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ICUの毒性学~有毒アルコール、離脱症候群 [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

有毒アルコール

メタノール、エチレングリコールおよびイソプロパノールを有毒アルコールと言う。この三つの有毒アルコールの親化合物にはいずれも浸透圧活性があり、アルコール脱水素酵素によって代謝される。メタノールが代謝されると蟻酸ができ、エチレングリコールはグリコール酸とシュウ酸に代謝される。こうした代謝産物が臨床的毒性の原因である。イソプロパノールは代謝されてアセトンになる。いずれも中枢抑制作用がある。

イソプロパノールは分解されて、アセト酢酸やβヒドロキシ酪酸ではなくアセトンになるので摂取しても代謝性アシドーシスは起こらない。イソプロパノール中毒の臨床所見は、通常は中枢神経抑制のみであるが、時として出血性胃炎が見られることもある。生化学検査の際にアセトンが干渉し、血清クレアチニンが実際の値よりも高く出てしまうことがある。エタノール中毒と同じく、保存的治療を行う。イソプロパノール中毒の治療に際しては、アルコール脱水素酵素を阻害しても効果はない。

エチレングリコールもメタノールも、摂取するとはじめは浸透圧ギャップが増大し、次いで高アニオンギャップの代謝性アシドーシスが生ずる。重症例では昏睡に至る。エチレングリコール中毒ではシュウ酸カルシウム結晶尿と急性腎不全が見られるのが特徴である。メタノールは、網膜出血を伴う視力障害や失明が起こることがある。脳出血の報告例もある。

血清中のエチレングリコール、メタノールおよびイソプロパノール濃度は大半の施設では測定できないが、もし数時間以内に結果が分かれば治療の役に立つ。初期治療方針は、現病歴、理学的所見および検査所見(高アニオンギャップ代謝性アシドーシスか?浸透圧ギャップが増大しているか?など)に基づいて決定する。検査所見については既に本シリーズの第一回で詳細に述べた。

エチレングリコールまたはメタノールの中毒に対する治療法としては、エタノールまたはフォメピゾールを投与してアルコール脱水素酵素を阻害し、毒性のある代謝産物の生成を防ぐという方法がある。フォメピゾールの方がエタノールよりも、投与量調節が用意で副作用が少ない。動物実験のデータに基づき、炭酸水素ナトリウムが推奨されている。炭酸水素ナトリウムは、ヒトの症例報告でも有効性があることが示されている。ガイドラインでは血清中濃度が高ければ透析を行うことが推奨されているが、難治性のアシドーシスがあるか、または末期臓器不全がある場合を除いては、透析は必要ないことが明らかにされている。メタノールを大量摂取したのであれば、フォメピゾールによってメタノールの除去半減期が延長するため透析が有効である可能性がある。また、透析を行うと体内水分量を調節し、浸透圧利尿が起こらないようにすることができる。動物モデルではロイコボリンおよび葉酸がメタノール中毒に有効であることが示されていて、ヒトでもその効果が期待されている。エチレングリコール中毒ではサイアミンおよびピリドキシンを投与すると毒性のない物質に代謝される経路が活性化する。サイアミンやピリドキシンにはたちの悪い副作用はないため、推奨されている。

離脱症候群

ICUに入室した中毒患者の管理においては、離脱症状が発生してそれに関連する合併症を避けるため、離脱症候群を起こす危険性の有無を早い段階で判断することが重要である。ただし、意識障害、併存疾患、不正確な病歴または病歴が不明などの事情により、早期に判断するのは容易ではない。頻度の高い離脱症候群をTable 8にまとめた。

鎮静催眠薬(エタノールを含む)による離脱症候群の最適な治療法に関しては諸説があるが、データによれば、まずベンゾジアゼピンまたはフェノバルビタールを投与するとよい。提唱されている投与法は、計画的投与、要時投与、それに初回ローディング投与(front loading)などである。初回ローディング投与を行うと、症状が速やかに改善する利点がある。また、臨床的な反応を見ながらすぐにベッドサイドでGABAA作動薬の投与を開始/調節し、引き続き計画的投与または要時投与に移行することができる。症状がちゃんと改善されているかどうかを注意深く観察し、医原性過鎮静を維持するよう心がけなければならない。肝機能障害がある患者に関して、肝で代謝される薬剤(ジアゼパムなど)を使用すると合併症発生率が上昇することを示した報告はない。アルコール離脱症候群の治療におけるデクスメデトミジンの有効性を検討した無作為化比較対照試験は、まだ行われていない。

バクロフェンの離脱症候群は治療が困難である。クモ膜下持続投与ポンプの故障によって生じたバクロフェン離脱症候群は、とりわけ難渋する。そのような場合の対処法は、理想としては可及的速やかにクモ膜下にバクロフェンを投与するカテーテルを入れ替えることである。

オピオイドの離脱症候群は、通常は命に関わるようなことはない。意識障害が起こることは滅多にない。例外は、ナロキソン大量投与後の興奮性譫妄である。オピオイド離脱症候群を治療するには、長時間作用性のオピオイドを徐々に減量し、急性痛については別途短時間作用性の薬剤を投与する。コカインやアンフェタミンのような興奮剤は、特有の離脱症候群を生ずることはない。

まとめ

中毒患者は、原因物質の摂取量、全身状態および基礎疾患に応じた個別対応が必要であることが多い。保存療法および二次的合併症の予防が特に重要である。最適な治療を行うには、地域の中毒管理センターまたは医学毒性学の専門家からの助言が不可欠である。

教訓 有毒アルコール(メタノール、エチレングリコールおよびイソプロパノール)は代謝産物に毒性があります。エチレングリコールまたはメタノールの中毒に対する治療法としては、エタノールまたはフォメピゾールを投与してアルコール脱水素酵素を阻害し、毒性のある代謝産物の生成を防ぐという方法があります。フォメピゾールの方が投与量の調節が容易で副作用が少ないのでよさそうです。エチレングリコール中毒ではサイアミンおよびピリドキシンを投与すると毒性のない物質に代謝される経路が活性化します。
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ICUの毒性学~抗うつ薬、Li、眠剤 [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

抗うつ薬

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はセロトニンの再取り込みを阻害し、シナプスにおけるセロトニン濃度を上昇させる。急性中毒でよく見られる症状は、軽い鎮静と嘔吐である。セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は治療量でも過量摂取後であっても、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。一般的に、SSRIおよびSNRIは過量摂取しても重篤な状態にはなりにくい。各製剤に特有の徴候をTable 5にまとめた。過量摂取に対しては対症療法を行えばよく、痙攣にはベンゾジアゼピンが有効である。

三環系抗うつ薬はSSRIやSNRIよりはるかに毒性が高い。作用機序と中毒症状をTable 6にまとめた。急性の過量摂取の場合は2時間以内に中毒症状があらわれることが多いが、深刻な症状は6時間後ぐらいにならないと発現しないことがある。血管拡張(α遮断作用)および心筋抑制(ナトリウムチャネル遮断作用)による低血圧が見られる。治療法は、積極的な輸液と炭酸水素ナトリウムおよび直接作用性の昇圧薬の投与である。血液pHおよび血清ナトリウム濃度を上昇させると、ナトリウムチャネル遮断作用が抑制される。心室内伝導障害、治療抵抗性の低血圧および心室性不整脈に対しては高張炭酸水素ナトリウム溶液を静脈内投与する。QRS延長には炭酸水素ナトリウムが有効であることが多いものの、正常血圧の患者に対して炭酸水素ナトリウムを投与すべきタイミングを検討した研究は行われていない。低血圧または心室性不整脈にQRS延長を伴う場合には炭酸水素ナトリウムを投与すべきである。十分なアルカリ化(pH>7.55)が達成されても心室性不整脈が続くのであれば、高張食塩水(成人ならば例えば3%食塩水200mL)and/orリドカインを投与しなければならない。痙攣にはベンゾジアゼピンが有効である。標準的治療を行ってもショックが遷延する症例では脂肪乳剤が有効であるとする逸話的報告もある。

リチウム

リチウムは治療域が狭いため中毒が起こりやすい。リチウム中毒には、急性中毒、慢性投与中の急性中毒、慢性中毒の三種類がある。リチウム使用歴のない急性中毒では、もとの組織リチウム濃度が低く分布に時間がかかるため、中毒症状はそれほどひどくない。徐放剤では分布だけでなく吸収にも時間がかかる。慢性投与中の急性中毒は、治療域のリチウム濃度が維持されていた患者がリチウムを過量摂取すると起こるが、通常は重症化しない。ただし、リチウム使用歴のまったくない患者の過量摂取と比べると、普段リチウムを使用している患者の過量摂取の方が中毒につながりやすい。慢性中毒の典型例は、リチウム治療中に排泄能が低下して起こるパターンである。薬物相互作用、脱水または急性腎傷害などが排泄能低下の原因となる。慢性中毒では顕著な症状が現れる。リチウムを慢性的に服用していると、すでに組織のリチウム濃度が高いからである。体内の総リチウム量がほんの少し普段より増えるだけで、慢性中毒が発症しうる。利尿薬、ACE阻害薬、アンギオテンシン受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬およびNSAIDsはリチウムのクリアランスを低下させる。

軽度の中毒であれば、下痢や嘔吐ぐらいの症状しかあらわれない。下痢や嘔吐が続けば腎からのリチウムの排泄能が低下する。重症中毒では、振戦、反射亢進、クローヌスおよび歯車様固縮が見られる(以上の症状は治療域であっても出現することがある)。舞踏病アテトーシス、構音障害および失調が起こることもある。さらに重症化すると、眠気、混迷、痙攣があらわれ昏睡に陥る。心症状も珍しくないが深刻な結果になることは少ない。具体的には、非特異的なST-T変化、様々なAVブロック、QT延長、洞性徐脈などである。

長期投与(治療域)または過量摂取によって、尿細管細胞表面へのアクアポリン2の移動が起こりにくくなり腎性尿崩症が発生する。リチウムによって起こりうるその他の内分泌異常は甲状腺機能低下症および副甲状腺機能亢進症である。

血中リチウム濃度は一般的には中毒の発症とはあまり相関しない。組織への分布に時間がかかるため、摂取してから間もなく採血してリチウム濃度を測定すると、かなり高いことがある。リチウム中毒の治療は、血管内容量不足の是正、ナトリウム補充および十分な尿量の確保である。脱水の初期治療には生理食塩水を用いる。ナトリウムが不足すると腎からのリチウム再吸収が促進されるからである。

リチウムは透析で非常によく除去されるが、透析による転帰の改善を裏付けるエビデンスは不足している。透析実施の要否は、臨床所見(脳症など)、腎機能およびリチウム濃度(経過を追って繰り返し測定する)に基づいて判断する。もし透析を行うのであれば、組織から血管コンパートメントへのリチウムの再分布によって血中濃度の再上昇が起こりうるため、血清リチウム濃度がほぼゼロになるまで透析を続けるべきである。

中枢性筋弛緩薬と鎮静催眠薬

鎮静催眠薬、カリソプロドール(筋弛緩薬)およびバクロフェンは、眠気、運動失調、睡眠および呼吸抑制を引き起こす。ベンゾジアゼピンのみの過量摂取では、呼吸抑制から死亡に至ることは滅多にない。しかし、呼吸抑制を来す薬剤を複数同時に過量摂取した場合は、呼吸抑制が命取りになりうる。こういった薬剤を過量摂取すると、徐脈や低血圧が生ずる。鎮静催眠薬や中枢性筋弛緩薬は大半が、それ自体または代謝産物がGABAA受容体を活性化する。ただしバクロフェンはGABAB受容体に作用する。

各薬剤に特有の作用をTable 7にまとめた。このうち二、三の薬剤については特に注意点がある。バクロフェンの過量摂取は、低低温、低血圧、徐脈、昏睡および痙攣を引き起こす。抱水クロラールに特徴的な副作用は消化管出血、低血圧、QT延長、および頻脈性不整脈であり、TdPではない心室性不整脈の場合は、カテコラミンの作用が増強されていることが原因であると考えられていて、β遮断薬が有効かもしれない。γヒドロキシ酪酸およびその類似物質は高用量では中枢神経抑制や呼吸不全を起こす。カリソプロドールの過量摂取では昏睡やミオクローヌスが生ずる。

治療は保存的に行う。鎮静催眠薬、バクロフェンまたはカリソプロドールを長期間使用している患者では離脱症候群が発生するリスクがあるため、過量摂取してしまった場合でも、意識がはっきりしたら同じ薬を再開しなければならない。

教訓 三環系抗うつ薬中毒では、血管拡張(α遮断作用)および心筋抑制(ナトリウムチャネル遮断作用)による低血圧が見られます。十分アルカリ化(pH>7.55)しても心室性不整脈が続くのであれば、高張食塩水and/orリドカインを投与します。痙攣にはベンゾジアゼピンが有効です。標準的治療を行ってもショックが遷延する症例では脂肪乳剤が有効であるとする説もあります。
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ICUの毒性学~メトヘモグロビン、有機リン [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

メトヘモグロビン血症

ヘモグロビンの二価鉄を酸化して三価鉄にする外因性化学物質に曝露されるとメトヘモグロビン血症になる。主な原因物質は、局所麻酔薬(ベンゾカインなど)、亜硝酸塩、フェナゾピリジンおよびダプソンなどである。医薬品以外ではアニリンとニトロベンゼンがメトヘモグロビン血症の原因になり得る。乳児は感染でメトヘモグロビン血症になることがある。シトクロムb5還元酵素欠損症の患者はメトヘモグロビン血症になりやすいが、G6PD欠損症の患者はそうではない。

ヘム四量体の鉄原子のうち一つから三つが酸化されると、残りの酸化されていない二価鉄が酸素を放出しにくくなり酸素解離曲線が左方偏位する。メトヘモグロビン濃度が1.5g/dLを超えると目に見えるチアノーゼがあらわれるので貧血がない限りなかなかチアノーゼが出現するレベルには達しない。チアノーゼは酸素運搬能が大幅に低下するより前の段階で発生するのが普通である。酸素運搬能低下の症候は、呼吸困難、頻脈、高血圧および頻呼吸で、重症化すると昏睡、乳酸アシドーシス、痙攣、徐脈、致死的不整脈が出現する。

多波長コオキシメトリを用いて確定診断を行う。一般のパルスオキシメトリでは、メトヘモグロビンの割合が増えるほど真の酸素飽和度よりも高い値が出て、最終的には85%に低下する(それでも真の値より高い)。一般のパルスオキシメトリで酸素飽和度が85%と表示されると、その後メトヘモグロビン濃度が増えても、器械はそのまま85%を示し続ける。他に低酸素血症の原因がなければ、メトヘモグロビン血症だけでは動脈血酸素分圧は低下しない。動脈血および静脈血は異様に黒っぽく見える。メトヘモグロビンが形成される原因となる物質は、メトヘモグロビン産生と同時に酸化ストレスによる溶血を引き起こすからである。

治療法は、原因物質の除去と酸素投与である。酸素を与えて残ったヘモグロビンによって運搬される酸素の量を確保しなければならない。酸素運搬量が極度に減少していることを示す症候が見られれば、メチレンブルーを静注する。メチレンブルーは通常は働いていない経路を通じてメトヘモグロビンを除去する。G6PD欠損症の患者ではメチレンブルーは無効で、かえって溶血のリスクが上昇するおそれがある。メトヘモグロビンの割合だけでなく、酸素運搬量の推移を評価する必要がある。重症メトヘモグロビン血症では輸血を行わなければならなにこともある。スルフヘモグロビン血症がメトヘモグロビン血症に合併したり、スルフメトヘモグロビン血症をメトヘモグロビン血症と誤診したりすることがある。スルフメトヘモグロビン血症にはメチレンブルーは無効である。

有機リン酸塩(organophosphate, OP)

有機リン系化合物は殺虫剤、医薬品および神経剤などに含まれている。有機リン系化合物中毒の発症および重症度は、化合物の種類、曝露量、曝露経路、および代謝速度によって異なる。有機リン酸塩は神経細胞のアセチルコリンエステラーゼを阻害するので、アセチルコリンが蓄積し、ムスカリン受容体およびニコチン受容体が過度に刺激される(Table 3)。

急性有機リン中毒の症状が消失して数日後に近位筋の筋力低下を呈する中間症候群(intermediate syndrome)というものがある。初期治療が不適切であるとこの症候群が出現すると考えられている。大量曝露後には遅発性多発神経障害が起こり脱力が見られることがある。典型的には数週間後に発症する。これはneuropathy target esteraseの阻害によるものと推測されている。

急性有機リン中毒の診断は臨床像に基づいて下す。ただし、血漿および赤血球のアセチルコリンエステラーゼ活性を測定すれば、神経細胞のアセチルコリンエステラーゼ活性の代替指標となる。残念ながら多くの施設ではこの検査を迅速に行うことはできない。

有機リン中毒による死亡もしくは重症化の主たる原因は、気管支攣縮、気管内分泌物多量、筋力低下/麻痺による呼吸不全である。気管挿管を要することもある。治療薬はアトロピン、プラリドキシム(PAM)およびベンゾジアゼピンである(Table 4)。初期治療においては常識外れに大量のアトロピンを投与しなければならないこともある。アトロピンが手元にない場合には、グリコピロレートを静注するとよいという報告がある。サクシニルコリンはアセチルコリンエステラーゼによって分解されるので、有機リン中毒のときにサクシニルコリンを使用すると効果が遷延するおそれがある。アトロピンはムスカリン受容体の拮抗薬であり、筋力低下や麻痺を防ぐ効果はない。

プラリドキシムの治療効果については賛否両論がある。急性有機リン中毒の治療に際し、アトロピン単剤とアトロピンとプラリドキシムの併用とは同等に有効であるとされている。中等度の有機リン中毒患者に対し、早い段階でプラリドキシムの持続静注開始する方が、間欠的ボーラス投与を行うよりも生存率が改善することが明らかにされている。直ちに適切な量のアトロピンを投与し保存的治療を行うのが有機リン中毒の治療における基本方針である。中等度から重症の有機リン中毒ではアトロピンに加えプラリドキシムを投与する。

教訓 メトヘモグロビン血症は多波長コオキシメトリで診断します。一般のパルスオキシメトリでは、メトヘモグロビンの割合が増えるほど真の酸素飽和度よりも高い値が出て、最終的には85%に低下します(それでも真の値より高い)。その後メトヘモグロビン濃度が増えても、器械はそのまま85%を示し続けます。有機リン中毒では、まずアトロピンを投与します。初回は1-2mg ivです。効果が見られないか状態が悪化する場合は2-3分おきに、初回の二倍量を投与します。
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ICUの毒性学~一酸化炭素、シアン化物 [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

一酸化炭素

一酸化炭素は無色無臭で無刺激の気体で、急速に体内に吸収される。一酸化炭素の吸収量は大気中の一酸化炭素濃度、曝露時間および生理学的パラメータ(分時換気量や心拍出量)によって決まる。吸収された後は、カルボキシヘモグロビン(一酸化炭素ヘモグロビン)を形成し、ヘモグロビンが酸素を組織に運搬することができなくなる。酸素解離曲線は左方偏移する。一酸化中毒になると、頭痛、めまい、吐き気、昏迷、昏睡などが生じ、死亡に至ることもある。

重症一酸化炭素中毒では、無症状の患者もしくは冠動脈疾患のない患者であっても心血管系への影響が生ずる可能性がある。神経症状または心血管系症状が見られる場合は、全例で心電図をとらなければならない。重症例、心電図異常所見のある症例、または心血管系疾患の既往がある症例では心筋逸脱酵素の検査を行うべきである。各症例の治療法は、カルボキシヘモグロビン濃度ではなく臨床所見に応じて決定すべきである。二波長を用いるパルスオキシメータでは、一酸化炭素中毒による酸素飽和度の低下を検出することはできない。多波長コオキシメータで酸素飽和度を評価しなければならない。

一酸化炭素中毒の症状が消失するまでは、全例に100%酸素(大気圧下)を投与する。高気圧酸素(HBO)療法を行うとカルボキシヘモグロビンの半減期が短縮することが知られているが、適応および有効性については賛否両論がある。カルボキシヘモグロビン濃度が非常に高く、失神、けいれん、心筋虚血が見られたり、大気圧下で100%酸素を投与しても意識障害が改善しなかったりする場合は、高気圧酸素療法の実施を考慮すべきである。胎児ヘモグロビンは一酸化炭素に対する親和性が成人のヘモグロビンより高いため、胎児の方が母体よりも一酸化炭素中毒になりやすい。妊婦に高気圧酸素療法を推奨することの是非については相反する意見が示されている。急性一酸化炭素中毒では、遅発性の神経精神障害が発生することがある。しかし、遅発性神経精神障害を防ぐため高気圧酸素療法を行うべきなのはどんな特性を有する患者なのかを示す基準は確立していない。

シアン化物

生体内ではシアン化物はシアン化水素として存在しミトコンドリア中にあるシトクロムオキシダーゼの一種であるシトクロムa3を阻害する。その結果、電子伝達、酸素消費およびATP産生が停止する。青酸塩、シアン化水素(煙の吸引を含む)、シアン基を含む化合物(植物やハーブの青酸配糖体など)、ニトリル、ニトロプルシッドなどへの曝露がシアン化物中毒の原因となる。昏睡、痙攣、代謝性アシドーシス、頻脈および低血圧が突然出現した場合はシアン化物中毒を疑う。しかし、青酸配糖体の摂取やニトリル曝露による中毒はすぐにはあらわれないことがある。

苦みのあるアーモンド臭もしくは鮮紅色の皮膚/血液といった特徴的な所見が実際に認められることはほとんどない。シアン化物中毒では、ヘモグロビン酸素飽和度の測定値と計算値に差はあらわれない。シアン化物中毒になるとQT間隔が短くなり、R on Tになることがある。

解毒の方法は以下の二つである:(1)亜硝酸ナトリウムまたはチオ硫酸ナトリウムの静注。(2)ヒドロキソコバラミン+/-チオ硫酸ナトリウムの静注。亜硝酸を投与するとメトヘモグロビン濃度が上昇し、組織からシアン化水素が追い出される。チオ硫酸はイオン転移反応によってシアン化水素がチオシアン化物になるのを促進する。チオシアン化物は腎から排泄される。ヒドロキソコバラミンはシアン化水素と結合してシアノコバラミンを形成する。シアノコバラミンも腎から排泄される。ヒドロキソコバラミンについては本シリーズのパート1で詳述した。

シアン化水素は煙に含まれる物質である。煙を吸引したときに何らかのシアン化物解毒剤を投与すると生存率が向上するかどうかを検討した無作為化比較対照試験は行われていない。しかし、チオ硫酸ナトリウムもヒドロキソコバラミンもメトヘモグロビンを形成するわけではないので、ヘモグロビンの酸素運搬能は低下しないため、顕著な高カルボキシヘモグロビン血症がある場合には有効であると考えられる。

教訓 汎用されている普通のパルスオキシメータでは、一酸化炭素中毒による酸素飽和度の低下を検出することはできません。一酸化炭素中毒患者の酸素飽和度は多波長コオキシメータで評価します。
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ICUの毒性学~ジゴキシン、ケタミン [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

ジゴキシン

強心配糖体はNa/K ATPaseを阻害し、細胞内ナトリウムおよび細胞外カリウムを増やす。細胞内ナトリウム濃度が上昇すると、細胞内カルシウム濃度も上がり収縮力が増強する。ジゴキシン中毒では心室筋の自動能が亢進し、迷走神経刺激による徐脈やブロックが起こりやすくなる。

急性中毒と慢性中毒とでは臨床症候が異なる。急性中毒の特徴は、吐き気と嘔吐が初発症状で、その後徐脈や伝導障害が出現する。脱力や意識障害が見られることもあるが、このような症状は慢性中毒で現れやすい。慢性中毒は腎機能障害、投与量の調節ミスもしくは他剤との相互作用などのために発生することが多い。急性中毒と比べ、消化管症状、神経精神症状(譫妄など)、眼症状(黄視症など)が出現する頻度が高い。事実上、心房頻拍以外のどんなタイプの不整脈も起こり得る。両方向性心室頻拍は頻度は低いが、ジゴキシン中毒に比較的特有の不整脈である。

ジゴキシン濃度、腎機能、電解質、尿量および循環動態を厳重に監視しなければならない。投与最終回から6時間以内に採取した検体のジゴキシン血中濃度は参考にならないおそれがある。ジゴキシンは分布に時間がかかるため、投与直後は血中濃度が見かけ上高くなってしまうからである。急性中毒になると高カリウム血症になる。高カリウム血症が見られる場合は死亡率が高い。低カリウム血症や低マグネシウム血症があると慢性中毒を起こしやすい。

ジゴキシン特異的抗原結合性(Fab)フラグメントの適応は、急性過量摂取後の高カリウム血症(5.5mEq/L以上)および致死的不整脈である(Table 2)。元々心機能が高度に低下している患者では、今にも死にそうな状態でないのであれば、ジゴキシンの治療効果までも拮抗してしまうのを避けるためFabフラグメントの投与量を減らさなければならない。腎不全患者ではジゴキシンとジゴキシン-Fab複合体のいずれの排泄も遅延する。そのため、ジゴキシン-Fab複合体が分離してジゴキシンによる症状が再燃する可能性がある。Fabフラグメント投与後は総ジゴキシン濃度が上昇するので、判断を誤らないようにしなければならない。したがって、遊離ジコキシン濃度を治療の参考にすべきである。しかし、遊離ジゴキシン濃度を測定できる検査室は少ない。

解離性麻酔薬

ケタミン、フェンシクリジンおよびデキストロメトルファン(メジコンⓇ、代謝産物のデキストルファンに解離性麻酔薬の作用がある)は解離性麻酔薬であり、NMDA受容体に拮抗する。中毒に陥った場合の臨床徴候は、譫妄、高血圧、頻脈、眼振、発汗、高体温および横紋筋融解症である。ケタミンまたはフェンシクリジンの中毒では、アドレナリン受容体刺激作用やコリン作働性受容体刺激作用が主体となることがある。デキストロメトルファンは抗ヒスタミン薬に含まれていて、過量摂取すると抗コリン作用による中毒症状を呈する。デキストロメトルファンをセロトニン受容体作働薬と一緒に服用すると、セロトニン症候群が起こる。

解離性麻酔薬の中毒例では、興奮して不穏状態にならないように刺激を与えるのを防ぐなどの対策を主体とした保存的療法を行う。高体温であれば冷却し、輸液療法を行い、不穏またはけいれんが認められればベンゾジアゼピンを投与する。

教訓 ジゴキシンは分布に時間がかかるため、投与直後は血中濃度が見かけ上高くなります。ジゴキシン特異的抗原結合性(Fab)フラグメントの適応は、ジゴキシン急性過量摂取後の高カリウム血症(5.5mEq/L以上)と致死的不整脈です。
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ICUの毒性学~抗凝固/抗血栓薬、Caブロッカー、βブロッカー [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

抗凝固薬および抗血小板薬

ワーファリン中毒は、投与量調節の失敗や薬剤相互作用が原因となって起こることが多い。ワーファリンの緊急拮抗の要否は、PT-INRおよび臨床経過から判断する(Table 1)。出血のリスクはINRが上昇するに従って増大する。ワーファリン中毒では、外傷による出血や、原因不明の出血が多い。ワーファリンを過量摂取した場合、数日後にならなければINRは最高値に達しないことがある。そのようなときには、凝固能低下を防ぐにはビタミンKを繰り返し投与しなければならない。スーパーワーファリン(殺鼠剤に含まれるbrodifacoumなど)を摂取した際には、数週間にわたり連日多量のビタミンKを投与しなければならなくなることがある。

チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレルはADP受容体阻害薬である。出血時間はADP阻害作用を評価する間接的な指標である。より正確にADP受容体阻害薬の作用を評価するには、血小板凝集能を測定しなければならない。深刻な出血が見られる場合は、血小板輸血が有効である。デスモプレッシンの投与を考慮してもよい。

米国において現時点で認可されている低分子量ヘパリンは、エノキサパリン、ダルテパリンおよびチンザパリンの三剤である。未分画ヘパリンも低分子量ヘパリンもAT-Ⅲに結合するが、低分子量ヘパリンの方が活性化第Ⅹ因子の阻害作用が強い。

ヘパリン過量投与によって起こる可能性のある主な合併症は、出血とヘパリン起因性血小板減少症(HIT)である。ヘパリンを含有するどんな物質によってもHITが発生しうるが、低分子量ヘパリンでHITが起こることは少ない。未分画ヘパリンを投与して出血が見られたら、硫酸プロタミンによってヘパリンを拮抗すればよい。プロタミン1mgでヘパリン100単位を拮抗することができる。しかし、低分子量ヘパリンはプロタミンを投与しても十分に拮抗することはできない。低分子量ヘパリン中毒の治療法を検討した研究は行われていないが、プロタミンを投与しても出血が続く場合は、血液製剤や遺伝子組み換え活性化第Ⅶ因子を使用すべきである。低分子量ヘパリンの使用に際し、凝固能検査は不要である。なぜなら、たとえ過量投与の場合であっても、凝固因子の阻害の程度と出血のリスクとが相関しないからである。

カルシウムチャネル遮断薬

カルシウムチャネル遮断薬は、L型カルシウムチャネルに拮抗し血管を拡張させ、心収縮力、刺激伝導系および心拍数を抑制する。ベラパミルまたはジルチアゼムの中毒では、心収縮力が低下し血管が拡張するが、ジヒドロピリジン(アムロジピンなど)の過量摂取では、心臓に関する基礎疾患がないかまたはβ遮断薬を使用していない患者では、血管拡張作用が前面にあらわれ、時として反射性頻脈が見られる。いずれのカルシウム遮断薬であっても過量摂取すれば生命を脅かす恐れがある。ベラパミル中毒はとりわけ致死的である。

カルシウムチャネル遮断薬は心臓に作用し、徐脈、房室ブロックおよび接合部調律があらわれる。低血圧や低血糖が見られることも珍しくない。血管拡張のため皮膚が温かく乾燥した状態になるため、あたかも心拍出量が適正であるかのような誤った印象を与えることがある。皮膚が温かく乾燥していて血圧が見かけ上正常範囲内であるのに、腎機能低下や代謝性アシドーシスが新たに出現した場合は、心エコーや肺動脈カテーテルを用いて心機能を詳細に評価する必要がある。

速放性製剤を摂取した場合、典型的には6時間以内に作用が発現する。徐放性製剤の場合はもっと長い時間が経過してから毒性が発現し、作用が長期に続く。したがって、過量摂取後、少なくとも18時間は観察を行わなければならない。

治療にあたっては、慎重に輸液療法を行い、直接作用性の昇圧薬を早い段階から投与して血行動態の安定化を図る。カルシウム製剤を静脈内投与すると血圧が上昇するかもしれないので試してみる価値はある。しかし、その効果は症例によってまちまちであり、高カルシウム血症を引き起こすおそれもある。治療抵抗性で臨床的に問題となるレベルの徐脈性不整脈に対しては一時的ペーシングを行う。高インスリン正常血糖療法を考慮してもよい。治療が困難なショックに対し、人工心肺、ECMOおよびIABPが有効であったとする報告がある。

β遮断薬

β受容体を遮断すると、cAMPの濃度が低下する。徐脈、低血圧、様々なブロック、心不全が出現し、時には低血糖が見られる。膜安定化作用のあるβ遮断薬(プロプラノロールなど)はナトリウムチャネルを遮断するので、QRSを延長させ、心収縮力を低下させる。さらに、プロプラノロールは血液脳関門を通過するので、けいれんや昏睡を来しうる。ソタロールはカリウムの流出を阻害し、QTcを延長させる。

過量摂取しても症状がない症例では、速放性製剤なら6時間、徐放性製剤なら8時間観察すれば医学的には問題はない。しかし、ソタロール中毒の場合は、症状発現までに時間がかかるため少なくとも12時間は観察しなければならない。

グルカゴンの早期投与が、β遮断薬中毒に対する治療法の一つである。グルカゴンはβ受容体を介することなくアデニル酸シクラーゼを活性化するからである。初回は、成人では2~5mgを静脈内ボーラス投与する。その後反応を見ながら持続静注(mg/hr)する。症例によっては、初回に最大10mgのグルカゴンを投与しなければならない。グルカゴンを投与すると、吐き気、高血糖、急性耐性などが生ずることがある。直接作用性の昇圧薬を投与する必要が生ずる症例もある。

教訓 低分子量ヘパリンの効果は凝固能検査を行っても分かりません。Caブロッカーの中ではベラパミルが最も深刻な中毒症状を招きます。Caブロッカー中毒には高インスリン正常血糖療法を行うと効果があるかもしれません。β遮断薬中毒ではグルカゴンを早めに投与します。

参考記事
ワーファリンの緊急拮抗~治療の選択肢
ワーファリンの緊急拮抗~PCC vs FFP 
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ICUの毒性学~アセトアミノフェン&サリチル酸 [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

本稿はICUにおける中毒患者の管理一般についての三回連続特集の第二回である。今回は、ICUで遭遇する可能性のある中毒物質を一つ一つ取り上げる。

アセトアミノフェン

アセトアミノフェン中毒は、アセトアミノフェンを無毒化する代謝過程の処理量以上にアセトアミノフェンを摂取しN-アセチル-パラ-ベンゾキノンイミン(NAPQI)が多量に産生されて起こる。NAPQIが増えるとグルタチオンが減り、肝毒性があらわれる。

アセトアミノフェン中毒では、通常は摂取から24時間以内に嘔吐が見られる。その後、高度の肝機能障害が起こり、プロトロンビン時間が上昇する。典型例では、摂取4日後に肝傷害が最も激しくなり小葉中心性壊死を呈する。アセトアミノフェンを大量摂取した場合には、代謝性アシドーシス、凝固能低下、腎不全および脳症が見られる。肝不全が起こらなくても重症の腎傷害が発生することがある。

一回限りのアセトアミノフェン急性過量摂取例では、N-アセチルシステイン(NAC)投与の要否はRumack-Matthewノモグラムを用いて判断する(Fig. 1)。N-アセチルシステインはフリーラジカルスカベンジャーであるとともにグルタチオンの前駆体である。過量摂取から8時間以内に投与を開始すれば、劇症肝不全(FHF)が起こるリスクはほぼゼロになる。しかし、かなり時間が経ってから(摂取から24時間後以降)受診した患者であっても、NACは有効である。経口投与の場合は72時間治療を行うことになっているが、患者によってはもっと短時間の投与で終わらせる方がよいこともある。静脈内投与の場合は、初回量を1時間かけて投与し、その後20時間持続投与を行う。その後、症状が消失し、プロトロンビン時間およびトランスアミナーゼの値が低下すれば持続投与は中止してもよい。NACを20時間持続投与してもトランスアミナーゼが上昇する場合は、投与量を6.25mg/kg/hrにして症状が消失し肝機能検査の結果が改善するまでNACの投与を続ける。

アセトアミノフェン過量摂取による劇症肝不全における肝移植の適応基準は、積極的な治療を行っても動脈血pHが7.3未満、肝性脳症グレードⅢ/Ⅳ、プロトロンビン時間100秒以上、血清クレアチニン3.4mg/dL以上である。以上のような状態であれば早期に認識し、移植センターへ移送することが重要である。アセトアミノフェン過量摂取による劇症肝不全では脳保護プロトコルの実施を考慮すべきである。

アセトアミノフェンは胎盤を通過するが、NAPQIは通過しない。胎児がNAPQIを産生できるようになるのは妊娠中期以降である。NACの適応や投与法は妊娠中も非妊時と同じである。

サリチル酸

急性サリチル酸中毒では、耳鳴り、過換気、腹痛および嘔吐が出現する。重症になると、頻脈、発汗、譫妄や痙攣が見られる。血清サリチル酸濃度は、過量摂取から24時間以上経過しても最高値には達しないことがある。特に、腸溶剤の場合は血中濃度が上がるのに時間がかかる。

サリチル酸は脳幹を刺激するので、呼吸性アルカローシスが起こる。重症中毒になると、酸化的リン酸化が脱共役化され(電子伝達反応が進行してもATPが合成されなくなり)、ATPが減り、アシドーシスが進み、高体温になる。

治療の一番の目標は、脳にサリチル酸が広がるのを抑えることである。大量輸液と炭酸水素ナトリウムの静脈内投与によるアルカリ化によって、サリチル酸が中枢神経系に分布し難くなり、排泄が促進される。尿のアルカリ化を維持するため、血清カリウム値は正常範囲内に保たなければならない。鎮静and/or気管挿管を行う際には、呼吸性アルカローシスにしておくことが絶対に必要である。血糖値を測定し、低血糖が見られれば直ちに補正する。動物実験では血糖値が正常でも脳脊髄液中の糖濃度が低下しうることが明らかにされている。

酸血症になるとサリチル酸の分布容積が増大するので、血清中濃度が低下したとしても中毒症状は悪化する。サリチル酸中毒を思わせる症状がある患者においては、確定診断に先立ち輸液とアルカリ化を直ちに開始すべきである。サリチル酸は血液透析によって除去することができる。血液透析の適応は、高度のアシドーシス、内科的治療を行ってもサリチル酸血中濃度が上昇する、脳症、心肺機能低下、腎不全などが見られる場合である。脳症が出現しているのに迅速に治療(アルカリ化および透析)を行う必要性が見過ごされる症例は、死亡する可能性が高い。

教訓 N-アセチルシステインをアセトアミノフェン過量摂取から8時間以内に投与を開始すれば、劇症肝不全が起こるリスクはほぼゼロになります。摂取から24時間後以降経ってから受診した患者であっても有効です。サリチル酸中毒では大量輸液とアルカリ化がポイントです。
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ICUの毒性学~脂肪乳剤、VitB12 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

脂肪乳剤の静脈内投与

データは限られているものの、脂肪乳剤の静脈内投与は局所麻酔薬による神経毒性または心毒性の標準的治療法と見なされている。局所麻酔薬中毒によるヒトの心停止に脂肪乳剤を静注して蘇生に成功したことがはじめて報告されたのは2006年のことである。ブピバカイン、クロミプラミン、ベラパミル、そしておそらくプロプラノロルの中毒に脂肪乳剤が有効であることが動物実験で示されている。ラモトリジンおよびブプロピロンにより長時間の心停止に陥った症例の蘇生に、脂肪乳剤が有効であったという症例報告もある。

脂肪乳剤の静脈内投与が効果を上げる機序は正確には分かっていないが、脂溶性薬剤が血管内コンパートメントに移行することによって原因物質の分布容量が減少し、標的組織における濃度が低下することが関与していると考えられている。その他、ミトコンドリアにおける脂質代謝の阻害、ミトコンドリアへの脂肪酸運搬の障害、およびカリウムチャネルおよびカルシウムチャネルの活性化などが関わっているという説もある。

脂溶性薬剤による重症中毒で、標準的な方法では改善が認められない場合は、脂肪乳剤の静脈内投与を考慮すべきである。脂肪乳剤には、10%、20%および30%製剤があり、投与法についてはいくつかの方法が提唱されている。臨床例および動物実験に基づいて作成された投与法では、20%脂肪乳剤1.5mL/kgを1分かけて静注し、引き続いて0.25mL/kg/分の持続静注を60分行う。初回のボーラス静注で反応が見られなければ、5分間隔で2回ボーラス投与を繰り返してもよい。それでも低血圧が続けば、持続投与量を0.5mL/kg/minまで増やす。発熱、高脂血症、肺傷害、肝脾腫、血小板減少および脂肪塞栓などが、理論的に考えられる副作用である。だが、脂肪乳剤を蘇生薬として用いた場合の有害作用はほとんど報告されている。血中に脂質が増えるため、血液検査が一時的に困難になり、おかしな結果が出ることがある。プロポフォールは脂肪乳剤の代替製剤にはならないことをよく認識しておかなければならない。プロポフォールには心筋抑制作用があり、また、含まれる脂肪成分が脂肪乳剤とは異なる。

ヒドロキソコバラミン

シアン中毒に対する従来の治療法は、亜硝酸薬(メトヘモグロビン血症にするため)およびチオ硫酸ナトリウム(シアン化合物をチオシアン化合物に変化させるため)の投与である。この方法は、一酸化炭素ヘモグロビン濃度が高い患者では好ましくない。ヒドロキソコバラミン(シアノキットⓇ)はシアン中毒に対する解毒剤として新たにFDAに認可された薬剤である。ヒドロキソコバラミンはビタミンB12aで、シアノコバラミン(ビタミンB12)の前駆体である。ヒドロキソコバラミンがシアン化合物と結合してシアノコバラミンとなり、腎から排泄される。通常、5gを静脈内投与する。必要であればもう一回追加投与する。ブタのシアン中毒モデルを用いた実験では、亜硝酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムを投与したときと同等の効果がヒドロキソコバラミンとチオ硫酸ナトリウムの投与で得られることが明らかにされている。この二剤は混注が禁じられているため、同じ静脈路から投与してはならない。ヒドロキソコバラミンにはいくつかの副作用がある。必ずしも悪い副作用ではないが、コバラミンは一酸化窒素を除去するため平均動脈圧が上昇することがある。ヒドロキソコバラミンを投与すると、組織や血液が一過性にピンク色になったり、オキシメトリの測定値が狂ったり、AST、ビリルビン、クレアチニン、マグネシウムおよび鉄の血中濃度が変化したりする。血液が変色するため、血液透析中に透析器がダイアライザーから血液が漏れていると誤認して、透析が出来なくなってしまったり遅れが生じたりすることがある。ヒドロキソコバラミンを投与すると、ニキビのような紅斑や皮疹が出現することも珍しくない。

まとめ

ある種の化学物質や違法薬物を使用または過量摂取すると重篤な状態に陥ることがある。多くの物質が特有の中毒症候群を呈するため、そこから何の中毒なのかを割り出し、最も適切だと考えられる治療法を予測的に決定することができる。様々な除洗法、新しい解毒療法、除去効率を上昇させる方法について知ることによって、集中治療の現場で適切な管理を行う準備を整えることができる。中毒患者の管理に当たっては、医学毒性学の専門家や各地域の中毒センターに各症例の治療方針について相談すべきである。

教訓 局麻中毒には脂肪乳剤、シアン中毒にはシアノキットが有効です。プロポフォールは脂肪乳剤の代わりにはなりません。イントラリピッドなどを使ってください。
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ICUの毒性学~尿アルカリ化、HIE [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

尿のアルカリ化

イオン化しやすい薬物は、尿のpHが高くなると尿中にイオンの状態で溶け、再吸収されにくくなり排泄が進む。尿のアルカリ化が有効な外因性化学物質をTable 6にまとめた。一般的には尿をアルカリ化するとは、尿pHを7.5以上にすることを指す。ただし、サリチル酸中毒の場合には、尿pHが8.5ぐらいにならないとサリチル酸の腎クリアランスは上昇しない。尿のアルカリ化に関しては、標準的な方法はない。多く行われているのは、5%ブドウ糖液1Lに炭酸水素ナトリウム150mEqを混合して投与する方法である。高カリウム血症がなければ、通常はカリウムの補充が必要である。そうでないと遠位尿細管においてカリウムイオンではなく水素イオンが分泌されてそれと引き替えにナトリウムイオンが再吸収される逆説的酸性尿になってしまうからである。

新しい治療法

近年、中毒の分野では新しい治療法がいくつも登場している。例えば、重症カルシウムチャネル遮断薬中毒に対する高インスリン正常血糖(HIE)療法、脂溶性薬物中毒によるショックに対する脂肪乳剤の静注、シアン中毒に対するヒドロキソコバラミン(ビタミンB12)の投与などである。

高インスリン正常血糖療法(HIE)

カルシウムチャネル遮断薬中毒の特徴は、低血圧、低カリウム血症、不整脈、代謝性アシドーシスおよび高血糖である。高血糖にはいろいろな機序が関与する。カルシウムチャネル遮断薬は、膵β細胞にL型カルシウムチャネルを通じてカルシウムが流入するのを妨げ、インスリンの放出を障害する。また、カルシウムチャネル遮断薬中毒になると、細胞内シグナル伝達がうまくいかなくなりインスリン抵抗性が出現する。カルシウムチャネル遮断薬中毒のときには、心筋細胞が優先的に利用するエネルギー基質が遊離脂肪酸からブドウ糖へと変わる。大量インスリン投与によって脂肪や筋肉におけるブドウ糖の細胞内取り込みが促進され、細胞質中のカルシウム濃度が低下し、細胞内へカリウム移動する。高インスリン正常血糖療法を行うと、心筋収縮力が増強し平均動脈圧が上昇するが、普通は徐脈や伝導障害は改善しない。臨床的な改善が認められるのは本法を開始してから約30分後からである。多数とはいえないもののいくつもの研究でヒトに高インスリン正常血糖療法が行われているが、カルシウムチャネル遮断薬中毒における有用性を検討した前向き研究はまだ行われていない。この治療法を実施すると、低血糖および低カリウム血症といった有害事象が起こりうる。しかし、高インスリン正常血糖療法についての前向き無作為化比較対照試験が実行される可能性はないであろう。

高インスリン正常血糖療法のやり方についてはいろいろなガイドラインがある。インスリン1単位/kgをボーラス静注後、0.5~1単位/kg/時を持続静注する方法がその一例である。血糖値は頻繁に測定しなければならない。著しい高血糖がある場合を除いて、はじめにブドウ糖1.0g/kgをボーラス投与し、引き続き0.5g/kg/時を持続静注する。ブドウ糖の投与量は、血糖値に応じて変化させる。

高インスリン正常血糖療法の開始時期については議論の多いところである。比較対照試験が行われていない現状では、第一選択の治療法として推奨することはできない。しかし、土壇場に追い詰められてから最後の望みをかけるかのように行っても失敗におわることが示されているため、昇圧薬の投与などの標準的な治療を行っても改善が認められなければ速やかに高インスリン正常血糖療法を開始するのが妥当であると考えられる。この治療法は、血糖値が高く心筋収縮力が低下している患者において特に有効であると考えられている。

教訓 尿をアルカリ化するときには低カリウム血症にならないようにしなければなりません。Caブロッカー中毒には、昇圧薬を投与しても改善が認められなければ高インスリン正常血糖療法が有効かもしれません。
尿のアルカリ化によってクリアランスが増大する物質 サリチル酸、クロルプロパミド(SU剤)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(除草剤)、ジフルニサル(サリチル酸誘導体)、フッ化物、メコプロップ(農薬)、メトトレキセート、フェノバルビタール
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ICUの毒性学~透析 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

除去効率を上昇させる方法

外因性化学物質の薬理効果や毒性の発現様式は、標的組織にどれだけ到達するかによって左右される。薬物動態学は吸収、分布、代謝、クリアランスおよび体外への除去などを扱う学問である。体外循環による除去の目的は、標的組織における有害物質の濃度を低下もしくは中毒量に達しないようにすることである。外因性化学物質を体外循環によって除去する場合、当該物質の分子量、タンパク結合率および見かけ上の分布容積によって除去効率が決まる。分布容積が小さい(<1L/kg)物質は組織へ到達しにくく血中濃度が比較的高いまま維持される。分子量が小さく、分布容積が小さく、水溶性が高く、タンパク結合率が低い外因性化学物質については、血液透析による除去が有効である。こういう物質は濾過膜を容易に通過し、透析液に溶けやすいからである。

体外循環による毒物除去の主役は血液透析である。血液透析を行えば、薬物およびその代謝産物の血中濃度を低下させるとともに、体内水分量および電解質の異常も同時に是正することができる。血液透析が有効な外因性化学物質をTable 5にまとめた。血液吸着はタンパク結合率の高い物質の除去効率が高い。カルバマゼピンなどの中毒では血液透析よりも血液吸着の法が有効であるが、米国に所在する医療施設の大半では血液吸着は行われていない。

血液透析の利点は、技術的な難しさがなくどこでも実施が可能であることである。血液透析では循環血液中の外因性化学物質しか除去することができないため、コンパートメント間を移動する物質や吸収に時間がかかる物質の中毒では長時間または繰り返しての透析が必要になることがある。その一例がリチウム中毒の治療である。リチウムは透析後何時間も経ってから再分布して、血中濃度が再上昇する。このように血中濃度の再上昇(リバウンド)が懸念される場合には、血液透析を終了するに先立ちカートリッジに流入する血液を用いて当該物質の濃度を測定しなければならない。血液透析を行うと、治療目的で使用している薬剤まで除去されてしまうことがある。その場合は、薬剤の投与間隔を短くしなければならない。

体外循環による除去には、分子吸着材再循環システム(molecular adsorbent recirculating system)、低効率透析(sustained low-efficiency dialysis)、持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy)などの新しい方法が登場している。中毒患者の治療にこういった方法が有用であることもあるが、一般的には補助的療法として位置づけておくべきである。また、持続的腎代替療法が間欠的透析よりも低血圧患者には安全であるということを示そうとした複数の研究では、思ったような結果は得られずじまいであった。

血液透析で除去できる外因性化学物質

サリチル酸は分子量が小さく、分布容積が比較的小さく、タンパク結合率が高いが、過量摂取した場合にはタンパクに結合していない遊離サリチル酸が増えるため、血液透析が有効である。サリチル酸中毒の治療においてどのタイミングで血液透析を開始すべきかを根拠に基づいて示したガイドラインはない。意識障害、肺水腫、痙攣が認められるか、保存的治療を積極的に行ってもサリチル酸血中濃度が高止まりまたは上昇傾向が認められたり、急性過量摂取で血清中サリチル酸濃度が100mg/dL付近まで上がっていたりする場合には、血液透析を緊急実施するのが一般的である。

リチウムイオンは分子量が小さく、タンパク結合率は非常に低く、分布容積が小さい。サリチル酸中毒と同様に、どのタイミングで血液透析を開始すべきかを根拠に基づいて示したガイドラインはない。その上、リチウム中毒の臨床転帰が血液透析によって改善することは今のところ証明されていないため、診療の実態にはばらつきがあり、最善の治療法については異なる様々な意見が示されている。医学分野の毒性学専門家の多くが、リチウムイオンを透析で除去すべきかどうかを判断するには、血中濃度よりも脳症または神経毒性などの臨床所見を重視すべきだと考えている。急性リチウム中毒では、再分布が終了する以前の段階、つまりリチウム摂取から2~3時間以内の血中リチウムイオン濃度は軽く4mEq/Lを超えるが、臨床症状はほとんど出現しない。しかし、リチウムが中枢神経系に到達しないうちに血液透析を行って除去すべきだと主張する専門家もいる。持続的腎代替療法であれば、リチウムを緩徐に除去することができ、血中濃度の再上昇を防ぐこともできるためリチウム中毒の治療に有用であるとされている。しかし、持続的腎代替療法の有益性を裏付けるエビデンスは限られているため、リチウムイオンを体外循環によって除去する場合に推奨される方法は、今のところはやはり血液透析である。

エチレングリコールおよびメタノールは分子量が小さく、タンパク結合率が低く、分布容積が小さい。血液透析を行えば、親化合物も毒性のある代謝産物も一挙に除去することができる上に、pH、体内水分量および電解質の異常も是正することができる。メタノールまたはエチレングリコール中毒に対し、アルコール脱水素酵素の安全かつ有効な阻害薬であるフォメピゾールが登場し、血液透析の適応が変わった。フォメピゾールが登場する以前は、血漿中のメタノールまたはエチレングリコール濃度が50mg/dLを超えると血液透析を開始していた。現在では、フォメピゾールを投与した場合には血中濃度が高いだけで血液透析を行ってはならないことになっている。しかし、高度の代謝性アシドーシスや腎機能障害が認められる場合は、有毒なアルコール系化合物の血中濃度に関わらず血液透析を行わなければならない。イソプロパノールも血液透析で除去できるが、毒性の極めて少ないアセトンに代謝されるため、大半のイソプロパノール中毒症例では血液透析を行う必要はない。

教訓 分子量が小さく、分布容積が小さく、水溶性が高く、タンパク結合率が低い物質は、血液透析による除去が有効です。
透析で除去できる物質 サリチル酸、フェノバルビタール、テオフィリン、メタノール、エチレングリコール、リチウム、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロピルアルコール、バルプロ酸、カルバマゼピン
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ICUの毒性学~消化管除洗 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

消化管除洗

消化管除洗とは、毒物が消化管から吸収されるのを極力防ぐことを目的として行われる何らかの手段を指す。従来行われている消化管除洗は、活性炭や吐根(催吐薬)シロップの投与、胃洗浄、全腸管洗浄などである。しかし、吐根シロップの投与や胃洗浄は有用性が証明されてない上に、好ましくない副作用があるため、もはやルーチーンで行うことは推奨されていない。

大半の薬物中毒において、活性炭は原因薬物の摂取後1時間以内の投与が有効であるが、サリチル酸などの場合は1時間以上経過してから投与しても効果を期待できる。推奨投与量は、小児では0.5~1g/kg、成人では25~100gである。炭化水素、アルコール、大多数の金属(タリウム以外)は活性炭に吸着されない。活性炭投与の合併症として誤嚥が起こりうる。誤嚥すると長期間の入院が必要となったり、肺傷害が発生したり死亡する可能性もある。したがって、反射があり気道が防御されている患者および挿管患者以外では活性炭は禁忌である。よくある副作用は、嘔吐、腹部膨満感、便秘、下痢などである。相対的禁忌は、内視鏡検査や腹部手術の予定がある場合である。活性炭を使用したときは、下剤(ソルビトールなど)を投与してはならない。活性炭をルーチーンで使用しても、罹患率/死亡率が低下することをはっきりと示した研究は今のところはないことを銘記しなければならない。

活性炭の単回使用による胃内除洗と異なり、活性炭を計画的に繰り返し投与することによって原因薬物をより積極的に除去する方法もある。これは、活性炭反復投与と呼ばれる。活性炭反復投与が様々な薬物(テオフィリン、ダプソン、フェノバルビタール、カルバマゼピンおよびキニン)の血中濃度の低下に有効であることが示され推奨されているが、死亡率などの決定的な転帰の改善につながったとする報告はない。ルーチーンで活性炭反復投与を行うことは推奨されない。

全腸管洗浄は、ポリエチレングリコールを主成分とした溶液を大量に(1.5~2L/hr)投与し、毒物が消化管を速やかに通過するように働きかける方法である。健康被験者を対象とした研究では、アスピリン腸溶錠やリチウム徐放錠の吸収を抑制するのに全腸管洗浄が有効であることが明らかにされている。ルーチーン実施は推奨されていないが、ベラパミルや鉄をはじめとする金属(特に元素としての鉄を高濃度に含む物質)の中毒、違法薬物を詰め込んだ容れ物を飲み込んでいて症状がまだ出現していない場合など、毒性が高く吸収に時間がかかる物質を摂取した患者では全腸管洗浄の実施を検討すべきである。反射がなかったり舌根沈下が見られたりして気道に不安がある患者や、イレウスや腸閉塞がある場合には禁忌である。活性炭と同様に、臨床的転帰が改善することを示すデータはない。

ボタン電池や薬物胃石は内視鏡で除去するが、違法薬物を詰め込んだ容れ物を飲んだ場合には開腹術を行うのが通例である。ボタン電池が食道や気管に引っかかってしまった時には、内視鏡的に除去しなければならない。交感神経刺激薬を詰め込んだ容れ物を飲んで、容れ物から薬剤が漏れ出して症状が出現している場合は、緊急開腹術を実施しなければならない。ヘロインであれば、保存的に管理することも可能である。薬物を充填した容れ物によって腸閉塞が起こったときには、やはり手術を行わなければならない。

教訓 消化管除洗には、活性炭の投与と全腸管洗浄があります。全腸管洗浄は、ポリエチレングリコールを主成分とした溶液を大量に(1.5~2L/hr)投与する方法です。胃洗浄をルーチーンで行うことは推奨されていません。活性炭や全腸管洗浄で転帰が改善することを示したデータはありません。
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ICUの毒性学~昏睡カクテル [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

昏睡カクテル

原因不明の意識障害には、まず「昏睡カクテル」を投与するのが過去の慣例であった。昏睡カクテルとは、ブドウ糖、サイアミンおよびナロキソンのことであり、この三剤を静注するのである。血糖値は迅速検査が可能であり、低血糖の場合は直ちに診断して血糖値を補正することができる。血糖値の迅速検査を行うことができない状況では、血糖値が判明しなくてもとりあえずブドウ糖を投与しなければならない。

サイアミン(ビタミンB1)はウェルニッケ脳症の悪化予防を目的にブドウ糖と共にルーチーンで投与される。投与量は100mgである。原因不明の意識障害に対するサイアミンの予測的投与の有用性を裏付ける根拠はなく、質の高くない症例集積研究に依拠するに過ぎない慣習である。アルコール乱用に限らず、悪阻などの別の疾患にウェルニッケ脳症が合併することがある。低血糖が疑われるときは、サイアミンが手元にないからと言ってブドウ糖の投与を躊躇してはならない。そして、本当にウェルニッケ脳症が疑われる症例では、100mgどころではない、もっと大量のサイアミンを投与しなければならない。

ナロキソンはオピオイド受容体の競合的アンタゴニストである。原因不明の意識障害患者にナロキソンを投与するのは、オピオイドによる呼吸抑制を改善するためである。治療目標の理想は、離脱症候群を引き起こすことなく、気管挿管を回避することである。そのため、初回投与量は0.2~0.4mg静注とするのが妥当である。効果が見られなければ、2~10mgまで投与量を速やかに増やしてもよい。通常、半減期は30~80分であるため、原因となったオピオイドの作用により再び鎮静効果が出現し、追加投与が必要になることがある。ナロキソンの投与が繰り返し必要な場合には、効果が認められる最小投与量の三分の二の量を一時間当たりの投与量として持続投与してもよい。メサドンや徐放性オキシコドンなどの長時間作用性オピオイドの中毒では、ナロキソンを何度も投与しなければならないことが多い。オピオイド中毒に対しナロキソンを投与すると、オピオイド離脱症候群が起こるだけでなく、けいれん(トラマドールまたはメペリジンを投与した場合)や非心原性肺水腫といったナロキソンによる副作用も懸念される。

ブプレノルフィンなどのオピオイド受容体アゴニスト-アンタゴニストの拮抗にナロキソンを使用すると、その効果の現れ方は釣り鐘型曲線を描く。静注量が4mg以上では、それより少量の場合よりも効果が小さくなってしまうため、慎重に投与量を調節しなければならない。複数の催眠鎮静薬による呼吸抑制が認められる場合には、ナロキソンを投与しても何ら臨床的効果は得られず、有害作用のみが現れる可能性がある。

教訓 オピオイド中毒に対しナロキソンを投与すると、オピオイド離脱症候群が起こるかもしれません。けいれんトラマドールまたはメペリジンの中毒に対しナロキソンを投与すると痙攣が出現することがあります。ナロキソン自体の副作用は、非心原性肺水腫です。
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ICUの毒性学~検査 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

中毒の検査

中毒の原因になった薬剤または違法薬物を特定したり定量したりするには、大抵の場合、血清または尿の検査が有用である。患者が何らかの中毒症状を呈しているのか、それとも別の疾患なのかがはっきりしない場合、血液や尿の検査は特定の薬物中毒を除外または確定するのに非常に役立つ。例えば、譫妄、頻脈および発熱が認められる患者では、薬物スクリーニング尿検査でコカインまたはメタンフェタミンが検出されなければ、感染が疑われるし、薬物スクリーニングが陽性であればベンゾジアゼピン慎重投与、早めの気管挿管、積極的な冷却などの特異的治療を開始することができる。しかし特定の薬剤についての検査をあれこれ行うのは上策ではなかったり、患者一人一人の管理に支障を来たしたりする可能性がある。その上、結果を判断する際にはそれぞれの検査に特有の限界や、検査結果が臨床像と齟齬しないかどうかについて考慮しなければならない。

大半の薬物スクリーニング尿検査は免疫学的測定法による検査で、対応する化学構造に抗体が結合すると結果が陽性になる。だが、ある同じ系統に属する薬剤の全てが必ずしも同じ構造を有しているわけではないため、偽陰性になることが珍しくない。例えば、ベンゾジアゼピンのうちロラゼパムやアルプラゾラムは代謝されてもオキサゼパムにはならないため、薬物スクリーニング検査の種類によっては検出できないことがある。カンナビノイドのスクリーニング検査では代謝産物のδ-9-テトラヒドロカンナビノールを検出するため、「スパイス」という違法薬物に含まれる合成カンナビノイドのJWH-018のような、カンナビノイド作用を持ちながら構造が異なる物質は見逃してしまう。一方、スクリーニングの対象物質と似た構造を持つ他の系統の薬が体内にあると、偽陽性の結果が出てしまう。例えば、三環系抗うつ薬、ジフェンヒドラミン、サイクロベンザプリン、カルバマゼピンおよびクエチアピンは構造が似ているため、抗三環系抗うつ薬のスクリーニング検査で偽陽性が出る原因となる。薬物スクリーニング尿検査では往々にして偽陽性が出る。したがって、ガスクロマトグラフィ/質量分析法で確認されるまでは、スクリーニング検査の結果は仮のものとして考えなければならない。それぞれの検査の特異度は免疫学的測定法の特性によって異なる。薬物スクリーニング尿検査は当該薬物の使用を中止しても長期にわたって陽性のままのことがある。この場合は、検査で陽性であっても、過去に当該薬物を使用したことを示すに過ぎない(Table 2)。大半の薬物は尿中濃度と中毒発症の有無とのあいだに相関はない。

薬剤によっては、血清中薬物濃度の測定が役立つ。例えば、リチウム、ジゴキシン、バルプロ酸、カルバマゼピン、フェニトイン、サリチル酸およびアセトアミノフェンの中毒の場合は、血中濃度によって管理の内容を決めなければならない(Table 3)。三環系抗うつ薬などのその他の薬は血中濃度と臨床像とがあまりよく相関しないため、血中濃度の測定はそれほど有益ではない。しかし、極めて大量に摂取したかどうかを知るには役立つこともあると考えられる。

いろいろなギャップ

測定される主要な陽イオンと陰イオンの差をアニオンギャップと言う。正常値は4~12mEq/Lである。アニオンギャップの上昇が認められる場合、通常は測定されない陽イオンが増加していることが示唆され、代謝性アシドーシスの原因を絞ることができる(Table 4)。リチウム、臭素またはヨウ素中毒ではアニオンギャップが低かったりマイナスになったりする。高脂血症または低アルブミン血症でもアニオンギャップが低下することがある。

浸透圧ギャップは浸透圧の測定値(mOsm/kg water)と予測値(mOsm/L)との差であり、浸透圧活性のある物質が存在するかどうかを判断するのに用いる(Fig. 1)。ナトリウム、尿素窒素、クレアチニンおよびブドウ糖の濃度と、浸透圧測定値から浸透圧ギャップを算出する。信頼性の高い浸透圧ギャップ値を得るには、いずれの値も同時に測定しなければならない。正常値は-14~10である。エタノール、エチレングリコール、メタノール、イソプロパノール、添加物(プロピレングリコールなど)、ケトンが体内にある場合やショック状態のとき、浸透圧ギャップが上昇する。浸透圧ギャップは正常値の範囲が大きいため、患者にとっては臨床的に問題のある値であっても「正常値」となってしまうことがあることに注意しなければならない。

動脈血酸素飽和度ギャップは、酸素飽和度計算値(酸素分圧とpHから算出する)と多波長オキシメトリ(パルスオキシメトリとは異なる高度な器械)による酸素飽和度測定値との差である。動脈血酸素飽和度ギャップが5%を超える場合、カルボキシヘモグロビン、メトヘモグロビンまたはスルフヘモグロビンが原因であることが多い。シアン中毒では酸素飽和度ギャップは上昇しない。

教訓 
尿検査で検出される期間 アンフェタミン4日、短時間作用性ベンゾジアゼピン3日、長時間作用性ベンゾジアゼピン4週間、オピオイド4日、短時間作用性バルビツレート24時間、長時間作用性バルビツレート3週間、コカイン3日、マリファナ(一回使用)3日、マリファナ(長期間使用)4週間、フェンシクリジン(「エンジェルダスト」「クリスタル」)8日
アニオンギャップが増加する代謝性アシドーシス=MUDPILES
Methanol, metformin
Uremia
Diabetic ketoacidosis
Paraldehyde, propylene glycol, propofol
Iron, isoniazid, ibuprofen
Lactate
Ethanol, ethylene glycol
Salicylates, starvation ketoacidosis
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ICUの毒性学~中毒症候群② [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

交感神経刺激作用による中毒症候群は、コカインやメタンフェタミンが原因薬剤であることが多い。一部の市販薬や処方薬に含まれるシュードエフェドリン、カフェインおよび注意欠陥障害治療薬(メチルフェニデートなど)も同様の中毒症候群を引き起こす。その徴候は頻脈、高血圧、高体温、頻呼吸、興奮および発汗である。瞳孔は開くが対光反射は認められるのが特徴である。興奮による不穏および筋肉の過活動もよく見られる。時として致死的な高体温に陥ることがある。

交感神経刺激薬は交感神経の活動を全般的に亢進させる。その機序は薬剤によってまちまちである。例えば、カテコラミン放出の促進、カテコラミン再取り込みの阻害、受容体の直接刺激および神経伝達物質代謝の変容などである。コカイン中毒にベンゾジアゼピンが有効である一方で、アンフェタミン中毒にはベンゾジアゼピンはあまり効果を発揮しないのは、コカインとアンフェタミンでは作用機序が異なるからであると考えられている。クレンブテロールはβ受容体を直接的に刺激する。タンパク同化作用と脂肪分解作用を期待して用いられる長時間作用性の薬剤である。この薬を使用すると、頻脈、高血糖、低カリウム血症、心筋梗塞が起こることがある。

長期間使用している催眠鎮静薬を急に止めると催眠鎮静薬離脱症候群(ベンゾジアゼピン離脱症候群)が起こり、交換神経刺激薬による中毒症候群と似た様相を呈することがある。アルコール離脱症候群の患者では痙攣が見られる場合があり、その90%以上がアルコール摂取をやめて48時間以内に出現する。入院患者のうちアルコール依存歴のある患者の5%に重篤なアルコール離脱症状が発生する。エタノール離脱症状の中でも最も深刻なのが振戦譫妄で、感覚異常、神経筋活動の異常および自律神経の過活動といった症状が出現する。積極的に治療を行えば、アルコール離脱症候群による死亡率は5%未満である。

三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬およびサイクロベンザプリンなどの薬は、異なる系統の薬を複数使用すると抗コリン薬中毒症候群が起こる。抗コリン薬中毒症候群は、正確に言えば抗ムスカリン薬中毒症候群である。その症候は、瞳孔散大、皮膚の乾燥および紅潮、譫妄、高体温、頻脈、尿閉および腸管蠕動音減弱である。瞳孔散大は、特にα遮断薬を併用した場合には、必ずしも認められない。抗コリン作用の現れ方と重症度は、摂取量によって左右されることが多い。少量であれば口腔内および皮膚の乾燥が主な症状である。中等量では、発汗停止、瞳孔散大および頻脈が認められるようになる。さらに量が増えると、中枢性の抗コリン作用のため運動失調、激越、譫妄、幻覚、昏睡などが出現し、ぶつぶつ言ったり、支離滅裂なことを話したり、幻覚を見たり、撮空模床(実在しないものをつかもうとする行動)したりする。

コリン作動薬中毒症候群の特徴は分泌物の増加である。流涙、垂涎、多量の痰および尿便失禁が出現する。典型的には有機リン系殺虫剤の中毒で起こるが、エドロホニウムやフィゾスチグミンのようなアセチルコリンエステラーゼに作用する薬剤も原因となり得る。徐脈になることが多いが、ニコチン受容体の活性化により頻脈が起こったり低酸素症に陥ったりすることもある。多量の痰、気管支攣縮、徐脈および低血圧は不吉な徴候であり、速やかにアトロピンを投与しなければならない。ニコチン受容体が過度に刺激され呼吸筋麻痺を含む筋力低下が起こることがあるが、これはアトロピンを投与しても改善することはできない。

複数のセロトニン作動薬の内服による相互作用や過量服用によりセロトニン症候群が起こり中枢神経系のセロトニン活性が上昇し、色々な症状が出現する。はじめは頻脈や振戦などの軽い症状が見られる。原因薬剤を中止しない場合や、複数のセロトニン作動薬を使用した事によるセロトニン症候群の場合は、もっと重篤な症状を呈する。例えば、高体温、ミオクローヌス、筋強直、眼球クローヌス、激越、譫妄、発汗などである。

悪性症候群の特徴は、高体温、意識障害、自律神経失調、鉛管様強直(筋緊張が亢進するが、振戦や歯車様運動は見られない)である。セロトニン症候群はシナプスのセロトニン濃度が上昇すれば起こる可能性が上昇するため発症を予測できるが、悪性症候群の少なくとも一部は特異体質によって発症するため予測ができない。しかし、高用量の向精神薬を開始するときや、投与量を急速に増加させるときは、悪性症候群が発症する危険性が増大する。悪性症候群は重症度によって症状が異なる。軽症の場合は、意識障害と筋強直があらわれるに止まるが、重症例では致死的な自律神経失調、高体温および横紋筋融解症が出現する。高体温が長時間継続すると、転帰は不良である。一般的に、悪性症候群は定型または非定型抗精神病薬を治療目的で投与した際に起こるが、レボドパやカルビドパなどのドパミン様薬剤の使用中断後に発生することもある。悪性症候群は他の疾患を除外して診断する。鑑別診断は、セロトニン症候群、抗コリン薬中毒、重症の緊張型統合失調症および悪性高熱である。

教訓 コリン作働薬中毒(有機リン中毒)はSLUDGE症候群を呈します(S:salivation、L:lacrimation、U:urination、D:defecation、G:GI(diarrhea)、E:emesis)。よだれ、涙、尿、便、下痢、嘔吐(=sludge汚泥)でぐちゃぐちゃな感じです。
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ICUの毒性学~中毒症候群① [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

我々医師は、様々な状況で何らかの中毒になった重症患者には日常的にお目にかかる。次々と登場する処方薬や違法薬物の過量摂取や遊興目的での乱用の結果出現する多彩な臨床症状は、いつでも集中治療専門医の頭痛の種である。本稿はCHEST誌上でこれから三回シリーズとして掲載する毒性学特集の第一弾で、管理法、検査、毒物を体内から速やかに除去する方法についての一般論および新しく登場した治療法を紹介する。第二回においては特定の薬物の過量摂取を取り上げ、第三回では植物、きのこ類、蛇・サソリ・蜂・蜘蛛などの毒について触れる。

中毒症候群(toxidromes)

毒物にはそれぞれ特有の中毒症候群(toxic syndrome=toxidrome)があるが、多くの毒物の薬理学的特性には類似点があるため、原因薬物が特定できなくても臨床像に基づいて予測的治療を行うことができる。オピオイド、催眠鎮静薬、抗コリン薬、コリン作動薬および交感神経刺激薬についての中毒症候群は古くからよく知られている(Table 1)。

オピオイド中毒症候群は古典的には、モルヒネやコデインなどの植物由来の天然オピオイドまたはオキコドン、ハイドロコドン、ハイドロモルフォンおよびフェンタニルなどの合成オピオイドによりオピオイド受容体を刺激したときに見られる。オピオイド中毒症候群の特徴は、徐脈、意識レベル低下および縮瞳である。縮瞳と呼吸数12回/分以下の二つの徴候はいずれもナロキソンに反応するかしないかを判断する上で感度(それぞれ88%、80%)、特異度(それぞれ90%、95%)ともに高い指標である。オピオイドは自律神経の活動を全体的に低下させる。徐脈、低血圧および低体温が見られることが多い。腸管蠕動音が減弱することもある。

以上の古くから知られる典型的なオピオイド中毒症候群は、他の色々な薬剤とともに過量摂取した場合にははっきりしないこともあるし、オピオイドの種類によっては特有の臨床的特徴があることを知っておかなければならない。メペリジン、プロポキシフェンおよびトラマドールは痙攣を引き起こすことがある。トラマドールまたはメペリジンの中毒や複数のオピオイドを同時に摂取した場合には、必ずしも縮瞳は現れない。プロポキシフェンはナトリウムチャネルを阻害し、QRS時間が延長したり心血管系が虚脱したりする。一方、メサドン中毒の際にはカリウムの細胞外流出が阻害されQT時間が延長する。多量のフェンタニルを急速に静脈内投与すると、胸壁が硬直し換気が困難になることがある。

同様に、催眠鎮静薬による中毒症候群でも自律神経の活動が全般的に低下する。ベンゾジアゼピン、ベンゾジアゼピン類似薬(ゾルピデムなど)、バルビツレート、カリソプロドール、抱水クロラール、エタノールおよびバクロフェンなどが該当する。大半の催眠鎮静薬はシナプス後GABA A受容体に結合してクロールの細胞内流入を促進し神経細胞を過分極させるため、中枢神経系の活動が低下する。その臨床効果は、抗不安作用および既に指摘した中枢抑制である。そして、呼吸抑制や低体温が引き起こされることもある。

教訓 縮瞳と呼吸数12回/分以下の二つの徴候はナロキソンに反応するかしないかを判断する良い指標です。ただし、トラマドールまたはメペリジンの中毒や複数のオピオイドを同時に摂取した場合には、縮瞳があらわれないことがあります。
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ARDS患者には従量式より従圧式④ [critical care]

Point: Is Pressure Assist-Control Preferred Over Volume Assist-Control Mode for Lung Protective Ventilation in Patients With ARDS? Yes

CHEST 2011年8月号より

VACVとPACVの肺保護特性

従圧式補助/調節換気(PACV)

人工呼吸器が遂げた昨今の進歩は、その大部分が従圧式換気を元にした工夫や改良である。PACVでは、気道内圧(PEEP+一回換気ごとの駆動圧)は、任意の肺胞の最高肺胞内圧と同じ意味である。肺胞が膨らむにつれ吸気流速は減少する。吸気流速が低下することによって、肺の機械特性(メカニクス)が不均一であってもすべての部分がより均一に換気されるようになる。そのため、多くの場合ガス交換効率の点でやや有利である。設定した吸気時間内に、気道内圧と肺胞内圧が等しくならなければ、最高肺胞内圧は設定値より低くなる。決して高くなることはない。肺のどの部分においても、肺胞内圧が設定値を上回ることはない。肺コンプライアンスが低下しFRCが減少すると、一回換気量と最大吸気流速のいずれもが低下する。代償的に呼吸数を増やさない限り、分時換気量は減少する。これによってVT/FRC比が上昇するのを防ぐことができるものの、高二酸化炭素血症が出現することがある。幸い、高二酸化炭素血症は、相当重度であっても十分認容することができる。

VACVと異なりPACVは流速に制限がないため、患者の状態によって一回換気量が決まり、同時に肺を膨らませる程度を変化させることもできる。流速が患者と同調せず不快感が生ずるようなことも、VACVより起こりにくい。特に、患者トリガで補助呼吸を行う場合にVACVよりはるかに有利である。PACVでは勢いよく吸気が行われるため経肺圧が上昇するという反論があるかもしれないが、患者の吸気努力は肺が拡張をはじめる最初の段階で最大になり、肺胞内圧が上がるにつれ吸気努力は小さくなるため、過膨脹のリスクはそもそも少ないということを銘記すべきである。そして、動物実験でも、健康被験者を対象とした実験でも、患者の呼吸努力の大きさに応じて陽圧がかかるモード(PAV[proportional assist ventilation]やNAVA[neutrally adjusted ventilator assist])であれば経肺圧が危険なレベルにまで達することは滅多にない。

まとめ
VACVのように一定の流量ではじめに設定した一回換気量を漫然と繰り返す場合、経肺圧が高くなり肺にダメージを与えるおそれがある。PACVは経肺圧が高くならないように換気を行うことができるため、原則的にVACVより安全性が高い。

教訓 従圧式では、最高肺胞内圧がプラトー圧を超えることはありません。肺傷害が悪化すると歪み比は不変または低下し、一回換気量が減ります。肺の状態を正しく判断して人工呼吸器を正しく扱える人にとっては、従圧式の方が従量式よりも良い換気方式です。肺の状態を適切に把握できないand/or人工呼吸器を正しく扱えない人にとっては、どちらの換気方式であってもALI/ARDS患者の管理を安全に行うことは難しいでしょう。
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ARDS患者には従量式より従圧式③ [critical care]

Point: Is Pressure Assist-Control Preferred Over Volume Assist-Control Mode for Lung Protective Ventilation in Patients With ARDS? Yes

CHEST 2011年8月号より

VACVとPACVの肺保護特性

従量式補助/調節換気(VACV)

PACVもVACVも、時間規定(時間サイクル)の換気方式である(Table 1)。旧来のVACVでは、一回換気量、最大吸気流速および吸気中の流量送気様態(フローパターン;一定か漸減か)を決めて設定する。呼吸努力のばらつきや呼吸回数に応じて流速が変化することはない。必然的に、気道内圧は従属変数となるため呼吸器系の機械的特性が変化するのに伴い変化する。したがって、VILIの発症を左右する最も重要な二つの変数である最高経肺圧と駆動圧が、たとえ患者の呼吸努力が全くない場合でさえも、ころころ変化してしまう。

VACV実施中の患者では、肺の状態が不均一な場合には肺胞内圧が大きくばらつく可能性があることを念頭に置くことが重要である。場合によっては、肺胞内圧が測定されているプラトー圧を超えることさえある(ここがPACVと正反対の点で、PACVでは肺胞内圧はプラトー圧より高くはならない)。そして、肺のコンプライアンスがより小さくなり、肺の病的変化が進み浸潤がひどくなるほど、肺胞内圧が上昇し、組織に加わる張力が格段に大きくなり、それにつれVT/FRC(歪み比)がどんどん大きくなるという、極めて深刻な事態が発生する。歪み比の増大はおそらく悪循環的に進行する。以上はPACVと大きく異なる点である。PACVの本質は、最高肺胞内圧を一定以上にはならないようにする点であり、肺が病的状態に陥ると、駆動圧および一回換気量が減少し、歪み比は変化しない(Fig. 3)。

流量制御一回換気量規定(flow-controlled,volume-targeted)換気であるVACVのもう一つのPACVにはない欠点は、患者と人工呼吸器が同調しないとき以外には一回換気量とフローパターンが最初に決めたまま変化しないことである。そのため、患者に必要な流速よりも遅い流速でしか吸気が行われないことがある。特に、漸減波流速サイクルの終末にはこのようなことが起こりやすい。そうすると、呼吸仕事量が増えることになる。また、流量特性が適切であったとしても一回換気量が一定であれば、純粋に生理学的な影響が懸念される。一回換気量にばらつきがあるのは健康の証であり、生き物の換気パターンが変動するのは、ガス交換の点で遊離だからであるとされている。下側肺や換気が比較的不良な部分は、一回換気量が常に一定のVACVを行うと虚脱しやすい。設定される一回換気量が小さいときは特にその傾向が顕著にあらわれる。傷害肺の脆弱な組織に加わる歪みは機能的慙愧量(FRC)と逆比例するので、肺組織が虚脱しているというのに一回換気量が変化しないで一定のままだと、VILIの起こりやすさを反映する重要な指標であるVT/FRCがどんどん増大する。

教訓 従量式では、最高肺胞内圧はプラトー圧より高くなることがあります。また、肺傷害が悪化するほど歪み比が大きくなり、最高気道内圧が上昇してしまいます。
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ARDS患者には従量式より従圧式② [critical care]

Point: Is Pressure Assist-Control Preferred Over Volume Assist-Control Mode for Lung Protective Ventilation in Patients With ARDS? Yes

CHEST 2011年8月号より

従圧式補助/調節換気?従量式補助/調節換気?

どんな状況であっても、呼吸器系が一回の換気ごとに拡張するのに必要なエネルギーは気道内圧と流量(呼吸器系に送り込まれる気体容積の変化率)の積で決定される。呼吸器を設定する担当医は、気道内圧または人工呼吸回路内の流量のいずれかを調整する。両者を同時に変化させてはいけない。補助/調節換気は従量式(VACV)または従圧式(PACV)に分類するのが慣習になっているが、実際には、流量制御時間規定(flow-controlled, time-cycled)換気と圧設定時間規定(pressure-targeted, time-cycled)換気のいずれかを選択しているのである。ここで注意を喚起しなければならない点がある。新生児肺(baby lung)では機能が保たれている肺胞の数が減っているが、この少ししかない肺胞を出入りする気体の実際の速度を制御することはできない。機能している肺胞がたくさんある健常肺に同じ流速で換気する場合よりも、新生児肺の方が肺胞における流速はかなり大きいと考えられる。流速(および下流に当たる肺実質が拡張する速度)が大きくなるのは、機能が保たれている部分に気体を送り込む導管の数が大幅に減るからである。

ARDS症例において肺保護を念頭にVACVとPACVのいずれかを選択するに当たって、患者に合わせて調整しなければ、どちらの方式を選んでも患者の需要and/or医師が目指す安全性のいずれも叶わないということを認識しなければない。以下の賛成/反対形式の拙稿においては、従圧式の方が流量制御による従量式より安全であることを述べる。この主張を展開するに当たり、以下の仮定が成り立っているものとする。

・高圧アラームが適切に設定され、設定値以上の圧がかかると圧が開放される。最小流量アラームが適切に設定され、設定値以上の流量が常に確保される。
・従量式換気と従圧式換気の平均一回換気量が同等。
・人工呼吸器の吸気時間が、患者の呼吸中枢が規定する自発呼吸の吸気時間と乖離しない。
・一回の換気サイクル中に人工呼吸器が患者による呼吸努力の大きさのばらつきに応じて圧または流量を自動的に調整しない(例 dual control)。

教訓 「新生児肺(baby lung)」=ALI/ARDS肺のコンプライアンスが著しく低下し硬くなるのは、含気が保たれている部分のメカニクスの悪化によるのではなく、FRCの低下によるものであるという考え方。つまり、ALI/ARDSの肺は「硬い」のではなく「小さい」のです。
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