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人工心肺とAKI~周術期管理② [anesthesiology]

Cardiopulmonary Bypass–associated Acute Kidney Injury

Anesthesiology 2011年4月号より

AKI-CPBを防ぐには、腎血流を増やす薬剤の投与も一法である。複数の薬剤が研究対象となっている。選択的ドパミンD1受容体作動薬のフェノルドパムは、比較対照のない小規模試験でAKI-CPBの発生頻度を減らす効果があるとされている。フェノルドパムには腎血管拡張という好ましい作用があるが、この効果は低血圧によって打ち消されてしまう可能性がある。カテーテルを用いてフェノルドパムを腎血管内に直接投与するという画期的な方法についての研究が現在進行中である。本剤の使用を広く推奨するには、信頼性の高い研究を積み重ね有効性を証明する必要がある。

CPBによる炎症と酸化ストレスを軽減するためNアセチルシステインを投与する、という薬物療法も取り上げられている。しかし、最近の複数の研究やメタ分析では、NアセチルシステインにAKI-CPBを予防する効果はないという結果が示されている。したがって、Nアセチルシステインのルーチーン使用は推奨されない。

術後早期に全身水分量を調節するのに最も頻用されているのは利尿薬である。利尿薬には(尿量を増やすことによって)腎尿細管の閉塞を防ぎ、尿細管上皮細胞の酸素消費量を減らし急性腎傷害を軽減する作用があると理論上は考えられている。しかし、臨床研究では術後早期にルーチーンで利尿薬を投与(持続静注を含む)しても、AKI-CPBを防ぐことはできないことが示されている。同様に、ドパミンの少量投与(1-3mcg/kg/min)による腎血流量増加が急性腎傷害の予防につながるか否か、という問題についても長年の間活発な議論が繰り広げられてきた。ドパミン少量投与にはAKI-CPB予防効果はないことが、数多くの研究で明らかにされている。AKI-CPBの治療や予防にドパミンや積極的な利尿薬投与の出る幕はない、というのが現在までに蓄積されたエビデンスから導かれる結論である。

人工心肺手術を受ける患者のうち急性腎傷害を発症する危険性の高い患者では、腎代替療法の予防的実施が治療の選択肢となり得るのではないかという意見がある。腎代替療法の予防的実施がAKI-CPBの発生を抑制できるかどうかを検討した過去の諸研究は、腎代替療法実施開始基準が一貫していないため比較検討するのが困難である。また、単一施設研究も複数行われているが、検出力不足のためAKI-CPBの転帰の検証には無理がある。大規模臨床試験を行い実施基準が標準化されれば、将来的には腎代替療法の予防的実施が有効な選択肢となるかもしれない。AKI-CPBの病態生理機序と、その予防を目指した管理方針をfigure 1にまとめた。

その他の管理法

人工心肺の影響を極力少なくしたり、人工心肺の使用自体を避けたりする手術法についての研究が盛んに行われている。心臓外科において「オフポンプ(人工心肺非使用)」手術や「心拍動下」手術が発展したのは1990年代のことである。この手法では拍動流が維持されるとともに、人工心肺回路という異物との血液の接触がないため、炎症性サイトカインの放出が減る。「オンポンプ」手術よりもオフポンプ手術の方が優れていることを示した古い研究の大半は、単一施設研究で無作為化割り当ても行われていない。また、術前の急性腎傷害発症リスクがばらばらの均質でない母集団を対象としているため、本術式による急性腎傷害のリスクを判断することは難しい。以上のような問題があるものの、現在までに蓄積されたデータの多くがオフポンプ手術はオンポンプ手術よりも急性腎傷害のリスクが小さいことを示している。実際、AHAは従来の人工心肺下手術と比べ人工心肺非使用手術の方が腎関連リスクが小さいという見解を示している。

旧来の人工心肺の欠点を極力避けつつオンポンプ手術の利便性を活かす小型人工心肺装置に注目が集まっている。小型人工心肺装置はヘパリンコーティングチューブと人工肺で構成されている。そして、充填容量(プライミングボリューム)が少なく、吸引回路と静脈リザーバがない。この閉鎖式小型人工心肺装置には静脈リザーバがないため、従来型の人工心肺を用いる場合よりも血管内容量が減少せず、平均動脈圧が下がらないという効果が期待されている。小型人工心肺装置では血液希釈が軽度にとどまるため、赤血球輸血が必要となる頻度が減る可能性がある。以上の利点が直接的、間接的に腎保護作用を発揮すると考えられる。

術式を選択する際は、対象患者を適切に選別し、各術者の経験・技量および当該施設における過去の症例数を考慮すべきである。

教訓 Nアセチルシステイン、利尿薬、ドパミン少量投与にはAKI-CPBを防ぐ効果はないようです。
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