしで得られる客観的パラメータのうち、循環動態の評価に用いられるのは、尿量やその他の体液喪失量、中心静脈カテーテル(CVC)から得られる中心静脈圧と中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)である。

我々は、NHI/NHLBI ARDSネットワークが行ったFluid and Catheter Treatment Trial(FACTT)のデータを利用し、ALI/ARDS患者における、理学的所見および客観的パラメータ(水分喪失量、中心静脈圧およびScvO2)と、CIおよびSvO2に相関関係があるかどうかを検討した。FACTTは、制限輸液vs 大量輸液、CVC vs PACの比較を目的とした2×2デザインの無作為化臨床試験で、1001名の患者が対象となった。

FACTT研究で収集されたデータは、循環動態が不良であることを示す理学的所見三項目:毛細血管再充満時間の延長(>2秒)、膝の皮膚のまだら模様、四肢皮膚の冷感である。CVCデータを指標に治療を行う群に割り当てられた患者では、以上三つの理学的所見が同時に認められれば循環動態が不良であると判断し、プロトコルで定められた治療が行われた。PACデータを指標に治療を行う群に割り当てられた患者では、治療方針の決定に理学的所見は用いられなかったが、PACで得られた血行動態パラメータとの比較をするのは可とした。

本研究では、ALI/ARDS患者において、循環動態が不良であることを示す理学的所見と、PACなしで得られる客観的パラメータ(24時間の総水分喪失量、ScvO2および中心静脈圧)はCIおよびSvO2低値と相関する、という仮説を検証した。そこで、FACTTでPAC群に割り当てられた患者のデータを解析し、以下の三つの課題を評価した:1) 基準時点において、循環動態不良を示す理学的所見がある場合に、CI<2.5またはSvO2<60%であるかどうか。;2) 研究開始日から第7日までのデータにおいて、理学的所見と客観的パラメータ(24時間水分喪失量および中心静脈圧)がCI<2.5またはSvO2<60%と相関しているかどうか。;(3) ScvO2とSvO2が相関しているかどうか、また、ScvO2が低い場合にSvO2も低いかどうか。

教訓 循環動態が不良であることを示す理学的所見、水分喪失量、ScvO2および中心静脈圧が、PACで得たCIおよびSvO2の値と一致するかどうかを調べてみました。
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アナフィラキシーと麻酔~治療② [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

カテコラミンの効かないアナフィラキシーショック:代替治療薬は?
循環動態が極度に失調し、エピネフリンが効果を発揮しないことがある。これはカテコラミン不応性アナフィラキシーショックと呼ばれているが、文献的に確立された呼称ではない。β遮断薬を投与されている患者のアナフィラキシーショックでは、ノルエピネフリン、メタラミノールまたはグルカゴンの投与が推奨されている。アナフィラキシー時にカテコラミンの効果が得られない理由の一つは、アドレナリン受容体の脱感作であると考えられているため、アルギニンバソプレシン(AVP)がカテコラミンに代わる治療薬となり得る。AVPはアドレナリン受容体ではなく、血管平滑筋のV1受容体を介して血管収縮作用を発揮する。カテコラミン不応性が形成される別の要因として考えられているのは、一酸化窒素である(一酸化窒素はアナフィラキシー発症時に中心的な役割を果たす)。一酸化窒素がたくさん生成されて血管拡張性ショックが発生すると、低血圧に陥り、血管収縮薬が効かなくなる。一酸化窒素の働きで増える細胞内セカンドメッセンジャーのcGMPの産生を、AVPは直接的に抑制する。実験では、アナフィラキシーにAVPが有効である可能性が明らかにされているが、アナフィラキシー発症後間もなく(5分以内)AVP単剤を投与したり、大量投与したりすると、状態が悪化するかもしれない。複数の症例報告で、AVPがアナフィラキシーに有効である可能性が示唆されている。症例報告では、エピネフリン、ノルエピネフリンand/orフェニレフリンを投与しても改善が見られないアナフィラキシーの患者において、ショックに陥ってから10-20分後にAVPを投与したところ、効果が得られたとされている。したがって、カテコラミン不応性アナフィラキシー症例ではAVPが余剤をもって代え難い役割を果たす可能性がある。AVPがアナフィラキシーの治療に有効であったという報告と無効であったという報告のどちらともが、AVPのアナフィラキシーにおける有効性の正当な評価には重要である。

メチレンブルーには、一酸化炭素の血管平滑筋弛緩作用を抑制する働きがあることが知られている。カテコラミン不応性アナフィラキシーおよびバソプレシン不応性アナフィラキシーにメチレンブルーが有効であったという報告が最近発表された。AVPやメチレンブルーなど、カテコラミンが効かない場合の選択肢となり得る薬剤の作用機序をもっと解明したり、臨床的価値を確立したりするには、さらに基礎的研究を重ねる必要がある。

まとめと展望

周術期にアナフィラキシーが発生すると、急速に重症化し、それまで健康であった患者が死の淵に瀕することもある。アナフィラキシーは稀な疾患であり、急激に発症し、臨床徴候も多彩であるため、適切に診断されないこともあり得る。普通に臨床に携わっていても、アナフィラキシーの発生頻度は低いので、実際の症例を経験することはなかなかできない。それを補い、周術期アナフィラキシーの適切な管理法を覚えるには、麻酔シミュレーターなどの教育手法を用いるとよいだろう。臨床所見、生物学的検査および皮膚反応試験の所見のすべてを総合して原因物質を特定した上で、それを周知し以降はその原因物質の使用を回避する、というのが理想的な対処法である。カテコラミンを投与しても血行動態が改善しないアナフィラキシーがあることについては、もっと注目が集まるべきである。特にカテコラミン不応性アナフィラキシーに対するAVP適応の可否についての、妥当な合意形成を目指すべきである。

教訓 カテコラミン不応性アナフィラキシーでは、AVPが効く可能性があります。しかし、発症後早期の単剤投与や大量投与は悪影響を及ぼすかもしれません。

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アナフィラキシーと麻酔~治療① [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

周術期アナフィラキシーの治療

可能な限り以下の方策をとるべきである:(1) 原因であると疑われる薬剤の使用を中止する;(2) 導入中にアナフィラキシー反応が出現したら、麻酔薬の投与をすぐに中止する;(3) 100%酸素を投与する;(4) グレード3または4の症例では速やかにエピネフリンを投与する;(5) 救援要請、特にグレード3または4の場合;(6)トレンデレンブルグ体位にする;(7) 術中に発生した場合は、可能であれば手術を省略して早く切り上げる。

循環動態を安定させるのが最優先
エピネフリン静注と輸液が、アナフィラキシー治療の要である。アナフィラキシー発生時には、エピネフリンの絶対禁忌はないので、臨床的に必要であると判断されれば躊躇なく速やかに使用しなければならない。アナフィラキシーが発生し、死亡など転帰不良であった症例では、エピネフリン投与の遅れまたは投与しなかった、投与量が不足または多すぎたなどの要因が関与していることが明らかにされている。したがって、エピネフリンは必要量を慎重に投与する必要がある。

グレード1の反応が見られる場合は、エピネフリンを投与してはならない。グレード2では時として少量(10-20mcg)のエピネフリン投与が必要なことがある。グレード3では、血行動態の変化を観察しながら1-2分ごとに100-200mcgずつエピネフリンをボーラス投与しなければならない。繰り返し投与が必要であれば持続投与を開始する(1-4mcg/min)。グレード4(心停止)の場合は、CPRを実施する。エピネフリンは1mgずつ3~5分ごとに投与する。持続投与は4-10mcg/minで行う。

輸液
アナフィラキシーが発生し血管透過性が変化すると、血管内水分の50%が間質へ移動する。したがって、大量の水分移動を補うため、速やかに輸液療法を開始しなければならない。

気管支攣縮
気管支攣縮が認められたら、β2刺激薬(サルブタモールやアルブテロール)の吸入剤を使用する。それでもおさまらなければ、β2作働薬を静注する(サルブタモール100-200mcg)。必要であれば持続投与も考慮する(5-25mcg/min)。循環虚脱と気管支攣縮が同時発生した場合は、循環動態の回復を最優先に治療を行わなければならないため、エピネフリンが第一選択である。エピネフリンにはβ2作用があるため、気管支攣縮にも有効である。副腎皮質ステロイドの早期投与も推奨される。副腎皮質ステロイドの効果は、少なくとも4-6時間後にしか発現しない。

その他の治療法
アナフィラキシーの治療において、副腎皮質ステロイドand/or H2受容体拮抗薬を推奨する意見をよく見かけるが、いずれも偽薬対照試験でその効果が確認されているわけではない。アナフィラキシーを繰り返す症例についての遡及的研究では、副腎皮質ステロイドおよび抗ヒスタミン薬を投与しても、二相性アナフィラキシー(ほとんどのアナフィラキシー反応は単相性だが、およそ10%の症例では、数時間後から半日後に2回目の症状が発現することがあり、これを二相性アナフィラキシーと呼ぶ。)を予防することはできないことが明らかにされている。したがって、一旦アナフィラキシー症状がおさまっても、注意深い観察を続けなければならない。副腎皮質ステロイドは、血管性浮腫には有効である。

教訓 エピネフリン静注と輸液が、アナフィラキシー治療の要です。グレード1では、エピネフリン投与不要、グレード2では時として少量(10-20mcg)のエピネフリン投与が必要なことがあります。グレード3では、血行動態の変化を観察しながら1-2分ごとに100-200mcgずつエピネフリンをボーラス投与します。グレード4(心停止)の場合は、CPRのアルゴリズムに従います。アナフィラキシーによる死亡症例では、エピネフリン投与の遅れまたは投与しなかった、投与量が不足または多すぎたなどの要因が関与していることが明らかにされています。
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アナフィラキシーと麻酔~危険因子 [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

周術期アナフィラキシーの危険因子

周術期にアナフィラキシーを発症した患者は全員、次に麻酔を受けるまでにアレルギー学的評価を受けるのが理想ではある。だが、現実はそれとはほど遠い。多くの国では、アレルギー学的評価はルーチーンには行われていない。したがって、麻酔を行う手術や検査に先立ち、アナフィラキシーの危険性の有無を確認し、疑わしい原因薬剤または物質を避けなければならない。全身麻酔中に重篤な即時型反応が出現した既往があるが、その後精査が行われていない患者では、以降の全身麻酔でもまた同様の反応が発生するリスクが高い。この場合、可能であれば区域麻酔が選択されることが多い。さらに、ラテックスに曝露された際にアレルギー反応が出現したことのある患者、何度も手術を受けたり、尿道カテーテルを繰り返し留置されたりしている患者(ラテックスに感作されている可能性が高い)、トロピカルフルーツ(アボカド、バナナ、キウイ、パイナップル、パパイヤなど;これらの果物はラテックスとの交叉反応性が高く、ラテックス-フルーツ症候群と呼ばれる)によるアレルギー反応が臨床的に認められる患者には、非ラテックス製品を使用するべきである。アトピー性疾患(ラテックスによるものを除く)の患者や、周術期に使用する可能性の低い薬剤によるアレルギー(予防投与される抗菌薬に対するアレルギーを除く)のある患者は、周術期アナフィラキシーの危険性はないと考えてよい。

教訓 アナフィラキシーが発生したら、必ず精査をするのが理想ですが、たいていの国では行われていません。
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アナフィラキシーと麻酔~診断③:皮膚試験(後編) [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

その他の原因薬剤・物質

ラテックス
欧州では、市販のラテックス抽出液を用いたプリック試験が、ラテックスに対する過敏性の検査として行われている。ラテックスプリックス試験の感度は非常に高い(75-90%)。米国では皮膚試験用ラテックス試薬は市販されていないので、in vitro検査で診断を行う。ラテックス製手袋から抽出した成分が用いられることが多いのだが、抽出された試薬に含まれるラテックスタンパク量は標準化されていない。

抗菌薬
アナフィラキシーを起こす抗菌薬は、主にペニシリン系およびセフェム系である(70%)。どちらの系統もβラクタム環を持つ。初回曝露でもアナフィラキシーが起こることがある。欧州薬剤アレルギーネットワークの薬剤過敏性専門員会は、皮膚試験に用いる試薬の最高濃度を以下のように定めている:アモキシシリン20-25mg/mL、アンピシリン20-25mg/mL、大部分のセフェム系薬1-2mg/mL。βラクタム系薬を用いた皮膚試験の特異度は97%~99%であるが、感度は50%程度である。したがって、病歴からはβラクタム薬によるアナフィラキシーが疑われるが、皮膚試験は陰性である患者では、経口誘発試験が推奨されている。ペニシリン系とセフェム系の交叉反応は、共通して存在するβラクタム環によって発現するが、その頻度は少ない(10%)。βラクタム環の側鎖が抗原決定基である、βラクタム薬アレルギーも存在する。第一世代セフェム系薬とセファマンドール(第二世代セフェム)の側鎖は、ペニシリンおよびアモキシシリンの側鎖と構造が類似している。最近のメタ分析では、ペニシリンまたはアモキシシリンにアレルギーのある患者は、第一世代セフェム系薬およびセファマンドールにもアレルギー反応を示す頻度が高いが、第二世代以降のセフェム系薬に対するアレルギーはないことが明らかにされている。バンコマイシンによるアナフィラキシーは稀である。バンコマイシンを用いた皮内反応は、10mcg/mL未満の濃度の試薬を用いて行うべきである。バンコマイシンによるアナフィラキシーは、非特異的なヒスタミン遊離によって発生するred man症候群と混同しないようにしなければならない。バンコマイシンを急速に投与すると、red man症候群が起こりやすい。

鎮静薬
チオペンタールやプロポフォールによるアナフィラキシーは、稀に報告されているが、エトミデートやケタミンによるアナフィラキシーは、極めて稀である。皮膚試験を行う場合は、table 2に示した希釈濃度を守る。

オピオイド
オピオイドによるアナフィラキシーは非常に稀である。モルヒネにはヒスタミン遊離作用がある。したがって、皮膚試験を行う際は、推奨最高濃度を超えないよう注意する(table 2)フェニルピペリジン系製剤(アルフェンタニル、フェンタニル、レミフェンタニル、スフェンタニル)についても、プリック試験や皮内試験(プリック試験陰性の場合のみ)を行うことがある(table 2)。フェニルピペリジン系製剤間の交叉反応が認められることは滅多にない。

局所麻酔薬
局所麻酔薬によるアナフィラキシーは極めて異例であり、エステル型局所麻酔薬が使用されなくなるにつれて、発生頻度は低下している。局所麻酔薬によるアレルギー反応の大部分は、エステル型局所麻酔薬の共通する代謝産物であるパラアミノ安息香酸によって引き起こされる。パラアミノ安息香酸がアレルゲンであれば、エステル型局所麻酔薬全ての交叉反応性があることになる。アミド型局所麻酔薬に対するアレルギー反応は、報告はされているが、それが本当にアミド型局所麻酔薬によるものであるという確たる証拠はない。局所麻酔薬製剤に添加されている、ピロ亜硫酸またはパラベン(代謝されるとパラアミノ安息香酸が生成される)などの酸化防止剤や保存剤が、アレルギーや有害反応を引き起こしている可能性もある。エステル型局所麻酔間の交叉反応性はよく認められるが、アミド型では稀であり、アミド型とエステル型の交叉反応性はない。局所麻酔薬(保存剤やエピネフリンを含まないもの)の皮膚試験はtable2に示した希釈濃度に従って行う。

コロイド
コロイドによるアナフィラキシーの頻度は低い。ヒドロキシエチルスターチ(0.06%)よりも、ゼラチンによるもの(0.35%)の方が多い。アナフィラキシーが疑われれば、原液を用いたプリック試験を行い、陰性であれば皮内試験を行う。

アプロチニン
アプロチニンによるアナフィラキシーの発生率は、再投与の場合で約2.8%である。以前は術中の出血量減少や輸血回避の目的でアプロチニンが使用されていたが、最近になって市販されなくなった。しかし、フィブリン糊製剤の中には、アプロチニンを含有しているものが今でもある。原液を用いたプリック試験を行い、陰性であれば皮内試験(10倍希釈を最高濃度とする)を行う。

色素
Isosulfan blueまたはpatent blueによるアナフィラキシーの発生率は2%未満である。メチレンブルーによるアナフィラキシーはごく稀である。必要であればプリック試験を行い、陰性であれば皮内試験を行う(メチレンブルーはヒスタミン遊離作用があるため100倍希釈を最高濃度とし、isosulfan/patent blueは10倍希釈を最高濃度とする)。

その他の薬剤
プロタミン、消毒剤(クロルヘキシジン、ポピドンヨード)、イオン性造影剤でもアナフィラキシーが発生することがある。確定診断のため皮膚試験を行うことがある。

診断を確実なものとし、今後の麻酔管理に資する情報を得るには、アレルギー学的評価と臨床像とを重ね合わせて吟味しなければならない。アナフィラキシーを示唆する臨床経過(大半の重症反応)を辿り、トリプターゼ濃度が上昇し(トリプターゼ濃度の上昇が見られないからといってアナフィラキシーを除外することはできない)、皮膚試験が陽性であれば、その薬剤・物質によるアナフィラキシーであると確定診断を下すことができる。以降は、その薬剤・物質の使用を避けなければならない。

一方、アナフィラキシーを示唆する臨床経過(一般的には重症ではない反応)が認められ、ヒスタミン濃度の上昇はある(あるいはない)が、トリプターゼ濃度の上昇はなく、皮膚試験が陰性であれば、非アレルギー性の反応(アトラクリウム、ミバクリウム、バンコマイシンなどの強いヒスタミン遊離作用のある薬剤によるヒスタミン放出)であると考えられる。

さらに、アナフィラキシーを示唆する臨床経過(たいていは循環動態の著しい悪化)にトリプターゼ濃度の上昇とその持続を伴うが、皮膚試験が陰性である場合は、肥満細胞増多症が疑われる(fig. 2)。

患者には詳細な情報を知らせ、今後また麻酔を受ける際に関係者に対し明確な注意点を示すことができるようにしておくことが、最も重要である。

教訓 ペニシリンまたはアモキシシリンにアレルギーのある患者は、第一世代セフェム系薬およびセファマンドールにもアレルギー反応を示す頻度が高いものの、第二世代以降のセフェム系薬(セファンマンドールを除く)に対するアレルギーはないことが明らかにされています。この場合、βラクタム環ではなく、側鎖がアレルゲンです。
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アナフィラキシーと麻酔~診断③:皮膚試験(前編) [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

所見③:皮膚反応試験

アナフィラキシーを発症した患者に、皮膚の肥満細胞を、アレルゲンであることが疑われる物質に曝露する皮膚反応試験は、IgEを介する反応の有無を評価する際に、現在でも最も信頼性の高い検査である。皮膚試験の結果は、先に述べたアナフィラキシー診断を構成する三項目の三つ目に挙げた、アレルギー学的所見に当たる。

なぜ、そして、いつ、皮膚試験を行うか?
H1 and/or H2受容体拮抗薬や副腎皮質ステロイドを前投与してもアナフィラキシーを防ぐことはできないことが分かっている。皮膚試験の目的は、(1) 原因物質の特定(以降は該当物質の使用を一切忌避する)、(2) アナフィラキシー反応の病態生理学的機序を明らかにする(アレルギー性 vs. 非アレルギー性)、(3) 該当薬物に代わる他の安全な薬物を明らかにする(fig. 2)、の三点である。肥満細胞減少によって偽陰性の結果が出ることを避けるため、皮膚試験を行うのは、アナフィラキシー発症後4~6週間ほど経ってからでなければならない。

皮膚試験の手順
臨床経過からアナフィラキシーが疑われる症例においてのみ、確定診断のため皮膚試験を行う。皮膚試験の対象は、アナフィラキシー反応が発生する直前に投与された薬剤およびラテックスである。皮膚試験は即時型過敏反応の検査なので、結果はすぐに(15~20分)判定しなければならない。本試験に先立ち、陰性対照(生食)と陽性対照(コデインand/orヒスタミン)の皮膚反応性を評価する。まずプリック試験を行い、次に皮内試験を実施する。皮膚試験には、未開封の市販薬の原液もしくは希釈したものを用いる。偽陽性の結果が出るのを避けるため、最高濃度を超える濃度の試薬を用いてはならない(table 2)。皮内試験は、プリック試験よりも感度は高いが特異度は低い。皮内試験は全身性のアレルギー反応を引き起こす可能性がプリック試験よりも高いので、プリック試験を行った後に、必要であるときにしか行ってはならない。プリック試験が陰性である場合にのみ、当該薬を0.02-0.05mL皮内投与し、皮内試験を行う。初回皮内試験が陰性であれば、15-20分間隔で試薬濃度を10倍ずつ濃くして皮内試験を繰り返す。陽性結果が得られるか、最高濃度に達するか、のどちからの時点で試験を終了する。プリック試験/皮内試験の陽性判定基準と、正常では皮膚試験を行っても陽性反応が見られない各麻酔薬の濃度を、フランスでは厳格に定めている(table 2)。スカンジナビア諸国およびその他の国でも、この取り決めが適用されている(参照:What investigation after an anaphylactic reaction during anaesthesia?

原因薬物(物質)は何か?

筋弛緩薬
欧州からの異なる複数の報告によれば、周術期に発生するアナフィラキシーの原因薬剤は、筋弛緩薬が最多であり、50~70%を占めている。米国のデータは数少ない。周術期アナフィラキシーの原因物質についての疫学調査は、米国では行われていない。米国ではFDAに提出された報告例を当てにするしかなく、標準化された皮膚試験も行われていないので、全国的な発生率は不明である。いずれの筋弛緩薬もアナフィラキシーを引き起こす可能性がある。筋弛緩薬投与後にアナフィラキシーが発生した患者では、筋弛緩薬を試薬とした皮膚試験の感度は95%を超え、再現性も極めて高い。筋弛緩薬同士の交叉反応性を示す症例は多く、約60-70%を占める。したがって、筋弛緩薬によるアナフィラキシーの診断を遺漏なく行うには、市販されている他の筋弛緩薬との交叉反応性を行い、安全に使用できる薬剤(皮膚試験陰性の筋弛緩薬)を同定する必要がある。フランスでは、交叉反応性を調べるときも、まずプリック試験を行い、その後皮内試験を行う。だが、プリック試験だけを行えばよい、という意見もある。ある一つの筋弛緩薬によるアナフィラキシーの既往があるからと言って、すべての筋弛緩薬を禁忌としてしまう決めつけは、とうてい認容できるものではない。こんなことをすれば、その患者が将来いつの日にか再び麻酔を受ける際に、きつい重荷を負わされることになる。

皮膚試験はロクロニウムによるアナフィラキシーの発生率を過大評価しているのではないか?
フランスおよびノルウェイでは、ロクロニウムによるアナフィラキシーの頻度が高いという報告があり、注目が集まっている。これを受け、ノルウェイ医療局は、ロクロニウムは緊急挿管にのみ使用するように、との通達を出している。

ロクロニウムはプロペニルアンモニウム基を持つため、アナフィラキシーが多いのではないかと考えられている。オーストラリアおよび米国では、ロクロニウムにアナフィラキシーが多いという傾向は認められていない。このため、筋弛緩薬に対するアレルギーの診断における皮膚試験の精度について疑問が呈されている。プリック試験または皮内試験に用いられるロクロニウム希釈液の濃度が適切ではないため偽陽性の結果が出てしまい、それが、ロクロニウムではアナフィラキシーの頻度が高いという報告につながっているのではないか、と指摘されている。正常患者における希釈閾値については諸説がある。Dhonneurは原液でも希釈液(10倍および100倍)でも、プリック試験が偽陽性となる可能性があるとしている。Levyは皮内試験では少なくとも100倍に希釈したロクロニウム液を使用することを推奨している。ロクロニウムではプリック試験は正常患者であれば必ず陰性を示す、という意見もあるが、正常患者の皮内試験で陰性となるロクロニウム希釈液の希釈率は10000倍以下もしくは100倍以下であるといった報告もある。アナフィラキシーのない正常患者における以上の議論と同様に、病歴からはアナフィラキシーの可能性が低いと考えられる症例では、筋弛緩薬を用いた皮膚試験の診断的価値は不明であり、皮膚試験の結果からは転帰を予測することはできない。正常患者のロクロニウム皮内試験で、ロクロニウム試薬によってできた膨疹を生検した研究では、肥満細胞の脱顆粒は見られないことが確認されている。したがって、皮膚試験の結果が「陽性」であるものののなかには、筋弛緩薬が皮膚の血管に直接作用したために出現した所見が陽性と判断されている可能性がある。正常患者と異なり、アナフィラキシーが発生した患者では、筋弛緩薬を用いた皮膚試験の信頼性は高く、薬剤誘発性IgE架橋による炎症性メディエイタ放出を検出するのに有用である。したがって、正常患者に実施された皮膚試験と、アナフィラキシー患者に実施された皮膚試験を比較することはできないし、またすべきでもない。とはいうものの、ロクロニウムによるアナフィラキシーは明らかに増えている。以下の4点がその原因として考えられている:(1) ロクロニウム使用量および市場占有率の増大、(2) 新しい薬剤であるがために有害事象が報告されやすいというバイアス、(3) 統計上の問題、(4) 遺伝子型の違い。ロクロニウムにアナフィラキシーが多い理由を解明するには、さらに疫学的データを収集する必要がある。

教訓 皮膚試験の目的は、(1) 原因物質の特定、(2) アナフィラキシー反応の機序の解明(アレルギー性 vs. 非アレルギー性)、(3) 該当薬物に代わる他の安全な薬物の同定、の三点です。肥満細胞減少によって偽陰性の結果が出ることを避けるため、皮膚試験を行うのは、アナフィラキシー発症後4~6週間ほど経ってからでなければなりません。


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アナフィラキシーと麻酔~診断②:生物学的検査 [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

所見②:生物学的評価の診断的有用性

生物学的検査には、in vivoのものとin vitroのものがある。
第一段階
ヒスタミンは、普段から肥満細胞および好塩基球の中にある顆粒中に貯蔵されている、炎症性メディエイタである。血漿ヒスタミン濃度の上昇は、肥満細胞and/or好塩基球が活性化されていることを示し、アレルギー性または非アレルギー性機序のどちらによっても、この活性化は見られる。だが、血中ヒスタミン濃度が上昇していないからと言って、免疫性または非免疫性機序を否定することはできない。ヒスタミンの血中半減期は非常に短い(15-20分)。したがって、ヒスタミン測定のための血液検体は、グレード1または2の場合は30分以内に採取しなければならない。重症例(グレード3または4)では、発症から2時間ほど経ってもヒスタミンが血中に残っていることがある。ヒスタミン代謝酵素が飽和してしまって、アナフィラキシー発生から長時間経過しても血中ヒスタミン濃度が高いままなので、測定が可能なのである。

トリプターゼは肥満細胞に貯蔵されている中性セリンプロテアーゼである。大きく分けて二種類ある:α-トリプターゼは常時分泌されており、肥満細胞が増加すると血中濃度が上昇する。β-トリプターゼ前駆体も常時分泌され、肥満細胞の大きさを反映する。成熟β-トリプターゼは肥満細胞内の顆粒に貯蔵され、肥満細胞が活性化されると全身に放出されるので、その濃度から活性化の程度を推し量ることができる。

血清トリプターゼ濃度は15分~1時間後に最高値を示し、その後は直線的に低下する。半減期はおよそ2時間である。したがって、トリプターゼ濃度を測定するのであれば、グレード1または2のアナフィラキシーでは、15~60分以内、グレード3または4では30分から2時間以内に血液検体を採取すればよい。総トリプターゼ濃度(αおよびβトリプターゼ濃度の算)が上昇していれば、肥満細胞が活性化していることの証明となるが、この所見がないからといってアナフィラキシーを除外することはできない(グレード1および2の場合)。非アレルギー性機序によってもトリプターゼ濃度は上昇するが、免疫が関与する場合と比べると、その程度は小さい。基準時点における濃度と比較するため、発症から少なくとも24時間以上経過した後または精査を行う際に、新たに検体を採取するとよい。遅発性または二相性アナフィラキシー、もしくはもともと肥満細胞増加症がある症例では、トリプターゼ濃度が高値のまま推移することがある(fig. 2)。

即時型非アレルギー性反応(例;ヒスタミン遊離)では、ヒスタミンは増加することがあるが、トリプターゼ濃度は通常は正常範囲内である。ヒスタミンおよびトリプターゼ濃度はアレルギー反応の重症度を反映するので、即時型反応の診断には両者を測定することが推奨されてきたが、一方で、トリプターゼ濃度だけ測定すればよい、という意見もある。ヒスタミンやトリプターゼの血中濃度上昇は、先に述べたアナフィラキシー診断を構成する三項目の二つ目に挙げた、生物学的所見に当たる。

第二段階
臨床診断に有用であるされるin vitro検査は他にもあるが、どこの施設でも実施が可能であるわけではない。筋弛緩薬の特異的IgE抗体の検査は、スキサメトニウムを除き実用化されているが、感度は低い(30-60%)。第4級アンモニウム(コリンアナログ)またはmorphine-based solid-phase IgEを用いれば、筋弛緩薬の持つ第4級アンモニウムに監査されているか否かを評価することができるという意見も示されている。In vitroでの特異的IgE抗体検査は、麻酔薬のごく一部(チオペンタール、プロポフォール)、抗菌薬(アモキシシリン、セファクロール、ペニシリンGおよびV)、ラテックスについても可能である。だが、特異的IgE抗体の検出は、皮膚試験と比べると感度が低い。したがって、血清IgEの検査は、即時型反応が発生した機序を絞り込むのには役立つかもしれないが、原因薬物(物質)の特定には向かない。

麻酔薬の特異的IgE抗体を間接的に検出する検査もある。白血球ヒスタミン遊離試験は、筋弛緩薬間の交叉反応性の有無を判断する際に行われる精度の高い検査である。原因薬剤(物質)を試験管内で添加し、好塩基球活性化(CD63およびCD203cを活性化マーカとする)の程度を、フローサイトメトリを用いて定量評価する方法(好塩基球活性化試験)が、筋弛緩薬を原因物質とするアナフィラキシーの診断に有用である可能性があるが、さらに研究を重ね効能を明らかにする必要がある。

教訓 トリプターゼ濃度が上昇していれば、肥満細胞が活性化していることの証明となりますが、この所見がないからといってアナフィラキシーを除外することはできません(グレード1および2の場合)。
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アナフィラキシーと麻酔~診断:①臨床所見 [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

周術期アナフィラキシーの診断法

麻酔中に発生する即時型反応の原因は、臨床的、生物学的およびアレルギー学的な三つの所見によって判断する(fig. 1)。

所見①:臨床経過が一番大事

アナフィラキシーは初診断が重要である。分の単位で命に関わる状態に陥ることがあるため、最初の診断は推定に基づいて下される。アナフィラキシーの診断に必要な第一の所見は、臨床徴候の内容および重症度と、疑われるアレルゲンの投与から症状発現までの時間である。蘇生に要した薬剤の量は、アナフィラキシー反応の重症度を判断する参考となる。麻酔中に発生するアナフィラキシーの臨床像は、心血管系徴候(頻脈、徐脈、不整脈、低血圧、循環虚脱、心停止)、気管支攣縮および皮膚粘膜徴候(紅斑、蕁麻疹、血管性浮腫)である。以上の徴候は、RingとMessmerの4段階スケールでは以下のように分類されている(table 1)。グレード1は、皮膚粘膜徴候のみが認められるものである。グレード2は、皮膚粘膜徴候に、心血管系、呼吸器系もしくは消化器系の徴候を伴うものである。グレード3は、循環虚脱に、皮膚粘膜、呼吸器系もしくは消化器系の徴候を伴うものである。グレード4は心停止を来したものである。グレード1とグレード2では、通常は生命に危機が及ぶ状態に陥ることはないが、グレード3とグレード4は迅速な蘇生を要する緊急事態である。

周術期のアナフィラキシーは麻酔導入後数分以内、場合によっては1分以内に発生する。大部分は静脈内に投与された薬剤が原因である。重症例(グレード3または4)で頻度の高い初発徴候は、脈拍の消失、酸素飽和度の低下および重度の気管支攣縮による換気困難である。もともと喘息やCOPDのある患者では、重篤な呼吸器症状があらわれる。心血管系徴候のうち多いのは低血圧および頻脈であり、迅速な診断および治療が行われなければ、急速に致死的不整脈や循環虚脱に至ることがある。不安定な血行動態が重症アナフィラキシーの特徴で、循環虚脱が唯一の初発徴候であったり、初発徴候が心停止であったりする症例も存在する。急性過敏反応に急性冠症候群が合併することがあり、Kounis症候群と名付けられている。アレルギー性狭心症またはアレルギー性心筋梗塞と呼ばれることもある。Kounis症候群は、肥満細胞からのメディエイタ放出様式によって二つのタイプに分類されている。冠動脈疾患の既往がない患者に起こるのがⅠ型、Ⅱ型は既往のある患者に発生するものである。Ⅰ型では、アレルギー反応によって冠動脈攣縮が起こるだけで、心筋逸脱酵素は正常であることもある。Ⅰ型もⅡ型も、心筋梗塞が起こりうる。肥満細胞内に貯蔵されている物質の血中濃度がある閾値を超えると、急性冠症候群が発生するのではないかと考えられている。

アナフィラキシーの重症度予測
目の前で起こっているアナフィラキシー反応の重症度を判断するのに役立つ、三つの項目を以下に挙げる:(1) アレルゲン曝露からアナフィラキシー発現までの時間が短いほど、重症である可能性が高く、生死に関わる状況に至る危険性をはらむ。(2) 急速進行例では、皮膚症状が発現しないことがある。血行動態が不安定になるほどのアナフィラキシーでは、皮下の血管は収縮する。したがって、血圧が正常化した後にようやく皮膚症状が出現することがある。したがって、はじめに皮膚症状や末梢血管の拡張が見られないからと言って、アナフィラキシーを除外すべきではない。(3) 紛らわしいもう一つに徴候は、徐脈である。著しい血管内容量不足の場合に、Bezold-Jarisch反射によるものと考えられる徐脈が見られることがある。Bezold-Jarisch反射は、心機能を抑制する反射である。左室の圧受容体が刺激され、迷走神経無髄C繊維を介し、交感神経抑制と副交感神経刺激が起こる。著しい血管内容量不足のときに発生するこの奇異性徐脈は、麻酔中のアナフィラキシー症例のうちおよそ10%で発生するとされている。この場合、徐脈は生命を維持するための適応機序であると考えられる。徐脈になれば、血管内容量が著しく減少していても、心室が収縮する前に充満する時間を十分に確保できるのである。したがって、アナフィラキシー症例で徐脈が認められたら、徐脈だからと言ってアトロピンを投与すると、いきなり心停止が起こるかもしれないので注意が必要である。こういう場合の適切な治療は、まず大量輸液、続いてエピネフリン投与である。

原因薬物または物質は?
周術期アナフィラキシーの原因物質として多いのは、筋弛緩薬、ラテックスおよび抗菌薬である。導入後間もなく、主に筋弛緩薬または抗菌薬を原因として発生することが多いが、アレルゲンとなり得る物質があればいつ何時発生してもおかしくない。色素、鎮静薬、局所麻酔薬、オピオイド、コロイド、アプロチニン、プロタミン、クロルヘキシジン、造影剤が原因物質であることは少ない。ラテックスによるアナフィラキシーは、手術が開始され30-60分後以内に発生することが多いが、即座に起こることもある。この20年間にラテックスによるアナフィラキシーが激増しているため、ラテックスを含まない医療製品を使用する取り組みが望まれる。特に、複数回にわたる手術を要する患者や医療従事者などの高リスク群ではラテックス非使用製品を使用するべきである。麻酔科医自身が、ラテックス感作の有病率が高いが、ラテックス感作には遺伝的要因が関与している可能性がある。小児病院において、手術室および周術期管理を行う病棟ではラテックス非使用製品のみを使用するという方針を実施したところ、25000件の麻酔症例のうちラテックスによるアレルギー反応が発生した患者は皆無であった。

症候発現までの時間と症候の種類は、アレルゲン濃度によって左右される。症状消失までの時間(最長36時間)は、投与経路によって決まる。さらに、症候の程度と発現までの時間に関わる要素として重要なのは、患者の感受性の程度および投与経路である。例えば、静脈内投与や粘膜曝露では、速やかに症状が発現し、程度も重いことが多い。

教訓 麻酔中のアナフィラキシー症例のうちおよそ10%でBezold-Jarisch反射による徐脈が発生します。徐脈になることで、血管内容量が著しく減少していても、心室が収縮する前に充満する時間を十分に確保することができます。したがって、アナフィラキシー症例で徐脈が認められたら、徐脈だからと言ってアトロピンを投与すると、いきなり心停止が起こるかもしれません。こういう場合の適切な治療は、まず大量輸液、続いてエピネフリン投与です。
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アナフィラキシーと麻酔~病態生理と疫学 [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

周術期に発生するアナフィラキシーの原因は、麻酔や手術に使用される薬剤または物質であるのが一般的で、生命の危機に瀕する可能性を孕んでいる。アナフィラキシーには予防的治療法はないため、発生後はアレルギー学的評価を行い、原因物質を同定し再発を防ぐことが肝要である。本レビューの梗概は以下の通りである。(1) アナフィラキシーと紛らわしい病態とアナフィラキシーを鑑別するのに必要な臨床診断手順を明らかにする。(2) 麻酔中にアナフィラキシーを起こす可能性の高いアレルゲンの検討。(3) 周術期にアナフィラキシーを発症した患者が、今後も医療を安全に受けることができるように原因物質を特定する際の、適切な方法の検討。(4) アナフィラキシー発生時に最初に使用するべきであると推奨されているカテコラミンを投与しても、血行動態が改善しない症例の治療における新しい治療法の展望についての検討。

病態生理

アナフィラキシーは複数臓器の臨床症状を呈する症候群である。その臨床像は、肥満細胞および好塩基球の中で生成・貯蔵されているメディエイタが急激かつ持続的に放出される結果繰り広げられる。したがって、アナフィラキシーが発症したら、細心の注意を払い監視を続けなければならない。

2000年代初頭、欧州アレルギー・臨床免疫学会はアナフィラキシーの定義を、主としてIgEによって引き起こされる「重篤で、命に関わるような、全身性の過敏反応」とした。さらにその後、米国国立アレルギー・感染症研究所と食物アレルギー・アナフィラキシーネットワークによる第二回シンポジウムでは、次のような定義が提唱された:「アナフィラキシーは急激に発症し、死亡に至ることもある重篤なアレルギー反応である」。欧州アレルギー・臨床免疫学会は、IgEを介さないアナフィラキシーに似た反応を指すアナフィラキシー様反応という用語は使用すべきではない、と勧告しているのだが、広く受け入れられるには至っていない。

素因者の初回アレルゲン曝露に際しIgE抗体が産生され、組織では肥満細胞、血中では好塩基球の細胞膜に存在する高親和性IgE受容体であるFcεRⅠにIgE抗体が結合する。一方、リンパ球、好酸球および血小板は低親和性IgE受容体のFcεRⅡを介してIgE抗体と結合する。この初回曝露によって成立する感作は、臨床的には症状も徴候も表には現れない。二回目以降の曝露では、アレルゲンによってIgE受容体が架橋される。架橋されたIgE受容体は凝集しシグナル伝達カスケードが惹起され、組織や血中の細胞内顆粒に貯蔵されているヒスタミン、中性プロテアーゼ(トリプターゼ、キマーゼ)、プロテオグリカン(ヘパリン)などのメディエイタが放出される。そして間もなく、プロスタグランディンD2、ロイコトリエン、トロンボキサンA2および血小板活性化因子などのリン脂質由来の炎症促進性メディエイタが新たに生成され放出される。その後、肥満細胞からは多量のケモカインやサイトカインが放出され、炎症性細胞がさらに集積し活性化される。

アナフィラキシーの特徴の一つは、アレルゲンがごく少量であっても、反応が起こることである。アナフィラキシーの標的臓器は、皮膚、粘膜、心血管系、呼吸器系および消化管である。臨床徴候は、紅斑、浮腫、紫斑、低血圧、頻脈および気管支・消化管の平滑筋収縮であり、周術期の即時性反応の評価に用いられているRingとMessmerの臨床重症スケールにまとめられている(table 1)。このスケールでは、病態生理学的機序は考慮されていないが、即時性反応の臨床的重症度の評価や治療方針の決定には役立つ。過敏反応がアレルギー性(免疫系が関与しているもの、つまりアナフィラキシー反応)なのか、非アレルギー性(かつてアナフィラキシー様反応といわれていたもの。免疫系が関与していない反応。)なのかを鑑別するには、in vivoおよびin vitro検査を行う。

疫学

周術期アナフィラキシー反応の発生率は、麻酔1万~2万件あたりおよそ1件、筋弛緩薬使用6500回あたり1件であると見積もられている。アナフィラキシー発症例がすべて報告されているわけではないので、この見積もり値は実際より低いと考えられる。

アナフィラキシーは麻酔中に発生する稀な事象の一つであり、周術期の合併症や死亡につながる可能性がある。アナフィラキシーの罹患率は不明である。フランスでは、部分的または全面的に麻酔と関連する死亡した例の3%がアナフィラキシー症例であることが明らかにされている。一方、イギリス医療管理局に報告された、周術期即時型過敏反応症例の10%が死亡に至っている。だが、イギリスのデータは、重症度があまり高くない症例についてはおそらく報告されていないと考えられるため、この数字を額面通りに受け取り評価するべきではない。

フランスでは、アナフィラキシーの原因物質のうち筋弛緩薬が最多を占め、次にラテックス、抗菌薬と続く。ノルウェイで行われた単一施設研究では、原因物質が筋弛緩薬であった症例が最多で、ラテックスが原因であったのは極わずかであり、三分の一の症例では原因物質が特定されなかった。反対に、スペインに所在する二施設で行われた調査では、抗菌薬が最多で、筋弛緩薬はその次であった。筋弛緩薬によるアナフィラキシーは、それまでに一度も筋弛緩薬を投与されたことのない患者に発症することも珍しくはない。筋弛緩薬初回投与時のアナフィラキシーという特異な病態を引き起こす感作物質の種類やその性質は、まだ解明されていない。しかし、筋弛緩薬がアレルギーを起こすのは、第4級アンモニウム構造を持つためであると考えられている。歯磨き粉、漂白剤、シャンプー、鎮咳薬などの日常生活で使用される化学物質も、筋弛緩薬と同じ第4級アンモニウム構造を持っている。素因者がこういった化学物質に普段の生活で触れることが、第4級アンモニウムイオンに対する感作成立を促す要因の一つとなり、筋弛緩薬によるアナフィラキシーが発症するリスクが増大するのかもしれない。最近では、第4級アンモニウムイオンに対する感作には、麻薬性鎮咳薬のフォルコジンの使用が関与しているのではないかと指摘されている。それまで特定の薬剤(例;筋弛緩薬、抗菌薬)を問題なく使用できていたとしても、同じ薬剤を次回用いるときにはアナフィラキシーが発生する可能性がある。

教訓 周術期アナフィラキシー反応の発生率は、麻酔1万~2万件あたりおよそ1件、筋弛緩薬使用6500回あたり1件であると概算されていますが、実際はこれより多いと考えられています。
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一回換気量<6mL/kg+ECMOで肺保護~考察 [critical care]

Tidal Volume Lower than 6 ml/kg Enhances Lung Protection: Role of Extracorporeal Carbon Dioxide Removal

Anesthesiology 2009年10月号より

考察

ARDSNetが提唱した人工呼吸管理を行っていて28≦PPLAT≦30cmH2Oとなる患者において一回換気量を6mL/kg PBW未満とすると、VILIに特有の炎症性マーカ上昇や形態変化が有意に緩和された。一回換気量をこれほど低下させることによって発生する呼吸性アシドーシスは、膜型肺を装備した改造腎代替療法装置を用いることによって有効かつ安全に補正することができた。

以上の結果から、体外循環による二酸化炭素除去を行えば、より肺損傷を起こしにくい人工呼吸器設定が可能であると言える。しかし、得られたデータは原理証明にのみ資するものである。その理由は以下の通りである。(1) ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う方法(Lower ARDSNet/Carbon Dioxide Removal strategy)を72時間実施する前と後の比較において生理的指標、画像、および炎症性パラメータにつき観測された改善には、時間効果が交絡した可能性を否定できない。なぜなら、28≦PPLAT≦30cmH2Oの患者でLower ARDSNet/Carbon Dioxide Removal strategyを行わず通常の管理をする対照群を設定しなかったからである。さらに、今回採用した研究デザインでは、一回換気量低下、PEEP上昇および体外二酸化炭素除去のそれぞれ固有の効果を判断することはできない。(2) 本研究で観測されたPaCO2の低下が、少ない血流量で行った体外循環による二酸化炭素除去だけによってもたらされたものかどうかを評価することができなかった。というのも、体外循環で除去された二酸化炭素量と、二酸化炭素産生量を測定しなかったからである。 (3) 実験モデルを用いた研究では、非代償性呼吸性アシドーシスにはVILIを軽減する働きがある可能性があることが示されている。したがって、体外二酸化炭素除去を行わずとも一回換気量とプラトー圧を下げるだけで、今回の結果と同等かそれ以上の、生理的指標、画像、および炎症性パラメータの改善が得られたかもしれない。 (4) ARDSNetの人工呼吸法で28≦PPLAT≦30cmH2Oであった症例では、呼吸数を増やし炭酸水素ナトリウムを投与することによって目標プラトー圧(25-28cmH2O)を達成した例はなかった。一回換気量が、要求されているレベルよりも大幅に下げられた症例が3例あったことが一因であろう。この3例の体外循環前のプラトー圧は目標値より低く、24.2cmH2O、23.3cmH2O、24.1cmH2Oであった。さらに、呼吸性アシドーシスの治療に有効であることが最近示された、二酸化炭素を発生させない緩衝剤であるトリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)は、今回の研究では使用されていない。

Gattinoniらは、酸素化を人工呼吸器にまかせ二酸化炭素除去は体外で行い、二つを分ければ「肺を休める」ことができるという仮説を提唱した。その研究では、人工呼吸は、無呼吸で陽圧をかけて酸素化を保つのと、毎分3~5回のサイ(最大吸気圧は35-45cmH2Oを超えない)を行うだけにとどめられ、PEEPは15-25cmH2Oに設定された。二酸化炭素除去は、ポンプ駆動の静脈-静脈バイパスを用いて行われた。回路内の血液は二つの膜型肺(合計膜表面積9m2)を通過した。回路血流は200-300mL/minから開始し、心拍出量の20-30%に当たる流量まで徐々に増やした。死亡率は予測よりも低かったが、複数の症例で重篤な出血が認められた。その後行われた無作為化臨床試験では、死亡率の低下は確認されなかった。体外補助を標準的治療と位置づけることの意義は、出血、溶血および神経系合併症などの重篤な合併症の発生率が高いとして、疑問視されてきた。そのため、体外二酸化炭素除去は、あらゆる治療を行い万策尽きた最重症患者や、多数の経験を積んだ施設に限ってしか行われてこなかった。

ARDSNetデータベースを事後的に評価したところ、すでにプラトー圧が30cmH2Oを超えている患者であっても、一回換気量を減らすと転帰が改善することが示唆された。さらに、ARDSNetの管理法で28≦PPLAT≦30cmH2Oであった患者では、生理学的および形態的指標から周期的過膨脹が発生していることが明らかにされている。以上から、体外循環を窮余の一策としての治療を位置づける考え方に異議が唱えられ、肺保護戦略に体外二酸化炭素除去を組み合わせれば、さらに一回換気量とプラトー圧を低下させることができるという仮説が生まれたのである。

「二酸化炭素産生量の一部のみ」を体外循環で除去する、というPesentiらが最初に打ち出した構想を応用した新しい装置が、最近になって作られるようになった。この新しい装置を用いれば、体外二酸化炭素除去に伴う副作用、煩雑さおよび費用が従前よりも低減する可能性がある。Beinらは先頃、ARDS患者にポンプなしの体外装置を用いる方法を報告している。患者90名を対象とした遡及的解析では、このポンプなし体外装置の使用によって、低一回換気量(320-470mL)であっても、PaCO2(31-42mmHg)もpH(7.38-7.50)も生理的な範囲内に保たれることが明らかにされている。しかし、合併症発生率は24%であった。合併症の内訳は、下肢虚血、コンパートメント症候群、脳出血などであった。さらに、動脈圧と静脈圧の圧較差をいじするためにノルエピネフリンの持続静注を要した。

本研究では、直列に接続した新生児用膜型肺とヘモフィルタを組み込んだポンプ駆動静脈-静脈バイパス回路を用いて二酸化炭素を除去した(fig. 2)。この回路を他とは一線を画し特徴付けている主な点は:(1) 体外二酸化炭素除去を行うときの標準的な血流量よりも少ない血流量で行うことができる(191-422mL/min [心拍出量の5-10%] vs 1.5-2.0L/min [心拍出量の20-30%]);(2) 成人用の膜型肺を二つ用いるのではなく、新生児用の小さい膜型肺を一つだけ使用(表面積はそれぞれ0.33平方メートル、3-4.5平方メートル);(3) 21~28Fr.の大口径シングルまたはダブルルーメンカテーテルではなく、14Fr.のダブルルーメンカテーテルを用いた;(4) 通常よりもプライミング量が少ない(140-160mL vs 1500-1800mL);(5) ヘパリン投与量が比較的少なくてよい(3-19IU/kg)。先行研究ほどしっかり抗凝固を行わなくてよい(APTT比1.1-1.7 vs 2.0-2.5)。

この体外循環バイパスを72時間実施したところ、PaCO2は33.6±6.3%低下し(73.6±11.1→48.5±6.3mmHg, P<0.001)、このおかげで167mL-340mLの一回換気量、8.1-11.9L/minの分時換気量で人工呼吸を行っていても動脈血pHが正常化した(7.20±0.02→7.38±0.04, P<0.001)。本装置を臨床使用した141±69時間には、静脈穿破、出血、血行動態不安定、腸管虚血/壊疽、気胸、腎・感染・代謝・血栓塞栓・中枢神経系合併症のいずれの有害事象も認められなかった。しかし、動脈血pHを正常化するのに必要な血流量は、この回路にしては比較的多かったので、14Frダブルルーメンカテーテルから8Frダブルルーメンカテーテル2本(1本ずつ左右大腿静脈に留置)への変更を余儀なくされた症例が3例あった。

低一回換気量の人工呼吸を行っていると吸収性無気肺が発生することがある。その有無や程度はFIO2、局所の換気血流比および呼気終末肺容量によって決まる。Dembinskyらが最近発表した研究ではARDSの動物を、一回換気量3mL/kgまたは6mL/kgに無作為に割り当て24時間人工呼吸が実施された。3mL/kg群では、ポンプなし回路を用いて二酸化炭素を除去し呼吸性アシドーシスの管理が行われた。そして、3mL/kg群の方が6mL/kg群と比較しプラトー圧が有意に低かったにも関わらず、臓器機能および臓器傷害の程度には有意な改善は認められないという結果が得られた。それどころか、換気血流ミスマッチが増加し、ガス交換能が低下した。我々の行った今回の研究では、Lower ARDSNet/Carbon Dioxide Removal strategy(ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う)を72時間実施したところ、(1) 肺重量および無含気・低含気部位が減少;(2) 正常含気部位が増加(table 2);(3) P/F比が有意に改善(136±30→221±56 ; P<0.001)(fig. 5)といった変化が観測された。Dembinskyらの動物実験とは異なる結果が得られたのは、Dembinskyらの実験ではPEEPが両群とも5cmH2Oに設定されていたのに対し、我々の研究ではそれより高く、体外二酸化炭素除去開始前には12.1±2.5cmH2Oであったものが15.2±0.8cmH2Oへとさらに上昇させられた。

まとめ
本研究では、ARDSNetの方法で人工呼吸管理が行われているARDS患者のプラトー圧が28~30cmH2Oとなる場合、さらに一回換気量を減らすと、過膨張が最小限に抑えられ肺の炎症も緩和されることが示された。一回換気量を6mL/kg PBW未満に減らすと呼吸性アシドーシスが発生するが、体外二酸化炭素除去を行えば安全かつ有効に是正することができ、動脈血pHは正常化する。原理証明研究である本研究は、体外二酸化炭素除去が従来の治療法の利点をさらに生かし、一段と肺に傷害を来しにくい人工呼吸器設定を可能とする方法であることを示す先駆けとなる臨床的エビデンスを提示した。本研究で得られた結果を十分に裏付けるには、さらに臨床試験を行う必要がある。

教訓 本研究で用いた回路の主な特徴は、(1) 少ない血流量;(2) 新生児用の小さい膜型肺を一つだけ使用;(3) 14Fr.のダブルルーメンカテーテル;(4) プライミング量が少ない;(5) ヘパリン投与量が比較的少ない、の4点です。
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一回換気量<6mL/kg+ECMOで肺保護~結果 [critical care]

Tidal Volume Lower than 6 ml/kg Enhances Lung Protection: Role of Extracorporeal Carbon Dioxide Removal

Anesthesiology 2009年10月号より

結果

基準を満たした患者32名のうち、22名は25< PPLAT <28cmH2Oであり、10名が28≦PPLAT≦30cmH2Oであった。患者特性をtable 1に示した。年齢、性別、SAPSⅡ、ARDSの原因疾患については、両群間に差を認めなかったが、P/F比は28≦PPLAT≦30cmH2O群の方が25<PPLAT <28cmH2O群より低かった(P<0.01)。

25< PPLAT <28cmH2O群と比べ、28≦PPLAT≦30cmH2O群の方が、肺重量が大きく、CT上の過膨張・無含気・低含気各部位が大きく、正常含気部位が小さかった(すべてP<0.001)(table 2)。28≦PPLAT≦30cmH2O群の方が25< PPLAT <28cmH2O群より、周期的膨張が起こらない部分が小さく、周期的過膨張が起こる部位が大きかった(なんらかの周期的膨張が起こる部位の合計量に占める割合19±6% vs 81±6%、67±5% vs 11±4% ;P<0.01)。低含気部位において周期的過膨張が発生する容量については、両群間で差を認めなかった。

28≦PPLAT≦30cmH2Oの患者では、一回換気量が6.3±0.2mL/kg PBWから4.2±0.3mL/kg PBWへと下げられた。それに伴い、PPLATは29.1±1.2cmH2Oから25.0±1.2cmH2Oへと低下した(二つともP<0.001)。そして呼吸数を増やし(31.2±2.3回/分→37.0±1.9回/分; P<0.001)、炭酸水素ナトリウムを投与(20.2±0.8mEq/hr)したにもかかわらず、分時換気量は減少し(12.03±2.77L/min→9.03±1.18L/min; P<0.001)、PaCO2は上昇し(48.4±8.7mmHg→73.6±11.1mmHg; P<0.001)、pHは低下した(7.36±0.03→7.20±0.02; P<0.001)。PEEPを上昇させたのが奏功し(12.1±2.5cmH2O→15.2±0.8cmH2O; P<0.001)、一回換気量を低下させてもP/F比はそれほど低下しなかった(135±30→124±29; P<0.01)(fig. 3)。28≦PPLAT≦30cmH2Oの全患者が体外二酸化炭素除去のpH基準を満たしたため、静脈-静脈バイパスを導入した。

静脈-静脈バイパスを60~90分間行ったところ、PaCO2は50.4±8.2mmHgへと低下し、動脈血pHは7.32±0.03へ上昇した(P<0.001)。体外循環を72時間行った時点におけるPaCO2とpHはそれぞれ47.2±8.6mmHg、7.38±0.04であった(P<0.001; fig. 4)。体外二酸化炭素除去装置の使用期間は144時間であった。回路内のポンプ血流は191mL/分から422mL/分であった(心拍出量の5-10%に当たる;table 3)。ヘパリン投与量は3~19IU/kgで、APTT比は1.1~1.7に維持された(table 3)。

患者側に生ずる合併症は一例も観察されなかった。発生した機械的合併症をtable 4にまとめた。3例において14Fr.のダブルルーメンカテーテルを8Fr.のシングルルーメンカテーテルと交換しなければならなかった(両大腿静脈に一本ずつ)。その理由の内訳は、2例が再循環、1例がカテーテルのキンクであった。カテーテル交換時に、状態が悪化した症例は皆無であった。凝血による膜の目詰まりは3名に見られたが、輸血を要することはなかった。ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う方法の実施に伴う看護仕事量の増加は認められなかった。体外循環を行った最初の5例目までは、DecapⓇの使用に習熟した技師が駐在した(9AM-5PM)。

CT画像で肺を小区画に分割しその周期的変化を表した平均肺濃度度数分布表を、図に示した(fig. 5)。28≦PPLAT≦30cmH2O の患者における試験開始時(ARDSNetの人工呼吸管理実施中)がfig. 5A左、ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う方法を72時間実施したときのものがfig. 5A右である。ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う方法での人工呼吸によって:(1) 肺重量が低下し、過膨張・無含気・低含気を呈する部分が減り、正常含気部分が増えた(P<0.001; table 2);(2) 周期的膨張が起こっている部分が増えた(なんらかの周期的膨張が発生する部位の合計量に占める割合19±6%→86±8%;P<0.01);(3) 周期的な過膨張が発生する部位が減った(なんらかの周期的膨張が発生する部位の合計量に占める割合67±5%→5±4%; P<0.01);(4) P/F比が有意に改善した(136±30→221±56; P<0.001)(fig. 3)。25< PPLAT <28cmH2Oの患者でも、試験開始時(ARDSNetの人工呼吸管理実施中)のデータは28≦PPLAT≦30cmH2O群と同様であった(fig. 5B左)。25< PPLAT <28cmH2O群では22人中12人においてARDSNetの人工呼吸管理をさらに72時間行った時点でCTを撮影した(fig. 5B右)が、このCTデータは、他の研究または臨床的に必要であったため撮影したCTで得られたデータを流用したものである。研究開始時と比べ、ARDSNetの人工呼吸管理をさらに72時間実施した時点では、肺重量が減り、過膨張・無含気・低含気部分が減り、正常含気部分が増えていた(P<0.05; table 2)が、周期的膨張および周期的過膨張が起こっている部分の肺容量の合計には変化は見られなかった(fig. 5B右)。P/F比には有意な改善が認められた(185±60→301±42; P<0.001)。

研究開始時における炎症性サイトカインの肺内濃度は、25< PPLAT <28cmH2O群の方が28≦PPLAT≦30cmH2O群よりも低かった(P=0.001)。25< PPLAT <28cmH2O群では、ARDSNetの人工呼吸管理をその後72時間行った時点でBALを再度実施したが、炎症性サイトカインの肺内濃度は開始時と遜色なかった。28≦PPLAT≦30cmH2O群では、ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う方法によって肺内炎症性サイトカイン濃度が有意に低下した(P=0.001; fig. 6)。

教訓 ARDSNetよりも低一回換気量の人工呼吸と体外二酸化炭素除去を行う方法で、肺重量が低下し、過膨張・無含気・低含気を呈する部分が減り、正常含気部分が増え、P/Fが改善しました。
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一回換気量<6mL/kg+ECMOで肺保護~方法② [critical care]

Tidal Volume Lower than 6 ml/kg Enhances Lung Protection: Role of Extracorporeal Carbon Dioxide Removal

Anesthesiology 2009年10月号より

測定
ARDSの原因疾患、臨床状態、入室時の検査結果(入室24時間後までの最悪の値)を記録し、SAPSⅡの点数を算出した。

臨床項目
臨床項目(PPLAT、呼吸数、PEEP、分時換気量、P/F比、PaCO2、pH、心拍出量[Vigileoを用いた持続測定; Edwards LifeScience, Irvine, CA]、ヘパリン使用量、APTT)は、以下に示す時点で前向きに収集した:ARDSNetの方法に従った治療を72時間実施した時点、28≦PPLAT≦30cmH2Oの患者では一回換気量を下げた後かつ体外二酸化炭素除去開始前(基準値)、開始60-90分後(T1.5)、24時間後(T24)、48時間後(T48)および72時間後(T72)。T1.5、T24、T48およびT72の各時点で体外二酸化炭素除去中の血流量を記録した。

起こりうる合併症を前もって機械的なもの(カテーテルの異常、膜型肺の異常、回路内凝血、回路内空気混入、ポンプの異常、チューブ破損、カテーテル位置異常および回路の漏れ)と患者側に生ずるもの(静脈穿破、赤血球製剤の投与を要する出血、不安定な血行動態[基準時点と比べ収縮期血圧が80-90mmHg以上上昇または30-40mmHg以上低下、もしくは収縮期血圧>85mmHgを維持するのに強心薬を少なくとも2時間使用、もしくは心電図で虚血の所見、もしくは治療を要する心室性不整脈]、腸管虚血/壊疽、気胸、腎合併症[体外循環開始後にCr>1.5mg/dL]、感染性合併症[体外循環開始後に新たに発生した感染で培養陽性が確認されたもの]、代謝性合併症[体外循環開始後に発生した高血糖>240mg/dLまたは高ビリルビン血症]、血栓塞栓性合併症[体外循環開始後に発生した深部静脈血栓症または肺塞栓]および神経系合併症[体外循環開始後に発生した脳梗塞、てんかん、脳出血または脳浮腫])に分類し、記録した。

肺の形態評価
研究登録後にすべての患者においてCTで全肺を撮影した。28≦PPLAT≦30cmH2Oの患者では体外二酸化炭素除去開始の約72時間後、25< PPLAT <28cmH2Oの患者ではARDSNetの方法に従った人工呼吸管理をおよそ72時間実施した後に、再度CTによる全肺撮影を行った(fig. 1)(詳しい方法はSupplemental Digital Contentに掲載した。

全肺、無含気部分、低含気部分、正常含気部分および過膨張部分の重量および容量を評価した。周期的膨張が起こっている部位の肺容量は、吸気終末の正常含気容量から呼気終末の正常含気容量を引いて求めた。同様に、周期的過膨張が起こっている部位の肺容量は、吸気終末の過膨張容量から呼気終末の過膨張容量を引いて求めた。無含気部位のうち周期的に含気が戻る部位の肺容量は、呼気終末の無含気肺容量から吸気終末の無含気肺容量をひいて求めた。以上で得られた値は、CTで割り出した周期的な膨張を示す肺容量全体に占める割合として表した。

肺の炎症性変化
登録後、全患者においてBALを実施した。28≦PPLAT≦30cmH2Oの患者では体外二酸化炭素除去開始の約72時間後、25< PPLAT <28cmH2Oの患者ではARDSNetの方法に従った人工呼吸管理をおよそ72時間実施した後に、再度BALを行った(fig. 1)。測定項目は、IL-6、IL-8、IL-1bおよびIL-1受容体アンタゴニストである。
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一回換気量<6mL/kg+ECMOで肺保護~方法① [critical care]

Tidal Volume Lower than 6 ml/kg Enhances Lung Protection: Role of Extracorporeal Carbon Dioxide Removal

Anesthesiology 2009年10月号より

方法

患者の選別
S. Giovanni Battista-Molinette病院(トリノ大学)のICUに、2006年7月から2007年9月のあいだに入室した患者のうち、年齢18歳以上でARDSの診断を受けた者を対象とした。除外基準は、ARDS診断基準合致後3日以上経過、PAOP>18mmHg、心室細動を既往、頻脈性不整脈、不安定狭心症もしくは先行する一ヶ月以内の心筋梗塞、COPD、胸郭異常、胸腔ドレーン、腹部膨満、BMI>30、妊娠および頭蓋内病変とした。


研究プロトコル
基準を満たした患者は全例連続的に登録し、ARDSNetの方法に従った治療を72時間実施した。プロトコルの詳細はSupplemental Digital Contentに掲載した。

ARDSNetの方法に従った治療を72時間実施した後に、自発呼吸を出さないようにしつつ人工呼吸設定を一定にした状態で、0.5秒の吸気ポーズを設け1時間にわたりPPLATを測定した。以下の方法で自発呼吸を出さないようにした:(1) Ramsay鎮静スコア5とする(ミダゾラム0.15mg/kg/hrまで、モルヒネ0.03mg/kg/hrまで、プロポフォール2mg/kg/hrまで投与);(2) 必要であれば測定に先立ちミダゾラム(~10mg/hr)and/orプロポフォール(10分ごとに150mg/hrずつ)増量。
25< PPLAT <28cmH2Oの患者においては、引き続きさらに少なくとも72時間はARDSNetの方法に従った治療を継続した(fig. 1)。28≦PPLAT≦30cmH2Oの患者においては、以下の手順で引き続く72時間の治療を実施した(fig. 1) : (1) 25< P PLAT <28cmH2Oとなるまで一回換気量を段階的に減らす(4時間ごとに1mL/kg PBW);(2) 低一回換気量の人工呼吸に伴う吸収性無気肺を防ぐため、ALVEOLI研究の高PEEP群に適用された方法に従いPEEPとFIO2を設定する。;(3) 呼吸数は最高40回/分まで増やし、炭酸水素ナトリウム最高20mEq/hrを投与する。;(4) それでもpH<7.25であれば、膜型肺(膜表面面積0.33平方メートル、DecapⓇ, Hemodec, Salerno, Italy)を装備した改造CVVH回路を用いて、体外循環による二酸化炭素除去を開始する(ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う;Lower ARDSNet/Carbon Dioxide Removal strategy)(fig. 2)。

大腿静脈からセルジンガー法でダブルルーメンカテーテル(14Fr.; Arrow International Inc. Reading, PA)を挿入し、体外循環回路に接続した。体外循環回路内では無閉塞低速ローラーポンプ(0-500mL/min)が駆動し血流が生成され、回路内の血液は8L/minの100%酸素に接続された膜型肺(Polystan SAFE; Maquet, Rastatt, Germany)を通過した。膜型肺通過後、血液はヘモフィルタ(Medica D200, Medolla, Italy)へ送られた。ヘモフィルタ通過によって生じた血漿水分は、蠕動式ポンプ(0-155mL/min)を用いて膜型肺から返還した。


膜型肺とヘモフィルタを直列に接続した目的は以下の通りである:(1) 膜型肺より下流にヘモフィルタを設置することによって膜型肺内部の圧を上昇させ、気泡形成の危険性を低下させる。;(2) ヘモフィルタ通過によって分離された血漿水分を上流へ返還することによって膜型肺を通る血液が希釈されるのでヘパリン投与量を最小限に留めることができる。;(3) ヘモフィルタで分離された血漿水分を膜型肺へと戻せば、血漿に溶解している二酸化炭素を再度除去することができるので、体外循環による二酸化炭素除去能が向上する(fig. 2)。

ローラーポンプによって生じる圧(動脈圧)は測定の上、120-150mmHg以下に維持した。体内への返血圧(静脈圧)と膜型肺およびヘモフィルタ前後の圧勾配(圧損失=膜型肺上流圧-静脈圧)も測定した。回路中に血液漏出および気泡を検出する装置を設置した。膜型肺を含む全回路は、140~160mLの生食でプライミングした。


開始時のヘパリン(80IU/kgボーラス後18IU/kg/hr持続投与)は、回路内に設置されたシリンジポンプを用いて投与した。その後、APTT比がおよそ1.5となるようにヘパリン投与量を調節した。

ARDSNetよりも低一回換気量の人工呼吸と体外二酸化炭素除去を行う治療法を72時間実施した後、次のような手順による体外循環離脱を一日一回試みた:回路血流を最低量(50mL/min)にする、一回換気量を6mL/kg PBWに増やす、PEEP-FIO2をARDSNet研究で行われたのと同じ設定にする。以上の設定変更の結果、PPLATが3時間以上28cmH2O未満を保つことができれば、体外循環による二酸化炭素除去を中止し、ARDSNetの方法に従った人工呼吸管理を継続した。

教訓 ALVEOLI研究高PEEP群と同じやり方が、本文でARDSNetの人工呼吸法と書かれている方法です。


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一回換気量<6mL/kg+ECMOで肺保護~はじめに [critical care]

Tidal Volume Lower than 6 ml/kg Enhances Lung Protection: Role of Extracorporeal Carbon Dioxide Removal

Anesthesiology 2009年10月号より

一回換気量の上限を6mL/kg(予測体重)とし、吸気終末プラトー圧(PPLAT)の上限を30cmH2Oとする換気方法は、ARDS患者に対する人工呼吸法の主流である。しかし昨今の研究では、以下のようなことが明らかにされている: (1)症例によっては、VT6mL/kg以下かつPPLAT30cmH2O以下としても呼吸サイクルに伴う周期的な過膨脹が発生することがある。 (2) ARDS患者では、VT>6mL/kgでPPLAT<30cmH2Oであっても、VTを6mL/kg以下にすると効果が発揮される可能性がある。

二酸化炭素の除去を体外循環によって補助し、酸素化と二酸化炭素除去を切り離す方法をGattinoniらが提唱した。この方法では、二酸化炭素除去は、ポンプで駆動される静脈-静脈バイパスが担い、酸素化は高PEEPおよび毎分3~5回の深呼吸(sigh)によって行われる。有効であることが示されている方法ではあるが、臨床試験で否定的な結果が得られていることや、膨大な医療資源を要する、副作用の発生率が高い、といった問題点があるため、体外二酸化炭素除去法はARDS最重症例を治療する際の「窮余の一策」としてしか実施されていない。

体外肺補助の煩雑さ、費用および副作用を軽減することを目指したPesentiらは、肺に比較的やさしい人工呼吸設定を可能とする「二酸化炭素産生量の一部だけ」を除去するという発想を打ち出している。腎代替療法に用いる体外回路を一部改造し、ヘモフィルタと直列に新生児用膜を連結したものを用いれば、一回換気量を6mL/kg以下にする場合に発生する呼吸性アシドーシスを緩和するのに十分な二酸化炭素除去能を安全に達成することができ、かつ、肺損傷を引き起こす可能性がより少ない人工呼吸器設定が可能である、という仮説の検証を目的に、本研究を実施した。

教訓 ARDSの管理において、酸素化を陽圧で、換気を成人用膜型肺で行う方法は、Gattinoniが1986年に発表しました。およそ20年後のこの研究では、同じコンセプトで成人用ではなく新生児用膜型肺×2を使ってその効果が検証されました。
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高効率CHDFは転帰を改善しない~考察 [critical care]

Intensity of Continuous Renal-Replacement Therapy in Critically Ill Patients

NEJM 2009年10月22日号より

考察

持続的腎代替療法の強度についての多施設無作為化比較対照試験を行い、強化腎代替療法を行っても低強度の腎代替療法と比較し死亡率は低下しないことが明らかになった。腎機能回復率(つまり、透析の実施が不要となり腎代替療法が中止される割合)、腎臓以外の臓器不全の発生率、人工呼吸期間、ICU滞在期間および入院期間のいずれについても有意差は認められなかった。

持続的腎代替療法の強度についての先行する二編の無作為化比較対照試験では、強度を増すと死亡率が低下するという結果が示されているが、我々は本研究で反対の知見を得た。Roncoらが実施した425名を対象とした研究では、浄化量を20mL/kg/hrから35または45mL/kg/hrに増やすと、死亡率が59%から43%へと低下するという結果が報告されている。同様の研究を行ったSaudanらは、浄化量を25mL/kg/hrから約43mL/kg/hrに増やし、90日後全死因死亡率が20%ポイント低下(61%から41%への低下)するという結果を得ている。しかし、我々が実施した研究の結果は、別の二編の無作為化比較対照試験の結果とは平仄が合っている。Boumanらは106名の患者を対象に浄化量を48mL/kg/hrもしくは20mL/kg/hrの腎代替療法を行ったが、浄化量を増やしても生存率は改善しないという結果を得た。同様にTolwaniらも、200名の患者を浄化量20mL/kg/hrまたは35mL/kg/hrの群に無作為に割り当て、転帰に差がないことを報告している。

本研究における低強度の腎代替療法は、オーストラリアおよびニュージーランドのICUで普段行われているのと同じ方法であり、浄化量を増すと転帰が改善することを示した試験の一つで対照群に行われていたのとも同様である。高強度治療群では、浄化量を40mL/kg/hrに設定した。これはRoncoらが行った研究で設定された高強度群の二つの浄化量(35または45mL/kg/hr)の間を取った量であり、また、Saudanらの研究における高強度群の浄化量と近似している。さらに、本研究における設定浄化量の差(15mL/kg/hr)も、以上に挙げた諸研究と同等であった。持続的腎代替療法実施中は目標浄化量を常に達成することができたが、ヘモフィルタの目詰まり、手術、診断検査もしくはその他の手技の実施に伴い、頻繁に腎代替療法自体を中断せざるを得なかった。Acute Renal Failure Trial Network Studyでは高強度群での実質透析効率は設定量の89%であったと報告されている。一方、Tolwaniらの研究では83%、今回の研究では84%であった。低強度治療群においては、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは95%であったのに対し、Tolwaniらは85%、我々は88%であった。これらの研究より以前に行われた研究では、いずれも実質透析効率は設定量の85%未満であった。

我々が本研究で得た知見は、持続的および間欠的腎代替療法を症例によって使い分けたAcute Renal Failure Trial Network Studyで示された結果と一致する。だが、我々の研究では持続的腎代替療法のみについて比較検討を行ったという相違点がある。オーストラリア、ニュージーランド、UKおよびその他世界中の多くの施設では、間欠的腎代替療法よりも持続的腎代替療法が選好されている。また、Acute Renal Failure Trial Network Studyと異なり、本研究ではステージ4のCKDに該当する患者も対象とした。

我々が今回行った研究とAcute Renal Failure Trial Network Studyでは、主要転帰については同様の結果が示されたものの、患者特性には相違がある。Acute Renal Failure Trial Network Studyと比べ本研究の対象は、年齢が高く、体重が少なく、敗血症症例が少なく、心血管系および呼吸器系SOFAスコアの平均点数が高かった。さらに、治療プロセスにも異なるところがあった。本研究の対象患者は、無作為化割り当て以前には腎代替療法は行われなかったが、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは無作為化割り当て前の24時間に腎代替療法が行われた患者が64%を占めた。我々の研究では、ICU入室から無作為化割り当てまでの平均経過時間は50時間であったのに対し、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは150時間であった。そして、本研究では研究期間中に行われた間欠的血液透析の総回数はわずか314回であったが、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは5077回であった。生存者において無作為化割り当て28日後に透析実施を要した者の割合は、本研究が15.8%であったのに対し、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは45.2%であった。90日後では本研究が5.6%、Acute Renal Failure Trial Network Studyは60日後の時点で24.6%であった。

内的妥当性と外的妥当性を十分に担保するため、無作為化に先だっては割り当ての隠蔽化に努め、診断バイアスの影響を受けない項目を主要転帰とした。本研究では、対象候補患者の88.8%を登録し、前もって定めた統計解析計画を遂行し、一人を除く全ての対象患者について追跡調査を行うことができた。腎代替療法の実施手法は、オーストラリアおよびニュージーランドで行われている標準的方法に沿ったかたちに設定した。ほぼ全例において割り当てられた治療法が行われ、実質透析効率には明らかな差が認められた。基礎疾患としてステージ4のCKDを有する患者をも対象とし、(多くの国および施設で選好されている)持続的腎代替療法だけに絞ったので、得られた結果の外的妥当性は高いと考えられる。だが、無作為化割り当て前6ヶ月以内に測定した血清クレアチニン値が得られなかった症例が多かったので(Table 1)、CKDの存在が各転帰項目に与えた影響についての結論を引き出すのには躊躇せざるを得ない。

我々が行ったこの研究には複数の問題点がある:研究参加者およびスタッフは患者に割り当てられた治療群を知っていた、透析開始のタイミングが標準化されていなかった、対象治療法のコストを評価するのに必要なデータは収集されなかった。さらに、ヘモフィルタの目詰まりが頻繁に発生したことに代表される、腎代替療法実行上の特徴が、溶質クリアランスに影響を及ぼした可能性がある。実質効率が設定効率を下回ったことから、腎代替療法の実施効率を過大評価するリスクがあることや、持続的腎代替療法の操作手順に改善の必要性があることが浮き彫りにされた。具体的に言うと、浄化量に基づいて透析効率を判断すると、実際の溶質クリアランスを過大評価する可能性が高い。今後実施する試験では、浄化量に安易に依拠するのではなく、溶質クリアランスを測定すべきである。さらに、症例ごとに個別に治療強度を誂えることによって、患者一人一人が利益を得られる可能性を否定することはできない。前もって決めたクレアチニンクリアランス値による腎代替療法中止基準は設けなかったが、その理由は、本研究の参加施設では普段そういう方法では腎代替療法の中止を決定していないからである。したがって、腎代替療法の中止を、腎機能改善を表す重要な臨床指標と見なした。高強度治療群において、毎朝の検査での低リン血症の発生頻度が高かったのは、透析効率が高ければ当然予測される通りリン喪失量が低強度群よりも多かったことを示すものであり、Acute Renal Failure Trial Network Studyでも同様の所見が得られている。

ICUにおける血液浄化法として持続的腎代替療法が選好される国々では、本研究の結果は臨床診療に重大な意味を持つ。浄化量を25mL/kg/hr以上にしてもそれ以下のときを上回る効果は得られず、低リン血症の危険性に患者が曝されることが明らかになった。高効率持続的腎代替療法が行われる機会や施設が増えてきたが、本研究で得られた知見を踏まえると、この治療法を行うのは妥当ではない。しかし、我々の研究における低強度群における透析効率は、多くの国で普段行われている腎代替療法の効率よりも高いという点には留意しなければならない。さらに、本研究における対照群(低強度群)では、重症患者の急性腎不全の治療に関する大規模国際研究で報告されているよりも死亡率が低かった。したがって、我々の得た知見の意味するところは、腎代替療法の強度が重要でないということなのではなく、むしろ、重症患者においては適切なレベルを上回る治療強度で腎代替療法を行っても、治療効果の上積みは得られないということなのである。そしてまた、本研究の結果を鑑みると、腎代替療法における治療強度以外の特性、つまり、開始時期が死亡率に与える影響や、持続法もしくは間欠法が腎機能回復に及ぼす影響の比較、といった点が今後の試験では優先的に検討されるべきであると考えられる。

まとめ
ここに報告した大規模無作為化比較対照試験では、重症患者を対象とした腎代替療法の浄化量を25mL/kg/hrから40mL/kg/hrへ増やしても死亡率や維持透析に移行する患者の割合は低下しないことが明らかになった。

教訓 重症患者においては適切なレベルを上回る治療強度で腎代替療法を行っても、治療効果の上積みは得られません。

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高効率CHDFは転帰を改善しない~結果 [critical care]

Intensity of Continuous Renal-Replacement Therapy in Critically Ill Patients

NEJM 2009年10月22日号より

結果

患者登録
2005年12月1日から2008年8月31日までのあいだに1508名の患者を登録した。そのうち747名を高強度治療群、761名を低強度治療群に割り当てた(Fig. 1)。43名(2.9%)が登録後に研究参加同意を保留または取り消した。そのうち25名は高強度治療群、18名が低強度治療群に割り当てられていた。追跡不能になった患者は1名のみであり、1464名(97.1%)について主要転帰項目の検討を行うことができた。

基準時点における背景因子
基準時点における背景因子は両群間で同等であった(Table 1)。無作為化割り当て前の血清クレアチニン濃度は、高強度群が3.8mg/dL、低強度群が3.7mg/dLであった。患者全体の73.9%に人工呼吸管理が行われ、重症敗血症の患者は49.4%、血管作動薬を投与されたのは82.5%であった。

研究対象治療および補助治療
研究対象治療法の実施状況をTable 2にまとめた。平均治療期間は両群で同等であったが、割り当てられた治療を行っている期間中の平均血清クレアチニン濃度(高強度群1.9mg/dL vs. 低強度群2.3mg/dL, P<0.001)および平均BUN値(高強度群35.6mg/dL vs. 低強度群44.5mg/dL, P<0.001)には有意差が認められた。この差は腎代替療法の強度に起因するものと見て矛盾はなかった(高強度群の平均浄化量33.4mL/kg/hr vs. 低強度群の平均浄化量22.0mL/kg/hr; P<0.001)。高強度持続的腎代替療法の群では、ヘパリンとプロタミンを用いた体外回路内局所抗凝固療法が行われた症例が多く(P=0.007)、一日あたりのヘモフィルタ使用個数も多かった(0.93 vs. 0.84, P<0.001)。高強度群の7.6%、低強度群の7.0%のみがICU滞在中のいずれかの時点で間欠的透析を行われた。無作為化割り当て28日後までに総計314回の間欠的透析が実施された。

治療の限界
死亡例のうちICUにおける治療の限界と見なされたのは、高強度群322名中289名、低強度群332名中301名であった(それぞれ89.8% 、90.7%; P=0.52)。この中で、死が目前に迫っているとして治療が中止または縮小された患者は、高強度群322名中219名、低強度群332名中232名であった(それぞれ68.0%、69.9%; P=0.49)。さらに濃厚な治療を行う適応はないと考えられ集中治療の実施が差し控えられたのは、高強度群では70名(21.7%)、低強度群では69名(20.8%)であった。

主要転帰
無作為化割り当て90日以内に死亡したのは、高強度群721名中322名(44.7%)、低強度群743名中332名(44.7%)であった(高強度群のオッズ比1.00; 95%CI, 0.81-1.23; P=0.99)(Table 3およびFig. 2)。予め設定したサブグループのいずれにおいても、死亡率は両群同等であった(Fig. 3)。

研究対象治療による合併症
高強度群では、当該施設の研究参加者が、研究対象治療に起因すると判断した重篤な有害事象が7件発生した(不均衡症候群3例、脳浮腫1例、直腸出血1例、心停止1例および低ナトリウム血症の急速すぎる補正1例)(Table 4)。低強度群では5件であった(ヘパリン起因性血小板減少症3例、低酸素血症1例および心原性ショック1例)。高強度群の461名(65.1%)、低強度群の396名(54.0%)に低リン血症が認められた(P<0.001)。

教訓 90日以内に死亡したのは、高強度群721名中322名(44.7%)、低強度群743名中332名(44.7%)で有意差は認められませんでした。
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高効率CHDFは転帰を改善しない~方法 [critical care]

Intensity of Continuous Renal-Replacement Therapy in Critically Ill Patients

NEJM 2009年10月22日号より

急性腎傷害(AKI; acute kidney injury)を発症すると、罹患率および死亡率が大幅に上昇する。ICUではAKIは日常茶飯事のように遭遇する病態であり、死亡の独立予測因子であることが明らかにされている。腎代替療法(RRT)を要するほどの重篤なAKIは、ICU患者のおよそ5%で発生し、その場合の死亡率は60%に達する。重症患者においては、開始時期や強度などをはじめとするRRTの最適な導入法はまだ確立されていない。単一施設における無作為化比較対照試験一編で、持続的腎代替療法に限って治療強度が検討され、浄化量を20mL/kg/hrから35~45mL/kg/hrへ上昇させたところ生存率が改善するという結果が得られた。しかし、後に行われた類似の単一施設研究の結果は錯綜している。

先頃報告されたVA/NIH Acute Renal Failure Trial Network Study(ClinicalTrials.gov number, NCT00076219)では、強化腎代替療法を行っても急性腎傷害患者の死亡率は低下しないという結果が示された。他の研究では専ら持続的腎代替療法のみが行われているのと異なり、この研究では血行動態が安定していれば間欠的RRT、不安定ならば持続的RRT患者を割り当てるというプロトコルが採用された。これは米国その他における臨床の実態を反映した研究デザインではあるが、こうしたRRTの導入法の影響を除いた治療強度そのものの正確な比較を行うにはいささか当を失している。そこで我々は、持続的強化腎代替療法を行うと90日後死亡率が低下するという仮説を検証すべく、無作為化比較対照試験を行った。

方法

研究デザイン
この研究の名称はThe Randomized Evaluation of Normal versus Augmented Level (RENAL) Replacement Therapy Studyと言い、前向き無作為化並行群間比較対照試験であり、急性腎傷害のある重症患者に二つの異なる強度で持続的腎代替療法を行い比較検討を行った。本研究はオーストラリアおよびニュージーランドに所在するICU35施設において2005年12月30日から2008年11月28日にかけて行われた。研究プロトコルについてはNEJM.org上で公開されている本論文のSupplementary Appendixに掲載した。

研究母集団
18歳以上の重症患者で急性腎傷害があり、治療担当医によって腎代替療法を要すると判断され、以下の条件のうち最低一つを満たす場合を登録候補とした:輸液療法を行っても改善しない乏尿(尿量<100mL/6hr)、血清カリウム濃度>6.5mmol/L、高度のアシデミア(pH<7.2)、BUN>70mg/dL(25mmol/L)、血清クレアチニン濃度>3.4mg/dL(300μmol/L)または臨床的に有意な臓器浮腫(例;肺水腫)。

当該入院期間中にすでに腎代替療法が実施されているか、末期腎不全のため維持透析が行われているかする患者は研究対象から除外した(選択基準、除外基準および割り当て治療法中止基準の詳細についてはSupplementary Appendix参照のこと)。

治療法
両群ともCVVHが行われた。置換液の注入部位はヘモフィルタの下流の回路内とし(つまり、後希釈)、透析液と置換液の割合は1:1とした。浄化量は無作為化割り当ての時点の患者体重から算出した。40mL/kg/hr(高強度群)または25mL/kg/hr(低強度群)の二群のいずれかに患者を無作為に割り当てた。脱血速度は150mL/minとした。置換液と透析液の注入速度を同じだけ低下させ、浄化量が両者を上回るようにして担当医が指示した量の除水を行った。ヘモフィルタにはAN69膜(Gambro)を用いた。透析液および置換液にはHemosol BO液(Gambro)を用いた。Gambro社は本研究の発端、設計、解析または報告のいずれにも一切の関わりを持たなかった。

転帰項目
研究対象とした主要転帰項目は無作為化割り当て90日後の全死因死亡である。二次および三次転帰項目は、無作為化割り当て後28日以内の死亡、ICU入室中の死亡、院内死亡、腎代替療法の中止、ICU滞在期間、入院期間、人工呼吸期間、腎代替療法実施期間、第90日における透析実施の有無および新規発症の何らかの臓器不全とした。

教訓 ここで紹介されているVA/NIH Acute Renal Failure Trial Network Study(下記記事参照)では、血行動態が安定している患者にKt/Vurea 1.2-1.4の間欠的血液透析を行う場合、週3回を超えて行っても転帰は改善しない、血行動態が不安定な患者にCHDFを行う場合、浄化量を20mL/kg/hr以上にしても転帰は改善しない、という結果が示されています。

参照:2008年9月8日 強化腎代替療法は急性腎不全の転帰を改善しない
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インフルエンザパンデミック:ICU入室トリアージ [critical care]

Development of a triage protocol for critical care during an influenza pandemic

CMAJ 2006年11月21日号より

要旨
背景:先頃、鳥インフルエンザ(H5N1)が流行し、インフルエンザパンデミック対策の重要性が改めて認識されている。対策を立てるに当たり特に問題となるのは、人工呼吸器や抗ウイルス薬といった、パンデミック時に希少となると考えられる医療資源の分配方法である。
方法:良質なエビデンス、専門家集団、利害関係者団体、倫理原則などが示す方針を協同的に検討し、人工呼吸器を含む集中治療に関わる医療資源のパンデミック時における分配優先順位を決めるトリアージプロトコルを策定した。
結果:トリアージプロトコルではSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコアを用いる。プロトコルは以下の4つの要素で構成される:選択基準、除外基準、入室後の再評価(minimum qualifications for survival ; 入室48時間後および120時間後に再評価を行う。改善が認められないか転帰が不良であると判断される患者を早い時点で判別し退室させる)および優先順位決定法。
解釈:インフルエンザパンデミック発生後数日から数週後までに、集中治療の需要過剰で余裕がなくなった場合の入室優先順位を決めるための手引きとして、このプロトコルは作成された。インフルエンザパンデミック時に使用する目的で本プロトコルは策定されたが、集中治療という単一の医療資源はすべての患者が分け合って使用しなければならないわけだから、このトリアージプロトコルはインフルエンザであろうとなかろうと適用できると考えられる。

Box 1 : インフルエンザパンデミック時における集中治療の必要性の有無を決定するトリアージプロトコルの適応手順(インフルエンザ様症状のある患者だけでなく、集中治療の必要性が検討されるすべての患者にこのトリアージプロトコルを適用する。選択基準および除外基準についてはBox 2参照。)

1. 患者が選択基準に合致するかどうかを評価する。
  ・合致するなら、2へ。
  ・合致しないなら、しばらくしてから再評価。
   臨床状態が悪化しているかどうかを判断する。

2. 患者が除外基準に合致するかどうかを評価する。
  ・合致しないなら、3へ。
  ・合致するなら、トリアージコード「青」に指定。
   集中治療部には収容しない。
   現行の治療を続けるか、必要であれば緩和ケアを行う。

3. トリアージ優先順位決定法(Fig. 1)へ進み、初回評価を行う。


Box 2 : インフルエンザパンデミック時の集中治療トリアージプロトコルにおける選択基準および除外基準

選択基準
以下のいずれか一つに当てはまらなければならない:

A. 気管挿管下人工呼吸を要する
  ・高度の低酸素血症(非再呼吸式マスクまたはFIO2>0.85でSpO2<90%)
  ・呼吸性アシドーシス(pH<7.2)
  ・臨床徴候から、間もなく呼吸不全に陥ると判断される
  ・気道保持不能
B. 低血圧(収縮期血圧<90mmHgまたは相対的低血圧)があり、臨床的にショックと判断され(意識レベル低下、尿量低下またはその他の臓器不全の徴候がある)、輸液を行っても改善せず、昇圧薬または強心薬の投与を要するため病棟では管理できない。

除外基準
以下のいずれか一つにでも当てはまる場合は、集中治療適応から除外される。

A. 重症外傷
B. 以下のいずれか二つに当てはまる患者の重症熱傷
  ・年齢>60歳
  ・体表面積の40%以上の熱傷
  ・気道熱傷
C. 心停止
  ・目撃者のいない心停止
  ・目撃者のいる心停止だが、電気的治療(除細動やペーシング)が奏功しない
  ・心停止の再発
D. もともと認知機能に高度の障害がある
E. 進行した治療不能の神経筋疾患
F. 転移性悪性腫瘍
G. 進行した不可逆性の免疫抑制
H. 重度または不可逆性の神経系の異常
I. 以下の基準に合致する末期臓器不全
  心臓
  ・NYHAⅢまたはⅣの心不全
  
  ・COPD %1秒量<25%、普段のPaO2が55mmHg未満または二次性肺高血圧症
  ・Cystic fibrosis 気管拡張薬使用後の%1秒量<30%または普段のPaO2が55mmHg未満
  ・肺線維症 VCまたはTLCが予測値の60%未満、普段のPaO2が55mmHg未満または二次性肺高血圧症
  ・原発性肺高血圧症で、NYHAⅢまたはⅣの心不全、右房圧>10mmHgまたは平均肺動脈圧>50mmHg
  
  ・Child-Pughスコア7点以上
J. 年齢>85際
K. 予定の姑息手術

Fig. 1 インフルエンザパンデミック集中治療トリアージプロトコルにおける優先順位決定法

初回評価

トリアージコード青 
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点
対処法:内科的管理、必要に応じ緩和ケア、ICU退室

トリアージコード赤
条件:SOFAスコア7点以下または一臓器不全
優先順位:ICUでの治療の最優先対象

トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点~11点
優先順位:赤の次

トリアージコード緑
条件:有意な臓器不全なし
対処法:そのまままたは退室

48時間後再評価

トリアージコード青 
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点または8~11点で変化なし
対処法:緩和ケア、ICU退室

トリアージコード赤
条件:SOFAスコア11点未満で低下しつつある
優先順位:ICUでの治療の最優先対象

トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点未満で変化なし
優先順位:赤の次

トリアージコード緑
条件:人工呼吸器不要
対処法:ICU退室

120時間後再評価

トリアージコード青 
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点または8点未満で変化なし
対処法:緩和ケア、ICU退室

トリアージコード赤
条件:SOFAスコア11点未満でどんどん低下している
優先順位:ICUでの治療の最優先対象

トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点未満でわずかに低下(72時間に3点未満の低下)
優先順位:赤の次

トリアージコード緑
条件:人工呼吸器不要
対処法:ICU退室

教訓 このICU入室優先順位決定プロトコルは、助かる見込みの高い患者に限りある医療資源(集中治療)を優先的に投入する目的で作成されています。使用する際は、公正と透明性の確保に留意してください。
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