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溺死最新情報2009~治療:病院到着まで [anesthesiology]

Drowning: Update 2009

Anesthesiology 2009年6月号より

治療

病院到着までの治療

溺水の大多数は、病院から離れた場所で発生する。だから、病院到着までの初期治療が、患者の転帰を大きく左右する。救助者が、溺水事故遭遇時に真っ先にチェックしなければならない点は、以下の通りである:呼吸をしているか?脈拍はあるか?頸椎損傷はないか?

病院前救護の主目的は、自発呼吸と循環の再開、ガス交換、酸塩基平衡および循環の可及的速やかな正常化である。したがって、救助者は、溺水被害者を見たら直ちにCPRを開始しなければならない。自発呼吸が認められなければ、口対口人工呼吸をすぐに開始する。理想的には、人工呼吸は水中で開始できればよいが、救助者を危険にさらさないことを第一とする。口対口人工呼吸実施時には、頸椎の過伸展を避け、下顎をできる限り前方に引き出す。特に飛び込みによる溺水事故では、頸椎を損傷している場合があるので注意が必要である。適切な気道確保は、今更言うまでもなく、非常に重要である。溺水被害者は、まだ意識があるうちに大量の水を飲んでいることがある。したがって、口対口人工呼吸が正しく行われなかったり、気道が閉塞している状態で人工呼吸を行ったりすると、胃が拡張し誤嚥が発生し、誤嚥性肺炎を起こすことがある。救助者は、脈拍の有無を注意深く評価しなければならない。低体温、血管収縮、低酸素症などによる高度の徐脈があると、動脈拍動の触知が困難なことがある。脈拍があるかないかよく分からないときは、心臓マッサージを開始し、人工呼吸を開始する。

蘇生の専門家および機器が到着したら、ただちにさらなる治療の実施を考慮する。可及的速やかにBVMを用いた100%酸素による換気を開始する。CPAPによって換気と血流のマッチングが改善するので、機器の利用が可能になり次第CPAPを付加する。ただし、CPAPは平均胸腔内圧を上昇させるので、循環動態を十分に監視する必要がある。意識がないか、高度の低酸素症に陥っている患者や、その他の理由で気道確保が必要な患者に対しては、気管挿管の上、人工呼吸を開始し酸素化を維持する。気管挿管が不可能であれば、LMAまたはその他の緊急気道確保の手段(LT、Combiチューブ、輪状甲状膜切開)を用いる。そして、太い静脈路を確保し、生理的食塩水の投与を開始する。必要であれば薬剤を投与する(例;エピネフリン、アトロピン、メイロンなど)。

溺水被害者には、CPRより先にまずハイムリッヒ法を行うべきであるという意見がある。溺水者の口腔内に水がある場合、それは肺からではなく胃からこみ上げてきた水であることが明らかにされている。米国医学研究所(IOM)は文献や証言の検討の結果、気道が異物で閉塞している場合を除き、溺水被害者に対しハイムリッヒ法を行うのは適切とは言えないという結論に達した。ハイムリッヒ法を最初に行うと、有効なCPRの開始が遅れたり、胃内容物の逆流や誤嚥が起こったりして、誤嚥性肺炎や呼吸不全、死亡などに至る可能性がある。現在では、溺水被害者にAEDが利用される場合もあるだろう。しかし、心電図波形が認められても、必ずしも心拍出量が十分にあるわけではないので注意が必要である。

患者の状態が良さそうに見えても、必ず病院へ搬送し医学的評価を受けさせなければならない。当初の様相だけで判断するのは危険である。搬送時には、脈拍、血圧、呼吸数と呼吸パターン、心電図、経皮的酸素飽和度などの最低限のモニタリングを行わなければならない。搬送中は100%酸素を投与する。酸素飽和度が95%以上を十分維持できるのであれば、酸素投与量を減らしてもよい。

教訓 溺れた人を救助するときは、まずCPRを開始してください。頸損の可能性があるので頸部後屈は避けるのが無難です。気道閉塞がないことを確認して人工呼吸をはじめてください。ハイムリッヒ法は、気道が異物で閉塞しているとき以外は実施しません。


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