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アナフィラキシーと麻酔~診断③:皮膚試験(後編) [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

その他の原因薬剤・物質

ラテックス
欧州では、市販のラテックス抽出液を用いたプリック試験が、ラテックスに対する過敏性の検査として行われている。ラテックスプリックス試験の感度は非常に高い(75-90%)。米国では皮膚試験用ラテックス試薬は市販されていないので、in vitro検査で診断を行う。ラテックス製手袋から抽出した成分が用いられることが多いのだが、抽出された試薬に含まれるラテックスタンパク量は標準化されていない。

抗菌薬
アナフィラキシーを起こす抗菌薬は、主にペニシリン系およびセフェム系である(70%)。どちらの系統もβラクタム環を持つ。初回曝露でもアナフィラキシーが起こることがある。欧州薬剤アレルギーネットワークの薬剤過敏性専門員会は、皮膚試験に用いる試薬の最高濃度を以下のように定めている:アモキシシリン20-25mg/mL、アンピシリン20-25mg/mL、大部分のセフェム系薬1-2mg/mL。βラクタム系薬を用いた皮膚試験の特異度は97%~99%であるが、感度は50%程度である。したがって、病歴からはβラクタム薬によるアナフィラキシーが疑われるが、皮膚試験は陰性である患者では、経口誘発試験が推奨されている。ペニシリン系とセフェム系の交叉反応は、共通して存在するβラクタム環によって発現するが、その頻度は少ない(10%)。βラクタム環の側鎖が抗原決定基である、βラクタム薬アレルギーも存在する。第一世代セフェム系薬とセファマンドール(第二世代セフェム)の側鎖は、ペニシリンおよびアモキシシリンの側鎖と構造が類似している。最近のメタ分析では、ペニシリンまたはアモキシシリンにアレルギーのある患者は、第一世代セフェム系薬およびセファマンドールにもアレルギー反応を示す頻度が高いが、第二世代以降のセフェム系薬に対するアレルギーはないことが明らかにされている。バンコマイシンによるアナフィラキシーは稀である。バンコマイシンを用いた皮内反応は、10mcg/mL未満の濃度の試薬を用いて行うべきである。バンコマイシンによるアナフィラキシーは、非特異的なヒスタミン遊離によって発生するred man症候群と混同しないようにしなければならない。バンコマイシンを急速に投与すると、red man症候群が起こりやすい。

鎮静薬
チオペンタールやプロポフォールによるアナフィラキシーは、稀に報告されているが、エトミデートやケタミンによるアナフィラキシーは、極めて稀である。皮膚試験を行う場合は、table 2に示した希釈濃度を守る。

オピオイド
オピオイドによるアナフィラキシーは非常に稀である。モルヒネにはヒスタミン遊離作用がある。したがって、皮膚試験を行う際は、推奨最高濃度を超えないよう注意する(table 2)フェニルピペリジン系製剤(アルフェンタニル、フェンタニル、レミフェンタニル、スフェンタニル)についても、プリック試験や皮内試験(プリック試験陰性の場合のみ)を行うことがある(table 2)。フェニルピペリジン系製剤間の交叉反応が認められることは滅多にない。

局所麻酔薬
局所麻酔薬によるアナフィラキシーは極めて異例であり、エステル型局所麻酔薬が使用されなくなるにつれて、発生頻度は低下している。局所麻酔薬によるアレルギー反応の大部分は、エステル型局所麻酔薬の共通する代謝産物であるパラアミノ安息香酸によって引き起こされる。パラアミノ安息香酸がアレルゲンであれば、エステル型局所麻酔薬全ての交叉反応性があることになる。アミド型局所麻酔薬に対するアレルギー反応は、報告はされているが、それが本当にアミド型局所麻酔薬によるものであるという確たる証拠はない。局所麻酔薬製剤に添加されている、ピロ亜硫酸またはパラベン(代謝されるとパラアミノ安息香酸が生成される)などの酸化防止剤や保存剤が、アレルギーや有害反応を引き起こしている可能性もある。エステル型局所麻酔間の交叉反応性はよく認められるが、アミド型では稀であり、アミド型とエステル型の交叉反応性はない。局所麻酔薬(保存剤やエピネフリンを含まないもの)の皮膚試験はtable2に示した希釈濃度に従って行う。

コロイド
コロイドによるアナフィラキシーの頻度は低い。ヒドロキシエチルスターチ(0.06%)よりも、ゼラチンによるもの(0.35%)の方が多い。アナフィラキシーが疑われれば、原液を用いたプリック試験を行い、陰性であれば皮内試験を行う。

アプロチニン
アプロチニンによるアナフィラキシーの発生率は、再投与の場合で約2.8%である。以前は術中の出血量減少や輸血回避の目的でアプロチニンが使用されていたが、最近になって市販されなくなった。しかし、フィブリン糊製剤の中には、アプロチニンを含有しているものが今でもある。原液を用いたプリック試験を行い、陰性であれば皮内試験(10倍希釈を最高濃度とする)を行う。

色素
Isosulfan blueまたはpatent blueによるアナフィラキシーの発生率は2%未満である。メチレンブルーによるアナフィラキシーはごく稀である。必要であればプリック試験を行い、陰性であれば皮内試験を行う(メチレンブルーはヒスタミン遊離作用があるため100倍希釈を最高濃度とし、isosulfan/patent blueは10倍希釈を最高濃度とする)。

その他の薬剤
プロタミン、消毒剤(クロルヘキシジン、ポピドンヨード)、イオン性造影剤でもアナフィラキシーが発生することがある。確定診断のため皮膚試験を行うことがある。

診断を確実なものとし、今後の麻酔管理に資する情報を得るには、アレルギー学的評価と臨床像とを重ね合わせて吟味しなければならない。アナフィラキシーを示唆する臨床経過(大半の重症反応)を辿り、トリプターゼ濃度が上昇し(トリプターゼ濃度の上昇が見られないからといってアナフィラキシーを除外することはできない)、皮膚試験が陽性であれば、その薬剤・物質によるアナフィラキシーであると確定診断を下すことができる。以降は、その薬剤・物質の使用を避けなければならない。

一方、アナフィラキシーを示唆する臨床経過(一般的には重症ではない反応)が認められ、ヒスタミン濃度の上昇はある(あるいはない)が、トリプターゼ濃度の上昇はなく、皮膚試験が陰性であれば、非アレルギー性の反応(アトラクリウム、ミバクリウム、バンコマイシンなどの強いヒスタミン遊離作用のある薬剤によるヒスタミン放出)であると考えられる。

さらに、アナフィラキシーを示唆する臨床経過(たいていは循環動態の著しい悪化)にトリプターゼ濃度の上昇とその持続を伴うが、皮膚試験が陰性である場合は、肥満細胞増多症が疑われる(fig. 2)。

患者には詳細な情報を知らせ、今後また麻酔を受ける際に関係者に対し明確な注意点を示すことができるようにしておくことが、最も重要である。

教訓 ペニシリンまたはアモキシシリンにアレルギーのある患者は、第一世代セフェム系薬およびセファマンドールにもアレルギー反応を示す頻度が高いものの、第二世代以降のセフェム系薬(セファンマンドールを除く)に対するアレルギーはないことが明らかにされています。この場合、βラクタム環ではなく、側鎖がアレルゲンです。
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