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人工心肺とAKI~病因とリスク [anesthesiology]

Cardiopulmonary Bypass–associated Acute Kidney Injury

Anesthesiology 2011年4月号より

AKI-CPBの病因

AKI-CPB(人工心肺関連急性腎傷害)の病態生理は、いろいろな要素が絡み合う複雑な様相を呈している。腎灌流圧の低下、炎症促進メディエイタの活性化、および腎毒性物質が、AKI-CPBの主な病因である。人工心肺を回すと、SIRS、腎臓の局所血流や血管抵抗の変化および微小塞栓の形成などを引き起こし、AKIの病因を生む。血球成分が人工物である人工心肺回路表面と接触することが、人工心肺によるSIRSの主な原因である。TNFα、IL-6およびIL-8がAKI-CPBの発症に関わる鍵となるサイトカインであると言われているが、その役割の本体はまだはっきりしていない。人工心肺を開始すると、血管抵抗が変化するため実効腎灌流圧は最大30%低下し、腎髄質の酸素分圧も低下する。その結果、虚血再灌流傷害が起こる。人工心肺を回すと溶血と補体タンパク活性化も引き起こされ、SIRSや虚血再灌流傷害の増悪要因となる。人工心肺中には微小塞栓が形成される。その成分は、フィブリン、血小板集塊、細胞破壊片、脂肪および空気などである。人工心肺回路のフィルタで、直径40μm以上の塞栓子は除去される。しかし、それより小さい塞栓子は通り抜けてしまうため、腎毛細血管にそのまま到達して害を及ぼす。以上とは別の病態生理の関与も指摘されている。たとえば、遊離鉄による毒性によって発生すると言われている色素性腎症や鉄腎症である。人工心肺によって遊離赤血球成分(ヘモグロビンおよび鉄)の血中濃度が上昇し、トランスフェリンやハプトグロビンなどの除去物質が消費されると、全血管抵抗および血小板機能が変化し、尿細管障害が発生する。

人工心肺を使用する心臓手術と比べ、人工心肺を使用しない心臓手術の方がAKI発生頻度が低いことから、AKI-CPBにおいて人工心肺が重大な要因であることは言を俟たない。

AKI-CPB発症リスクの見極め

AKI-CPB(人工心肺関連急性腎傷害)が発症するおそれのある患者を早い段階で見極めることが、周術期管理の質の向上につながる重要な対策の一つである。今までに少なくとも5種類のAKI-CPBリスク予測モデルが構築、検証されている。これまでに発表されたAKI-CPBリスク予測モデルにおいて取り上げられている主な危険因子をtable 2にまとめた。この中には、非心臓手術のAKIリスク予測モデルにおいて危険因子として取り上げられている因子(高齢、腎疾患の既往、糖尿病およびCOPD)も含まれている。

術前の血清クレアチニン(sCr)高値は、現時点では最も強力なAKI-CPB危険因子である。術前sCrが2.0-4.0mg/dLの患者のうち10-20%、4.0mg/dL以上の患者のうち約25%が、AKIを発症し透析を要する。その他の主な危険因子のうち患者に関係するものは、女性、左室駆出率40%未満、糖尿病、術前のIABP使用および緊急手術を要する状態である。患者側危険因子の大半が、介入によって変化させることができるとしてもほんのわずかしか改善の見込みがない、というところが興味深い。

手術に関連する危険因子に関しては、CABGのみの手術と比べ弁手術が高リスクであることが重要である。CABGと弁の同時手術がAKI-CPBのリスクが最も高い。緊急手術および強心薬/器械補助を要する周術期低心拍出量状態もAKI-CPBの発症リスクが上昇する要因である。AKI-CPBの発症リスクを正確に予測することができれば、早期診断及び治療の方策を確立する一助となる。

教訓 AKI-CPBの発症には、腎灌流圧の低下、炎症促進メディエイタの活性化、腎毒性物質、遊離鉄による毒性などが関与していると言われています。危険因子は、術前クレアチニン高値、女性、EF<40%、糖尿病、IABP、緊急手術、CABGとバルブの同時手術などです。
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