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溺死最新情報2009~治療:病院到着後 [anesthesiology]

Drowning: Update 2009

Anesthesiology 2009年6月号より

病院での治療

病院に到着したら、まず、患者の状態に応じて呼吸管理を行うことを優先する。直ちに動脈血ガス分析を行い、換気、酸塩基平衡および酸素化の評価を行う。この間も酸素投与を続け、経皮的酸素飽和度の監視を行い低酸素血症の有無を評価する。意識清明で協力的な患者には気管挿管は不要である。ただし、高濃度酸素を投与したり、CPAPマスクを使用したりしても酸素化が十分でない場合は、気管挿管を要することもある。昏睡患者には気管挿管は必須である。昏睡に至らないまでも意識レベルが低下している場合は、気道確保の要否を個別に判断する。なるべく低いFIO2で酸素飽和度を95%以上に維持できるよう、PEEPまたはCPAPレベルを調節する。我々は、FIO2<0.5で、PaO2/FIO2比が300を超えるように管理している。0.5未満のFIO2であれば、酸素毒性が発現する可能性はないと考えてよい。

多くの症例では、侵襲的血行動態モニタリングは不要である。しかし、血管内容量が適切な範囲内に保たれているかどうか懸念される場合は、侵襲的モニタリングが必要になることがある。陽圧換気により心拍出量が低下するときは、通常は輸液で対処可能である。長期にわたり心血管作動薬の投与が必要とされることは、ほとんどない。

溺水による肺病変の治療には、ステロイドは無効であることが明らかにされている。むしろ、正常な治癒過程を妨げることになり、転帰が悪化することが分かっている。感染の兆候が認められる場合や、汚水による溺水の場合には抗菌薬を投与する。ひどく汚染された水による溺水であれば、培養検体採取前に広域スペクトラムの抗菌薬を投与してもよい。そうでなければ、気管内採痰の培養結果を参考にして、投与する抗菌薬を決める。溺水患者では気管支攣縮が発生することがあるが、その際にはアルブテロール吸入を行う。

溺水後には肺水腫が認められることが多い。CPAPまたはPEEPを付加すると虚脱した肺胞を拡張させることができるし、換気と血流のマッチングが改善し酸素化が良くなる。気管内吸引や吸入を行うときに人工呼吸回路を外すと、CPAPやPEEPでせっかく肺の状態が改善しても、あっという間に肺水腫や低酸素血症が再来する。したがって、回路を外す回数は最小限にとどめるか、可能であれば一切外さないようにしなければならない。

頭蓋内圧コントロールについては、相反するいろいろなデータが示されている。とはいえ、昏睡に陥っている溺水被害者に対しては、集中治療室入室後、速やかに頭蓋内圧モニタリングを開始するのは理に適っている。頭蓋内圧モニタが設置されていない脳浮腫患者では、頭蓋内圧を下げるために予防的に軽度過換気(PaCO2を約30mmHgに保つ)が行われるのが通例である。しかし、昏睡状態にある溺水患者に過換気を行わなければならないのなら、頭蓋内圧モニタ機器を使用するのが望ましいであろう。頭蓋内圧が亢進したら(20mmHg以上)、PaCO2が25から30mmHgになるように過換気にして、脳血流量を減らし、頭蓋内圧を下げ、同時に脳灌流圧(平均動脈圧-頭蓋内圧)を60~70mmHgに保つ。しかし、過換気自体が、昏睡溺水患者の頭蓋内圧を低下させるというエビデンスはないことに留意しなければならない。過換気だけでは十分な頭蓋内圧低下効果が得られないときには、マンニトールをボーラス投与(0.25g/kg)することがある。しかし、溺水による脳障害は、溺水時の高度低酸素症によるものであると考えられ、その後に発生する頭蓋内圧亢進が脳障害の主因ではない。したがって、溺水患者における頭蓋内圧亢進は、すでに発生した脳障害の程度を反映するものでしかないのかもしれない。

現在では、溺水事故では病院前救護が重要であるという認識が広まり、昔と比べれば病院到着までのケアの質は向上している。有効なBLSが早期に開始されれば、後遺症なく生存できる可能性が上昇する。大多数の症例では、溺水による肺および循環器合併症は、ほぼ確実に治療可能である。しかし、長年にわたり研究が重ねられてきたにも関わらず、溺水被害者の神経学的転帰の改善は、未だ達成に至らない懸案事項である。溺水時に低体温に陥っていない症例に、できうる限りの強力な脳蘇生を行っても、神経機能が正常に復する効果を期待することはできないと考えられている。だが、溺水後12-24時間にわたり軽度低体温(32-34℃)を維持するのは有効であるという意見もある。劇的な効果が得られる魔法のような治療法が姿を現す兆しはまったくないとはいえ、抗酸化物質、カルシウムチャネル阻害薬、プロスタサイクリン/トロンボキサン合成に作用する薬、興奮性神経ペプチドの阻害薬、フェニトインなどについての研究が行われている。

予防

溺水による死亡および植物状態の遷延の発生を防ぐには、安全なプール設計を義務づける規則の導入、プール周囲のフェンス設置(高さは少なくとも1.5mで自閉式の錠を備えていること)、監視および蘇生の最新の方法を救助員(監視員)に指導する、舟遊びをするときや、プール・港・マリーナ・ビーチで遊ぶときにはアルコール飲料を飲み過ぎないよう社会全体に周知する、酔って船舶を操縦した者に重い罰則を科す、危険区域の表示、泳げるようになることを奨励する、一人で泳ぐのが危険であることを周知する、BLSの普及に努める、といったことが重要である。

教訓 溺水による脳障害は、溺水時の高度低酸素症によって発生します。したがって、溺水患者における頭蓋内圧亢進は、すでに発生した脳障害の程度を反映するものでしかないと考えられます。Caminoなどで頭蓋内圧モニタリングを行い、積極的にコントロールしても無駄かもしれません。
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