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ICUの毒性学~一酸化炭素、シアン化物 [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

一酸化炭素

一酸化炭素は無色無臭で無刺激の気体で、急速に体内に吸収される。一酸化炭素の吸収量は大気中の一酸化炭素濃度、曝露時間および生理学的パラメータ(分時換気量や心拍出量)によって決まる。吸収された後は、カルボキシヘモグロビン(一酸化炭素ヘモグロビン)を形成し、ヘモグロビンが酸素を組織に運搬することができなくなる。酸素解離曲線は左方偏移する。一酸化中毒になると、頭痛、めまい、吐き気、昏迷、昏睡などが生じ、死亡に至ることもある。

重症一酸化炭素中毒では、無症状の患者もしくは冠動脈疾患のない患者であっても心血管系への影響が生ずる可能性がある。神経症状または心血管系症状が見られる場合は、全例で心電図をとらなければならない。重症例、心電図異常所見のある症例、または心血管系疾患の既往がある症例では心筋逸脱酵素の検査を行うべきである。各症例の治療法は、カルボキシヘモグロビン濃度ではなく臨床所見に応じて決定すべきである。二波長を用いるパルスオキシメータでは、一酸化炭素中毒による酸素飽和度の低下を検出することはできない。多波長コオキシメータで酸素飽和度を評価しなければならない。

一酸化炭素中毒の症状が消失するまでは、全例に100%酸素(大気圧下)を投与する。高気圧酸素(HBO)療法を行うとカルボキシヘモグロビンの半減期が短縮することが知られているが、適応および有効性については賛否両論がある。カルボキシヘモグロビン濃度が非常に高く、失神、けいれん、心筋虚血が見られたり、大気圧下で100%酸素を投与しても意識障害が改善しなかったりする場合は、高気圧酸素療法の実施を考慮すべきである。胎児ヘモグロビンは一酸化炭素に対する親和性が成人のヘモグロビンより高いため、胎児の方が母体よりも一酸化炭素中毒になりやすい。妊婦に高気圧酸素療法を推奨することの是非については相反する意見が示されている。急性一酸化炭素中毒では、遅発性の神経精神障害が発生することがある。しかし、遅発性神経精神障害を防ぐため高気圧酸素療法を行うべきなのはどんな特性を有する患者なのかを示す基準は確立していない。

シアン化物

生体内ではシアン化物はシアン化水素として存在しミトコンドリア中にあるシトクロムオキシダーゼの一種であるシトクロムa3を阻害する。その結果、電子伝達、酸素消費およびATP産生が停止する。青酸塩、シアン化水素(煙の吸引を含む)、シアン基を含む化合物(植物やハーブの青酸配糖体など)、ニトリル、ニトロプルシッドなどへの曝露がシアン化物中毒の原因となる。昏睡、痙攣、代謝性アシドーシス、頻脈および低血圧が突然出現した場合はシアン化物中毒を疑う。しかし、青酸配糖体の摂取やニトリル曝露による中毒はすぐにはあらわれないことがある。

苦みのあるアーモンド臭もしくは鮮紅色の皮膚/血液といった特徴的な所見が実際に認められることはほとんどない。シアン化物中毒では、ヘモグロビン酸素飽和度の測定値と計算値に差はあらわれない。シアン化物中毒になるとQT間隔が短くなり、R on Tになることがある。

解毒の方法は以下の二つである:(1)亜硝酸ナトリウムまたはチオ硫酸ナトリウムの静注。(2)ヒドロキソコバラミン+/-チオ硫酸ナトリウムの静注。亜硝酸を投与するとメトヘモグロビン濃度が上昇し、組織からシアン化水素が追い出される。チオ硫酸はイオン転移反応によってシアン化水素がチオシアン化物になるのを促進する。チオシアン化物は腎から排泄される。ヒドロキソコバラミンはシアン化水素と結合してシアノコバラミンを形成する。シアノコバラミンも腎から排泄される。ヒドロキソコバラミンについては本シリーズのパート1で詳述した。

シアン化水素は煙に含まれる物質である。煙を吸引したときに何らかのシアン化物解毒剤を投与すると生存率が向上するかどうかを検討した無作為化比較対照試験は行われていない。しかし、チオ硫酸ナトリウムもヒドロキソコバラミンもメトヘモグロビンを形成するわけではないので、ヘモグロビンの酸素運搬能は低下しないため、顕著な高カルボキシヘモグロビン血症がある場合には有効であると考えられる。

教訓 汎用されている普通のパルスオキシメータでは、一酸化炭素中毒による酸素飽和度の低下を検出することはできません。一酸化炭素中毒患者の酸素飽和度は多波長コオキシメータで評価します。
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