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周術期の禁煙~呼吸器② [anesthesiology]

Perioperative Abstinence from Cigarettes: Physiologic and Clinical Consequences

Anesthesiology 2006年2月号より

禁煙が周術期肺合併症リスクに及ぼす影響

長期間の禁煙によって周術期肺合併症のリスクが低下することが、観測研究で明らかにされている。リスク低下効果を得るのに必要な禁煙期間をはっきりさせることを目的として行われた研究は数少ない。CABGを受けた患者を対象とした二編の観測研究で、周術期肺合併症(この研究での定義は、標準的治療の域をこえた呼吸療法を必要とする状態)の発生頻度が評価された。その一つである遡及的研究では、手術直前まで喫煙を続けていた群と、手術までに8週間以内の禁煙を実行した群とを比較したところ、周術期肺合併症発生率はそれぞれ48%、56%で有意差は認められなかった。一方、術前8週間以上の禁煙を実行した場合の周術期肺合併症発生率は17%で、非喫煙者(11%)と遜色なかった。続いて行われた前向き試験(n=192)でも同様の結果が得られた。ただし、術前まで喫煙をしていた患者の数と8週間以内の禁煙を実行した患者の数が少なかったので、この二群について統計学的に意味のある比較はできなかった。多変量解析では、禁煙日数が少ないことが、周術期肺合併症の独立した予測因子であることが明らかにされている。この多変量解析に基づいたロジスティックモデルから、禁煙による効果を十二分に得るには、少なくとも12週間前から喫煙を止めなければならないという結果が得られた。また、この研究では、禁煙後最初の一ヶ月間の周術期肺合併症予測発生率が、わずかに上昇するとされているが、この知見は比較的少数の患者を対象として得られたものであり、統計学的に評価ができる代物ではない。胸部手術における周術期肺合併症についての最近の研究では、禁煙期間と周術期肺合併症発生率の相関を明らかにしようと試みたものの、統計学的検出力が小さく、単変量解析によって異なる禁煙期間の患者群を比較することはできなかった。非心臓手術を受ける患者(大多数が男性)を対象とした別の研究では、術前までの喫煙継続が周術期肺合併症の独立した有意な危険因子であることが明らかにされている(オッズ比4.2; 95%CI 1.2-14.8)。一方、禁煙(2週間以上の禁煙)を実行していれば周術期肺合併症発生率の上昇は認められないという結果が得られている(オッズ比1.9; 95%CI 0.5-6.5)。これに反して、単変量解析では、手術前の一ヶ月間に喫煙を続け、かつ、減煙した(平均34%減)場合は、かえって周術期肺合併症のリスクが増大することが分かった。

以上の研究はいずれも観測研究であり、選択バイアスが混入している可能性が高い。喫煙者は一般的に、疾患が重篤であったり、侵襲の大きい検査や手術を受けたりする場合には、自らすすんで禁煙したり、減煙したりする傾向がある。手術予定決定から手術日までには通常数週間から数ヶ月ほどの期間があるので、手術の数週間前から禁煙している患者と、喫煙を継続する患者とのあいだには、その特性に重大な差異がある可能性がある。だが、喫煙の影響から肺が回復するには数週間から数ヶ月かかるのは確実であり、だからこそ、周術期肺合併症のリスク低減効果を十二分に得るのにそれと同等の期間が必要であるという観測結果が得られているのは当然のことである。これを裏付けるように、Kotaniらは、麻酔および手術に対する肺サイトカインや肺胞マクロファージの反応が非喫煙者と同等の状態に回復するには、6ヶ月間の禁煙が必要であることを明らかにした。周術期肺合併症の種類によって、禁煙期間によるリスク低減の様態は異なると考えられる。例えば、喫煙者の麻酔中に見られる刺激性化学物質に対する上気道過敏性の亢進は、わずか二、三日の禁煙で消失する。

さらに研究を重ねる必要があるとは言うものの、現在までに蓄積されたエビデンスによれば、少なくとも最初の二、三ヶ月は禁煙期間が長いほど周術期肺合併症を減らす効果が上がる。禁煙後最初の数週間以内は、周術期肺合併症のリスクが上昇する可能性も示唆されているが、これを裏付ける十分なエビデンスはなく、喫煙者が術前に禁煙を励行しなくてもよいと推奨することはできない。手術まで短時日しかない場合でも、禁煙は必要である。

教訓 術前までの喫煙継続は、周術期肺合併症の独立した有意な危険因子です。禁煙による効果を十二分に得るには、少なくとも12週間前から喫煙を止めなければなりませんが、2週間程度の禁煙でもそこそこの効果は得られるようです。禁煙後最初の数週間以内は、周術期肺合併症のリスクが上昇する可能性も示唆されているものの、これを裏付ける十分なエビデンスはありません。したがって、喫煙者が術前に禁煙を励行しなくてもよいと言うことはできません。手術まで短時日しかない場合でも、禁煙は必要です。



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