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アナフィラキシーと麻酔~診断②:生物学的検査 [anesthesiology]

Anaphylaxis and Anesthesia: Controversies and New Insights

Anesthesiology 2009年11月号より

所見②:生物学的評価の診断的有用性

生物学的検査には、in vivoのものとin vitroのものがある。
第一段階
ヒスタミンは、普段から肥満細胞および好塩基球の中にある顆粒中に貯蔵されている、炎症性メディエイタである。血漿ヒスタミン濃度の上昇は、肥満細胞and/or好塩基球が活性化されていることを示し、アレルギー性または非アレルギー性機序のどちらによっても、この活性化は見られる。だが、血中ヒスタミン濃度が上昇していないからと言って、免疫性または非免疫性機序を否定することはできない。ヒスタミンの血中半減期は非常に短い(15-20分)。したがって、ヒスタミン測定のための血液検体は、グレード1または2の場合は30分以内に採取しなければならない。重症例(グレード3または4)では、発症から2時間ほど経ってもヒスタミンが血中に残っていることがある。ヒスタミン代謝酵素が飽和してしまって、アナフィラキシー発生から長時間経過しても血中ヒスタミン濃度が高いままなので、測定が可能なのである。

トリプターゼは肥満細胞に貯蔵されている中性セリンプロテアーゼである。大きく分けて二種類ある:α-トリプターゼは常時分泌されており、肥満細胞が増加すると血中濃度が上昇する。β-トリプターゼ前駆体も常時分泌され、肥満細胞の大きさを反映する。成熟β-トリプターゼは肥満細胞内の顆粒に貯蔵され、肥満細胞が活性化されると全身に放出されるので、その濃度から活性化の程度を推し量ることができる。

血清トリプターゼ濃度は15分~1時間後に最高値を示し、その後は直線的に低下する。半減期はおよそ2時間である。したがって、トリプターゼ濃度を測定するのであれば、グレード1または2のアナフィラキシーでは、15~60分以内、グレード3または4では30分から2時間以内に血液検体を採取すればよい。総トリプターゼ濃度(αおよびβトリプターゼ濃度の算)が上昇していれば、肥満細胞が活性化していることの証明となるが、この所見がないからといってアナフィラキシーを除外することはできない(グレード1および2の場合)。非アレルギー性機序によってもトリプターゼ濃度は上昇するが、免疫が関与する場合と比べると、その程度は小さい。基準時点における濃度と比較するため、発症から少なくとも24時間以上経過した後または精査を行う際に、新たに検体を採取するとよい。遅発性または二相性アナフィラキシー、もしくはもともと肥満細胞増加症がある症例では、トリプターゼ濃度が高値のまま推移することがある(fig. 2)。

即時型非アレルギー性反応(例;ヒスタミン遊離)では、ヒスタミンは増加することがあるが、トリプターゼ濃度は通常は正常範囲内である。ヒスタミンおよびトリプターゼ濃度はアレルギー反応の重症度を反映するので、即時型反応の診断には両者を測定することが推奨されてきたが、一方で、トリプターゼ濃度だけ測定すればよい、という意見もある。ヒスタミンやトリプターゼの血中濃度上昇は、先に述べたアナフィラキシー診断を構成する三項目の二つ目に挙げた、生物学的所見に当たる。

第二段階
臨床診断に有用であるされるin vitro検査は他にもあるが、どこの施設でも実施が可能であるわけではない。筋弛緩薬の特異的IgE抗体の検査は、スキサメトニウムを除き実用化されているが、感度は低い(30-60%)。第4級アンモニウム(コリンアナログ)またはmorphine-based solid-phase IgEを用いれば、筋弛緩薬の持つ第4級アンモニウムに監査されているか否かを評価することができるという意見も示されている。In vitroでの特異的IgE抗体検査は、麻酔薬のごく一部(チオペンタール、プロポフォール)、抗菌薬(アモキシシリン、セファクロール、ペニシリンGおよびV)、ラテックスについても可能である。だが、特異的IgE抗体の検出は、皮膚試験と比べると感度が低い。したがって、血清IgEの検査は、即時型反応が発生した機序を絞り込むのには役立つかもしれないが、原因薬物(物質)の特定には向かない。

麻酔薬の特異的IgE抗体を間接的に検出する検査もある。白血球ヒスタミン遊離試験は、筋弛緩薬間の交叉反応性の有無を判断する際に行われる精度の高い検査である。原因薬剤(物質)を試験管内で添加し、好塩基球活性化(CD63およびCD203cを活性化マーカとする)の程度を、フローサイトメトリを用いて定量評価する方法(好塩基球活性化試験)が、筋弛緩薬を原因物質とするアナフィラキシーの診断に有用である可能性があるが、さらに研究を重ね効能を明らかにする必要がある。

教訓 トリプターゼ濃度が上昇していれば、肥満細胞が活性化していることの証明となりますが、この所見がないからといってアナフィラキシーを除外することはできません(グレード1および2の場合)。
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