SSブログ

ICUの毒性学~アセトアミノフェン&サリチル酸 [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

本稿はICUにおける中毒患者の管理一般についての三回連続特集の第二回である。今回は、ICUで遭遇する可能性のある中毒物質を一つ一つ取り上げる。

アセトアミノフェン

アセトアミノフェン中毒は、アセトアミノフェンを無毒化する代謝過程の処理量以上にアセトアミノフェンを摂取しN-アセチル-パラ-ベンゾキノンイミン(NAPQI)が多量に産生されて起こる。NAPQIが増えるとグルタチオンが減り、肝毒性があらわれる。

アセトアミノフェン中毒では、通常は摂取から24時間以内に嘔吐が見られる。その後、高度の肝機能障害が起こり、プロトロンビン時間が上昇する。典型例では、摂取4日後に肝傷害が最も激しくなり小葉中心性壊死を呈する。アセトアミノフェンを大量摂取した場合には、代謝性アシドーシス、凝固能低下、腎不全および脳症が見られる。肝不全が起こらなくても重症の腎傷害が発生することがある。

一回限りのアセトアミノフェン急性過量摂取例では、N-アセチルシステイン(NAC)投与の要否はRumack-Matthewノモグラムを用いて判断する(Fig. 1)。N-アセチルシステインはフリーラジカルスカベンジャーであるとともにグルタチオンの前駆体である。過量摂取から8時間以内に投与を開始すれば、劇症肝不全(FHF)が起こるリスクはほぼゼロになる。しかし、かなり時間が経ってから(摂取から24時間後以降)受診した患者であっても、NACは有効である。経口投与の場合は72時間治療を行うことになっているが、患者によってはもっと短時間の投与で終わらせる方がよいこともある。静脈内投与の場合は、初回量を1時間かけて投与し、その後20時間持続投与を行う。その後、症状が消失し、プロトロンビン時間およびトランスアミナーゼの値が低下すれば持続投与は中止してもよい。NACを20時間持続投与してもトランスアミナーゼが上昇する場合は、投与量を6.25mg/kg/hrにして症状が消失し肝機能検査の結果が改善するまでNACの投与を続ける。

アセトアミノフェン過量摂取による劇症肝不全における肝移植の適応基準は、積極的な治療を行っても動脈血pHが7.3未満、肝性脳症グレードⅢ/Ⅳ、プロトロンビン時間100秒以上、血清クレアチニン3.4mg/dL以上である。以上のような状態であれば早期に認識し、移植センターへ移送することが重要である。アセトアミノフェン過量摂取による劇症肝不全では脳保護プロトコルの実施を考慮すべきである。

アセトアミノフェンは胎盤を通過するが、NAPQIは通過しない。胎児がNAPQIを産生できるようになるのは妊娠中期以降である。NACの適応や投与法は妊娠中も非妊時と同じである。

サリチル酸

急性サリチル酸中毒では、耳鳴り、過換気、腹痛および嘔吐が出現する。重症になると、頻脈、発汗、譫妄や痙攣が見られる。血清サリチル酸濃度は、過量摂取から24時間以上経過しても最高値には達しないことがある。特に、腸溶剤の場合は血中濃度が上がるのに時間がかかる。

サリチル酸は脳幹を刺激するので、呼吸性アルカローシスが起こる。重症中毒になると、酸化的リン酸化が脱共役化され(電子伝達反応が進行してもATPが合成されなくなり)、ATPが減り、アシドーシスが進み、高体温になる。

治療の一番の目標は、脳にサリチル酸が広がるのを抑えることである。大量輸液と炭酸水素ナトリウムの静脈内投与によるアルカリ化によって、サリチル酸が中枢神経系に分布し難くなり、排泄が促進される。尿のアルカリ化を維持するため、血清カリウム値は正常範囲内に保たなければならない。鎮静and/or気管挿管を行う際には、呼吸性アルカローシスにしておくことが絶対に必要である。血糖値を測定し、低血糖が見られれば直ちに補正する。動物実験では血糖値が正常でも脳脊髄液中の糖濃度が低下しうることが明らかにされている。

酸血症になるとサリチル酸の分布容積が増大するので、血清中濃度が低下したとしても中毒症状は悪化する。サリチル酸中毒を思わせる症状がある患者においては、確定診断に先立ち輸液とアルカリ化を直ちに開始すべきである。サリチル酸は血液透析によって除去することができる。血液透析の適応は、高度のアシドーシス、内科的治療を行ってもサリチル酸血中濃度が上昇する、脳症、心肺機能低下、腎不全などが見られる場合である。脳症が出現しているのに迅速に治療(アルカリ化および透析)を行う必要性が見過ごされる症例は、死亡する可能性が高い。

教訓 N-アセチルシステインをアセトアミノフェン過量摂取から8時間以内に投与を開始すれば、劇症肝不全が起こるリスクはほぼゼロになります。摂取から24時間後以降経ってから受診した患者であっても有効です。サリチル酸中毒では大量輸液とアルカリ化がポイントです。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。