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ICUの毒性学~ジゴキシン、ケタミン [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

ジゴキシン

強心配糖体はNa/K ATPaseを阻害し、細胞内ナトリウムおよび細胞外カリウムを増やす。細胞内ナトリウム濃度が上昇すると、細胞内カルシウム濃度も上がり収縮力が増強する。ジゴキシン中毒では心室筋の自動能が亢進し、迷走神経刺激による徐脈やブロックが起こりやすくなる。

急性中毒と慢性中毒とでは臨床症候が異なる。急性中毒の特徴は、吐き気と嘔吐が初発症状で、その後徐脈や伝導障害が出現する。脱力や意識障害が見られることもあるが、このような症状は慢性中毒で現れやすい。慢性中毒は腎機能障害、投与量の調節ミスもしくは他剤との相互作用などのために発生することが多い。急性中毒と比べ、消化管症状、神経精神症状(譫妄など)、眼症状(黄視症など)が出現する頻度が高い。事実上、心房頻拍以外のどんなタイプの不整脈も起こり得る。両方向性心室頻拍は頻度は低いが、ジゴキシン中毒に比較的特有の不整脈である。

ジゴキシン濃度、腎機能、電解質、尿量および循環動態を厳重に監視しなければならない。投与最終回から6時間以内に採取した検体のジゴキシン血中濃度は参考にならないおそれがある。ジゴキシンは分布に時間がかかるため、投与直後は血中濃度が見かけ上高くなってしまうからである。急性中毒になると高カリウム血症になる。高カリウム血症が見られる場合は死亡率が高い。低カリウム血症や低マグネシウム血症があると慢性中毒を起こしやすい。

ジゴキシン特異的抗原結合性(Fab)フラグメントの適応は、急性過量摂取後の高カリウム血症(5.5mEq/L以上)および致死的不整脈である(Table 2)。元々心機能が高度に低下している患者では、今にも死にそうな状態でないのであれば、ジゴキシンの治療効果までも拮抗してしまうのを避けるためFabフラグメントの投与量を減らさなければならない。腎不全患者ではジゴキシンとジゴキシン-Fab複合体のいずれの排泄も遅延する。そのため、ジゴキシン-Fab複合体が分離してジゴキシンによる症状が再燃する可能性がある。Fabフラグメント投与後は総ジゴキシン濃度が上昇するので、判断を誤らないようにしなければならない。したがって、遊離ジコキシン濃度を治療の参考にすべきである。しかし、遊離ジゴキシン濃度を測定できる検査室は少ない。

解離性麻酔薬

ケタミン、フェンシクリジンおよびデキストロメトルファン(メジコンⓇ、代謝産物のデキストルファンに解離性麻酔薬の作用がある)は解離性麻酔薬であり、NMDA受容体に拮抗する。中毒に陥った場合の臨床徴候は、譫妄、高血圧、頻脈、眼振、発汗、高体温および横紋筋融解症である。ケタミンまたはフェンシクリジンの中毒では、アドレナリン受容体刺激作用やコリン作働性受容体刺激作用が主体となることがある。デキストロメトルファンは抗ヒスタミン薬に含まれていて、過量摂取すると抗コリン作用による中毒症状を呈する。デキストロメトルファンをセロトニン受容体作働薬と一緒に服用すると、セロトニン症候群が起こる。

解離性麻酔薬の中毒例では、興奮して不穏状態にならないように刺激を与えるのを防ぐなどの対策を主体とした保存的療法を行う。高体温であれば冷却し、輸液療法を行い、不穏またはけいれんが認められればベンゾジアゼピンを投与する。

教訓 ジゴキシンは分布に時間がかかるため、投与直後は血中濃度が見かけ上高くなります。ジゴキシン特異的抗原結合性(Fab)フラグメントの適応は、ジゴキシン急性過量摂取後の高カリウム血症(5.5mEq/L以上)と致死的不整脈です。
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