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MRSAの定着と院内感染~予防的抗菌薬 [critical care]

Methicillin-resistant Staphylococcus Aureus Colonization, Its Relationship to Nosocomial Infection, and Efficacy of Control Methods

Anesthesiology 2010年12月号より

周術期に使用する抗菌薬の選択

MRSA定着があるとMRSAによる院内感染が発生しやすいことを裏付ける有力なデータが示されている。しかし、注意しなければならないことがある。というのも、我々の管見の及ぶ限りでは、手術患者を対象とした術前監視培養によるMRSA定着のスクリーニングと周術期の抗MRSA薬予防投与の有効性を十分評価できるだけの検出力をもった大規模試験は行われていないのである。この課題については、二編の小規模無作為化試験が行われているに過ぎない。MRSA感染の発生頻度が高い施設において心臓手術患者を対象として行われた研究では、バンコマイシンを予防投与しても、セファゾリンを予防投与した場合と比べて創感染の発生率は低下しないという結果が得られている。これとは反対に、MRSA感染が多発する施設においてVPシャント患者を対象として行われた研究では、バンコマイシンを予防投与すると、セファゾリンを投与した場合と比べてシャント感染の頻度が有意に低下することが分かった。どちらの研究も、対象患者の術前スクリーニングを実施しておらず、術前におけるMRSA定着患者の割合が不明であるという問題点がある。現時点では、術前にMRSA定着のスクリーニングを行い、定着があれば抗MRSA薬を使用するというやり方は通常は採らない。しかし、HICPAC(医療感染管理諮問委員会)が制定したガイドラインでは、MRSA感染が頻発する施設ではバンコマイシンの予防投与を考慮すべきであるとされている。MRSA定着患者においてバンコマイシンの投与が有用であるのかどうかは、現在までのデータでは明らかになっていない。

まとめ

院内感染の起因菌は過去十年間、大方のところ同じような顔ぶれであるが、特定の地域では、耐性菌、中でもMRSAの発生頻度増加という劇的な変化が見られている。MRSA定着とMRSA感染のあいだには因果関係があることを強く裏付けるデータが得られている。そのため、伝播を防ぐため可及的速やかに無症状のMRSA定着患者を同定すべく、全入院患者を対象にスクリーニングを行うべきであるという専門家の意見が聞かれるようになった。積極的監視培養(active surveillance culturing; ASC)の有効性については一定した結果は得られていない。病院全体で入院患者全てにASCを行うと感染発生率が低下するという報告がある一方で、手術患者のみを対象に行っても感染発生率は変化しないという結果も示されている。監視の効果について一定した結果が得られていないのは、MRSAが検出された場合の除菌法がまちまちであるからである。従来、医療従事者が行ってきた衛生および隔離予防法は、外からやってくる細菌の伝播の防止という意味しかない。大半の院内感染は、内因性感染である。したがって、監視/予防策を成功させるには外因性感染と内因性感染の両者の防止策を講ずることが重要である。

決まった抗菌薬を用いた鼻腔咽頭除菌が有効であることが示されているが、MRSAの発生頻度が高い施設(地域)においてはこういった抗菌薬を使用するとかえって耐性菌感染が増えることが分かっているため、慎重を期すべきである。特定の患者群、特に心臓手術患者では、消毒薬の局所使用が有効であることが示されていて、術前管理の一部として消毒薬の局所使用を実施している施設もある。消毒薬の局所使用には副作用がないわけではないので、広く一般に推奨するには有効性を検証するための研究を重ねる必要がある(fig. 3)。

MRSA定着は、院内および院外のMRSA感染の原因である。定着と感染のあいだに強固な関係があるにも関わらず、術前に全例でMRSAのスクリーニングを行い、その結果に応じて周術期に使用する予防的抗菌薬の種類を選択するという方法が有効であるかどうかは、データが不足していてまだよく分かっていない。しかし、脳神経外科手術を受ける患者を対象とした小規模試験では、バンコマイシンの予防投与が有効であるという結果が得られている。MRSA定着患者の周術期予防的抗菌薬として抗MRSA薬を用いる方法の有効性については、さらに研究を重ねて検証する必要がある。

教訓 MRSA定着患者においてバンコマイシンの投与が有用であるのかどうかは、まだ分かっていません。
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