SSブログ

溺死最新情報2009~概況 [anesthesiology]

Drowning: Update 2009

Anesthesiology 2009年6月号より

米国で発生する事故死の原因の第三位は溺水である。1970年に米国内で発生した溺死の件数は7860件であった。1984年から1987年のデータによれば、毎年およそ8万人が溺水するが生還し、6万人ほどが溺死する。全世界では一年あたり約15万人が溺死するものと推測されている。米国では溺水生存者13名につき溺死1名という発生状況であるので、これを当てはめると、世界では年間約200万人が溺水し助かっていることになる。

全溺水者のうちおよそ半数が20歳未満であり、水泳に熟達した者が35%を占める。溺水の発生要因は、水辺にいる子供に対して監視を行っていない、アルコールまたは薬物乱用(青少年および成人の溺死例の50%までに関与)、水泳能力が低いまたは疲労により泳げなくなる、外傷、水中危険行為、無謀行為、故意の長時間潜水、基礎疾患(例;てんかん、心疾患、失神など)の増悪および自殺企図である。多く(50%)の溺水事故はスイミングプールで発生するが、湖、河川、暴風雨時の排水(20%)および浴槽(15%)でも生ずる。浴槽やスイミングプールでの溺水例の中には、排水管の陰圧で水中に引き込まれて発生するものがある。幼児は、バケツやトイレにもたれかかって中の水で遊んでいるうちに、はまりこんで溺れることがある。

過去45年あまりのあいだに、溺水の病態生理に関する研究への注目が高まってきている。溺水についての知見が充実し、溺水症例の集中治療が進歩し、高度な救急医療の必要性が叫ばれるようになり、プール安全基準および監視員の訓練が改善し、そして、一般市民に対する心肺蘇生(CPR)訓練が行われるようになった結果、米国では溺水による死亡率が1970年以降2000年にかけて次第に低下してきた。1970年における溺死発生率は人口10万人あたり3.87名であったが、1980年には2.67名、1990年には1.6名、そして2000年に至っては10万人あたり1.24名にまで低下した(table 1)。溺死に関する最新のデータは2005年のものであり、3582名が死亡したことが分かっている。人口統計は10年おきにしか刷新されないため、2005年の人口10万人あたりの溺死発生率を算出することは適わない。だが、1990年から2000年までの人口増加率と同じように、2000年から2005年にかけて人口が増えたとすれば、2005年には10万人あたり1.19人が溺死した計算になる。

本論文の筆者のうち一人は、溺死関連の訴訟事例500件の詳細を知る機会を得た。この多くで、基本的な安全配慮義務の怠りによって溺死が発生していた。プールフェンスが設置されていないもしくは設置が不適切、水辺にいる子供に対する監視を怠っていた、プール設計の欠陥により被害者が水面下に引き込まれた、プール整備不良により水に泥が混じったり混濁したりして水中に沈んだ被害者の視認が困難であった、監視員が監視業務中であるにも関わらず、誰かとおしゃべりに興じていたり入場口業務の応援や掃除などの雑用を行っていたりして監視を怠っていた、監視員が十分な訓練を受けておらず水中で人が溺れかけていても気づかなかった、監視員が救助や蘇生の方法について適切な訓練を受けていなかった、といったものが溺死に関する安全配慮義務違反の例である。いずれも明らかに是正可能な問題である。ほんの少し余分に注意を払えば、回避可能な溺死の発生を防ぐことができるだろう。プールおよび水辺の安全基準がもっと厳格に遵守され、監視員の訓練を徹底し監視・救助・蘇生の重要基本原則がきちんと守られれば、今後も溺死事故は減少するものと期待される。

溺水については、いろいろな定義が入り乱れているため、関連論文の解析や解釈が困難なことがある。そのため、2002年世界溺水会議の専門部会で、「溺水(drowning)」と「溺水の過程(drowning process)」についての新しい定義が提案された。

教訓 全世界における一年あたりの溺死者数は約15万人で、溺水し助かっているのは約200万人と推定されています。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。