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周術期の禁煙~神経① [anesthesiology]

Perioperative Abstinence from Cigarettes: Physiologic and Clinical Consequences

Anesthesiology 2006年2月号より

作用と回復の機序

煙草を吸うと、ニコチンが中枢神経系に急速に分布する。ニコチンはニコチン性アセチルコリン受容体を活性化する。この受容体は、中枢神経系にも末梢神経系にも遍在しているが、神経系全体における作用については完全には解明されていない。中枢神経系における主な作用は、神経伝達物質放出の調節であるようだ。ニコチン性アセチルコリン受容体は、様々な神経伝達物質系に作用するので、ニコチンが中枢神経機能に与える総合的な働きは複雑である。ニコチン(およびその他の依存性薬物)が精神活動に及ぼす影響は、部分的には腹側被蓋野のドパミン作動性ニューロンの活性化を介して発現される。もちろん、他の経路も関与していることは言うまでもない。

ニコチンに曝露されると、脳内報酬系が刺激され快感情が生まれるが、ニコチン曝露経験のない人の場合はニコチン摂取によって不快な感じになることがある。耐性の形成は、ニコチンの特徴的作用の一つである。持続的にニコチンに曝露されていると、急速な脱感作が生ずることがあり、それによって耐性が形成される。この現象は、複数のニコチン受容体サブタイプの持つ特性である。ニコチンに長期間曝露されていると、中枢神経系機能の可逆性変化が生ずることがある。以上のような変化の結果、動物モデルにおいてもヒトにおいても、ニコチン摂取の減量または中止により、不快な離脱症状が発生する。離脱症状には、身体症状(消化管症状や食欲増強など)と精神症状(喫煙の渇望、抑鬱、不安、不機嫌、易怒性など)がある。このような症状が現れるのを避けようとすることが、喫煙習慣を続けてしまう重要な動機の一つであろう。離脱症状は、ニコチン摂取中止後数時間以内に現れ、数週間続く。ニコチン依存と離脱の神経生物学は複雑であるが、おそらく複数の神経伝達物質(ドパミン、オピオイドペプチド、グルタミン酸、およびセロトニン)が関与し、様々な離脱症状を引き起こしているものと考えられる。

ニコチン性アセチルコリン受容体は疼痛を修飾するため、喫煙や禁煙が周術期に何らかの影響を及ぼす可能性がある。動物では、ニコチンを全身投与すると中等度の抗侵害刺激作用が得られる。他のニコチン性アセチルコリン受容体作動薬にも強い鎮痛作用があるが、毒性が強すぎるので実用には供さない。末梢神経のニコチン性アセチルコリン受容体が活性化されると疼痛が生ずる。一方、中枢神経系のいろいろな場所にニコチン性アセチルコリン受容体作動薬を投与すると、投与の場所によって、侵害刺激を増強する作用が発現することもあれば、抗侵害刺激作用が発現することもある。

教訓 ニコチン離脱症状には、身体症状(消化管症状や食欲増強など)と精神症状(喫煙の渇望、抑鬱、不安、不機嫌、易怒性など)があります。離脱症状は、ニコチン摂取中止後数時間以内に現れ、数週間続きます。複数の神経伝達物質(ドパミン、オピオイドペプチド、グルタミン酸、およびセロトニン)が関与しているようです。
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