SSブログ

MRSAの定着と院内感染~スクリーニング [critical care]

Methicillin-resistant Staphylococcus Aureus Colonization, Its Relationship to Nosocomial Infection, and Efficacy of Control Methods

Anesthesiology 2010年12月号より

スクリーニングが転帰を改善するか?

MRSAの拡散を制御する従来の方法では、交差感染の予防に重点が置かれてきた。具体的には、手洗いの励行、病院内環境の清潔保持と消毒、MRSA感染またはMRSA定着患者の同定を遅滞なく行うこと、およびMRSA感染または定着患者の管理(隔離やバリアプリコーション)である。入院時にすべての患者の鼻腔ぬぐい液培養を行い、無症状のMRSA定着患者を見つけ出す方法がある。これは積極的監視培養(active surveillance culturing; ASC)と呼ばれている。この方法の効果を検証する研究が複数行われているが、結果は一定しない。ASCの意図は、MRSA保有患者を入院後早々に同定し、時機を逸することなく適切な接触感染予防を実施することによって、他の患者への交差感染の機会を減らすことにある。現在、複数の大規模医療施設で、全入院患者に対してMRSAのスクリーニングが行われている。また、MRSA保有リスクがある患者は、入院時に培養を行うことを義務づける法律が制定されている州もある。現行のCDCガイドラインおよび感染予防に関する最新の公式声明では、MRSA感染予防を目的としたASCのルーチーン実施または強制実施は推奨されていない。

先頃、ASCの有効性を評価した大規模研究が二編発表された。一つはHarbarthらの研究で、ASCがMRSAの院内蔓延を防ぐ効果を検証したものである。手術患者22000名が対象となり、介入群または対照群のいずれかに割り当てられた。介入群では、全例で迅速スクリーニングを入院時に行い、MRSAが検出された場合には標準的な感染予防策を実施し(隔離、接触予防策、MRSA除菌剤の局所塗布×5日間)、周術期に使用する抗菌薬を変更した。無症状のMRSA保有患者は300名以上見つかったが、ASCを含む介入を行ってもMRSA感染症の発生頻度は低下しないという結果が得られた。MRSA感染が発生した患者の57%は、入院時のスクリーニングではMRSAの定着は見つかっておらず、つまり、入院中にMRSAに感染した症例であった。したがって、入院時だけにスクリーニング培養を行う方法には限界があり、週に一回の監視培養を行う必要があると考えられた。

もう一つはRobicsekらが2008年に発表した大規模研究であり、入院患者全員を対象とした監視培養を行うことによってMRSA感染が有意に減ることが報告されている。この観測研究では、三つの異なる監視培養を行い、実施前と実施中のMRSA感染発生率を比較検討した。監視培養の方法は、従来法(標準的な監視培養法。対照群として設定。)、ICU入室患者全員に監視培養を行う方法、入院患者全員に監視培養を行う方法の三つであった。MRSAが検出された患者は隔離し、抗菌薬の局所塗布による除菌を行うこととした。しかし、この除菌法は標準的な方法ではなく、実施状況の調査は行われなかった。入院患者全員に監視培養を行うことによって、医療関連MRSA血流、呼吸器、尿路および手術部位感染が半分以下に減少することが分かった。一方、ICU入室患者のみを対象として監視培養を行う方法では、有意な変化は見られなかった。

その他にも、ICU入室時にASCを行うとMRSA感染が減ることを示す研究は複数発表されている。前述の研究とは別のHarbarthらの新しい研究では、監視培養の有効性は内科系ICUのみで認められ、外科系ICUでは確認されなかったと報告されている。これが、すでに紹介した二つの大規模研究においてASCの有効性について相反する結果が得られた理由である。ASCを行うと、予期せぬ有害事象も起こりうることにも留意すべきである。最近の研究であってもASCの費用対効果分析は行われていないのだが、ASCを行えば感染予防に携わるスタッフの時間、検査機器および隔離のための病床などが余分に必要になる。ASCを行うと、行わない場合と比べ、接触感染予防のため隔離される患者の数が2~5倍に増えると試算されている。隔離すると医療従事者の注意が行き届かないようになるため、隔離患者が増えれば抑鬱状態や不安などを訴える患者が増加する可能性がある。

効率的なスクリーニングを実施するにあたっての障壁要因の一つに、MRSA定着リスクが最も高い患者を必ずしも正確に同定できないという問題がある。スクリーニングの第一歩は、定着の危険因子を正しく明らかにすることである。専門チームの導入によってMRSA定着リスクの高い患者の同定精度が向上するかどうかを評価した研究では、専門チームの活動によって、定着リスクが高い患者を迅速に同定できるという結果が示された。つまり、専門チームを導入すれば、リスクの高い患者に的を絞ってスクリーニング培養を行うことができるようになり、本当に必要な患者にのみ隔離と除菌を行うことができるようになると考えられる。

最近の研究では、直近の入院や保健施設居住に加え、過去のMRSA定着歴もMRSA定着の重要な独立予測因子であることが明らかにされている。定着が発見されてから一年後までは定着率は急速に低下するが(50%)、その後はなかなか減少せず、巷間指摘されている危険因子が特にない患者であっても定着率が20%以下となることはない。さらに、定着の可能性が高いことが判明してから、培養によって確定診断が下されるまでには時間がかかるため、その間に感染が発生してしまうかもしれないし、定着しているMRSAが他の患者へ伝播するかもしれない。昔ながらの培養ではMRSAの検出までに数日を要するが、迅速PCR法を行えば数時間以内にMRSA定着の有無を判断することができるため、定着患者の同定に役立つと考えられる。迅速PCR法を導入すると、MRSA定着患者を早い段階で同定することができるため、感染率が低下し、医療費圧縮にも寄与することが明らかにされている。

従来の感染予防法は、有効性が依然として証明されていない。監視培養の実施に関しては未だに賛否両論がある。MRSA感染予防におけるこのような状況は、院内感染の大半は患者が元々持っている細菌によるものであることを示すデータを裏付けているのかもしれない。従来の感染予防法およびASCでは、交差感染の予防に力点が置かれているので、外因性感染だけにしか対応していない。鼻腔内定着細菌のうち感染を起こす可能性のある細菌の除菌は、内因性感染の制御を目的とした感染予防策の一翼を担うと考えられる。

教訓 積極的監視培養(active surveillance culturing; ASC)は無症状のMRSA定着患者を見つけ出す方法です。ASCの有効性を検証した研究では、一定した結果は示されていません。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。