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人工心肺とAKI~周術期管理① [anesthesiology]

Cardiopulmonary Bypass–associated Acute Kidney Injury

Anesthesiology 2011年4月号より

AKI-CPB(人工心肺関連急性腎傷害)の周術期管理

術前における主な留意点は、適正な血管内容量および心拍出量の維持と鬱血性心不全の治療である。NSAIDsなどの腎毒性物質は中止し、造影剤はできる限り使用しないようにすべきである。AKI-CPBを防ぐためACEIやARBを術前に中止すべきかどうか、という問題については賛否両論があり決着はついていない。

改善可能な危険因子の大半について介入することが可能なのが術中である。人工心肺中は組織血流を適正に保つことが最も重要であり、そのために平均動脈圧と人工心肺灌流量を調節する。通常の人工心肺灌流量は2.2~2.5L/min/m2である(正常ヘモグロビン濃度、正常ヘマトクリットの正常体温成人の心係数に近い値)。たいていの施設では人工心肺中の平均動脈圧は50~70mmHgの範囲で管理している。腎傷害を防ぐという観点で、人工心肺中の灌流量および平均動脈圧をどれぐらい以上に保てばいいのか、という疑問に対する答えにつながるエビデンスは不足している。人工心肺を回すと血液が希釈されるため、理論的には血液粘度の低下により臓器血流が増加し、微小循環も改善する可能性がある。しかし、最近発表された4編の研究では、人工心肺中のヘマトクリットが21-24%を下回ると急性腎傷害の発生頻度が有意に上昇することが示されている。米国胸部外科学会および米国心臓外科麻酔学会が制定した輸血・貯血ガイドラインでは、現行のエビデンスを踏まえ、人工心肺中はヘマトクリットを21%以上(ヘモグロビン7g/dL以上)に維持することが推奨されている。

人工心肺時間が延長するほどAKI-CPB発症しやすいという独立した相関があることが明らかにされている。人工心肺が長引くほど、凝固能障害、輸血実施、消化管血流の低下および急性腎傷害の危険性が増大する。人工心肺時間がこれ以上延長すると急性腎傷害の発症頻度が急増する、という閾値として定まった一つの目安はない。いずれは、AKI-CPBを起こし難い「安全な人工心肺時間」が研究の積み重ねの結果明らかになるであろう。

集中治療領域において厳格血糖管理(血糖値を80-110mg/dLに維持する)を行うと転帰が有意に改善することを示した画期的な研究が発表され、血糖値管理と転帰の関係に改めて注目が集まっている。だが、その後に行われた心臓手術患者を対象とした二編の無作為化比較対照試験では、術中血糖値が正常範囲となるように積極的な管理が行われた群では転帰が悪化するという結果が得られた。術中および術後早期の高血糖(血糖値>200mg/dL)および術後の血糖値変動幅が大きいことの方が、厳格血糖管理実施の有無よりも、転帰悪化(腎機能の悪化を含む)の有力な予測因子であることが分かっている。最近のエビデンスでは、周術期血糖値は、厳格血糖管理で示されているような目標値にするのではなく、180mg/dL未満かつ変動が大きくならないように管理すべきである、とされている。

AKI-CPBの発生の予防につながる術後管理法を模索するため、様々な薬物投与や治療方針が試みられている。当初行われた研究ではこのうちの一部が有効であることが期待されたが、広く普及することを後押しするような決定的なエビデンスはない。新しく行われた複数の臨床試験で遺伝子組み換え心房性ナトリウム利尿ペプチドが有望であることが示されたことを受け、本剤に改めて注目が集まっている。心房性ナトリウム利尿ペプチドは、糸球体濾過率を増加させ、集合管におけるナトリウム再吸収を阻害することによってナトリウム利尿をもたらす。先頃行われた研究では、心房性ナトリウム利尿ペプチドの少量投与によって非代償性鬱血性心不全患者の人工心肺後透析実施率が低下し、透析非実施21日後生存率が上昇するという結果が得られた。ネシリチド(遺伝子組み換えヒトBNP)は心房性ナトリウム利尿ペプチドの一種で、腎血流を減らさずにナトリウム利尿効果を発揮する。Nesiritide Administered Peri-Anesthesia in Patients Undergoing Cardiac Surgery(NAPA)という臨床試験では、ネシリチドに短期的な腎機能保護効果があることが示された。具体的には、血清クレアチニン値の上昇幅が抑えられ、糸球体濾過率が低下せず、手術24時間後までの尿量が非投与群より多い、という結果が得られた。心房性ナトリウム利尿ペプチドの少量投与やネシリチドが有効であることを示唆するデータは報告されているが、あらゆる患者にナトリウム利尿効果のある薬剤を投与することを推奨するには、まだ知見が不足している。

教訓 AKI-CPBを防ぐには、人工心肺中は平均動脈圧と人工心肺灌流量を適切に維持しなければなりません。人工心肺中のヘマトクリットが21-24%を下回ると急性腎傷害の発生頻度が有意に上昇します。ハンプにはAKI-CPBを防ぐ効果があるかもしれません。
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