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外傷とトラネキサム酸~はじめに [critical care]

Effects of tranexamic acid on death, vascular occlusive events, and blood transfusion in trauma patients with significant haemorrhage (CRASH-2): a randomised, placebo-controlled trial

The Lancet 2010年7月3日号より

各国で外傷は主要な死因である。毎年、世界中で100万人以上が交通事故で死亡している。交通事故による外傷は、世界全体の死因の第9位である。2020年までには交通外傷が死亡および身体障害の原因の第3位に上昇すると予測されている。個人間または集団の暴力や自傷行為による死亡者数は年間160万人にものぼる。外傷死の90%以上は国民所得が中~低レベルの国で発生している。外傷による院内死亡のおよそ三分の一では直接死因は出血である。それとともに出血は、外傷後の多臓器不全による死亡の一因でもある。

血管に高度の損傷が発生した場合、その原因が外傷であれ手術であれ、循環動態を維持するのに止血機構が役立っている。大手術および外傷も、同様に止血機構が活発に作用するが、大量出血が発生すれば凝固系は危機に瀕する。手術及び外傷はいろいろな生体反応を引き起こすがその一部に、凝血塊溶解(線溶)の亢進があり、時として病的に亢進することもある(線溶亢進)。線溶が正常な患者であっても亢進している患者であっても、手術時に抗線溶薬を投与すると出血症が減り、しかも術後合併症のリスクは増大しないことが明らかにされている。

トラネキサム酸はアミノ酸(リジン)の合成誘導体であり、プラスミノゲンのリジン結合部位を阻害することによって線溶を抑制する。予定手術症例におけるトラネキサム酸の無作為化試験についての体系的レビューでは、総計3836名を対象とした53編の研究が見つかった。トラネキサム酸投与によって輸血量は三割以上減少するが(相対危険度0.61, 95%CI 0.54-0.70)、死亡率については有意な低下は認められていない(相対危険度0.61,95%CI 0.32-1.12)。手術及び外傷に対する止血機構の反応は類似しているため、外傷患者にトラネキサム酸を投与すると死亡率が低下する可能性がある。しかし、今までのところ外傷患者を対象としたトラネキサム酸の無作為化試験は行われていない。受傷後早期にトラネキサム酸を短期間投与し、現に大量に出血していたり大量出血の危険性が高かったりする外傷患者の死亡率、血管閉塞発生率および輸血量に及ぶ影響を評価した。

教訓 線溶亢進の有無を問わず、手術時に抗線溶薬を投与すると出血症が減り、しかも術後合併症のリスクは増大しないことが明らかにされています。
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