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横紋筋融解症と急性腎傷害~治療と予防② [critical care]

Rhabdomyolysis and Acute Kidney Injury

NEJM 2009年7月2日号より

利尿薬の使用の是非についてはいろいろな意見があるが、その使用を血管内容量が満たされた患者に限るべきであるのは間違いない。マンニトールにはいくつかの利点がある。マンニトールは浸透圧利尿薬で、尿量を増やし、尿細管から腎毒性物質を洗い流す作用がある。マンニトールは浸透圧を上昇させるので、投与すると圧勾配が生じ、損傷した筋肉に貯留した水分を血管内に引き込み、血管内容量の低下を改善する。そして、フリーラジカルスカベンジャーとしての作用も持ち合わせている。マンニトールの作用についてのデータの大部分は、動物実験で得られたものである。今まで得られたデータを総合すると、マンニトールの保護作用は、浸透圧利尿作用によって発揮されるのであり、利尿以外の働きによるものではないようである。マンニトールの効果は、無作為化比較対照試験によって確認されているわけではなく、効果がないことを示す結果が得られている臨床試験もある。また、マンニトールの投与量が多いと(>200g/dayまたは積算投与量>800g)、腎血管収縮および尿細管毒性による急性腎傷害(浸透圧腎症)が発生することも分かっている。しかし、多くの専門家は、横紋筋融解症による急性腎傷害の予防と治療、および損傷筋のコンパートメント圧低下の目的でマンニトールの使用を推奨している。マンニトール投与中は、血漿浸透圧を測定し、浸透圧ギャップ(測定した浸透圧と、計算から予測される浸透圧との差)を十分監視しなければならない。期待されるほどの利尿が得られなかったり、浸透圧ギャップが55mOsm/kgを超えたりしたら、マンニトールの投与を中止する。ループ利尿薬も尿量を増やすので、ミオグロビンが尿細管に詰まるのを防ぐかもしれないが、横紋筋融解症の患者における有効性をはっきりと示した研究はない。したがって、横紋筋融解症による急性腎傷害の症例でループ利尿薬を使用する際は、他の原因による急性腎傷害において推奨されている投与法に従わなければならない。

横紋筋融解症による急性腎傷害に随伴する電解質異常は、迅速に補正しなければならない。高カリウム血症は発症初期から発生するので、時機を逸することなく是正しなければならない(Table 5)。細胞外から細胞内へカリウムを移動させる薬剤(例;高濃度ブドウ糖液や炭酸水素塩)は、一時的にしか効果を発揮しない。体内からカリウムを除去する方法は、利尿薬、カリウム吸着剤の使用または透析だけである。一方、低カルシウム血症も発症早期に認められるが、症状が現れたり、高度の高カリウム値症が併発していたりしない限り、治療の必要はない。高リン血症の治療にカルシウム含有キレート剤を用いる場合は、慎重を期すべきである。カルシウム投与量が多いと、損傷筋肉へのリン酸カルシウム沈着が促進されるからである。

治療抵抗性の高カリウム血症、アシドーシスもしくは血管内容量過多を来すほどに急性腎症が重篤であれば、腎代替療法、主として間欠的血液透析の適応である。血液透析を行うと、電解質異常を急速かつ効率よく是正することができる。ミオグロビンは小分子タンパクなので、通常の血液透析では除去効率はよくない。したがって血液透析の適応は、主に腎機能によって決定される。とはいえ、横紋筋融解症による急性腎傷害の病因はミオグロビンであるため、予防的に体外循環行いミオグロビンを除去する方法が研究対象になっている。血漿交換は、転帰に関しても腎機能に関しても、改善効果がないことが示されている。一方、CVVHまたはCHDFは、超高効率フィルタを用いて限外濾過流量を増やすと、ミオグロビンを除去するある程度の効果が得られるとされているが、症例報告の域にとどまるエビデンスでしかなく、転帰を改善する効果は不明である。さらに、血清ミオグロビンの半減期は、CVVH実施の有無によって大きく異なるという報告もある。無作為化研究が行われていない現状では、予防的血液濾過の実施を推奨することはできない。

小規模症例集積研究、症例報告およびいろいろな実験で、抗酸化物質およびフリーラジカルスカベンジャー(例;ペントキシフィリン、ビタミンE、ビタミンC)がミオグロビン尿による急性腎傷害の予防と治療に有効である可能性が示されているので、実際の症例でも使用することは問題ないであろう。しかし、比較対照研究で効果が評価されているわけではない。(おわり)

教訓 マンニトールの使用は推奨されていますが、利尿が得られなかったり、浸透圧ギャップが大きくなったら投与を中止しなければなりません。予防的な血液濾過の実施は推奨されていません。
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