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アナフィラキシーと麻酔~診断:①臨床所見 [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

周術期アナフィラキシーの診断法

麻酔中に発生する即時型反応の原因は、臨床的、生物学的およびアレルギー学的な三つの所見によって判断する(fig. 1)。

所見①:臨床経過が一番大事

アナフィラキシーは初診断が重要である。分の単位で命に関わる状態に陥ることがあるため、最初の診断は推定に基づいて下される。アナフィラキシーの診断に必要な第一の所見は、臨床徴候の内容および重症度と、疑われるアレルゲンの投与から症状発現までの時間である。蘇生に要した薬剤の量は、アナフィラキシー反応の重症度を判断する参考となる。麻酔中に発生するアナフィラキシーの臨床像は、心血管系徴候(頻脈、徐脈、不整脈、低血圧、循環虚脱、心停止)、気管支攣縮および皮膚粘膜徴候(紅斑、蕁麻疹、血管性浮腫)である。以上の徴候は、RingとMessmerの4段階スケールでは以下のように分類されている(table 1)。グレード1は、皮膚粘膜徴候のみが認められるものである。グレード2は、皮膚粘膜徴候に、心血管系、呼吸器系もしくは消化器系の徴候を伴うものである。グレード3は、循環虚脱に、皮膚粘膜、呼吸器系もしくは消化器系の徴候を伴うものである。グレード4は心停止を来したものである。グレード1とグレード2では、通常は生命に危機が及ぶ状態に陥ることはないが、グレード3とグレード4は迅速な蘇生を要する緊急事態である。

周術期のアナフィラキシーは麻酔導入後数分以内、場合によっては1分以内に発生する。大部分は静脈内に投与された薬剤が原因である。重症例(グレード3または4)で頻度の高い初発徴候は、脈拍の消失、酸素飽和度の低下および重度の気管支攣縮による換気困難である。もともと喘息やCOPDのある患者では、重篤な呼吸器症状があらわれる。心血管系徴候のうち多いのは低血圧および頻脈であり、迅速な診断および治療が行われなければ、急速に致死的不整脈や循環虚脱に至ることがある。不安定な血行動態が重症アナフィラキシーの特徴で、循環虚脱が唯一の初発徴候であったり、初発徴候が心停止であったりする症例も存在する。急性過敏反応に急性冠症候群が合併することがあり、Kounis症候群と名付けられている。アレルギー性狭心症またはアレルギー性心筋梗塞と呼ばれることもある。Kounis症候群は、肥満細胞からのメディエイタ放出様式によって二つのタイプに分類されている。冠動脈疾患の既往がない患者に起こるのがⅠ型、Ⅱ型は既往のある患者に発生するものである。Ⅰ型では、アレルギー反応によって冠動脈攣縮が起こるだけで、心筋逸脱酵素は正常であることもある。Ⅰ型もⅡ型も、心筋梗塞が起こりうる。肥満細胞内に貯蔵されている物質の血中濃度がある閾値を超えると、急性冠症候群が発生するのではないかと考えられている。

アナフィラキシーの重症度予測
目の前で起こっているアナフィラキシー反応の重症度を判断するのに役立つ、三つの項目を以下に挙げる:(1) アレルゲン曝露からアナフィラキシー発現までの時間が短いほど、重症である可能性が高く、生死に関わる状況に至る危険性をはらむ。(2) 急速進行例では、皮膚症状が発現しないことがある。血行動態が不安定になるほどのアナフィラキシーでは、皮下の血管は収縮する。したがって、血圧が正常化した後にようやく皮膚症状が出現することがある。したがって、はじめに皮膚症状や末梢血管の拡張が見られないからと言って、アナフィラキシーを除外すべきではない。(3) 紛らわしいもう一つに徴候は、徐脈である。著しい血管内容量不足の場合に、Bezold-Jarisch反射によるものと考えられる徐脈が見られることがある。Bezold-Jarisch反射は、心機能を抑制する反射である。左室の圧受容体が刺激され、迷走神経無髄C繊維を介し、交感神経抑制と副交感神経刺激が起こる。著しい血管内容量不足のときに発生するこの奇異性徐脈は、麻酔中のアナフィラキシー症例のうちおよそ10%で発生するとされている。この場合、徐脈は生命を維持するための適応機序であると考えられる。徐脈になれば、血管内容量が著しく減少していても、心室が収縮する前に充満する時間を十分に確保できるのである。したがって、アナフィラキシー症例で徐脈が認められたら、徐脈だからと言ってアトロピンを投与すると、いきなり心停止が起こるかもしれないので注意が必要である。こういう場合の適切な治療は、まず大量輸液、続いてエピネフリン投与である。

原因薬物または物質は?
周術期アナフィラキシーの原因物質として多いのは、筋弛緩薬、ラテックスおよび抗菌薬である。導入後間もなく、主に筋弛緩薬または抗菌薬を原因として発生することが多いが、アレルゲンとなり得る物質があればいつ何時発生してもおかしくない。色素、鎮静薬、局所麻酔薬、オピオイド、コロイド、アプロチニン、プロタミン、クロルヘキシジン、造影剤が原因物質であることは少ない。ラテックスによるアナフィラキシーは、手術が開始され30-60分後以内に発生することが多いが、即座に起こることもある。この20年間にラテックスによるアナフィラキシーが激増しているため、ラテックスを含まない医療製品を使用する取り組みが望まれる。特に、複数回にわたる手術を要する患者や医療従事者などの高リスク群ではラテックス非使用製品を使用するべきである。麻酔科医自身が、ラテックス感作の有病率が高いが、ラテックス感作には遺伝的要因が関与している可能性がある。小児病院において、手術室および周術期管理を行う病棟ではラテックス非使用製品のみを使用するという方針を実施したところ、25000件の麻酔症例のうちラテックスによるアレルギー反応が発生した患者は皆無であった。

症候発現までの時間と症候の種類は、アレルゲン濃度によって左右される。症状消失までの時間(最長36時間)は、投与経路によって決まる。さらに、症候の程度と発現までの時間に関わる要素として重要なのは、患者の感受性の程度および投与経路である。例えば、静脈内投与や粘膜曝露では、速やかに症状が発現し、程度も重いことが多い。

教訓 麻酔中のアナフィラキシー症例のうちおよそ10%でBezold-Jarisch反射による徐脈が発生します。徐脈になることで、血管内容量が著しく減少していても、心室が収縮する前に充満する時間を十分に確保することができます。したがって、アナフィラキシー症例で徐脈が認められたら、徐脈だからと言ってアトロピンを投与すると、いきなり心停止が起こるかもしれません。こういう場合の適切な治療は、まず大量輸液、続いてエピネフリン投与です。
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