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アナフィラキシーと麻酔~診断③:皮膚試験(前編) [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

所見③:皮膚反応試験

アナフィラキシーを発症した患者に、皮膚の肥満細胞を、アレルゲンであることが疑われる物質に曝露する皮膚反応試験は、IgEを介する反応の有無を評価する際に、現在でも最も信頼性の高い検査である。皮膚試験の結果は、先に述べたアナフィラキシー診断を構成する三項目の三つ目に挙げた、アレルギー学的所見に当たる。

なぜ、そして、いつ、皮膚試験を行うか?
H1 and/or H2受容体拮抗薬や副腎皮質ステロイドを前投与してもアナフィラキシーを防ぐことはできないことが分かっている。皮膚試験の目的は、(1) 原因物質の特定(以降は該当物質の使用を一切忌避する)、(2) アナフィラキシー反応の病態生理学的機序を明らかにする(アレルギー性 vs. 非アレルギー性)、(3) 該当薬物に代わる他の安全な薬物を明らかにする(fig. 2)、の三点である。肥満細胞減少によって偽陰性の結果が出ることを避けるため、皮膚試験を行うのは、アナフィラキシー発症後4~6週間ほど経ってからでなければならない。

皮膚試験の手順
臨床経過からアナフィラキシーが疑われる症例においてのみ、確定診断のため皮膚試験を行う。皮膚試験の対象は、アナフィラキシー反応が発生する直前に投与された薬剤およびラテックスである。皮膚試験は即時型過敏反応の検査なので、結果はすぐに(15~20分)判定しなければならない。本試験に先立ち、陰性対照(生食)と陽性対照(コデインand/orヒスタミン)の皮膚反応性を評価する。まずプリック試験を行い、次に皮内試験を実施する。皮膚試験には、未開封の市販薬の原液もしくは希釈したものを用いる。偽陽性の結果が出るのを避けるため、最高濃度を超える濃度の試薬を用いてはならない(table 2)。皮内試験は、プリック試験よりも感度は高いが特異度は低い。皮内試験は全身性のアレルギー反応を引き起こす可能性がプリック試験よりも高いので、プリック試験を行った後に、必要であるときにしか行ってはならない。プリック試験が陰性である場合にのみ、当該薬を0.02-0.05mL皮内投与し、皮内試験を行う。初回皮内試験が陰性であれば、15-20分間隔で試薬濃度を10倍ずつ濃くして皮内試験を繰り返す。陽性結果が得られるか、最高濃度に達するか、のどちからの時点で試験を終了する。プリック試験/皮内試験の陽性判定基準と、正常では皮膚試験を行っても陽性反応が見られない各麻酔薬の濃度を、フランスでは厳格に定めている(table 2)。スカンジナビア諸国およびその他の国でも、この取り決めが適用されている(参照:What investigation after an anaphylactic reaction during anaesthesia?

原因薬物(物質)は何か?

筋弛緩薬
欧州からの異なる複数の報告によれば、周術期に発生するアナフィラキシーの原因薬剤は、筋弛緩薬が最多であり、50~70%を占めている。米国のデータは数少ない。周術期アナフィラキシーの原因物質についての疫学調査は、米国では行われていない。米国ではFDAに提出された報告例を当てにするしかなく、標準化された皮膚試験も行われていないので、全国的な発生率は不明である。いずれの筋弛緩薬もアナフィラキシーを引き起こす可能性がある。筋弛緩薬投与後にアナフィラキシーが発生した患者では、筋弛緩薬を試薬とした皮膚試験の感度は95%を超え、再現性も極めて高い。筋弛緩薬同士の交叉反応性を示す症例は多く、約60-70%を占める。したがって、筋弛緩薬によるアナフィラキシーの診断を遺漏なく行うには、市販されている他の筋弛緩薬との交叉反応性を行い、安全に使用できる薬剤(皮膚試験陰性の筋弛緩薬)を同定する必要がある。フランスでは、交叉反応性を調べるときも、まずプリック試験を行い、その後皮内試験を行う。だが、プリック試験だけを行えばよい、という意見もある。ある一つの筋弛緩薬によるアナフィラキシーの既往があるからと言って、すべての筋弛緩薬を禁忌としてしまう決めつけは、とうてい認容できるものではない。こんなことをすれば、その患者が将来いつの日にか再び麻酔を受ける際に、きつい重荷を負わされることになる。

皮膚試験はロクロニウムによるアナフィラキシーの発生率を過大評価しているのではないか?
フランスおよびノルウェイでは、ロクロニウムによるアナフィラキシーの頻度が高いという報告があり、注目が集まっている。これを受け、ノルウェイ医療局は、ロクロニウムは緊急挿管にのみ使用するように、との通達を出している。

ロクロニウムはプロペニルアンモニウム基を持つため、アナフィラキシーが多いのではないかと考えられている。オーストラリアおよび米国では、ロクロニウムにアナフィラキシーが多いという傾向は認められていない。このため、筋弛緩薬に対するアレルギーの診断における皮膚試験の精度について疑問が呈されている。プリック試験または皮内試験に用いられるロクロニウム希釈液の濃度が適切ではないため偽陽性の結果が出てしまい、それが、ロクロニウムではアナフィラキシーの頻度が高いという報告につながっているのではないか、と指摘されている。正常患者における希釈閾値については諸説がある。Dhonneurは原液でも希釈液(10倍および100倍)でも、プリック試験が偽陽性となる可能性があるとしている。Levyは皮内試験では少なくとも100倍に希釈したロクロニウム液を使用することを推奨している。ロクロニウムではプリック試験は正常患者であれば必ず陰性を示す、という意見もあるが、正常患者の皮内試験で陰性となるロクロニウム希釈液の希釈率は10000倍以下もしくは100倍以下であるといった報告もある。アナフィラキシーのない正常患者における以上の議論と同様に、病歴からはアナフィラキシーの可能性が低いと考えられる症例では、筋弛緩薬を用いた皮膚試験の診断的価値は不明であり、皮膚試験の結果からは転帰を予測することはできない。正常患者のロクロニウム皮内試験で、ロクロニウム試薬によってできた膨疹を生検した研究では、肥満細胞の脱顆粒は見られないことが確認されている。したがって、皮膚試験の結果が「陽性」であるものののなかには、筋弛緩薬が皮膚の血管に直接作用したために出現した所見が陽性と判断されている可能性がある。正常患者と異なり、アナフィラキシーが発生した患者では、筋弛緩薬を用いた皮膚試験の信頼性は高く、薬剤誘発性IgE架橋による炎症性メディエイタ放出を検出するのに有用である。したがって、正常患者に実施された皮膚試験と、アナフィラキシー患者に実施された皮膚試験を比較することはできないし、またすべきでもない。とはいうものの、ロクロニウムによるアナフィラキシーは明らかに増えている。以下の4点がその原因として考えられている:(1) ロクロニウム使用量および市場占有率の増大、(2) 新しい薬剤であるがために有害事象が報告されやすいというバイアス、(3) 統計上の問題、(4) 遺伝子型の違い。ロクロニウムにアナフィラキシーが多い理由を解明するには、さらに疫学的データを収集する必要がある。

教訓 皮膚試験の目的は、(1) 原因物質の特定、(2) アナフィラキシー反応の機序の解明(アレルギー性 vs. 非アレルギー性)、(3) 該当薬物に代わる他の安全な薬物の同定、の三点です。肥満細胞減少によって偽陰性の結果が出ることを避けるため、皮膚試験を行うのは、アナフィラキシー発症後4~6週間ほど経ってからでなければなりません。


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