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ICUの毒性学~脂肪乳剤、VitB12 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

脂肪乳剤の静脈内投与

データは限られているものの、脂肪乳剤の静脈内投与は局所麻酔薬による神経毒性または心毒性の標準的治療法と見なされている。局所麻酔薬中毒によるヒトの心停止に脂肪乳剤を静注して蘇生に成功したことがはじめて報告されたのは2006年のことである。ブピバカイン、クロミプラミン、ベラパミル、そしておそらくプロプラノロルの中毒に脂肪乳剤が有効であることが動物実験で示されている。ラモトリジンおよびブプロピロンにより長時間の心停止に陥った症例の蘇生に、脂肪乳剤が有効であったという症例報告もある。

脂肪乳剤の静脈内投与が効果を上げる機序は正確には分かっていないが、脂溶性薬剤が血管内コンパートメントに移行することによって原因物質の分布容量が減少し、標的組織における濃度が低下することが関与していると考えられている。その他、ミトコンドリアにおける脂質代謝の阻害、ミトコンドリアへの脂肪酸運搬の障害、およびカリウムチャネルおよびカルシウムチャネルの活性化などが関わっているという説もある。

脂溶性薬剤による重症中毒で、標準的な方法では改善が認められない場合は、脂肪乳剤の静脈内投与を考慮すべきである。脂肪乳剤には、10%、20%および30%製剤があり、投与法についてはいくつかの方法が提唱されている。臨床例および動物実験に基づいて作成された投与法では、20%脂肪乳剤1.5mL/kgを1分かけて静注し、引き続いて0.25mL/kg/分の持続静注を60分行う。初回のボーラス静注で反応が見られなければ、5分間隔で2回ボーラス投与を繰り返してもよい。それでも低血圧が続けば、持続投与量を0.5mL/kg/minまで増やす。発熱、高脂血症、肺傷害、肝脾腫、血小板減少および脂肪塞栓などが、理論的に考えられる副作用である。だが、脂肪乳剤を蘇生薬として用いた場合の有害作用はほとんど報告されている。血中に脂質が増えるため、血液検査が一時的に困難になり、おかしな結果が出ることがある。プロポフォールは脂肪乳剤の代替製剤にはならないことをよく認識しておかなければならない。プロポフォールには心筋抑制作用があり、また、含まれる脂肪成分が脂肪乳剤とは異なる。

ヒドロキソコバラミン

シアン中毒に対する従来の治療法は、亜硝酸薬(メトヘモグロビン血症にするため)およびチオ硫酸ナトリウム(シアン化合物をチオシアン化合物に変化させるため)の投与である。この方法は、一酸化炭素ヘモグロビン濃度が高い患者では好ましくない。ヒドロキソコバラミン(シアノキットⓇ)はシアン中毒に対する解毒剤として新たにFDAに認可された薬剤である。ヒドロキソコバラミンはビタミンB12aで、シアノコバラミン(ビタミンB12)の前駆体である。ヒドロキソコバラミンがシアン化合物と結合してシアノコバラミンとなり、腎から排泄される。通常、5gを静脈内投与する。必要であればもう一回追加投与する。ブタのシアン中毒モデルを用いた実験では、亜硝酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムを投与したときと同等の効果がヒドロキソコバラミンとチオ硫酸ナトリウムの投与で得られることが明らかにされている。この二剤は混注が禁じられているため、同じ静脈路から投与してはならない。ヒドロキソコバラミンにはいくつかの副作用がある。必ずしも悪い副作用ではないが、コバラミンは一酸化窒素を除去するため平均動脈圧が上昇することがある。ヒドロキソコバラミンを投与すると、組織や血液が一過性にピンク色になったり、オキシメトリの測定値が狂ったり、AST、ビリルビン、クレアチニン、マグネシウムおよび鉄の血中濃度が変化したりする。血液が変色するため、血液透析中に透析器がダイアライザーから血液が漏れていると誤認して、透析が出来なくなってしまったり遅れが生じたりすることがある。ヒドロキソコバラミンを投与すると、ニキビのような紅斑や皮疹が出現することも珍しくない。

まとめ

ある種の化学物質や違法薬物を使用または過量摂取すると重篤な状態に陥ることがある。多くの物質が特有の中毒症候群を呈するため、そこから何の中毒なのかを割り出し、最も適切だと考えられる治療法を予測的に決定することができる。様々な除洗法、新しい解毒療法、除去効率を上昇させる方法について知ることによって、集中治療の現場で適切な管理を行う準備を整えることができる。中毒患者の管理に当たっては、医学毒性学の専門家や各地域の中毒センターに各症例の治療方針について相談すべきである。

教訓 局麻中毒には脂肪乳剤、シアン中毒にはシアノキットが有効です。プロポフォールは脂肪乳剤の代わりにはなりません。イントラリピッドなどを使ってください。
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