インフルエンザパンデミック:ICU入室トリアージ [critical care]
Development of a triage protocol for critical care during an influenza pandemic
CMAJ 2006年11月21日号より
要旨
背景:先頃、鳥インフルエンザ(H5N1)が流行し、インフルエンザパンデミック対策の重要性が改めて認識されている。対策を立てるに当たり特に問題となるのは、人工呼吸器や抗ウイルス薬といった、パンデミック時に希少となると考えられる医療資源の分配方法である。
方法:良質なエビデンス、専門家集団、利害関係者団体、倫理原則などが示す方針を協同的に検討し、人工呼吸器を含む集中治療に関わる医療資源のパンデミック時における分配優先順位を決めるトリアージプロトコルを策定した。
結果:トリアージプロトコルではSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコアを用いる。プロトコルは以下の4つの要素で構成される:選択基準、除外基準、入室後の再評価(minimum qualifications for survival ; 入室48時間後および120時間後に再評価を行う。改善が認められないか転帰が不良であると判断される患者を早い時点で判別し退室させる)および優先順位決定法。
解釈:インフルエンザパンデミック発生後数日から数週後までに、集中治療の需要過剰で余裕がなくなった場合の入室優先順位を決めるための手引きとして、このプロトコルは作成された。インフルエンザパンデミック時に使用する目的で本プロトコルは策定されたが、集中治療という単一の医療資源はすべての患者が分け合って使用しなければならないわけだから、このトリアージプロトコルはインフルエンザであろうとなかろうと適用できると考えられる。
Box 1 : インフルエンザパンデミック時における集中治療の必要性の有無を決定するトリアージプロトコルの適応手順(インフルエンザ様症状のある患者だけでなく、集中治療の必要性が検討されるすべての患者にこのトリアージプロトコルを適用する。選択基準および除外基準についてはBox 2参照。)
1. 患者が選択基準に合致するかどうかを評価する。
・合致するなら、2へ。
・合致しないなら、しばらくしてから再評価。
臨床状態が悪化しているかどうかを判断する。
2. 患者が除外基準に合致するかどうかを評価する。
・合致しないなら、3へ。
・合致するなら、トリアージコード「青」に指定。
集中治療部には収容しない。
現行の治療を続けるか、必要であれば緩和ケアを行う。
3. トリアージ優先順位決定法(Fig. 1)へ進み、初回評価を行う。
Box 2 : インフルエンザパンデミック時の集中治療トリアージプロトコルにおける選択基準および除外基準
選択基準
以下のいずれか一つに当てはまらなければならない:
A. 気管挿管下人工呼吸を要する
・高度の低酸素血症(非再呼吸式マスクまたはFIO2>0.85でSpO2<90%)
・呼吸性アシドーシス(pH<7.2)
・臨床徴候から、間もなく呼吸不全に陥ると判断される
・気道保持不能
B. 低血圧(収縮期血圧<90mmHgまたは相対的低血圧)があり、臨床的にショックと判断され(意識レベル低下、尿量低下またはその他の臓器不全の徴候がある)、輸液を行っても改善せず、昇圧薬または強心薬の投与を要するため病棟では管理できない。
除外基準
以下のいずれか一つにでも当てはまる場合は、集中治療適応から除外される。
A. 重症外傷
B. 以下のいずれか二つに当てはまる患者の重症熱傷
・年齢>60歳
・体表面積の40%以上の熱傷
・気道熱傷
C. 心停止
・目撃者のいない心停止
・目撃者のいる心停止だが、電気的治療(除細動やペーシング)が奏功しない
・心停止の再発
D. もともと認知機能に高度の障害がある
E. 進行した治療不能の神経筋疾患
F. 転移性悪性腫瘍
G. 進行した不可逆性の免疫抑制
H. 重度または不可逆性の神経系の異常
I. 以下の基準に合致する末期臓器不全
心臓
・NYHAⅢまたはⅣの心不全
肺
・COPD %1秒量<25%、普段のPaO2が55mmHg未満または二次性肺高血圧症
・Cystic fibrosis 気管拡張薬使用後の%1秒量<30%または普段のPaO2が55mmHg未満
・肺線維症 VCまたはTLCが予測値の60%未満、普段のPaO2が55mmHg未満または二次性肺高血圧症
・原発性肺高血圧症で、NYHAⅢまたはⅣの心不全、右房圧>10mmHgまたは平均肺動脈圧>50mmHg
肝
・Child-Pughスコア7点以上
J. 年齢>85際
K. 予定の姑息手術
Fig. 1 インフルエンザパンデミック集中治療トリアージプロトコルにおける優先順位決定法
初回評価
トリアージコード青
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点
対処法:内科的管理、必要に応じ緩和ケア、ICU退室
トリアージコード赤
条件:SOFAスコア7点以下または一臓器不全
優先順位:ICUでの治療の最優先対象
トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点~11点
優先順位:赤の次
トリアージコード緑
条件:有意な臓器不全なし
対処法:そのまままたは退室
48時間後再評価
トリアージコード青
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点または8~11点で変化なし
対処法:緩和ケア、ICU退室
トリアージコード赤
条件:SOFAスコア11点未満で低下しつつある
優先順位:ICUでの治療の最優先対象
トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点未満で変化なし
優先順位:赤の次
トリアージコード緑
条件:人工呼吸器不要
対処法:ICU退室
120時間後再評価
トリアージコード青
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点または8点未満で変化なし
対処法:緩和ケア、ICU退室
トリアージコード赤
条件:SOFAスコア11点未満でどんどん低下している
優先順位:ICUでの治療の最優先対象
トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点未満でわずかに低下(72時間に3点未満の低下)
優先順位:赤の次
トリアージコード緑
条件:人工呼吸器不要
対処法:ICU退室
教訓 このICU入室優先順位決定プロトコルは、助かる見込みの高い患者に限りある医療資源(集中治療)を優先的に投入する目的で作成されています。使用する際は、公正と透明性の確保に留意してください。
CMAJ 2006年11月21日号より
要旨
背景:先頃、鳥インフルエンザ(H5N1)が流行し、インフルエンザパンデミック対策の重要性が改めて認識されている。対策を立てるに当たり特に問題となるのは、人工呼吸器や抗ウイルス薬といった、パンデミック時に希少となると考えられる医療資源の分配方法である。
方法:良質なエビデンス、専門家集団、利害関係者団体、倫理原則などが示す方針を協同的に検討し、人工呼吸器を含む集中治療に関わる医療資源のパンデミック時における分配優先順位を決めるトリアージプロトコルを策定した。
結果:トリアージプロトコルではSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコアを用いる。プロトコルは以下の4つの要素で構成される:選択基準、除外基準、入室後の再評価(minimum qualifications for survival ; 入室48時間後および120時間後に再評価を行う。改善が認められないか転帰が不良であると判断される患者を早い時点で判別し退室させる)および優先順位決定法。
解釈:インフルエンザパンデミック発生後数日から数週後までに、集中治療の需要過剰で余裕がなくなった場合の入室優先順位を決めるための手引きとして、このプロトコルは作成された。インフルエンザパンデミック時に使用する目的で本プロトコルは策定されたが、集中治療という単一の医療資源はすべての患者が分け合って使用しなければならないわけだから、このトリアージプロトコルはインフルエンザであろうとなかろうと適用できると考えられる。
Box 1 : インフルエンザパンデミック時における集中治療の必要性の有無を決定するトリアージプロトコルの適応手順(インフルエンザ様症状のある患者だけでなく、集中治療の必要性が検討されるすべての患者にこのトリアージプロトコルを適用する。選択基準および除外基準についてはBox 2参照。)
1. 患者が選択基準に合致するかどうかを評価する。
・合致するなら、2へ。
・合致しないなら、しばらくしてから再評価。
臨床状態が悪化しているかどうかを判断する。
2. 患者が除外基準に合致するかどうかを評価する。
・合致しないなら、3へ。
・合致するなら、トリアージコード「青」に指定。
集中治療部には収容しない。
現行の治療を続けるか、必要であれば緩和ケアを行う。
3. トリアージ優先順位決定法(Fig. 1)へ進み、初回評価を行う。
Box 2 : インフルエンザパンデミック時の集中治療トリアージプロトコルにおける選択基準および除外基準
選択基準
以下のいずれか一つに当てはまらなければならない:
A. 気管挿管下人工呼吸を要する
・高度の低酸素血症(非再呼吸式マスクまたはFIO2>0.85でSpO2<90%)
・呼吸性アシドーシス(pH<7.2)
・臨床徴候から、間もなく呼吸不全に陥ると判断される
・気道保持不能
B. 低血圧(収縮期血圧<90mmHgまたは相対的低血圧)があり、臨床的にショックと判断され(意識レベル低下、尿量低下またはその他の臓器不全の徴候がある)、輸液を行っても改善せず、昇圧薬または強心薬の投与を要するため病棟では管理できない。
除外基準
以下のいずれか一つにでも当てはまる場合は、集中治療適応から除外される。
A. 重症外傷
B. 以下のいずれか二つに当てはまる患者の重症熱傷
・年齢>60歳
・体表面積の40%以上の熱傷
・気道熱傷
C. 心停止
・目撃者のいない心停止
・目撃者のいる心停止だが、電気的治療(除細動やペーシング)が奏功しない
・心停止の再発
D. もともと認知機能に高度の障害がある
E. 進行した治療不能の神経筋疾患
F. 転移性悪性腫瘍
G. 進行した不可逆性の免疫抑制
H. 重度または不可逆性の神経系の異常
I. 以下の基準に合致する末期臓器不全
心臓
・NYHAⅢまたはⅣの心不全
肺
・COPD %1秒量<25%、普段のPaO2が55mmHg未満または二次性肺高血圧症
・Cystic fibrosis 気管拡張薬使用後の%1秒量<30%または普段のPaO2が55mmHg未満
・肺線維症 VCまたはTLCが予測値の60%未満、普段のPaO2が55mmHg未満または二次性肺高血圧症
・原発性肺高血圧症で、NYHAⅢまたはⅣの心不全、右房圧>10mmHgまたは平均肺動脈圧>50mmHg
肝
・Child-Pughスコア7点以上
J. 年齢>85際
K. 予定の姑息手術
Fig. 1 インフルエンザパンデミック集中治療トリアージプロトコルにおける優先順位決定法
初回評価
トリアージコード青
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点
対処法:内科的管理、必要に応じ緩和ケア、ICU退室
トリアージコード赤
条件:SOFAスコア7点以下または一臓器不全
優先順位:ICUでの治療の最優先対象
トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点~11点
優先順位:赤の次
トリアージコード緑
条件:有意な臓器不全なし
対処法:そのまままたは退室
48時間後再評価
トリアージコード青
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点または8~11点で変化なし
対処法:緩和ケア、ICU退室
トリアージコード赤
条件:SOFAスコア11点未満で低下しつつある
優先順位:ICUでの治療の最優先対象
トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点未満で変化なし
優先順位:赤の次
トリアージコード緑
条件:人工呼吸器不要
対処法:ICU退室
120時間後再評価
トリアージコード青
条件:除外基準に合致またはSOFAスコア>11点または8点未満で変化なし
対処法:緩和ケア、ICU退室
トリアージコード赤
条件:SOFAスコア11点未満でどんどん低下している
優先順位:ICUでの治療の最優先対象
トリアージコード黄
条件:SOFAスコア8点未満でわずかに低下(72時間に3点未満の低下)
優先順位:赤の次
トリアージコード緑
条件:人工呼吸器不要
対処法:ICU退室
教訓 このICU入室優先順位決定プロトコルは、助かる見込みの高い患者に限りある医療資源(集中治療)を優先的に投入する目的で作成されています。使用する際は、公正と透明性の確保に留意してください。
2009-11-02 07:21
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