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ICUの毒性学~尿アルカリ化、HIE [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

尿のアルカリ化

イオン化しやすい薬物は、尿のpHが高くなると尿中にイオンの状態で溶け、再吸収されにくくなり排泄が進む。尿のアルカリ化が有効な外因性化学物質をTable 6にまとめた。一般的には尿をアルカリ化するとは、尿pHを7.5以上にすることを指す。ただし、サリチル酸中毒の場合には、尿pHが8.5ぐらいにならないとサリチル酸の腎クリアランスは上昇しない。尿のアルカリ化に関しては、標準的な方法はない。多く行われているのは、5%ブドウ糖液1Lに炭酸水素ナトリウム150mEqを混合して投与する方法である。高カリウム血症がなければ、通常はカリウムの補充が必要である。そうでないと遠位尿細管においてカリウムイオンではなく水素イオンが分泌されてそれと引き替えにナトリウムイオンが再吸収される逆説的酸性尿になってしまうからである。

新しい治療法

近年、中毒の分野では新しい治療法がいくつも登場している。例えば、重症カルシウムチャネル遮断薬中毒に対する高インスリン正常血糖(HIE)療法、脂溶性薬物中毒によるショックに対する脂肪乳剤の静注、シアン中毒に対するヒドロキソコバラミン(ビタミンB12)の投与などである。

高インスリン正常血糖療法(HIE)

カルシウムチャネル遮断薬中毒の特徴は、低血圧、低カリウム血症、不整脈、代謝性アシドーシスおよび高血糖である。高血糖にはいろいろな機序が関与する。カルシウムチャネル遮断薬は、膵β細胞にL型カルシウムチャネルを通じてカルシウムが流入するのを妨げ、インスリンの放出を障害する。また、カルシウムチャネル遮断薬中毒になると、細胞内シグナル伝達がうまくいかなくなりインスリン抵抗性が出現する。カルシウムチャネル遮断薬中毒のときには、心筋細胞が優先的に利用するエネルギー基質が遊離脂肪酸からブドウ糖へと変わる。大量インスリン投与によって脂肪や筋肉におけるブドウ糖の細胞内取り込みが促進され、細胞質中のカルシウム濃度が低下し、細胞内へカリウム移動する。高インスリン正常血糖療法を行うと、心筋収縮力が増強し平均動脈圧が上昇するが、普通は徐脈や伝導障害は改善しない。臨床的な改善が認められるのは本法を開始してから約30分後からである。多数とはいえないもののいくつもの研究でヒトに高インスリン正常血糖療法が行われているが、カルシウムチャネル遮断薬中毒における有用性を検討した前向き研究はまだ行われていない。この治療法を実施すると、低血糖および低カリウム血症といった有害事象が起こりうる。しかし、高インスリン正常血糖療法についての前向き無作為化比較対照試験が実行される可能性はないであろう。

高インスリン正常血糖療法のやり方についてはいろいろなガイドラインがある。インスリン1単位/kgをボーラス静注後、0.5~1単位/kg/時を持続静注する方法がその一例である。血糖値は頻繁に測定しなければならない。著しい高血糖がある場合を除いて、はじめにブドウ糖1.0g/kgをボーラス投与し、引き続き0.5g/kg/時を持続静注する。ブドウ糖の投与量は、血糖値に応じて変化させる。

高インスリン正常血糖療法の開始時期については議論の多いところである。比較対照試験が行われていない現状では、第一選択の治療法として推奨することはできない。しかし、土壇場に追い詰められてから最後の望みをかけるかのように行っても失敗におわることが示されているため、昇圧薬の投与などの標準的な治療を行っても改善が認められなければ速やかに高インスリン正常血糖療法を開始するのが妥当であると考えられる。この治療法は、血糖値が高く心筋収縮力が低下している患者において特に有効であると考えられている。

教訓 尿をアルカリ化するときには低カリウム血症にならないようにしなければなりません。Caブロッカー中毒には、昇圧薬を投与しても改善が認められなければ高インスリン正常血糖療法が有効かもしれません。
尿のアルカリ化によってクリアランスが増大する物質 サリチル酸、クロルプロパミド(SU剤)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(除草剤)、ジフルニサル(サリチル酸誘導体)、フッ化物、メコプロップ(農薬)、メトトレキセート、フェノバルビタール
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