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全身麻酔と睡眠と昏睡~麻酔による徴候と脳波変化 [anesthesiology]

General Anesthesia, Sleep, and Coma

NEJM 2010年12月30日号より

全身麻酔による意識消失時の臨床徴候および脳波パターン

全身麻酔による意識消失時に見られる臨床徴候と脳波パターンは、全身麻酔を三つの時期(導入、維持および覚醒)に分けて考えると理解しやすい。

導入期

導入前、患者は正常なα波優勢の脳波(10Hz)を呈する(Fig. 1)。GABAA受容体に作用するプロポフォール、バルビツレート、エトミデートなどの鎮静薬を少量投与すると、患者は鎮静される。つまり、眠ったように静かになるが容易に覚醒し、通常閉眼した状態になる。徐々に投与量を増やすと、逆説的興奮に陥ることがある。つまり、無目的な動きまたは防御するかのような動作、支離滅裂な発語、多幸感または不快感をあらわし、脳波にはβ波(13~25Hz)が見られるようになる。この状態を逆説的興奮と称するのは、意識を消失させるために投与した薬剤によって、鎮静ではなく興奮が起こるからである。

鎮静薬をさらに投与すると(通常10~15秒かけてボーラス投与される)、呼吸パターンがどんどん不規則になり、最終的には呼吸停止に至る。この時点でバッグマスク換気を開始する。また、口頭命令に対する反応と骨格筋の緊張が消失する。麻酔科医の指の動きを目で追うように指示しながら鎮静薬を投与すると、意識消失の瞬間を簡単に知ることができる。意識が消失すれば、追視が見られなくなり、眼振が出現しまばたきを何度もするようになる。眼球頭位反射、睫毛反射および角膜反射は消失するが、対光反射は残る。血圧は上昇することもあれば低下することもあるが、心拍数は普通は増加する。導入前または導入中にオピオイドまたはベンゾジアゼピンを投与すると、心拍数は増加せず、血圧を維持するのに昇圧薬が必要なことがある。気管挿管は導入終盤に、筋弛緩薬の投与後に行われる。

維持期

全身麻酔は、鎮静薬、吸入麻酔薬、オピオイド、筋弛緩薬などの組み合わせによって維持される。心血管作動薬を要することもある。そして、人工呼吸が行われ、体温維持のための策が講じられる。維持期において麻酔深度の評価に用いられる臨床的指標の中に、心拍数と血圧の変化がある。手術による侵害刺激の大きさに比して全身麻酔深度が足りなくて、心拍数と血圧が大幅に上昇すると、麻酔科医は侵襲が増大し術中覚醒の危険があるのではないかと考える。麻酔深度が足りないことをあらわすその他の指標は、発汗、流涙、瞳孔径の変化、筋緊張、体動、および脳波の変化などである。手術侵襲に応じた麻酔深度であれば、全身麻酔は機能的には脳幹死と同じような状態を作り出す。つまり、意識がなく、脳幹反射が抑制され、侵害刺激には反応せず、呼吸ドライブが作動せず、呼吸循環および体温の維持に補助を要する状態になるのである。

維持期は四つの相に分けられ、それぞれ特有の脳波パターンを呈する(Fig. 1)。第1相は浅い全身麻酔に当たり、β波(13Hz~30Hz)が減りα波(8Hz~12Hz)およびδ波(0Hz~4Hz)が増える。第2相は第1相より深い麻酔であり、β波が少なくα波とδ波が優勢の前頭優位パターンが見られる。後頭部と比べ前頭部の方がα波とδ波の増加が顕著なパターンである。第2相の脳波は、ステージ3のnon-REM睡眠(徐波睡眠)で見られる脳波と似ている。さらに深い全身麻酔が第3相であり、平坦脳波とα波とβ波の群発が交互に現れるバーストサプレッションというパターンを呈する。第3相において麻酔が深くなるにつれ、α波が現れる間隔が延長し、α波およびβ波の振幅が小さくなる。通常、手術は第2相から第3相の麻酔深度で行われる。第4相は、極度に深い麻酔であり脳波は等電位(完全に平坦)になる。脳神経外科手術中に脳を保護したり、全般てんかんを止めたりするために、バルビツレートやプロポフォールを投与して意図的に脳波を等電位化することがある。

覚醒期

全身麻酔からの覚醒の具合は、投与された麻酔薬の量、麻酔薬の作用部位、作用強度および薬力学、患者の生理学的特徴、術式と手術時間などによって左右される。一般的に、全身麻酔からの覚醒を判断する際には、生理学的徴候および行動の変化が参考にされる。神経筋遮断作用が消失するとまずあらわれる典型的な臨床徴候の一つが、自発呼吸の出現である。自発呼吸が見られるということは、脳幹死に近い状態から脱したことを示す(Table 1)。心拍数及び血圧は、薬理学的に制御されていなければ、通常は上昇する。唾液の分泌や流涙も出現し、次に、疼痛刺激に対して疼痛部位の認識を欠いた反応が見られる。これは、閉眼したままであるという重要な点を除いては、植物状態に似た状態である。骨格筋の緊張が戻るにつれ、患者は顔をしかめたり、嚥下したり、えずいたり、咳をしたり、気管チューブや経鼻胃管に手を持って行くような防御動作を見せたりするようになる。この時点で、脳幹反射が十分に回復し、自発呼吸がしっかりあり、舌根沈下が起こらない状態であることが確認されれば、たとえ口頭指示に従うことができなくても抜管される。抜管しても、自発的には目を開かないかもしれない。患者が全身麻酔から覚醒するにつれ、脳波は維持期第2相は第3相をおおよそ逆にたどった変化を見せ、完全に覚醒している状態と同じ活発な脳波パターンに復する(Fig. 1)。抜管からPACU退室までの間に、患者は抜管可能な最低限の意識レベルから、はっきり覚醒した状態に回復する。秩序だった反応を示すことができることが確認できなければ、PACUを退室することはできない。つまり、PACU退室時には、簡単な質問に答え、疼痛や吐き気などの不快症状を自分で訴えることができるようになっていなければならない。

教訓 全身麻酔維持期は第1~4相に分けられます。通常、第2~3相ぐらいの深度で麻酔が維持されます。第2相の脳波は、ステージ3のnon-REM睡眠(徐波睡眠)で見られる脳波と似ています。第3相ではバーストサプレッションが見られます。
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