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一回換気量<6mL/kg+ECMOで肺保護~考察 [critical care]

Tidal Volume Lower than 6 ml/kg Enhances Lung Protection: Role of Extracorporeal Carbon Dioxide Removal

Anesthesiology 2009年10月号より

考察

ARDSNetが提唱した人工呼吸管理を行っていて28≦PPLAT≦30cmH2Oとなる患者において一回換気量を6mL/kg PBW未満とすると、VILIに特有の炎症性マーカ上昇や形態変化が有意に緩和された。一回換気量をこれほど低下させることによって発生する呼吸性アシドーシスは、膜型肺を装備した改造腎代替療法装置を用いることによって有効かつ安全に補正することができた。

以上の結果から、体外循環による二酸化炭素除去を行えば、より肺損傷を起こしにくい人工呼吸器設定が可能であると言える。しかし、得られたデータは原理証明にのみ資するものである。その理由は以下の通りである。(1) ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う方法(Lower ARDSNet/Carbon Dioxide Removal strategy)を72時間実施する前と後の比較において生理的指標、画像、および炎症性パラメータにつき観測された改善には、時間効果が交絡した可能性を否定できない。なぜなら、28≦PPLAT≦30cmH2Oの患者でLower ARDSNet/Carbon Dioxide Removal strategyを行わず通常の管理をする対照群を設定しなかったからである。さらに、今回採用した研究デザインでは、一回換気量低下、PEEP上昇および体外二酸化炭素除去のそれぞれ固有の効果を判断することはできない。(2) 本研究で観測されたPaCO2の低下が、少ない血流量で行った体外循環による二酸化炭素除去だけによってもたらされたものかどうかを評価することができなかった。というのも、体外循環で除去された二酸化炭素量と、二酸化炭素産生量を測定しなかったからである。 (3) 実験モデルを用いた研究では、非代償性呼吸性アシドーシスにはVILIを軽減する働きがある可能性があることが示されている。したがって、体外二酸化炭素除去を行わずとも一回換気量とプラトー圧を下げるだけで、今回の結果と同等かそれ以上の、生理的指標、画像、および炎症性パラメータの改善が得られたかもしれない。 (4) ARDSNetの人工呼吸法で28≦PPLAT≦30cmH2Oであった症例では、呼吸数を増やし炭酸水素ナトリウムを投与することによって目標プラトー圧(25-28cmH2O)を達成した例はなかった。一回換気量が、要求されているレベルよりも大幅に下げられた症例が3例あったことが一因であろう。この3例の体外循環前のプラトー圧は目標値より低く、24.2cmH2O、23.3cmH2O、24.1cmH2Oであった。さらに、呼吸性アシドーシスの治療に有効であることが最近示された、二酸化炭素を発生させない緩衝剤であるトリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)は、今回の研究では使用されていない。

Gattinoniらは、酸素化を人工呼吸器にまかせ二酸化炭素除去は体外で行い、二つを分ければ「肺を休める」ことができるという仮説を提唱した。その研究では、人工呼吸は、無呼吸で陽圧をかけて酸素化を保つのと、毎分3~5回のサイ(最大吸気圧は35-45cmH2Oを超えない)を行うだけにとどめられ、PEEPは15-25cmH2Oに設定された。二酸化炭素除去は、ポンプ駆動の静脈-静脈バイパスを用いて行われた。回路内の血液は二つの膜型肺(合計膜表面積9m2)を通過した。回路血流は200-300mL/minから開始し、心拍出量の20-30%に当たる流量まで徐々に増やした。死亡率は予測よりも低かったが、複数の症例で重篤な出血が認められた。その後行われた無作為化臨床試験では、死亡率の低下は確認されなかった。体外補助を標準的治療と位置づけることの意義は、出血、溶血および神経系合併症などの重篤な合併症の発生率が高いとして、疑問視されてきた。そのため、体外二酸化炭素除去は、あらゆる治療を行い万策尽きた最重症患者や、多数の経験を積んだ施設に限ってしか行われてこなかった。

ARDSNetデータベースを事後的に評価したところ、すでにプラトー圧が30cmH2Oを超えている患者であっても、一回換気量を減らすと転帰が改善することが示唆された。さらに、ARDSNetの管理法で28≦PPLAT≦30cmH2Oであった患者では、生理学的および形態的指標から周期的過膨脹が発生していることが明らかにされている。以上から、体外循環を窮余の一策としての治療を位置づける考え方に異議が唱えられ、肺保護戦略に体外二酸化炭素除去を組み合わせれば、さらに一回換気量とプラトー圧を低下させることができるという仮説が生まれたのである。

「二酸化炭素産生量の一部のみ」を体外循環で除去する、というPesentiらが最初に打ち出した構想を応用した新しい装置が、最近になって作られるようになった。この新しい装置を用いれば、体外二酸化炭素除去に伴う副作用、煩雑さおよび費用が従前よりも低減する可能性がある。Beinらは先頃、ARDS患者にポンプなしの体外装置を用いる方法を報告している。患者90名を対象とした遡及的解析では、このポンプなし体外装置の使用によって、低一回換気量(320-470mL)であっても、PaCO2(31-42mmHg)もpH(7.38-7.50)も生理的な範囲内に保たれることが明らかにされている。しかし、合併症発生率は24%であった。合併症の内訳は、下肢虚血、コンパートメント症候群、脳出血などであった。さらに、動脈圧と静脈圧の圧較差をいじするためにノルエピネフリンの持続静注を要した。

本研究では、直列に接続した新生児用膜型肺とヘモフィルタを組み込んだポンプ駆動静脈-静脈バイパス回路を用いて二酸化炭素を除去した(fig. 2)。この回路を他とは一線を画し特徴付けている主な点は:(1) 体外二酸化炭素除去を行うときの標準的な血流量よりも少ない血流量で行うことができる(191-422mL/min [心拍出量の5-10%] vs 1.5-2.0L/min [心拍出量の20-30%]);(2) 成人用の膜型肺を二つ用いるのではなく、新生児用の小さい膜型肺を一つだけ使用(表面積はそれぞれ0.33平方メートル、3-4.5平方メートル);(3) 21~28Fr.の大口径シングルまたはダブルルーメンカテーテルではなく、14Fr.のダブルルーメンカテーテルを用いた;(4) 通常よりもプライミング量が少ない(140-160mL vs 1500-1800mL);(5) ヘパリン投与量が比較的少なくてよい(3-19IU/kg)。先行研究ほどしっかり抗凝固を行わなくてよい(APTT比1.1-1.7 vs 2.0-2.5)。

この体外循環バイパスを72時間実施したところ、PaCO2は33.6±6.3%低下し(73.6±11.1→48.5±6.3mmHg, P<0.001)、このおかげで167mL-340mLの一回換気量、8.1-11.9L/minの分時換気量で人工呼吸を行っていても動脈血pHが正常化した(7.20±0.02→7.38±0.04, P<0.001)。本装置を臨床使用した141±69時間には、静脈穿破、出血、血行動態不安定、腸管虚血/壊疽、気胸、腎・感染・代謝・血栓塞栓・中枢神経系合併症のいずれの有害事象も認められなかった。しかし、動脈血pHを正常化するのに必要な血流量は、この回路にしては比較的多かったので、14Frダブルルーメンカテーテルから8Frダブルルーメンカテーテル2本(1本ずつ左右大腿静脈に留置)への変更を余儀なくされた症例が3例あった。

低一回換気量の人工呼吸を行っていると吸収性無気肺が発生することがある。その有無や程度はFIO2、局所の換気血流比および呼気終末肺容量によって決まる。Dembinskyらが最近発表した研究ではARDSの動物を、一回換気量3mL/kgまたは6mL/kgに無作為に割り当て24時間人工呼吸が実施された。3mL/kg群では、ポンプなし回路を用いて二酸化炭素を除去し呼吸性アシドーシスの管理が行われた。そして、3mL/kg群の方が6mL/kg群と比較しプラトー圧が有意に低かったにも関わらず、臓器機能および臓器傷害の程度には有意な改善は認められないという結果が得られた。それどころか、換気血流ミスマッチが増加し、ガス交換能が低下した。我々の行った今回の研究では、Lower ARDSNet/Carbon Dioxide Removal strategy(ARDSNetよりも低一回換気量で体外二酸化炭素除去を行う)を72時間実施したところ、(1) 肺重量および無含気・低含気部位が減少;(2) 正常含気部位が増加(table 2);(3) P/F比が有意に改善(136±30→221±56 ; P<0.001)(fig. 5)といった変化が観測された。Dembinskyらの動物実験とは異なる結果が得られたのは、Dembinskyらの実験ではPEEPが両群とも5cmH2Oに設定されていたのに対し、我々の研究ではそれより高く、体外二酸化炭素除去開始前には12.1±2.5cmH2Oであったものが15.2±0.8cmH2Oへとさらに上昇させられた。

まとめ
本研究では、ARDSNetの方法で人工呼吸管理が行われているARDS患者のプラトー圧が28~30cmH2Oとなる場合、さらに一回換気量を減らすと、過膨張が最小限に抑えられ肺の炎症も緩和されることが示された。一回換気量を6mL/kg PBW未満に減らすと呼吸性アシドーシスが発生するが、体外二酸化炭素除去を行えば安全かつ有効に是正することができ、動脈血pHは正常化する。原理証明研究である本研究は、体外二酸化炭素除去が従来の治療法の利点をさらに生かし、一段と肺に傷害を来しにくい人工呼吸器設定を可能とする方法であることを示す先駆けとなる臨床的エビデンスを提示した。本研究で得られた結果を十分に裏付けるには、さらに臨床試験を行う必要がある。

教訓 本研究で用いた回路の主な特徴は、(1) 少ない血流量;(2) 新生児用の小さい膜型肺を一つだけ使用;(3) 14Fr.のダブルルーメンカテーテル;(4) プライミング量が少ない;(5) ヘパリン投与量が比較的少ない、の4点です。
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