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アナフィラキシーと麻酔~治療② [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

カテコラミンの効かないアナフィラキシーショック:代替治療薬は?
循環動態が極度に失調し、エピネフリンが効果を発揮しないことがある。これはカテコラミン不応性アナフィラキシーショックと呼ばれているが、文献的に確立された呼称ではない。β遮断薬を投与されている患者のアナフィラキシーショックでは、ノルエピネフリン、メタラミノールまたはグルカゴンの投与が推奨されている。アナフィラキシー時にカテコラミンの効果が得られない理由の一つは、アドレナリン受容体の脱感作であると考えられているため、アルギニンバソプレシン(AVP)がカテコラミンに代わる治療薬となり得る。AVPはアドレナリン受容体ではなく、血管平滑筋のV1受容体を介して血管収縮作用を発揮する。カテコラミン不応性が形成される別の要因として考えられているのは、一酸化窒素である(一酸化窒素はアナフィラキシー発症時に中心的な役割を果たす)。一酸化窒素がたくさん生成されて血管拡張性ショックが発生すると、低血圧に陥り、血管収縮薬が効かなくなる。一酸化窒素の働きで増える細胞内セカンドメッセンジャーのcGMPの産生を、AVPは直接的に抑制する。実験では、アナフィラキシーにAVPが有効である可能性が明らかにされているが、アナフィラキシー発症後間もなく(5分以内)AVP単剤を投与したり、大量投与したりすると、状態が悪化するかもしれない。複数の症例報告で、AVPがアナフィラキシーに有効である可能性が示唆されている。症例報告では、エピネフリン、ノルエピネフリンand/orフェニレフリンを投与しても改善が見られないアナフィラキシーの患者において、ショックに陥ってから10-20分後にAVPを投与したところ、効果が得られたとされている。したがって、カテコラミン不応性アナフィラキシー症例ではAVPが余剤をもって代え難い役割を果たす可能性がある。AVPがアナフィラキシーの治療に有効であったという報告と無効であったという報告のどちらともが、AVPのアナフィラキシーにおける有効性の正当な評価には重要である。

メチレンブルーには、一酸化炭素の血管平滑筋弛緩作用を抑制する働きがあることが知られている。カテコラミン不応性アナフィラキシーおよびバソプレシン不応性アナフィラキシーにメチレンブルーが有効であったという報告が最近発表された。AVPやメチレンブルーなど、カテコラミンが効かない場合の選択肢となり得る薬剤の作用機序をもっと解明したり、臨床的価値を確立したりするには、さらに基礎的研究を重ねる必要がある。

まとめと展望

周術期にアナフィラキシーが発生すると、急速に重症化し、それまで健康であった患者が死の淵に瀕することもある。アナフィラキシーは稀な疾患であり、急激に発症し、臨床徴候も多彩であるため、適切に診断されないこともあり得る。普通に臨床に携わっていても、アナフィラキシーの発生頻度は低いので、実際の症例を経験することはなかなかできない。それを補い、周術期アナフィラキシーの適切な管理法を覚えるには、麻酔シミュレーターなどの教育手法を用いるとよいだろう。臨床所見、生物学的検査および皮膚反応試験の所見のすべてを総合して原因物質を特定した上で、それを周知し以降はその原因物質の使用を回避する、というのが理想的な対処法である。カテコラミンを投与しても血行動態が改善しないアナフィラキシーがあることについては、もっと注目が集まるべきである。特にカテコラミン不応性アナフィラキシーに対するAVP適応の可否についての、妥当な合意形成を目指すべきである。

教訓 カテコラミン不応性アナフィラキシーでは、AVPが効く可能性があります。しかし、発症後早期の単剤投与や大量投与は悪影響を及ぼすかもしれません。

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