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溺死最新情報2009~病態生理:循環器・腎 [anesthesiology]

Drowning: Update 2009

Anesthesiology 2009年6月号より

心血管系および腎機能の変化

淡水、海水問わず、溺水の実験では、いろいろな心電図変化が観察されている。しかし、酸素化がよくなれば、心電図変化はたいてい消失するので、治療が必要になるようなことは稀である。淡水誤嚥後に心室細動で死亡することはほとんどないが、相当大量の水を誤嚥したときには不整脈による死亡もあり得る。イヌ気管内に22mL/kgの生理的食塩水または淡水を注入して作成した溺水モデルの実験では、15頭中9頭に二段脈、15頭中6頭にT波増高が認められた。Karchは、6mL/kgの溺水もしくは海水のいずれかを気管内に注入し、29分後には心臓の病理学的変化が生ずることを明らかにした。光学顕微鏡では、正常な横紋が壊れている部分が巣状に認められ、場合によっては介在板も破壊され、単球の過好酸性が見られた。電子顕微鏡では、膨脹し透亮性の上昇したミトコンドリアを持つ収縮した単球が認められた。単球内の核は円形になりクロマチンが凝集していた。以上の変化は、対照動物では認められなかった。このような変化の臨床的な意義は不明であるが、溺水後の心臓の変化の研究を深める上で、興味深い所見である。

水没や溺水が発生したときに致死的不整脈が発生すると、事態が悪化すると考えられてきた。また、溺死事故のなかには、QT延長症候群が関わっているものが存在するという指摘もある。しかし、QT延長症候群であると診断された患者であっても、診断以降他の機会に心電図をとると正常所見を示すことがあるので、溺水にQT延長症候群が関わっていることを証明するのはほぼ不可能である。剖検検体の分子生物学的解析により、異常が発見されることもある。しかし、溺水被害者に通常行われる法医解剖では、分子生物学的検討を行うことはほとんどない。Lunettaらは、溺死者63名の遺伝子異常を検索したが、QT延長症候群に関わる遺伝子変異(KCNQ1およびKCNH2)は一例も見つからなかった。予期せぬ突然の水死が発生すれば、QT延長症候群の関与を考慮すべきではある。しかし、QT延長症候群は稀な疾患であり、家族歴、心電図所見、剖検における遺伝子変異の確認がなければ、その関与を突き止めることは困難である。

溺水で腎機能が障害されることはまずない。だが、アルブミン尿、円柱尿、ヘモグロビン尿、乏尿、急性尿細管壊死および無尿が見られることもある。溺水による腎障害の病因については、筋損傷によるミオグロビン尿、乳酸アシドーシス、低酸素血症、腎血流低下、溶血によるヘモグロビン尿などの関与が指摘されている。以上はそうそう発生する病態ではないが、いずれも腎機能を低下させるおそれがあるため、このような徴候が認められる場合には、適切に治療を行わなければならない。

教訓 溺水では大量の水を誤嚥していない限り、心臓や腎に直接的に大きな影響が及ぶことはありません。

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