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ALI/ARDSにステロイドは効くか?~結果 [critical care]

Use of corticosteroids in acute lung injury and acute respiratory distress syndrome: A systematic review and meta-analysis .

Critical Care Medicine 2009年5月号より

結果
はじめに掬い上げられた2072編のうち、最終的に解析の対象として残ったのは9編であった(Fig. 1)。無作為化比較対照試験(RCT)が4編、コホート研究が5編であった(Table 1)。対象患者数は総計648名であり、307名がコホート研究の対象、341名がRCTの対象であった。対象患者の年齢は比較的若く(平均51歳)、APACHEⅡスコアの平均は18点、基準時点における平均PaO2/FIO2比は126であった。ほぼすべて(8編)の研究で敗血症患者が対象に含まれており、その占める割合は22%から100%であった。男性の方が女性より有意に多く、男性/女性比の中央値は2.3であった。

各研究によって副腎皮質ステロイドの使用法には、少なからぬ差異が認められた(Table 1)。副腎皮質ステロイドの投与量は、メチルプレドニゾロンまたはメチルプレドニゾロン換算で40-250mg/day (平均140mg/day)であった。投与期間も研究によって異なり、7日から32日に分布していた(平均8日)。大半の研究(7編)では、副腎皮質ステロイド投与終了後に、漸減投与を実施していた。しかし、1編では抜管後48時間後にすっぱり中止していた。発症後早期(1週間以内)に副腎皮質ステロイドを投与していたのが4編、それ以降に投与していたのは5編であった。ほとんどの研究では、副腎皮質ステロイド投与群の方が死亡率が低いという結果が得られていた(Table 1)。

大部分の研究で、有害事象の発生率が報告されていた(Table 2)。報告された合併症のうち最も多かったのは感染で、次いで神経筋障害、消化管出血であった。高血糖について言及されていたのは2編のみであった。その他、以上より頻度の低い合併症には、不整脈、気胸、腎不全、肝不全、心不全および精神障害があった(Table 2)。

研究方法は概ね正当であった。無作為化試験では、質評価項目の75%についてデータが提示されていた。コホート研究では質評価項目の82%についてデータが提示されていた。

死亡率
コホート研究、RCTsのいずれにおいても、副腎皮質ステロイド投与によって死亡率が低下する傾向が認められた(Fig. 2)。RCTsから得られた相対危険度は0.51 (95%CI 0.24-1.09)、コホート研究から得られた相対危険度は0.66 (95%CI 0.43-1.02)であった。副腎皮質ステロイド投与による死亡率低下傾向は、いずれの研究でも認められた。しかし、無作為化試験(p=0.08)およびコホート研究(p=0.06)のいずれもが標本数が少なく、統計学的に有意な死亡率の低下は示されていなかった。無作為化試験とコホート研究をあわせると、死亡率低下は有意なレベルに達し(p=0.01; Fig. 2)、総合相対危険度は0.62 (95%CI 0.43-0.91)となった。

Morbidity
副腎皮質ステロイド投与群では、morbidityに関する全ての転帰項目の改善が得られた (Fig. 3)。人工呼吸器使用期間およびICU滞在期間は、4日以上短縮した。人工呼吸器使用期間ではなく、人工呼吸器非使用期間で解析しても結果はほぼ同じであった(4.8日 vs 4.4日)。副腎皮質ステロイドを投与すると、重症度スコアが低下した。具体的には、MODSスコアが32%減、肺傷害スコアが18%減であった。酸素化(PaO2/FIO2比)についてもSD幅の半分以上の改善を認めた。いずれの項目においても、副腎皮質ステロイドによる治療効果が認められ、半数程度において統計学的に有意な効果があるという結果が得られた(Fig. 3)。

有害事象
副腎皮質ステロイド使用群には、その使用を躊躇させるほどの副作用の発現は認められなかった(Fig. 4)。副腎皮質ステロイド使用群と対照群のあいだに、感染または神経筋障害の発生率の差は認められなかった。その他の主な有害事象(消化管出血、主要臓器不全)についても調べたが、副腎皮質ステロイド使用群と対照群のあいだに差は認められなかった(Fig. 4)。

研究間の異質性の検討
死亡率およびmortalityに関するCochraneのQ統計量およびI2を求めたところ、中等度から高度の異質性(ばらつき)が研究間に認められた(Figs. 2と3)。死亡率については異質性は中等度であった(I2=51%)であった。Mortalityに関しては、異質性は高度であった(I2>75%)。そのため、サブグループ解析およびメタ回帰分析を行い、研究間の異質性が総合的な治療効果に与える影響を検討した。サブグループ解析では、副腎皮質ステロイド使用法の差異が認められるものの、いずれのサブグループにおいても一貫してステロイドの治療効果があることが示された(Table 3)。投与時期の違い(早期vs 晩期)、製剤の違い(ハイドロコルチゾン vs メチルプレドニゾロン)または漸減投与の有無といったサブグループ別に解析したが、サブグループ間の相対危険度の差は有意ではないことが分かった。ARDS Networkの低一回換気量研究発表の前と後とに分けてみても、副腎皮質ステロイドの治療効果は同等であった。無作為化試験については、交差比較(クロスオーバー)の有無は治療効果に有意に影響を及ぼしはしなかった。メタ回帰分析では、重症度が増すほど(APACHEⅡスコアが上昇するほど)、治療効果が小さくなることが分かった(Table 4)。その他の変数(年齢、性別、ステロイド投与量、投与時期、投与期間、敗血症患者の占める割合およびステロイド投与前のPaO2/FIO2比)で、治療効果に影響を及ぼすものはなかった。

教訓 コホート研究、RCTsのいずれにおいても、副腎皮質ステロイド投与によって死亡率が低下する傾向が認められました。しかし、無作為化試験(p=0.08)およびコホート研究(p=0.06)のいずれもが統計学的に有意な死亡率の低下を示すには至っていませんでした。無作為化試験とコホート研究をあわせると、死亡率低下は有意なレベルに達し(p=0.01)、合併相対危険度は0.62 (95%CI 0.43-0.91)になりました。副腎皮質ステロイド投与群では、人工呼吸器使用期間およびICU滞在期間は、4日以上短縮し、重症度スコアが低下しました。酸素化(P/F比)も改善しました。
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