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MRSAの定着と院内感染~定着の影響 [critical care]

Methicillin-resistant Staphylococcus Aureus Colonization, Its Relationship to Nosocomial Infection, and Efficacy of Control Methods

Anesthesiology 2010年12月号より

スクリーニング:どんな患者をMRSA定着スクリーニングの対象とするか?

MRSA定着の重要性

従来、院内感染が発生するのは病院の環境に曝露されて、それまで宿主には無縁であった微生物がとりつくせいだと考えられてきた。院内感染の発生原因が、患者の免疫力低下なのか、元々持っていたMRSAによるものなのかを判別するのは困難である。DNAフィンガープリント法を利用した分子レベルでの解析を行うと、院内感染の起因菌の出所を突き止めることができる。院内での伝播による院内感染が患者の病状悪化や死亡率上昇につながるのは言うまでもないが、院内感染のうち交差感染を原因とするものはむしろ少数である(40%未満)。院内感染症例の大部分は、同じICUに収容されている他の患者から検出される病原菌が元で感染が広がった結果発生するわけではない。つまり、元々患者が持っている細菌が、院内感染の発生に関与する鍵なのである。

MRSA定着例は増えている。2001年から2004年にかけて、全国健康栄養調査の一環として、鼻腔内黄色ブドウ球菌定着の全国抽出調査が行われた。2001年-2002年の黄色ブドウ球菌定着率は32.4%であったが、2003年-2004年は28.6%に低下した。同じ両期間中に、MRSA定着率は、0.8%から1.5%へと上昇した。この結果は、MRSAの定着が増えていることを示した他の研究と軌を一にしている。考え得る理由として、MRSAよりもMSSAに対する殺菌力が強いフルオロキノロンのような抗菌薬の使用量の増加により、MRSAの定着が助長されたことが挙げられる。鼻腔内MRSA定着のリスクには性差があることが多変量解析で明らかにされているが、性差に関わらず病院での曝露がMRSAの定着に関与している。しかし、MRSA定着に関連する決定的なリスク因子は、今のところ未解明である。その他のリスク因子として指摘されているのは以下の通りである:鼻腔の解剖の個人差、抗菌薬使用の既往、異物、透析、肝疾患および基礎疾患の重症度。

MRSA定着はMSSA定着よりも院内感染を10倍起こしやすい。この傾向は術後患者において典型的に認められる。黄色ブドウ球菌定着患者では手術部位感染のリスクが非定着患者の2~10倍にも跳ね上がる。その多くが、患者が元々持っている黄色ブドウ球菌によるものである。胸部外科手術患者では、黄色ブドウ球菌の鼻腔内定着は胸骨中切開創感染および術後腹部創感染の独立危険因子である。外科系ICUに入室した患者500名を対象とした前向き研究では、MRSA定着は術後MRSA感染症の危険因子であり、臨床検査で分離されたMRSA株はすべてその患者の鼻腔から分離された株と一致し、MRSA定着患者では非定着患者と比べ感染発生までの期間が半分であるということが明らかにされた。MRSA菌血症についても同様の知見が得られている。任意の時点において、米国民の約1.5%にMRSA定着が認められる。とは言え、対処を要するMRSA感染が実際に発生するのはそのうちごくわずかにしか過ぎない。MRSA定着患者のうち感染を発症するのがごく少数にとどまる理由はまだよく分かっていないが、宿主の免疫能や、鼻腔内の細菌叢において細胞同士が相互に及ぼし合う影響などが一役買っていると考えられている。

教訓 MRSA定着はMSSA定着よりも院内感染を10倍起こしやすいことが知られています。MRSA定着は術後MRSA感染症の危険因子です。
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