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高効率CHDFは転帰を改善しない~考察 [critical care]

Intensity of Continuous Renal-Replacement Therapy in Critically Ill Patients

NEJM 2009年10月22日号より

考察

持続的腎代替療法の強度についての多施設無作為化比較対照試験を行い、強化腎代替療法を行っても低強度の腎代替療法と比較し死亡率は低下しないことが明らかになった。腎機能回復率(つまり、透析の実施が不要となり腎代替療法が中止される割合)、腎臓以外の臓器不全の発生率、人工呼吸期間、ICU滞在期間および入院期間のいずれについても有意差は認められなかった。

持続的腎代替療法の強度についての先行する二編の無作為化比較対照試験では、強度を増すと死亡率が低下するという結果が示されているが、我々は本研究で反対の知見を得た。Roncoらが実施した425名を対象とした研究では、浄化量を20mL/kg/hrから35または45mL/kg/hrに増やすと、死亡率が59%から43%へと低下するという結果が報告されている。同様の研究を行ったSaudanらは、浄化量を25mL/kg/hrから約43mL/kg/hrに増やし、90日後全死因死亡率が20%ポイント低下(61%から41%への低下)するという結果を得ている。しかし、我々が実施した研究の結果は、別の二編の無作為化比較対照試験の結果とは平仄が合っている。Boumanらは106名の患者を対象に浄化量を48mL/kg/hrもしくは20mL/kg/hrの腎代替療法を行ったが、浄化量を増やしても生存率は改善しないという結果を得た。同様にTolwaniらも、200名の患者を浄化量20mL/kg/hrまたは35mL/kg/hrの群に無作為に割り当て、転帰に差がないことを報告している。

本研究における低強度の腎代替療法は、オーストラリアおよびニュージーランドのICUで普段行われているのと同じ方法であり、浄化量を増すと転帰が改善することを示した試験の一つで対照群に行われていたのとも同様である。高強度治療群では、浄化量を40mL/kg/hrに設定した。これはRoncoらが行った研究で設定された高強度群の二つの浄化量(35または45mL/kg/hr)の間を取った量であり、また、Saudanらの研究における高強度群の浄化量と近似している。さらに、本研究における設定浄化量の差(15mL/kg/hr)も、以上に挙げた諸研究と同等であった。持続的腎代替療法実施中は目標浄化量を常に達成することができたが、ヘモフィルタの目詰まり、手術、診断検査もしくはその他の手技の実施に伴い、頻繁に腎代替療法自体を中断せざるを得なかった。Acute Renal Failure Trial Network Studyでは高強度群での実質透析効率は設定量の89%であったと報告されている。一方、Tolwaniらの研究では83%、今回の研究では84%であった。低強度治療群においては、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは95%であったのに対し、Tolwaniらは85%、我々は88%であった。これらの研究より以前に行われた研究では、いずれも実質透析効率は設定量の85%未満であった。

我々が本研究で得た知見は、持続的および間欠的腎代替療法を症例によって使い分けたAcute Renal Failure Trial Network Studyで示された結果と一致する。だが、我々の研究では持続的腎代替療法のみについて比較検討を行ったという相違点がある。オーストラリア、ニュージーランド、UKおよびその他世界中の多くの施設では、間欠的腎代替療法よりも持続的腎代替療法が選好されている。また、Acute Renal Failure Trial Network Studyと異なり、本研究ではステージ4のCKDに該当する患者も対象とした。

我々が今回行った研究とAcute Renal Failure Trial Network Studyでは、主要転帰については同様の結果が示されたものの、患者特性には相違がある。Acute Renal Failure Trial Network Studyと比べ本研究の対象は、年齢が高く、体重が少なく、敗血症症例が少なく、心血管系および呼吸器系SOFAスコアの平均点数が高かった。さらに、治療プロセスにも異なるところがあった。本研究の対象患者は、無作為化割り当て以前には腎代替療法は行われなかったが、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは無作為化割り当て前の24時間に腎代替療法が行われた患者が64%を占めた。我々の研究では、ICU入室から無作為化割り当てまでの平均経過時間は50時間であったのに対し、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは150時間であった。そして、本研究では研究期間中に行われた間欠的血液透析の総回数はわずか314回であったが、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは5077回であった。生存者において無作為化割り当て28日後に透析実施を要した者の割合は、本研究が15.8%であったのに対し、Acute Renal Failure Trial Network Studyでは45.2%であった。90日後では本研究が5.6%、Acute Renal Failure Trial Network Studyは60日後の時点で24.6%であった。

内的妥当性と外的妥当性を十分に担保するため、無作為化に先だっては割り当ての隠蔽化に努め、診断バイアスの影響を受けない項目を主要転帰とした。本研究では、対象候補患者の88.8%を登録し、前もって定めた統計解析計画を遂行し、一人を除く全ての対象患者について追跡調査を行うことができた。腎代替療法の実施手法は、オーストラリアおよびニュージーランドで行われている標準的方法に沿ったかたちに設定した。ほぼ全例において割り当てられた治療法が行われ、実質透析効率には明らかな差が認められた。基礎疾患としてステージ4のCKDを有する患者をも対象とし、(多くの国および施設で選好されている)持続的腎代替療法だけに絞ったので、得られた結果の外的妥当性は高いと考えられる。だが、無作為化割り当て前6ヶ月以内に測定した血清クレアチニン値が得られなかった症例が多かったので(Table 1)、CKDの存在が各転帰項目に与えた影響についての結論を引き出すのには躊躇せざるを得ない。

我々が行ったこの研究には複数の問題点がある:研究参加者およびスタッフは患者に割り当てられた治療群を知っていた、透析開始のタイミングが標準化されていなかった、対象治療法のコストを評価するのに必要なデータは収集されなかった。さらに、ヘモフィルタの目詰まりが頻繁に発生したことに代表される、腎代替療法実行上の特徴が、溶質クリアランスに影響を及ぼした可能性がある。実質効率が設定効率を下回ったことから、腎代替療法の実施効率を過大評価するリスクがあることや、持続的腎代替療法の操作手順に改善の必要性があることが浮き彫りにされた。具体的に言うと、浄化量に基づいて透析効率を判断すると、実際の溶質クリアランスを過大評価する可能性が高い。今後実施する試験では、浄化量に安易に依拠するのではなく、溶質クリアランスを測定すべきである。さらに、症例ごとに個別に治療強度を誂えることによって、患者一人一人が利益を得られる可能性を否定することはできない。前もって決めたクレアチニンクリアランス値による腎代替療法中止基準は設けなかったが、その理由は、本研究の参加施設では普段そういう方法では腎代替療法の中止を決定していないからである。したがって、腎代替療法の中止を、腎機能改善を表す重要な臨床指標と見なした。高強度治療群において、毎朝の検査での低リン血症の発生頻度が高かったのは、透析効率が高ければ当然予測される通りリン喪失量が低強度群よりも多かったことを示すものであり、Acute Renal Failure Trial Network Studyでも同様の所見が得られている。

ICUにおける血液浄化法として持続的腎代替療法が選好される国々では、本研究の結果は臨床診療に重大な意味を持つ。浄化量を25mL/kg/hr以上にしてもそれ以下のときを上回る効果は得られず、低リン血症の危険性に患者が曝されることが明らかになった。高効率持続的腎代替療法が行われる機会や施設が増えてきたが、本研究で得られた知見を踏まえると、この治療法を行うのは妥当ではない。しかし、我々の研究における低強度群における透析効率は、多くの国で普段行われている腎代替療法の効率よりも高いという点には留意しなければならない。さらに、本研究における対照群(低強度群)では、重症患者の急性腎不全の治療に関する大規模国際研究で報告されているよりも死亡率が低かった。したがって、我々の得た知見の意味するところは、腎代替療法の強度が重要でないということなのではなく、むしろ、重症患者においては適切なレベルを上回る治療強度で腎代替療法を行っても、治療効果の上積みは得られないということなのである。そしてまた、本研究の結果を鑑みると、腎代替療法における治療強度以外の特性、つまり、開始時期が死亡率に与える影響や、持続法もしくは間欠法が腎機能回復に及ぼす影響の比較、といった点が今後の試験では優先的に検討されるべきであると考えられる。

まとめ
ここに報告した大規模無作為化比較対照試験では、重症患者を対象とした腎代替療法の浄化量を25mL/kg/hrから40mL/kg/hrへ増やしても死亡率や維持透析に移行する患者の割合は低下しないことが明らかになった。

教訓 重症患者においては適切なレベルを上回る治療強度で腎代替療法を行っても、治療効果の上積みは得られません。

コメント(2) 

コメント 2

ぶりぶり

高効率CHDFどころか普通のCHDFもnon renal indicationはやる人の思いこみを満足させる以上の効果はないことが分かりましたね。これは、あの松田先生も学会で指摘していましたね。(ただし千葉の平沢先生の前でなにやら弁解がましいことを言いながらでしたが、、)なんにせよ、東レなどの膜作りの会社はもう十分儲けたでしょうから、今後は海水を真水化する膜とかの研究をすすめ低価格化し大々的に売り出して、そちらで儲けてください。医療業界は、お金を節約しなくてはいけない状態なのです。そろそろ、商売のフィールドを変更していただくと、おそらく多くの日本国民が幸せになれます。
by ぶりぶり (2009-11-09 10:58) 

vril

こんにちわ。いつもコメントをいただき、ありがとうございます。

私のボスもnon-renal indicationのRRTには消極的なので、ぶりぶり先生とは意気投合できそうですね。ぶりぶり先生は、RRT消極派のようですが、学会ではRRT積極派の動きを鋭くwatchしていらっしゃるご様子ですね。ご自分の考えとは相反するpartyのお話にも耳を傾けることは、知的に誠実でないとできないことです。頭が下がります。

ところで、海水を真水にする膜とは逆浸透膜のことですよね。スペースシャトルにも搭載されている、という話を聞いたことがあります。21世紀は水戦争が勃発する可能性がある、と言われているそうですが、森林が伐採され山の保水力が低下している日本も、うかうかしていると水不足に苦しむかもしれませんよね。

私の施設では、麻酔科居住スペースで使用する飲料水の蛇口にはみんなでお金を出し合って購入した「トレビーノ」という東レの浄水器を設置してあります。交換カートリッジが高いので、低価格化していただけると有り難く存じます。
by vril (2009-11-09 14:44) 

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