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耐性グラム陰性菌がICU転帰に与える影響~考察① [critical care]

Review of studies of the impact on Gram-negative bacterial resistance on outcomes in the intensive care unit.

Critical Care Medicine 2009年4月号より

本レビューの対象とした原著論文21編とメタ分析1編で行われた単変量解析では、耐性グラム陰性菌に感染すると、総じて統計学的に有意かつ臨床的に重大な影響がICU患者の転帰に及ぶことが明らかにされていた。原著論文21編中11編で、感受性菌感染群と比べ、耐性菌感染群では死亡率が有意に高いという結果が示されていた。入院期間について解析を行った13編のうち10編で、耐性菌感染があると入院期間が延長することが示されていた。コストまたは患者に対する請求金額について言及した論文8編中8編で、耐性菌感染によってこれら金額が増大することが報告されていた。ICU患者に限定しない対象についての研究でも同様の結果が報告されている。たとえば、SchwaberとCarmeliが行ったメタ分析では、16編の論文を解析したところ、ESBL産生菌に感染すると死亡率が約2倍に上昇するという結果が得られた(RR, 1.85; 95%CI, 1.39-2.47)。Giskeらも14編の論文を解析したレビューにおいて、ESBL産生エンテロバクター、多剤耐性緑膿菌およびカルバペネム耐性アシネトバクター属感染が死亡率上昇につながると報告している。さらに、同レビューでは、ESBL産生エンテロバクター属感染では入院期間延長とコスト増大、多剤耐性緑膿菌感染では入院期間が延長することが明らかにされている。今回のレビューでは、こうした過去の研究データを対象に、集中治療領域に絞って解析を行った。

本レビューの対象研究に多くの方法論的問題点があったことには、驚きを禁じ得ない(Table 5)。問題点の第一は、ほとんどが遡及的研究であったため選択バイアスおよび確認バイアスが混入しやすいことである。前向き研究5編のうち4編では耐性グラム陰性菌感染と死亡率または入院期間のあいだに有意な相関は認められないという、一考に値する結果が報告されている。Raymondらによる残りの1編では、耐性グラム陰性菌感染があると、死亡率上昇および入院期間延長につながることが明らかにされたが、年齢、APACHEⅡスコア、感染部位および起因菌で患者をマッチングして解析するとこの相関は有意ではないことが判明している。二つ目の問題点は、統計学的検出力の計算を行い、群間差を検出するのに必要な標本数を適切に割り出した研究が皆無であったことである。SchwamberとCarmeliのメタ分析では、報告されている粗死亡率を踏まえると、コホート間の有意差を検出するには342症例が必要であると見積もられている。また、関連する問題として、感受性菌感染例に対して耐性菌感染例が少ない点が挙げられる。マッチングをおこなった研究の中には、耐性菌感染例1例に対し2例以上の感受性菌感染例をマッチさせていたものが数編存在した。小規模研究でもコホート間の有意差を認められたのは、このことが原因である可能性が考えられる。

三つ目の問題点は、医療経済に関するデータを扱った8編のうち、患者に対する請求金額ではなくコストを対象としていたのがわずか3編しかなかったことである。請求金額からコストを算出せずに、請求金額自体をデータとして扱うのは、医療経済に関する分析にありがちな誤りである。請求金額のデータでは、研究間の比較が困難である。請求金額は、地域によって異なるし、施設や年代によっても大きな差がある。したがって、請求金額からコスト金額を割り出さなければ、ある事象が支出に与える真の影響を評価することはできない。食事、ケア、画像診断、血液検査、呼吸療法、薬剤および点滴についてコスト対請求金額比を用いてコストを割り出した研究は1編しかなかった。2001年から2004年にかけてハートフォードで行われたこの研究によると、ESBL産生菌感染によるコスト増加は患者一人当たり16,451米ドルであった。Evansらは患者データベースから得た医療費データを用い、全病院コスト、接触感染防御策に要した手間や器具に関するコストおよび抗菌薬にかかったコストを分析した。ただし、調剤、輸液路の組み立ておよび看護に関わるコストは対象とされなかった。フィラデルフィアで1996年から2000年にかけて行われたこの研究では、耐性グラム陰性菌感染による病院コスト増加は患者一人当たり10,255米ドルであるという結果が得られた。Leeらも、入院中の全コスト、設備費、薬剤費、調剤費、検査費、カテーテルなどの医療器具の費用およびその管理費、手技・手術費、リハビリ、呼吸療法、透析などの特別な治療費、医師診察費、保健施設費について計上し分析を加えた。この研究は台湾で行われ、1996年から2000年の症例が対象となった。結果として、多剤耐性Acinetobacter baumannii感染による患者一人当たりの病院コスト増加は入院コスト分が4865米ドル、抗菌薬コスト分が865米ドルであることが分かった。

第四の問題は、耐性菌感染によるICU患者の転帰悪化は、因果関係を反映しているわけではない可能性があることである。死亡率、入院期間および入院に関わるコストには、多くの要素が影響を及ぼしている。死亡率が上昇すると、入院初期に死亡する例が増えれば、入院期間は皮肉にも短縮する。Table 1から4に示した通り、それぞれの研究において耐性菌感染例と非感染例では、ICU患者の占める割合が大きく異なっており、多くの場合その差は有意であった。したがってこのような差を生む可能性のある交絡因子についての調整をしなければならなかったはずである。だが、本レビューの対象となった研究の多くでは、この単純な統計学的処理が行われておらず、また、多変量解析を行っていない研究が多数を占めた。多変量解析を行った研究では、その大多数において、項目間の相互作用の可能性が検討されず、重症度の調整も厳密には行われず、治療による重症度の変化も捕捉されていなかった。耐性菌感染によりICU転帰が悪化するという結果を示した複数の小規模研究で高いORが得られたのは、標本数が少なすぎて交絡因子の影響を調整することができなかったからであろう。さらに付け加えると、ほとんどの研究では、グラム陰性菌感染ではなく、入院の原因となった背景因子がICU転帰の悪化を招いた決定要素である可能性について考慮されていなかった。転帰の悪化という結果は、単に「重症であればあるほど、経過も転帰も悪い」ことを反映しているだけかもしれない。耐性グラム陰性菌感染が死亡率上昇には結びつかないことを示したBhavnaniらの研究はまさにこのことを証明していると言えよう。なぜなら、この研究では、基礎疾患の重症度はコホート間で同等であり、転帰に影響を及ぼす独立危険因子の数が少なかったからである。

最大の問題点は、重症患者において重大な意味を持つ初期抗菌薬治療が不適切であった場合の影響についてしっかりとした評価が行われていなかったことである。Kollefらの最近の報告によると、不適切な抗菌薬治療は、耐性グラム陰性菌による人工呼吸器関連肺炎患者の30日後死亡率上昇の独立危険因子である(調整OR, 11.7; 95%CI, 3.7-37.5: p=0.04)。この研究は、本レビューの対象論文を検索した期日より後に発表された。したがって、本レビューの対象には含まれていない。不適切な抗菌薬使用として多いのは、緑膿菌およびアシネトバクター属に無効なセフェム系およびフルオロキノロン系の選択であることが分かっている。大多数の研究では、感受性菌感染例よりも耐性菌感染例において、予測的に投与した抗菌薬の選択が不適切であった例が予想に違わず多かった。たとえば、SchwamberとCarmeliの研究では、ESBL産生エンテロバクター属感染例では適切な抗菌薬投与の開始が遅れる危険性が5倍に上昇するという結果が示されている。不適切な予測的抗菌薬治療が死亡率上昇につながることを踏まえると、ほとんどの研究でこの点につき多変量解析で調整されていないことには呆れてしまう。そんななかで、Kwonらの研究は際だったものである。この研究では、死亡率の危険因子についての多変量解析において、はじめに不適切な抗菌薬治療が行われた患者を含めて解析し、次に、適切な治療が行われた患者のみを対象にした。不適切治療群を含めた全患者を対象とした解析では、耐性菌が死亡率に与える影響はごくわずかであったが、不適切治療群を除外したところ、耐性菌感染は死亡率を有意に上昇させるという結果が得られた。

教訓 原著論文21編中11編で、感受性菌感染群と比べ、耐性菌感染群では死亡率が有意に高く、入院期間について解析を行った13編のうち10編で、耐性菌感染があると入院期間が延長することが示されていました。ICU患者に限定しないメタ分析では、ESBL産生菌に感染すると死亡率が約2倍に上昇するという結果が得られています。また、ICU患者に限定しないレビューでも、ESBL産生エンテロバクター、多剤耐性緑膿菌およびカルバペネム耐性アシネトバクター属感染は死亡率上昇につながり、ESBL産生エンテロバクター属感染では入院期間延長とコスト増大、多剤耐性緑膿菌感染では入院期間が延長することが明らかにされています。

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