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ICUの毒性学~メトヘモグロビン、有機リン [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

メトヘモグロビン血症

ヘモグロビンの二価鉄を酸化して三価鉄にする外因性化学物質に曝露されるとメトヘモグロビン血症になる。主な原因物質は、局所麻酔薬(ベンゾカインなど)、亜硝酸塩、フェナゾピリジンおよびダプソンなどである。医薬品以外ではアニリンとニトロベンゼンがメトヘモグロビン血症の原因になり得る。乳児は感染でメトヘモグロビン血症になることがある。シトクロムb5還元酵素欠損症の患者はメトヘモグロビン血症になりやすいが、G6PD欠損症の患者はそうではない。

ヘム四量体の鉄原子のうち一つから三つが酸化されると、残りの酸化されていない二価鉄が酸素を放出しにくくなり酸素解離曲線が左方偏位する。メトヘモグロビン濃度が1.5g/dLを超えると目に見えるチアノーゼがあらわれるので貧血がない限りなかなかチアノーゼが出現するレベルには達しない。チアノーゼは酸素運搬能が大幅に低下するより前の段階で発生するのが普通である。酸素運搬能低下の症候は、呼吸困難、頻脈、高血圧および頻呼吸で、重症化すると昏睡、乳酸アシドーシス、痙攣、徐脈、致死的不整脈が出現する。

多波長コオキシメトリを用いて確定診断を行う。一般のパルスオキシメトリでは、メトヘモグロビンの割合が増えるほど真の酸素飽和度よりも高い値が出て、最終的には85%に低下する(それでも真の値より高い)。一般のパルスオキシメトリで酸素飽和度が85%と表示されると、その後メトヘモグロビン濃度が増えても、器械はそのまま85%を示し続ける。他に低酸素血症の原因がなければ、メトヘモグロビン血症だけでは動脈血酸素分圧は低下しない。動脈血および静脈血は異様に黒っぽく見える。メトヘモグロビンが形成される原因となる物質は、メトヘモグロビン産生と同時に酸化ストレスによる溶血を引き起こすからである。

治療法は、原因物質の除去と酸素投与である。酸素を与えて残ったヘモグロビンによって運搬される酸素の量を確保しなければならない。酸素運搬量が極度に減少していることを示す症候が見られれば、メチレンブルーを静注する。メチレンブルーは通常は働いていない経路を通じてメトヘモグロビンを除去する。G6PD欠損症の患者ではメチレンブルーは無効で、かえって溶血のリスクが上昇するおそれがある。メトヘモグロビンの割合だけでなく、酸素運搬量の推移を評価する必要がある。重症メトヘモグロビン血症では輸血を行わなければならなにこともある。スルフヘモグロビン血症がメトヘモグロビン血症に合併したり、スルフメトヘモグロビン血症をメトヘモグロビン血症と誤診したりすることがある。スルフメトヘモグロビン血症にはメチレンブルーは無効である。

有機リン酸塩(organophosphate, OP)

有機リン系化合物は殺虫剤、医薬品および神経剤などに含まれている。有機リン系化合物中毒の発症および重症度は、化合物の種類、曝露量、曝露経路、および代謝速度によって異なる。有機リン酸塩は神経細胞のアセチルコリンエステラーゼを阻害するので、アセチルコリンが蓄積し、ムスカリン受容体およびニコチン受容体が過度に刺激される(Table 3)。

急性有機リン中毒の症状が消失して数日後に近位筋の筋力低下を呈する中間症候群(intermediate syndrome)というものがある。初期治療が不適切であるとこの症候群が出現すると考えられている。大量曝露後には遅発性多発神経障害が起こり脱力が見られることがある。典型的には数週間後に発症する。これはneuropathy target esteraseの阻害によるものと推測されている。

急性有機リン中毒の診断は臨床像に基づいて下す。ただし、血漿および赤血球のアセチルコリンエステラーゼ活性を測定すれば、神経細胞のアセチルコリンエステラーゼ活性の代替指標となる。残念ながら多くの施設ではこの検査を迅速に行うことはできない。

有機リン中毒による死亡もしくは重症化の主たる原因は、気管支攣縮、気管内分泌物多量、筋力低下/麻痺による呼吸不全である。気管挿管を要することもある。治療薬はアトロピン、プラリドキシム(PAM)およびベンゾジアゼピンである(Table 4)。初期治療においては常識外れに大量のアトロピンを投与しなければならないこともある。アトロピンが手元にない場合には、グリコピロレートを静注するとよいという報告がある。サクシニルコリンはアセチルコリンエステラーゼによって分解されるので、有機リン中毒のときにサクシニルコリンを使用すると効果が遷延するおそれがある。アトロピンはムスカリン受容体の拮抗薬であり、筋力低下や麻痺を防ぐ効果はない。

プラリドキシムの治療効果については賛否両論がある。急性有機リン中毒の治療に際し、アトロピン単剤とアトロピンとプラリドキシムの併用とは同等に有効であるとされている。中等度の有機リン中毒患者に対し、早い段階でプラリドキシムの持続静注開始する方が、間欠的ボーラス投与を行うよりも生存率が改善することが明らかにされている。直ちに適切な量のアトロピンを投与し保存的治療を行うのが有機リン中毒の治療における基本方針である。中等度から重症の有機リン中毒ではアトロピンに加えプラリドキシムを投与する。

教訓 メトヘモグロビン血症は多波長コオキシメトリで診断します。一般のパルスオキシメトリでは、メトヘモグロビンの割合が増えるほど真の酸素飽和度よりも高い値が出て、最終的には85%に低下します(それでも真の値より高い)。その後メトヘモグロビン濃度が増えても、器械はそのまま85%を示し続けます。有機リン中毒では、まずアトロピンを投与します。初回は1-2mg ivです。効果が見られないか状態が悪化する場合は2-3分おきに、初回の二倍量を投与します。
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