SSブログ

ICUの毒性学~検査 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

中毒の検査

中毒の原因になった薬剤または違法薬物を特定したり定量したりするには、大抵の場合、血清または尿の検査が有用である。患者が何らかの中毒症状を呈しているのか、それとも別の疾患なのかがはっきりしない場合、血液や尿の検査は特定の薬物中毒を除外または確定するのに非常に役立つ。例えば、譫妄、頻脈および発熱が認められる患者では、薬物スクリーニング尿検査でコカインまたはメタンフェタミンが検出されなければ、感染が疑われるし、薬物スクリーニングが陽性であればベンゾジアゼピン慎重投与、早めの気管挿管、積極的な冷却などの特異的治療を開始することができる。しかし特定の薬剤についての検査をあれこれ行うのは上策ではなかったり、患者一人一人の管理に支障を来たしたりする可能性がある。その上、結果を判断する際にはそれぞれの検査に特有の限界や、検査結果が臨床像と齟齬しないかどうかについて考慮しなければならない。

大半の薬物スクリーニング尿検査は免疫学的測定法による検査で、対応する化学構造に抗体が結合すると結果が陽性になる。だが、ある同じ系統に属する薬剤の全てが必ずしも同じ構造を有しているわけではないため、偽陰性になることが珍しくない。例えば、ベンゾジアゼピンのうちロラゼパムやアルプラゾラムは代謝されてもオキサゼパムにはならないため、薬物スクリーニング検査の種類によっては検出できないことがある。カンナビノイドのスクリーニング検査では代謝産物のδ-9-テトラヒドロカンナビノールを検出するため、「スパイス」という違法薬物に含まれる合成カンナビノイドのJWH-018のような、カンナビノイド作用を持ちながら構造が異なる物質は見逃してしまう。一方、スクリーニングの対象物質と似た構造を持つ他の系統の薬が体内にあると、偽陽性の結果が出てしまう。例えば、三環系抗うつ薬、ジフェンヒドラミン、サイクロベンザプリン、カルバマゼピンおよびクエチアピンは構造が似ているため、抗三環系抗うつ薬のスクリーニング検査で偽陽性が出る原因となる。薬物スクリーニング尿検査では往々にして偽陽性が出る。したがって、ガスクロマトグラフィ/質量分析法で確認されるまでは、スクリーニング検査の結果は仮のものとして考えなければならない。それぞれの検査の特異度は免疫学的測定法の特性によって異なる。薬物スクリーニング尿検査は当該薬物の使用を中止しても長期にわたって陽性のままのことがある。この場合は、検査で陽性であっても、過去に当該薬物を使用したことを示すに過ぎない(Table 2)。大半の薬物は尿中濃度と中毒発症の有無とのあいだに相関はない。

薬剤によっては、血清中薬物濃度の測定が役立つ。例えば、リチウム、ジゴキシン、バルプロ酸、カルバマゼピン、フェニトイン、サリチル酸およびアセトアミノフェンの中毒の場合は、血中濃度によって管理の内容を決めなければならない(Table 3)。三環系抗うつ薬などのその他の薬は血中濃度と臨床像とがあまりよく相関しないため、血中濃度の測定はそれほど有益ではない。しかし、極めて大量に摂取したかどうかを知るには役立つこともあると考えられる。

いろいろなギャップ

測定される主要な陽イオンと陰イオンの差をアニオンギャップと言う。正常値は4~12mEq/Lである。アニオンギャップの上昇が認められる場合、通常は測定されない陽イオンが増加していることが示唆され、代謝性アシドーシスの原因を絞ることができる(Table 4)。リチウム、臭素またはヨウ素中毒ではアニオンギャップが低かったりマイナスになったりする。高脂血症または低アルブミン血症でもアニオンギャップが低下することがある。

浸透圧ギャップは浸透圧の測定値(mOsm/kg water)と予測値(mOsm/L)との差であり、浸透圧活性のある物質が存在するかどうかを判断するのに用いる(Fig. 1)。ナトリウム、尿素窒素、クレアチニンおよびブドウ糖の濃度と、浸透圧測定値から浸透圧ギャップを算出する。信頼性の高い浸透圧ギャップ値を得るには、いずれの値も同時に測定しなければならない。正常値は-14~10である。エタノール、エチレングリコール、メタノール、イソプロパノール、添加物(プロピレングリコールなど)、ケトンが体内にある場合やショック状態のとき、浸透圧ギャップが上昇する。浸透圧ギャップは正常値の範囲が大きいため、患者にとっては臨床的に問題のある値であっても「正常値」となってしまうことがあることに注意しなければならない。

動脈血酸素飽和度ギャップは、酸素飽和度計算値(酸素分圧とpHから算出する)と多波長オキシメトリ(パルスオキシメトリとは異なる高度な器械)による酸素飽和度測定値との差である。動脈血酸素飽和度ギャップが5%を超える場合、カルボキシヘモグロビン、メトヘモグロビンまたはスルフヘモグロビンが原因であることが多い。シアン中毒では酸素飽和度ギャップは上昇しない。

教訓 
尿検査で検出される期間 アンフェタミン4日、短時間作用性ベンゾジアゼピン3日、長時間作用性ベンゾジアゼピン4週間、オピオイド4日、短時間作用性バルビツレート24時間、長時間作用性バルビツレート3週間、コカイン3日、マリファナ(一回使用)3日、マリファナ(長期間使用)4週間、フェンシクリジン(「エンジェルダスト」「クリスタル」)8日
アニオンギャップが増加する代謝性アシドーシス=MUDPILES
Methanol, metformin
Uremia
Diabetic ketoacidosis
Paraldehyde, propylene glycol, propofol
Iron, isoniazid, ibuprofen
Lactate
Ethanol, ethylene glycol
Salicylates, starvation ketoacidosis
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。