SSブログ

緑膿菌肺炎~多剤vs単剤① [critical care]

Pneumonia Due to Pseudomonas aeruginosa Part II: Antimicrobial Resistance, Pharmacodynamic Concepts, and Antibiotic Therapy

CHEST 2011年5月号より

抗菌薬の投与

肺炎を発症した入院患者に対し、時機を逸することなく適切な抗菌薬の予測的投与を開始すると死亡率が低下すると考えられている。この件につき、17編の論文を検討した。内訳は、ICU患者のVAPについての研究が14編、全身感染症についての研究が1編、菌血症患者を対象とした研究が2編であった。後二者の計3編では、対象患者の16.0%~62.7%が肺炎であり、肺炎の起因菌が緑膿菌であった症例の占める割合は、14.4%~100%であった(Table 4)。検討した17編のうち10編では、適切な抗菌薬の予測的投与を遅滞なく開始すると、肺炎入院患者の死亡率が有意に低下するという結果が得られた。残りの7編では死亡率の低下にはつながらないと報告されている。

死亡率の低下を示すことができなかった七編のうち、緑膿菌菌血症についての研究一編およびVAPについての研究二編の計三編の著者らは、適切な抗菌薬の予測的投与を直ちに開始しても追いつかないほど対象症例の感染が重篤で、急速に死に至ってしまったとしている。残り四編のうち、三編では統計学的検出力が不足していたことが有意差が認められなかった原因であると述べられ、あとの一編ではこのことについての考察は示されていなかった。

緑膿菌によりVAPや菌血症では、抗菌薬の予測的投与が適切に行われても死亡率は実に3.6%~40.2%と高く、不適切な予測的抗菌薬投与が行われた場合には死亡率はさらに上昇し、17.6%~81.6%にものぼる。そして、当初選択した抗菌薬が不適切であることが分かり、48~72時間後に感受性のある抗菌薬に変更しても死亡率は低下しない。分離された細菌が予測的投与に用いられた抗菌薬に対して耐性があった、というのが不適切な予測的抗菌薬治療の最もよくあるパターンであり、18%~75.0%を占める。緑膿菌は代表的な抗菌薬耐性グラム陰性菌である。

多剤併用 vs 単剤投与

抗菌薬の多剤併用についてのin vitro研究では、アミノグリコシド系薬と抗緑膿菌ペニシリン系薬を併用した場合に相乗効果が得られる可能性が最も高い(~90%)ことが明らかにされている。次いで高い順に、セファロスポリン系薬との併用(~80%)、カルバペネム系薬との併用(~50%)と続く。フルオロキノロン系薬と、βラクタム系またはアミノグリコシド系薬を併用したときに通常得られる効果は、相加効果もしくは単剤のときとあまり変わらない効果である。キノロン系薬と抗緑膿菌βラクタム系薬を併用すると、殺菌能の大部分はβラクタム系薬が担うことになる。薬力学モデルでは、レボフロキサシンとメロペネムを併用すると相乗効果が得られ(3 log cell kill;死ぬ細菌数の対数値が3、つまり10の3乗レベル)、耐性の発生を抑制する効果も高いことが明らかにされている。緑膿菌肺炎の確定診断例では、いずれのキノロン系薬であっても単剤使用は推奨されない。なぜなら、耐性菌が発生する可能性が高く(38%)、十分な殺菌能が得られないことが多い(67%)からである。レボフロキサシンにしてもシプロフロキサシンにしても、24時間血中濃度-時間曲線下面積(AUC)/MIC比の目標値>100を達成する可能性が低いことからもこのことが裏付けられる。

動物モデルにおける多剤併用

動物実験で緑膿菌肺炎に対する多剤併用療法の効果が検討されている。渉猟の結果、モルモットを使用したものが四編、マウスを用いた研究が二編あった。以上六編のうち二編ではシクロフォスファミド投与により好中球減少症モデルが作成された。三編ではムコイド型緑膿菌が使用された。四編で緑膿菌を経鼻接種して肺炎モデルが作成され、経気管的に接種した研究が二編あった。五編において死亡率がエンドポイントとして設定された。さらに、三編では肺からの緑膿菌除去率が報告された。多剤併用療法によって死亡率が有意に低下するという結果を示した研究が二編、死亡率が低下する傾向があることを示した研究が二編存在した。セフタジジムとクラリスロマイシンの併用は、セフタジジム単剤またはクラリスロマイシン単剤よりも優れた効果を発揮した。セフスロジンとトブラマイシンを併用すると、βラクタム単剤の場合よりは死亡率が低下するが、トブラマイシン単剤単剤の場合とは差がない。セフタジジムとトブラマイシンを併用すると、それぞれ単剤のときよりも有効性が高い傾向が認められたが、有意差はないことが一編の研究で明らかにされている。Rusnakらの研究では、四パターンの併用療法(チカルシリン+トブラマイシン、セフタジジム+トブラマイシン、アズロシリン+トブラマイシン、セフタジジム+メチシリン)がin vitroで相乗効果を示すことが示されている。しかし、以上のいずれの併用パターンも、単剤療法(アズロシリン、セフタジジムのみ、トブラマイシン、メチシリン)と比べて死亡率を有意に低下させる効果はない。肺組織から細菌が駆除される程度について、三編の研究で検討が行われた。セフスロジンとトブラマイシンを併用しても駆除率は改善しないという結果が一編で示された。セフタジジムとトブラマイシンを併用すると、駆除率が上昇することが分かった。メズロシリンとトブラマイシンを好中球減少症モデル動物に投与すると緑膿菌駆除率が上昇するが、好中球減少症ではない実験動物に投与した場合には駆除率に変化は認められなかった。

教訓 緑膿菌によるVAPや菌血症は、抗菌薬の予測的投与が適切に行われても死亡率は3.6%~40.2%、不適切な予測的抗菌薬投与が行われた場合の死亡率は17.6%~81.6%です。当初選択した抗菌薬が不適切であることが分かり、48~72時間後に感受性のある抗菌薬に変更しても死亡率は低下しません。in vitro研究では、アミノグリコシド系薬と抗緑膿菌ペニシリン系薬を併用した場合に相乗効果が得られる可能性が最も高い(~90%)ことが明らかにされています。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。