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緑膿菌肺炎~疫学② [critical care]

Pneumonia Due to Pseudomonas aeruginosa Part I: Epidemiology, Clinical Diagnosis, and Source

CHEST 2011年4月号より

市中肺炎(CAP)

緑膿菌は市中肺炎の起因菌としては稀であることが観測研究で明らかにされている。市中肺炎入院例のうち起因菌が緑膿菌の例は0.9%から1.9%を占める。市中肺炎患者計33148名を対象にした研究127編についてのメタ分析では、緑膿菌感染はわずか18例で、その粗死亡率は61.1%であった(11/18)。2000年に発表された総説では、元来健康な成人患者の緑膿菌市中肺炎の報告例が検討された。血液、肺組織または胸水から緑膿菌が分離され感染が確認された症例という厳しい基準を用いて、世界各国からの発表された論文を渉猟した結果、わずか12例しか報告例がないことが分かった。

一方、ICUで行われた市中肺炎の調査では、緑膿菌も起因菌の一つには挙げられているが頻度は低いことが報告されている。重症市中肺炎、すなわちICU入室を要するかもしくはショックに陥るほどの市中肺炎の場合、緑膿菌による者が1.8%~8.3%を占め、死亡率は50%~100%にのぼる。とあるICU一施設からの報告では、起因菌が判明した市中肺炎のうち、緑膿菌によるものが三番目に多いという結果が得られている(一般的には、一番多いのが肺炎球菌、二番はレジオネラである)。以上に紹介したICUにおける調査には、起因菌を緑膿菌をと判定する方法に問題があり、細菌学検査で確定診断が得られた症例は44.4%~78.6%を占めるに過ぎない。

過去に行われた研究では、前回入院から今回の入院までの期間や、患者が医療関連肺炎の診断基準を満たすかどうかについては、きちんと記されていない。医療関連肺炎とは、前回入院から30日以内もしくは一年以内に発症した肺炎を指す。30日以内の発症例を医療関連肺炎と定義した研究では市中肺炎の17.1%、一年以内と定義した別の研究では4.8%が緑膿菌によるものであった。そして、医療関連肺炎のそれぞれ25.3%、25.5%が緑膿菌を起因菌とする肺炎であった。翻って、ドイツ市中肺炎ネットワークが行った5130名を対象とした前向き研究では、厳格な基準を設けて判定したところ、緑膿菌が起因菌であると同定されたのは22名であった。一名は血液から緑膿菌が分離され、残りの21名はグラム染色で診断された例である。発生頻度は0.4%(22/5130)ということになる。この22名の死亡率は18%であった。スペインで行われた市中肺炎患者780名についての前向き研究でも、緑膿菌が起因菌であった症例は少ないことが分かっている。

緑膿菌による市中肺炎の危険因子については、多くの知見が得られている。肺疾患、特にCOPDはいずれの研究においても危険因子であることが明らかにされている。その他の危険因子は、過去の入院歴、気管挿管および経腸栄養であり、いずれの場合も緑膿菌の定着が感染発症に先行することが分かっている。これらの危険因子を持つ場合は、正確には医療関連肺炎と分類すべきであろう。COPD and/or喫煙、HIV感染もしくは肺の構造に異常が生ずる疾患(気管支拡張症など)がある患者では、市中肺炎の起因菌が緑膿菌であることは珍しくない。

HIV陽性患者における緑膿菌肺炎

高活性抗レトロウイルス療法(HAART; highly active anti-retroviral therapy)が登場する以前は、HIV陽性成人ではHIV陰性成人と比べ、細菌性肺炎発生頻度が有意に高く(5.5 vs 0.9/100人年、P<0.01)、CD4リンパ球数が減るほど肺炎発生頻度が増えるとされていた。HARRT前の時代には、肺炎球菌が起因菌として最多であり(25%~46.7%)、緑膿菌は8%~25%を占めていた。院内肺炎の起因菌の中では緑膿菌が最多であった(21.4%~38.7%)。緑膿菌肺炎による死亡率は42%~55%で、他の起因菌による肺炎の死亡率よりも極めて高い。緑膿菌による市中肺炎を発症したHIV陽性患者16名の平均CD4リンパ球数は、わずか27/μLで、69%の患者において空洞性病変が胸部X線写真で認められた。好中球減少、最近の入院歴または抗菌薬使用歴といった典型的な危険因子を有する症例はなかった。ニューモシスティス肺炎の予防に使用するST合剤は、トキソプラズマ、サルモネラ、ヘモフィルス、黄色ブドウ球菌に対しても有効であるが、肺炎球菌、肺炎球菌以外の連鎖球菌および緑膿菌には無効である。

HAARTの登場によって、HIV感染症が進行した患者の合併症発生率および死亡率は劇的に低下した。しかし、HIV患者における細菌性肺炎の発生頻度は必ずしも低下しておらず、入院理由として最も多いのは依然として細菌性肺炎である。HAART時代の現在でも、市中肺炎の起因菌として最も多いのは肺炎球菌であり、緑膿菌は5%~6.7%を占める。緑膿菌がHIV患者における院内肺炎の起因菌として最多であるのは今も変わらず、緑膿菌院内肺炎の死亡率は23%である。緑膿菌肺炎患者のCD4リンパ球数は入院時の平均値は27~42/μLで、HAART前の時代と同等である。

教訓 緑膿菌による市中肺炎はまれです。ただし、COPD 、喫煙、HIV感染もしくは肺の構造に異常が生ずる疾患(気管支拡張症など)といった因子を持つ患者では、緑膿菌による市中肺炎は珍しくありません。
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