SSブログ
critical care ブログトップ
前の10件 | -

強化腎代替療法は急性腎不全の転帰を改善しない [critical care]

NEJM 2008年7月3日号より

Intensity of Renal Support in Critically Ill Patients with Acute Kidney Injury

急性腎障害患者に対する血液透析が実用化されてから60年以上経過した現在でも、腎代替療法の最適な開始時期、方法は分かっていない。強化腎代替療法によって生存率が改善するという結果を得た単一施設研究が複数発表されている一方で、否定的な結果も報告されている。本研究では、強化腎代替療法によって急性腎障害を伴う重症患者の死亡率が低下するという仮説が検証された。

血行動態が安定していれば間欠的透析、血行動態が不安定ならばCHDFまたは低効率長時間透析を実施した。
強化治療群では間欠的透析・低効率長時間透析を週6日(日曜日以外の毎日)、CHDFは35mL/kg/hrで行った。
非強化治療群では、それぞれ週3日、20mL/kg/hrで行った。
両群とも間欠的透析・低効率長時間透析のKt/Vureaは1.2から1.4とした。

1124名の患者が対象となった。
60日死亡率は強化治療群53.6%、非強化治療群51.5%であった。(オッズ比1.09; 95%CI 0.56-1.40; P=0.47)
腎代替療法実施期間、腎機能回復率、腎以外の臓器不全発生率についても有意差は認められなかった。

急性腎障害を伴う重症患者に対して強化腎代替療法を行っても、臨床で広く行われているのと同様の腎代替療法(非強化腎代替療法)と比較し、死亡率は低下せず、腎機能回復に寄与せず、腎以外の臓器障害発生率も低下しない。

血行動態が安定している患者にKt/Vurea 1.2-1.4の間欠的血液透析を行う場合、週3回を超えて行っても転帰は改善しない。
血行動態が不安定な患者にCHDFを行う場合、浄化量を20mL/kg/hr以上にしても転帰は改善しない。

本研究の問題点
①腎代替療法開始時期について厳密な取り決めは設定されていない。→重症患者における腎代替療法開始の最適時期については諸説あり、結論は出ていない。
②対象患者に占める男性の割合が大きい。→急性腎障害は女性よりも男性で発生頻度が高い。重症急性腎障害患者の59-64%が男性であると報告されている。
③進行したCKD患者が除外されている。→中等度から重症のCKD患者が急性腎障害を併発した場合には、本研究の結果を敷衍するのは適当ではない可能性がある。

教訓 renal indicationの血液浄化では以上の結果。フツーにやればいいということのようです。non-renal indication RRTの有効性の解明、high flow, high volume RRTが通常のRRTより有効であるかどうかの解明など、non-renal indication派には研究ネタが尽きないところ。がんばってください。


コメント(0) 

肝肺症候群 [critical care]

NEJM 2008年5月29日号より

Hepatopulmonary Syndrome — A Liver-Induced Lung Vascular Disorder

 肝肺症候群とは肝疾患に伴う肺血管拡張による動脈血酸素化障害を特徴とする疾患概念で1977年頃にはじめて報告された。最もよく認められる症状は労作時あるいは安静時の呼吸困難であるが、進行した肝疾患患者では貧血、腹水、水分貯留、筋萎縮などの肝疾患に関連する様々な合併症によって呼吸困難が認められる頻度が高く、呼吸困難があるからといって肝肺症候群と診断するのは早計である。

 肝肺症候群に特異的な症状や徴候、特徴的な理学所見といったものはない。しかし、クモ状血管腫、ばち指、チアノーゼ、重篤な低酸素血症(PaO2 < 60 mmHg)などの所見は肝肺症候群の存在を強く示唆する。

 仰臥位から起坐位に体位変換することでPaO2が5%以上もしくは4mmHg以上減少する(この現象をorthodeoxiaと言う)場合、換気血流不均衡が体位変換によって著しく悪化していることを示し、起き上がると呼吸困難感がひどくなると患者が訴える可能性がある(起坐位呼吸困難)。

 胸部X線撮影は多くは非特異的な所見を示し、び漫性の肺血管拡張の存在によるものと考えられる軽度の間質性陰影が下肺野に認められることがある。

 肝肺症候群における特筆すべき病理所見の特徴は、肺血管の前毛細血管および毛細血管における全体的な拡張(患者安静時に直径15ないし100μm)と拡張血管の絶対数の増加である。

 肺血管が拡張すると、混合静脈血が直接的にまたは肺内シャントを経由して肺静脈へ流入しやすくなる。肺胞換気は増加しないのに、肺血流が増えるため換気血流不均衡が起こり酸素化不良となる。肝硬変患者の30%では低酸素性肺血管収縮が抑制または消失するため、さらに肺血流が増大する。肺内シャント増大や換気血流不均衡の程度は低酸素血症の程度に反映される。対して、門脈肺血管交通の低酸素血症との関与は僅かである。換気血流不均衡とシャントの増悪が肝肺症候群におけるorthodeoxia発生メカニズムの本態である。下側肺肺胞の肺血管トーンが変化に乏しいため換気に呼応した重力性の血流変化が起こりにくいことがorthodeoxiaの原因と考えられる。

 肝肺症候群の重症度が進むに従って酸素拡散障害は悪化する。病期が進行し拡散障害が生ずると、心拍出量が増大するほど赤血球が通過する時間が短くなるのでかえって酸素化が悪化する。この現象は、肝疾患一般と一部の肝肺症候群において認められる。拡散能低下のもう一つの原因は、肺胞毛細血管間隙が広すぎてヘモグロビンと一酸化炭素が完全な平衡に達することができないことであると考えられている。

 肝肺症候群に対する有効な内科的治療法は現在のところ存在せず、肝移植が唯一の治療法である。術後死亡率および移植後から低酸素血症の改善までの期間は、肝肺症候群の重症度が高く術前低酸素血症が重篤であるほど延長することが明らかにされている。 今までに行われたうちで最も大規模な単一施設研究では、肝肺症候群患者の肝移植後5年生存率は76%であるという結果が得られており、肝肺症候群がなく肝移植を受けた患者の5生率とのあいだに有意差はなかった。この研究で死亡の予測因子として最も強い影響が認められたのは術前PaO2が50mmHg以下であることと、肺血流シンチにおける脳の取込みが20%以上であることであった。移植以外の治療では肝肺症候群の予後は悪いのでPaO2が60mmHg以下の肝肺症候群の患者はほかの疾患で肝移植の候補になっている患者より優先度を高く考えねばならない。

教訓 肝疾患患者では、仰臥位よりも座位のときのほうがSpO2が低下することがある。
コメント(2) 

2007年 集中治療領域の進歩 ~輸血・輸液と呼吸の巻~ [critical care]

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2008年4月15日号より

Update in Critical Care 2007

小児を対象とした空前の大規模RCTで、赤血球輸血閾値をヘモグロビン7g/dLに設定したところ、輸血量が減り、転帰の悪化も認めなかった。

重症患者にエポエチン・アルファ(40000単位)の週一回投与を最長三週間続けると血栓性有害事象が増えるだけで、赤血球製剤輸血量は減らないという結果が得られている。

生食対アルブミン製剤輸液評価(SAFE)研究の事後分析で頭部外傷患者においては急性期輸液にアルブミン製剤を用いた群の方が死亡率が高かった。

TRALIのリスク因子として女性供血者の血液製剤使用と抗顆粒球抗体の関与が明らかにされた。

ARDSネットワークの定めた目標値である一回換気量6mL/kg(予測体重)および吸気プラトー圧30cmH2O未満に従って人工呼吸管理を行うと患者のうち三分の一で呼吸サイクルに伴う断続的な過膨張と炎症の悪化が認められることが明らかにされ、人工呼吸器による肺損傷(VILI)を防ぐには吸気プラトー圧を28cmH2O未満とする必要があることが指摘された。

1200名以上のALI患者を対象としたNO吸入療法についてのメタ分析では、死亡率の改善は認められず、PaO2:FIO2比は13%ほど改善するにとどまり、肺動脈圧には有意な変化はなく、一方で腎機能障害の危険性上昇が懸念されるという結果が得られた。

ALIに対する非侵襲的人工呼吸は熟練者であれば十分実施可能であると考えられるが、転帰が改善するという報告は得られていない。

早期ALI症例に「少量」コルチコステロイド長期投与(メチルプレドニゾロン1mg/kg/dayを28日間かけて漸減させながら投与する)を行ったところ、一次転帰項目である第7病日における肺損傷スコアおよびCRPの改善が認められたが、本研究ではコルチコステロイドが有利になるような無作為割当の方法(2:1で割当)、早期試験中止規則、患者の重複などが存在するため、本論文で述べられている結果の解釈に批判が向けられるのはやむを得ないであろう。

ARDS症例におけるリクルートメント手技について少人数の患者を対象として肺水腫の程度について調査した研究で、リクルーメント手技に反応した患者では肺の水分排出が改善したが、反応しなかった患者では水分排出がかえって悪化した可能性があると報告されている。

多くのICUでルーチーンとして行われているケアを検証した非盲検化無作為割当試験で、胸部X線写真のルーチーン撮影によって人工呼吸期間が4日延長し、かつ再挿管率や何らかの治療的介入を必要とする程度の低酸素血症の発生率は低下しないという結果が得られた。

毎日ルーチーンで胸部写真を撮影するよりも必要に応じて撮影するほうが、診断効率が良く、撮影枚数も少なく、かつ有害事象も認められないということが一編のRCTと二編の前後比較研究で明らかにされた。

単一施設コホート研究で、心臓手術を受けた患者において気管切開は深部胸骨感染の独立した危険因子ではないことが明らかにされた。

教訓 ALI/ARDSの人工呼吸はdriving pressureを小さくすることがポイント。胸部X線写真の所見にはあまり振り回されない方がいいようです。
コメント(0) 

2007年 集中治療領域の進歩 ~感染の巻~ [critical care]

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2008年4月15日号より

Update in Critical Care 2007

起因菌診断についてBALと気管内採痰を比較した研究で、抗菌薬非投与日数に有意差を認めなかった。

敗血症性ショック患者の昇圧剤としてノルエピネフリンとドブタミンを併用した場合とエピネフリン単剤投与を比較したところ、転帰に臨床的有意差が認められなかった。

トキシックショックの転帰は男性より女性の方が不良であることの生物学的原因として、スーパー抗原に曝露されると雌マウスの方が雄マウスよりもTNF-α産生量が多くかつTNF-αに対する反応も大きい、という現象がヒトでも関与している可能性がある。

ICUで個室に収容された患者では血流感染および交叉感染の発生が少ない。

ICU滞在中の感染の主要危険因子は異物留置であるが、死亡率とは関連しないことが明らかにされた。

Lactobacillus rhamnosus GG株のプロバイオティクス製剤としての有用性を評価した小児重症患者を対象とした小規模RCT が行われたが、有効性が認められないとともに安全性について問題があるという理由で早期中止された。

多発外傷患者に選択的消化管除菌(SDD)を行うとグラム陰性菌感染が減少するが死亡率は低下しないことがRCTで明らかにされた。

抗菌薬および消毒薬の口腔内局所投与によってVAP発生率が低下するという結果がメタ分析で得られた。

内科系ICU患者の清拭にクロルヘキシジンを用いると血流感染が減る。

動脈硬化患者を対象とした前向き観測研究で、スタチンを投与されている患者は感染による死亡率が有意に低いことが明らかにされた。

敗血症または敗血症性ショックに対する免疫グロブリン療法(IVIG)についてのメタ分析の結果成人においても小児においても死亡率が減少することが明らかになったが、良質のRCTだけを対象にメタ分析を行うと死亡率低下の程度が小さくなった。最新の大規模RCTではスコアに基づいて分類された重症敗血症症例においてIVIG群と偽薬群では死亡率に有意差は認められなかった。

イタリアおよびカナダで行われた観測研究で、ドロトレコギン・アルファは適応外使用されている場合が多く、そのうち10%の患者に出血性合併症が認められ、予定手術後に敗血症を発症した患者に本剤を用いると死亡率が上昇する可能性があると指摘されている。

市中肺炎に関する全世界的研究が行われ、20%以上が非定型病原微生物によるものであり、市中肺炎に対し抗菌薬のエンピリック投与を実施する際はこれらの非定型病原微生物をカバーすることを念頭におくべきであると報告されている。

重症壊死性膵炎に対する抗菌薬投与開始時期についての多施設RCTで、早期投与と晩期投与を比較したところ臨床的転帰に統計学的有意差は認められないという結果が得られた。

教訓 DrotAA(商品名Xigris)もグロブリンもあんまり期待できないようです。スタチンは日本発のおもしろい薬です。敗血症にはNE+DOBがいいと言われていた時期もありますが、そうでもないようです。DOBをCPB後に使うとよくない、という報告もあります。

コメント(0) 

2007年 集中治療領域の進歩 ~循環、外傷、鎮静の巻~ [critical care]

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2008年4月15日号より

Update in Critical Care 2007

肺動脈カテーテルを使用しても転帰が改善しないという論文が次々に発表された結果、この十年間で肺動脈カテーテルの使用本数が漸減していることが分かった。

なるべく少ない侵襲で生体情報を得る方法の研究で、心臓手術中の患者では酸素飽和度モニタ波形の振幅の呼吸性変動から輸液による血行動態変化を予測することができることが明らかにされた。

心臓外科手術患者にメトプロロール(β1遮断薬)に加えハイドロコルチゾンを投与すると心房細動発生頻度が低下し、術後感染性合併症は増加しない。

術中の出血コントロールの目的でアプロチニンを投与すると、アミノカプロン酸やトラネキサム酸を投与した場合と比較し死亡率が上昇することが複数の研究で明らかになった。その結果、心臓外科手術における抗線溶療法に関するRCTについての詳しい調査結果が示されるまではアプロチニンの販売が一時中止されることとなった。

鈍的頭部外傷による重症脳損傷患者の死亡率は、入院時に低~中程度の血中アルコール濃度を呈する患者ではアルコールが検知されない患者よりも低く、高血中アルコール濃度では死亡率が高いことがコホート研究で明らかにされた。

慢性重症患者に対するタンパク同化ステロイド使用の是非は未だ決着していない。単一施設で行われた熱傷患者を対象としたRCTでオキサンドロロン投与により入院期間が短縮し、除脂肪体重が維持され、かつ内分泌系の異常も認められなかったという結果が得られた。ただし、オキサンドロロンの投与によりトランスアミナーゼが上昇したため、肝機能に影響を与える可能性がある。

重症頭部外傷患者の脳全体の血流量をキセノンCTで測定したところ、脳還流圧とはほとんど相関しないことが明らかにされ、過去の報告とは異なることが分かった。この結果は頭部外傷患者でも自動調節能が相当程度維持されていることを示唆する。

脳損傷の場合の最適ヘモグロビン値については意見の一致は未だ見られていない。クモ膜下出血患者を対象とした単一施設コホート研究で、ヘモグロビン濃度が高いほど機能転帰が良好であったという結果が得られた。

鎮静鎮痛療法の現状調査が米国とフランスで行われた。その結果、看護師による評価が行われる頻度は低く(夜間はほとんど行われない)、ほとんど目覚めず動きもしない患者に対する過鎮静、鎮静評価法が十分活用されていない、痛みを伴う処置を行う際の鎮痛管理が不適切である、といったことが明るみに出た。

人工呼吸患者をデクスメデトミジン群かロラゼパム群に無作為に割り当て、鎮静スケールに従って投与量を調節したところデクスメデトミジン群の方が昏睡状態の日数が少なかったが、譫妄や人工呼吸期間については有意差は認められなかった。

教訓 頭部外傷の死亡率は、ほろ酔い<素面<泥酔です。ほろ酔いだと死亡率が低いのは、受傷時の驚愕、恐怖などによる身体運用能力低下(居着き)が抑制されるからでしょうか。心を練ることが大切なようです。
コメント(0) 

2007年 集中治療領域の進歩 ~内分泌と腎の巻~ [critical care]

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2008年4月15日号より

Update in Critical Care 2007

市中肺炎患者ではコルチゾール値から重症度および転帰を知ることができ、通常の検査項目であるCRPや白血球数よりも良い指標であると報告されている。

ICU入室患者の背景因子の違いによるインスリン強化療法の危険性と効果の差異について数多くの研究が熱心に行われているが、相反する結果が発表されている。

単一施設からの報告で、インスリン強化療法を実施しても血糖値を厳重に管理することができないことは珍しくなく、またそのことがICU死亡率の独立した危険因子であることが分かった。

インスリン強化療法のRCT対象患者のうち、ICUに7日以上滞在した内科系患者では、インスリン強化療法の実施によってcritical illness polyneuropathy/myopathyの発生頻度が低下し、人工呼吸器使用が遷延する症例が減少した。

心臓外科手術の術中からインスリン強化療法を行ったところ周術期死亡や合併症発生率は低下せず、追跡期間における死亡率および脳血管障害発生数が増えたという結果が得られた。

脈圧が高いことが心臓手術後の急性腎不全の危険因子であるという報告があった。

悪性腫瘍の有無によるICUにおける血液浄化療法の転帰の違いを、臓器障害や腎機能低下の時期についての調整を行って比較したところ、有意差は認められなかった。

臨床的に問題となる程度の低血圧に陥った患者にNアセチルシステインを投与しても急性腎不全の発生率は低下しないことがRCTの結果から明らかになった。

CHFとextended daily HDFを比較した小規模RCTで小分子物質の除去効率に有意差は認められなかった。

多施設コホート研究で持続血液浄化療法と間欠的血液浄化療法を比較したところ、持続法の方が昇圧薬使用量および人工呼吸器使用頻度が上回り、院内生存率も低かった(35.8% vs 51.9%; p<0.0001)。

教訓 インスリン強化療法はいろいろな結果が報告されていて百花繚乱です。持続的血液浄化法にはstrikingなpositive evidenceがほしいところです。

コメント(0) 

2007年 集中治療領域の進歩 ~その他いろいろの巻~ [critical care]

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2008年4月15日号より

Update in Critical Care 2007

TPN施行患者における中心静脈カテーテルによる血管壁損傷は1000カテーテル日あたり0.28件発生し、危険因子は左半身の血管への留置と高齢者であった。

緊張性気胸が疑われる症例に穿刺による脱気を行う場合、最も成功率が高く安全なのは7cm以上の穿刺針を用い胸骨角の高さで鎖骨中線上を胸壁に対し垂直に穿刺する方法であることがCT画像の解析から明らかにされた。

排便管理に関する大規模RCTで、ラクチュロースとポリエチレングリコールは偽薬よりも排便促進効果において優れていることが明らかにされた。

卒後医学教育認定委員会は2003年に研修医労働時間規制を全米に導入した。大規模遡及的コホート研究でメディケア受給者の院内死亡率はこの労働時間規制導入前後で有意差を認めないことが明らかにされた。また復員軍人病院においては四種の一般的な内科系疾患による死亡率が労働時間規制後に低下したことが分かった。一週間の労働時間の上限を80時間とする規制導入前の二年間に入院した成人外傷患者の有訴率が規制導入後より高かったことが単一施設研究で明らかにされた。

ICUにおける面会時間を延長する施設が増えている。患者家族には面会時間の延長は好評であるが、ICU勤務看護師は業務中断の懸念があるとしてあまり好意的に捉えていない。小児ICUの調査では、回診時に患児ベッドサイドに両親が付き添っていてもICU内スタッフの教育やスタッフ間のコミュニケーションにはそれほど大きな問題は生じないことが分かっている。

集中治療医がICUに常駐していると全体的なケアの質およびICU勤務看護師の満足度が向上し、ICU滞在日数が減少する。また、ICU勤務看護師の数が増えるとICU内感染率および院内死亡率が低下する。

集中治療の地域集約化によって人工呼吸を要する患者の生存率が改善する可能性がある。

多くの病院でICU以外の院内における急性重症患者の治療に関わるアウトリーチチーム制度を導入するようになってきている。大規模RCTではアウトリーチチーム導入による効用は確認されていないが、前後比較調査では心停止症例の減少、治療開始までの時間の短縮、ICU緊急入室症例の減少が認められた。しかし、死亡率低下を強く示唆するエビデンスはまだ得られていないのが現状である。

敗血症に対するEGDT(early goal directed therapy; 本治療を行うには救急部搬送時に敗血症の診断を行い、中心静脈圧を測定しICUへ収容しなければならない。) 、急性肺障害患者に対する肺保護戦略、米国における集中治療医常駐ICUの普及(患者入退室の混乱、病院収入の不足および費用の増大などの影響が考えられている)、ICU勤務者間のコミュニケーションの改善(医師と看護師ではコミュニケーションの質についての認識が異なる)などは有効性が明らかにされた方策であるが、導入するにはいずれについても様々な障壁が立ちはだかっていることが報告されている。

意思決定不能状態で近親者のいない患者がICU死亡患者およそ20名中1名存在し、そのような患者の治療方針の大部分を当該施設内の検討や法的審査を経ることなく担当医が決定しているという調査結果が得られた。

生命維持につながる治療法を中止してもそれが医学的に適切であるならば、患者や患者家族の意思に反していても治療を中止した医師を法的に保護するという内容の事前指示法案がテキサス州で1999年に可決された。しかし治療方針の審査に本法案が実際に適用された症例はごく少数であることが調査の結果明らかになった。

カナダに所在するICUの代表責任医師、婦長、呼吸療法士を対象とした調査から、医学的に無意味なケアの定義として現場で認識されているのは、意思疎通が可能となる望みがないと判断される症例に行われる相当な医療資源の投入を要するケアであることが明らかになった。

英国に所在する92ヶ所のICUにおける観測研究で、COPDを合併する重症患者の転帰について医師が実際よりも悲観的な予測を持っており、その結果有効な治療法が行われていない可能性があることが明らかにされた。

教訓 医師がしゃかりきになって働かなくても患者に悪影響はなさそうです。テキサス州は大胆というか合理的なところです。

コメント(0) 

劇症肝不全の頭蓋内圧コントロール [critical care]

Critical Care Medicine 2008年8月号より

Results of a protocol for the management of patients with fulminant liver failure.

脳浮腫は劇症肝不全の主死因である。肝性脳症グレード4の患者の80%に脳浮腫が認められる。脳浮腫の指標として精度が高いのは頭蓋内圧亢進である。頭蓋内圧が20mmHg以上である場合を頭蓋内圧亢進とする。劇症肝不全患者には頭蓋内圧モニタリングの使用が推奨されている。頭蓋内圧モニタリングは治療法の選択に役立ち、神経学的予後がより良い患者に優先して肝移植を行うことができるのだが、一方で頭蓋内出血の危険性が上昇する。頭蓋内圧を低下させる治療法として、過換気、マンニトール、低体温およびバルビツレートが挙げられる。しかし、いずれについても臨床的転帰を改善するという結果は得られていない。本研究では劇症肝不全の治療プロトコルを作成し、その有効性を検証した。移植候補患者の神経学的転帰が良好な状態での生存を主要転帰とした。このプロトコルの特徴は、頭蓋内圧モニタリングの使用と標準化された止血療法および頭蓋内圧管理の実施である。

肝疾患の既往がなく、黄疸出現から二週間以内に肝性脳症および凝固能障害に陥った症例を劇症肝不全とした。そのうちAmerican Association for the Study of Liver Diseases criteriaの肝性昏睡グレード3-4の患者を対象とした。以下のように管理を実施した。

頭蓋内圧亢進予防のための対策
20°以上の頭部高位、興奮時はフェンタニル25-200mcg/hr静注、清拭・体位変換・気管内吸引は最低限しか行わない、腎機能障害の場合は持続的血液浄化法を実施、血清ナトリウム濃度が145-150mmol/Lとなるような輸液管理、脳還流圧(CPP)が判明するまでは平均動脈圧が75mmHgを上回るようにノルエピネフリンまたはフェニレフリンを投与

止血療法
頭蓋内圧モニタ設置前に止血療法実施。血小板数>100,000/mm3を目標に単一ドナーからの血小板製剤を投与。活性化第Ⅶ因子(40-90mcg/kg静注)とFFPはPT<16秒を目標に投与。フィブリノゲン値100mg/dL以上を目標にクリオプレシピテートを投与。肝不全および腎不全による血小板機能低下を軽減するためデスモプレッシン(30mcg/kg静注)を投与。血小板数、PT、フィブリノゲンは12時間ごとに測定し、必要であれば目標値を満たすように各製剤を投与した。

頭蓋内圧モニタ
頭蓋内圧モニタ(Codman MicroSensor)は脳神経外科医が局所麻酔下に非優位半球の前頭葉に設置した。設置後は頭蓋内圧(ICP)とCPP(=MAP-ICP)を持続的に監視した。

頭蓋内圧が20mmHg以上になった場合、プロトコルで定められた治療法を実施した。プロトコル中の治療法の実施の詳細については担当集中治療医の判断に任された。

頭蓋内圧亢進時の治療プロトコル
頭蓋内圧>20mmHgが5分間以上つづいたら以下の治療を段階的に開始する
・CPP>60mmHgを目標にノルエピネフリンまたはフェニレフリンを投与する。
・マンニトール1g/kgをボーラス投与する。血清浸透圧<320mOsm/kgならば追加投与してもよい。
・PaCO2 30-35mmHgを目標に過換気にする。
・冷却ブランケットを使用し核温33-34℃を目標に低体温にする。筋弛緩薬が必要であればシスアトラクリウム0.2mg/kgをボーラス投与 後、3mcg/kg/minで持続投与する。TOF2/4となるように投与量は調節する。
・ペントバルビタール5mg/kgをボーラス投与。必要であればICPを観察しながら3-5mg/kgの追加投与を繰り返す。
・血清Na濃度を145-155mEq/Lに維持するのに必要なナトリウム投与量を計算し3%食塩水を投与。

対象となったのは22名。平均年齢は32.7歳(15歳-56歳)で、17名が女性であった。劇症肝不全の原因は、アセトアミノフェン中毒12名、A型肝炎3名、B型肝炎1名、抗痙攣薬、サルファ剤による薬剤性過敏症症候群各1名、ウィルソン病1名であった。18名が移植候補者となり、そのうち9名がICPモニタ設置3日後(中央値; 1-6.5日)に肝移植手術を受けた。ICPモニタによる出血性合併症の精査ができたのは17名であった。ICPモニタ設置部位の頭蓋内出血があったのは3名で、2名が前頭葉の血腫、1名が硬膜下血腫であった。このうち1名は神経学的後遺症を残さず生存した。2名は敗血症で死亡した。

21名(95%)に頭蓋内圧亢進が認められた。頭蓋内圧亢進エピソードは全部で82回あり、そのときの平均頭蓋内圧は33mmHg、持続時間は60分であった。29回(36%)が患者搬送、気管内吸引、ACSで発生したと考えられた。4名の患者にACSの解除が行われた。

治療プロトコルにより78回(95%)の頭蓋内圧亢進において改善が認められた。プロトコル実施中に4名が死亡した。

全生存率は22名中12名(55%)であった。18名が移植候補となった。そのうち12名(67%)が生存し、11名は神経学的転帰が良好であった。頭蓋内圧亢進が認められた移植候補患者17名のうち11名が生存し、10名は神経学的転帰が良好であった。移植後30日生存率は88%であった(移植後死亡1例。肺炎で死亡。)。移植候補となったが移植が行われなかった9名のうち5名は死亡した。移植候補とならなかった患者4名は全員死亡した。今回の対象患者では、脳浮腫もしくはICPモニタによる頭蓋内出血が直接死因であった症例はなかった。4例では頭蓋内圧亢進が死因に関与している可能性が考えられた。移植が行われなかった症例の死因は、ARDS、敗血症、ACS、腸管穿孔、ICPモニタによるものではない頭蓋内出血であった。

本研究の頭蓋内圧亢進治療プロトコルは頭蓋内圧を低下に有用であり、かつ神経学的転帰の改善にも寄与した。このプロトコルでも頭蓋内圧が管理できなかったのは1例のみであり、この症例は移植候補から除外された。今回のプロトコルで管理が困難であったのは、平均動脈圧低下によるCPP低下症例である。このような症例はほとんどが敗血症によって死亡した。低体温とペントバルビタールはショックを増悪させる可能性があり注意が必要である。ACSが発生した場合、その解除が頭蓋内圧管理に必須であることが分かり、本研究以降、持続的膀胱内圧モニタリングを実施している。

この研究は小規模であり比較対照試験ではないため、ICPモニタリングの有用性については大規模な比較対照試験で確認する必要である。しかし、今のところはICPモニタを利用した積極的な頭蓋内圧管理によって肝移植候補者の頭蓋内圧が低下し、神経学的転帰が改善すると言えよう。

教訓 肝移植候補の劇症肝不全には頭蓋内圧と膀胱内圧のモニタリングが必要。頭蓋内圧モニタ設置やACS解除の前後には厳重な凝固・止血機能の監視と治療が重要です。

コメント(0) 

夜間ICU退室と死亡率 [critical care]

Critical Care Medicine 2008年8月号より

The association between nighttime transfer from the intensive care unit and patient outcome.

夜間にICUを退室した患者は、日中に退室した患者より死亡率が高いと報告されている。
これらの報告は、UK、カナダ、オーストラリア、フィンランドからのものでICU夜間退室と死亡率を調査した米国の報告はない。本研究ではMayoメディカルセンターに所在する3つのICUから2003年から2006年に生存退室した成人患者についてICU夜間退室について遡及的に調査した。

Mayoメディカルセンターは2つの病院を擁し、入院病床数は1900床である。ICUは9つあり総病床数は156床である。ICUの病床占拠率は55%から81%である。今回の調査対象とした3つのICUの内訳は、内科系ICU(24床)、内科系外科系混合ICU(18床;移植、血液/腫瘍内科、一般外科、整形外科患者を収容)、外科系ICU(20床;外傷および心臓外科以外のすべての外科系患者を収容)である。内科系ICUと内科系外科系混合ICUはclosed ICUである。外科系ICUはopen ICUであるが治療方針の決定は大部分を集中治療医が行っている(調査対象とならなかった6つのICUでは治療方針は主治医が決定している)。看護師一人当たりの患者数は1人または2人である。夜間退室の定義は午後7時から午前6時59分までの退室とした。ICU看護師の勤務体制が、午後7時と午前7時に交代する12時間二交代制であるためこの時間を夜間と定義した。

4年間で15,511名の患者がICUから生存退室した。そのうち11,659名が調査対象となり、418名(3.6%)が夜間退室した。ICU Day#1の予測死亡率とICU在室最終日のAPACHEⅢスコアは夜間退室群の方が有意に高かった。院内死亡率は全体では4.5%であり、夜間退室群が5.3%、日中退室群が4.5%であった(P=0.478)。重症度調整後院内死亡率には有意差は認められなかった。夜間退室群のICU再入室率は有意に高かった(12.2% vs 9.0%, P=0.027)。入院期間中央値も夜間退室群の方が有意に長かった(8日 vs 7日, P=0.013)。夜間退室群と日中退室群とで、その日の全ICU病床占拠率(156床中約101床)、病院全体の病床占拠率(1900床中約920床)に有意差は認められなかった。DNR患者の割合に有意差は認められなかった(日中8.8% vs 夜間10.8%)。

Goldfradらの研究(UK, 夜間の定義10PM-6:59AM, 夜間退室の院内死亡RR1.46)では、ICUベッド数不足を原因とする退室が夜間は42.6%、日中は5.0%であった。常時ICUが満床になるような施設では、ICUベッド不足を原因とする夜間退室症例が多いことが死亡率上昇につながっている可能性がある。今回の研究では夜間退室となった理由までは分からなかったが、MayoメディカルセンターではICUが9つもあり”bed pressure”は他院と比べればないと言ってもよく、ICUを退室させるには忍びないような患者を退室させてまで、より重症度の高い患者のためにICUベッドを空ける必要性に迫られることはほとんどない。今回の研究では今までの報告と異なり、夜間退室によって死亡率が上昇するという相関関係は認められなかった。しかし、夜間退室群はICU再入室率が高く、入院期間がわずかに延長することが分かった。夜間退室が死亡率上昇につながらなかったのは、ICUのベッド数が十分確保されており、退室を急がせたり、ICU再入室が遅れたりするような要因がないことが原因として推測される。

以下editorialより

病床占拠率が85%を超えると医療事故発生リスクが上昇する。全米のICUベッド占拠率(1985-2000)は65%であるが、大都市のICUではベッド占拠率が非常に高い。この研究結果を当てはめることができない施設もある。

教訓 夜間ICU退室と死亡率の関係について調査した研究では、そのほとんどが夜間退室率が>10%で、院内死亡のRRは1.35から2.09と報告されています(夜間の定義は終わりは7時頃まで、はじまりは本研究より遅く21時以降のものが多い)。夜間退室は避けた方がよさそうです。

コメント(0) 

頭部外傷にアルブミン製剤はよくない [critical care]

NEJM 2007年8月30日号より

Saline or Albumin for Fluid Resuscitation in Patients with Traumatic Brain Injury

外傷性脳損傷患者にどの輸液製剤を選択すべきか、という問題についてはこれまで十分な統計学的検出力を持った無作為化比較対照試験は行われておらず、明確な解答は得られていなかった。そのため、晶質液主体の管理法と膠質液主体の管理法のどちらともがそれぞれの支持派によって喧伝されてきた。

SAFE study(The Saline versus Albumin Fluid Evaluation study )ではICU入室した多種多様な患者群を対象として輸液管理にアルブミン製剤を使用した群と生理的食塩水を使用した群の死亡率を比較した。この研究では全体的にはアルブミン製剤群と生理的食塩水群との間で死亡率について有意差は認められなかったが、外傷患者と非外傷患者を比較すると外傷患者のアルブミン群の死亡相対危険度は非外傷患者アルブミン群の死亡相対危険度より高いという結果が得られている。これは外傷性脳損傷患者のうちアルブミン投与群の死亡数が多かったことによるものである。

SAFE studyで得られた主要結果の重要性を鑑み、SAFE studyの対象患者のうち外傷性脳損傷患者について事後追跡調査を行う運びとなった(the SAFE-TBI study)。本調査の目的は外傷性脳損傷の転帰に影響を与える基準時点における諸要因についてアルブミン群と生理的食塩水群に分けて分析し、無作為化後24ヶ月間の死亡および神経学的転帰を二群間で比較することである。

本研究は2001年から2003年にかけて、オーストラリアおよびニュージーランドに所在するICU16施設において二重盲検無作為割当比較対照試験の形式で行われた。研究対象候補はすべて成人患者であり4%アルブミン製剤(Albumex, CSL)投与群または生理的食塩水投与群に無作為に割り当てた。SAFE studyのデータベースから全ての外傷性脳損傷患者を抽出してSAFE-TBI studyを行った。
 
ICU入室後48時間の輸液量は、アルブミン群の方が生理的食塩水群より有意に少なかった。それ以降の輸液量については二群間で差は認められなかった。アルブミン群ではICU入室第二日の赤血球製剤投与量が生理的食塩水群よりも多かったが、それを除けばICU入室後4日間に割当輸液製剤以外の輸液製剤の投与量は同等であった。ICU入室後4日間の平均動脈圧および心拍数について有意差は認められなかった。平均中心静脈圧は入室後24時間はアルブミン群の方が有意に高かった。無作為割当後の頭蓋内圧亢進発生数については有意差は認められなかった。

アルブミン群214名(92.6%)、生理的食塩水群206名(90.0%)の主要転帰が判明した。24ヶ月後の時点でアルブミン群214名のうち71名(33.2%)が死亡していた。一方、生理的食塩水群では206名のうち42名(20.4%)が死亡していた(相対危険度1.63 ; 95%信頼区間1.17~2.26 ; P=0.003)。アルブミン群と生理的食塩水群を比較すると、24ヶ月後死亡の調整オッズ比は1.70(95%信頼区間1.03~2.83 ; P=0.04)であった。重症外傷性脳損傷患者に限ると24ヶ月後死亡の調整オッズ比は2.38(95%信頼区間1.33~4.26 ; P=0.003)であった。

24ヶ月後の神経学的転帰が良好な患者数については、アルブミン群(203名中96名[47.3%])の方が生理的食塩水群(198名中120名[60.6%])より有意に少なかった(相対危険度0.78 ; 95%信頼区間0.65~0.94 ; P=0.007)。同様の結果は重症外傷性脳損傷症例に限っても認められ、アルブミン群(139名中51名[36.7%])の方が生理的食塩水群(140名中77名[55.0%])より神経学的転帰が良好な患者が少なかった(相対危険度0.67 ; 95%信頼区間0.51~0.87 ; P=0.002)。生存者の神経学転帰については二群間で同等であった(相対危険度0.95 ; 95%信頼区間0.83~1.08 ; P=0.41)ため、アルブミン群において神経学的転帰が良好な患者数が少ないことが高い死亡率につながった。アルブミン群と生理的食塩水群の生存率には有意差が認められた(P=0.007)。

SAFE studyの対象となった患者のうち外傷性脳損傷症例について事後追跡調査を行った。基準時点における患者背景因子と脳損傷の重症度については、初期輸液管理に使用する輸液製剤としてアルブミン製剤を割り当てられた群と生理的食塩水を割り当てられた群との間に有意差は存在しなかった。24ヶ月後の時点における死亡率と身体機能の神経学的転帰を調査し、アルブミン群の方が生理的食塩水群よりも有意に死亡率が高いことが明らかになった。この死亡率の差は、アルブミン群の方が重症外傷性脳損傷症例(GCS3点から8点)の無作為割当後28日以内の死亡率が高かったことに由来する。

外傷-蘇生プロトコールでは晶質液主体の初期輸液管理がすすめられているが、脳損傷がある場合について晶質液の使用が望ましいことを裏付ける医学的根拠は乏しい。循環血液量を迅速に補正し低血圧を避ければ脳損傷患者の転帰が改善するであろうという推測から導かれた蘇生に関する実践的アプローチに基づいて、大抵のプロトコールが作成されているため、医学的根拠が乏しいのも致し方ない。高張食塩水投与によって血漿浸透圧が上昇し脳浮腫が軽減されるであろうという考えに基づき、本剤の使用も複数のプロトコールで提唱されてきた。アルブミン製剤を含めた膠質液主体の初期輸液管理も、晶質液推奨派が依拠するのと同様の生理学的原理に基づき提唱されてきた。膠質液推奨派は、血漿膠質浸透圧を維持または上昇させて血管内水分が血管外つまり脳実質へ漏出するのを最小限に止めることを目的に膠質液使用をすすめている。しかし、動物実験では外傷性脳損傷モデルにおいても脳卒中モデルにおいても、アルブミン投与により頭蓋内水分の移動が影響を受けるかどうかについて結果はまちまちであり判然としていない。単一施設で行われた縦断的症例集積調査ではアルブミン製剤投与を含む治療法を導入したところ死亡率が低下したことが明らかにされた。その後、この症例集積調査の研究者らが、アルブミン製剤投与を含む治療法導入後、神経学的転帰が不良な患者数が以前より増加したことを報告した。

今回行った研究の結果は、外傷性脳損傷患者の初期輸液管理に用いる輸液製剤の選択に資するものではあるが、観測された死亡率の差がどのような生物学的機序によって生じたものなのかははっきりしない。蘇生における血行動態エンドポイントや、死因および死亡の時期については二群間に差はないため、アルブミン製剤投与によって血管原性または細胞毒性による脳浮腫悪化が死亡率の差を生んだ機序の一つとして考え得る。初回測定の頭蓋内圧はアルブミン群のほうが高い傾向ではあったが生理的食塩水群との間に有意差はなかった。頭蓋内圧の差による影響は並行して行われた治療手技によって打ち消された可能性があるが、しかしその治療手技自体が臨床経過に悪影響を及ぼしたとも考え得る。我々は、無作為割当後における頭蓋内圧亢進を30分間以上の間隔をあけて測定した頭蓋内圧が二回連続して30mmHgを上回った場合と定義したが、このレベルには至らない程度の頭蓋内圧亢進の発生について群間差が生じていたかもしれず、そうであればそのことによって転帰の差が生じた可能性がある。頭蓋内圧亢進による生物学的機序についてはさらに詳細な検討を要する。
 
教訓 重症頭部外傷患者の急性期輸液管理にはアルブミン製剤よりも生理的食塩水を使用するのが望ましいようです。

コメント(0) 
前の10件 | - critical care ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。