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耐性グラム陰性菌がICU転帰に与える影響~考察② [critical care]

Review of studies of the impact on Gram-negative bacterial resistance on outcomes in the intensive care unit.

Critical Care Medicine 2009年4月号より

臨床現場で耐性グラム陰性菌の治療をするにあたり、このレビューが示す知見が果たす役割は何であろうか?転帰に影響を与える要素として理論的に考えられるのは、起因菌、宿主、そして医師の行動である。このうち、医師の行動は、感染が疑われるときにそれが実際に耐性グラム陰性菌によるものなのかどうかを左右する要素ではない。培養結果がまだ出ていない状況では、耐性の有無は医師には分からない。さらに、宿主要因の多くは医師が変更できるようなものではない。たとえば、重症度や基礎疾患などである。したがって、医師が影響を及ぼすことができる要素は、治療のプロセスだけである。治療のプロセスのうち、耐性グラム陰性菌感染例に対する適切な初期抗菌薬治療の実施は、非常に重要性が高い。適切な初期抗菌薬治療が実施されれば、抗菌薬投与期間が短縮するという結果が複数の研究で得られていることも、初期抗菌薬治療が果たす役割の重要性をさらに後押ししている。抗菌薬投与期間が短縮すれば、抗菌薬に関わるコストおよび全コストの圧縮につながる。その実例として、黄色ブドウ球菌感染に対して、適切な初期抗菌薬治療が実施されると、入院期間が短縮するという結果が最近の研究で明らかにされている。

同様に、重症グラム陰性菌感染でも、適切な初期治療を行うと入院期間が短縮する可能性があることが予備研究で分かっている。Soo Hooらは、重症院内肺炎に対して初期抗菌薬治療にカルバペネムを投与することを定めた臨床ガイドラインを導入したところ、カルバペネムを制限した場合と比べ14日後死亡率が低下するという結果を報告した。この研究ではコストについては記されていない。Garciaらも、ICUで発生した院内肺炎の治療ガイドラインを導入し、肺炎関連死亡率が既往コホート研究のデータよりも低下したことを報告している。言うまでもなく、カルバペネムのような広域スペクトラムの抗菌薬の使用は、万能の解決策であるわけではない。Stenotrophomonasや緑膿菌、アシネトバクター属のなかには、カルバペネムにも耐性を示すことがある。したがって、各施設におけるグラム陰性菌の耐性パターンを念頭に、診療パターンと処方パターンを状況に適応させながら、この問題に取り組む必要がある。当たり前だが、適切な抗菌薬治療を行うのと同時に、エビデンスに基づいた感染予防策およびその教育を徹底しなければならない。

本レビューで行った解析にはいくつかの問題点がある。第一に、正式なメタ分析ではないことが挙げられる。今回とった方法には、観測研究のメタ分析に関して疫学分野で推奨されているやり方を多く採用したのだが、各研究の結果および全体の結果をまとめた図は作成していないし、バイアスに関する定量評価も行っていない。第二の問題は、成人患者40人未満またはICU症例の占める割合が全体の39%未満であった研究をやむを得ず除外したことである。この除外基準は任意に設定したものではあるが、対象論文の数を絞り込み、かつ、重症患者についての一般的知見を得るために必要な措置である。249編の研究における各コホートについて、本レビューの対象として適格かどうかを判断したのだが、その大部分が今回設定した除外基準を上回るか、もしくは相当下回っていた。したがって、この除外基準は適切であったと考えられる。

以上のように、本レビューの対象研究にもこの質的レビュー自体にもいろいろな問題点はあるが、今までの知見を総合すると、耐性グラム陰性菌感染がICUで発生すると死亡率上昇および入院期間延長につながる可能性がある。そうなれば、患者に対する請求金額またはコストが増大する。しかし、今回のレビューの対象研究で採られている方法には多くの問題点があることを踏まえると、しっかりした前向き研究を行い、先行研究の問題点を解消し前述の知見を確認する必要がある。また、耐性グラム陰性菌を克服する方法、つまり、感染予防策、教育、よりよい抗菌薬治療についての研究もさらに重ねる必要がある。たとえば、良質なデザインの研究を行い、広域スペクトラム抗菌薬をまず予測的に投与し、その後狭域スペクトラムの抗菌薬に変更する(de-escalation)方法の費用対効果を検証する必要がある。このような研究には、国家的財政補助が期待される。

教訓 耐性グラム陰性菌感染がICUで発生すると死亡率上昇および入院期間延長につながる可能性があります。適切な初期治療(はじめから広域スペクトラムの抗菌薬を投与する)の実施が重要です。

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