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緑膿菌肺炎~多剤vs単剤③ [critical care]

Pneumonia Due to Pseudomonas aeruginosa Part II: Antimicrobial Resistance, Pharmacodynamic Concepts, and Antibiotic Therapy

CHEST 2011年5月号より

細菌感染症重症例についての無作為化研究および観測研究を対象としたメタ分析/メタ回帰分析では、敗血症および敗血症性ショックといった極めて重症度の高い症例では、多剤併用の方が転帰が改善することが明らかにされている。このメタ分析の対象研究には、緑膿菌菌血症の研究複数と、緑膿菌によるVAPについての研究2編が含まれている。

Paulらが執筆したコクラン・レビューでは、多剤併用療法には臨床上の有益性があるかどうかはっきりしない一方で、アミノグリコシドを併用すれば腎毒性という欠点がある、と述べられている。アミノグリコシドの腎毒性は、投与期間と相関して発現するということを我々は指摘しておく。好中球減少症患者を対象とした初期の研究では、アミノグリコシドの投与期間は10~14日間であった。緑膿菌菌血症を発症したAIDS患者21名についての研究では、アミノグリコシド投与期間の中央値は12日であった(最長32日)(この研究では、アミノグリコシドと他の抗菌薬の組合せの多剤併用療法が行われた患者の方が単剤投与の患者よりも死亡率が有意に低かった)。発熱を呈する好中球減少症患者604名を対象とした別の研究では、アミカシンまたはトブラマイシンが16.6日間投与された(15.5日~122日)。以上を踏まえると、アミノグリコシドの毒性は投与期間が5日以下のときはほとんどないといってもよいと考えられる。予測的抗菌薬治療として、まずアミノグリコシドを3~5日のみ投与する多剤併用療法を行い、その後単剤投与に移行する方法を行うと、アミノグリコシドの投与期間がこんなに短くても生存率が有意に上昇することをChamotらが報告している。

多剤耐性緑膿菌が出現して以降、緑膿菌肺炎が疑われる重症患者では、単剤投与は力不足になってしまった。肺炎症例でははじめに適切な抗菌薬を選択することが死亡率を低下させる上で死活的に重要である。緑膿菌肺炎の患者では、多剤併用にすれば in vitroで感受性のある抗菌薬が選択される可能性が高くなると考えられる。アミノグリコシド系薬の毒性は、投与期間を短縮すれば低減できる。もしくはアミノグリコシドの毒性が懸念されるのであれば、代わりにキノロン系薬を用いればよい。したがって、緑膿菌肺炎が疑われる症例では、多剤併用を推奨する。多剤耐性緑膿菌が蔓延している病院では、特に多剤併用が望ましい。無作為化試験を行い多剤併用療法の検証を行うことが理想ではあるが、そのような研究を行うためにクリアしなければならないハードルは、ほぼ不可能な壁として我々の前に立ちはだかる。例えば、十分な検出力を確保するには多数の患者を登録する必要があったり、緑膿菌肺炎の確定診断を下すことが難しかったりすることである。

緑膿菌肺炎と推測される症例では、抗緑膿菌βラクタム系薬を中心として抗菌療法を組み立てることを推奨する(Table 1)(PartⅠ「診断」の項で述べた、重症患者以外における定着についての注意事項を念頭に置くこと)。多剤耐性菌が跋扈する現代では、多剤併用によって相加効果や、場合によっては相乗効果が得られる可能性があることを考えると、アミノグリコシド系薬を3~5日併用すると良いであろう。痰の培養で緑膿菌が分離されin vitroの感受性が分かれば、その結果によっては抗菌薬の変更や、アミノグリコシド系薬の中止が可能である。緑膿菌が痰から検出されなければ、それまで使用していた強力な抗菌薬を、よりマイルドなものに変更することができるであろう。

多剤併用療法において主となる抗菌薬に組み合わせる抗菌薬としてキノロン系とアミノグリコシド系のどちらがより効果が高いのかは不明である。この件についての無作為化試験は今のところまだ行われていないが、多くの集中治療専門医は抗緑膿菌βラクタム系薬を主とし、キノロン系薬を従とする組合せを好む。アミノグリコシド系薬を選択すると腎毒性が懸念されるからである。グラム陰性桿菌(緑膿菌を含む)による菌血症についての遡及的研究では、中等症以下の患者においてβラクタム系薬単剤を投与された群よりもβラクタム系薬とキノロン系薬が併用投与された群の方が死亡率が低いという結果が報告されている。

βラクタム系薬二剤の併用は行うべきではない。動物実験では、βラクタム系薬二剤投与は、βラクタム系薬とアミノグリコシド系薬の併用よりも効果が劣ることが明らかにされている。βラクタム系薬を二剤投与すると、緑膿菌感染患者の40%(2/5)において耐性菌が発生したとの報告もある。

抗緑膿菌ペニシリン系薬とアミノグリコシド系薬の二剤併用にさらにリファンピシンを足すと、in vitro実験では緑膿菌に対する相乗効果が得られることが分かっている。また、好中球減少マウスモデルに緑膿菌菌血症を発症させてこの三剤を投与すると生存率が向上することが示されている。従来の多剤併用療法では治療に難渋する緑膿菌感染症例においても、対象数は少数ではあるとはいえこの三剤の組合せが奏功したことが報告されている。緑膿菌菌血症患者121名を対象とした抗緑膿菌βラクタム系薬とアミノグリコシド系薬の併用±リファンピシンについての前向き無作為化試験が行われた。リファンピシンを含む三剤併用群に無作為化割り当てられた患者の方が細菌学的には治療成績が有意に優れていたが、生存率についてはリファンピシンを含まない二剤併用群とのあいだに有意差は認められなかった。多剤耐性緑膿菌肺炎の患者8名中6名において、カルバペネム系薬とホスホマイシンの併用が有効であったと報告されている。

教訓 緑膿菌肺炎と推測される症例では、抗緑膿菌βラクタムに加え、アミノグリコシドまたはキノロンの併用がよさそうです。アミノグリコシドの投与期間は3~5日です。βラクタム二剤併用はだめです。難治例に対して抗緑膿菌ペニシリン系+アミノグリコシド+リファンピシン、多剤耐性緑膿菌肺炎にカルバペネムとホスホマイシンの併用が有効であったという報告があります。
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