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ICUの毒性学~抗うつ薬、Li、眠剤 [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

抗うつ薬

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はセロトニンの再取り込みを阻害し、シナプスにおけるセロトニン濃度を上昇させる。急性中毒でよく見られる症状は、軽い鎮静と嘔吐である。セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は治療量でも過量摂取後であっても、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。一般的に、SSRIおよびSNRIは過量摂取しても重篤な状態にはなりにくい。各製剤に特有の徴候をTable 5にまとめた。過量摂取に対しては対症療法を行えばよく、痙攣にはベンゾジアゼピンが有効である。

三環系抗うつ薬はSSRIやSNRIよりはるかに毒性が高い。作用機序と中毒症状をTable 6にまとめた。急性の過量摂取の場合は2時間以内に中毒症状があらわれることが多いが、深刻な症状は6時間後ぐらいにならないと発現しないことがある。血管拡張(α遮断作用)および心筋抑制(ナトリウムチャネル遮断作用)による低血圧が見られる。治療法は、積極的な輸液と炭酸水素ナトリウムおよび直接作用性の昇圧薬の投与である。血液pHおよび血清ナトリウム濃度を上昇させると、ナトリウムチャネル遮断作用が抑制される。心室内伝導障害、治療抵抗性の低血圧および心室性不整脈に対しては高張炭酸水素ナトリウム溶液を静脈内投与する。QRS延長には炭酸水素ナトリウムが有効であることが多いものの、正常血圧の患者に対して炭酸水素ナトリウムを投与すべきタイミングを検討した研究は行われていない。低血圧または心室性不整脈にQRS延長を伴う場合には炭酸水素ナトリウムを投与すべきである。十分なアルカリ化(pH>7.55)が達成されても心室性不整脈が続くのであれば、高張食塩水(成人ならば例えば3%食塩水200mL)and/orリドカインを投与しなければならない。痙攣にはベンゾジアゼピンが有効である。標準的治療を行ってもショックが遷延する症例では脂肪乳剤が有効であるとする逸話的報告もある。

リチウム

リチウムは治療域が狭いため中毒が起こりやすい。リチウム中毒には、急性中毒、慢性投与中の急性中毒、慢性中毒の三種類がある。リチウム使用歴のない急性中毒では、もとの組織リチウム濃度が低く分布に時間がかかるため、中毒症状はそれほどひどくない。徐放剤では分布だけでなく吸収にも時間がかかる。慢性投与中の急性中毒は、治療域のリチウム濃度が維持されていた患者がリチウムを過量摂取すると起こるが、通常は重症化しない。ただし、リチウム使用歴のまったくない患者の過量摂取と比べると、普段リチウムを使用している患者の過量摂取の方が中毒につながりやすい。慢性中毒の典型例は、リチウム治療中に排泄能が低下して起こるパターンである。薬物相互作用、脱水または急性腎傷害などが排泄能低下の原因となる。慢性中毒では顕著な症状が現れる。リチウムを慢性的に服用していると、すでに組織のリチウム濃度が高いからである。体内の総リチウム量がほんの少し普段より増えるだけで、慢性中毒が発症しうる。利尿薬、ACE阻害薬、アンギオテンシン受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬およびNSAIDsはリチウムのクリアランスを低下させる。

軽度の中毒であれば、下痢や嘔吐ぐらいの症状しかあらわれない。下痢や嘔吐が続けば腎からのリチウムの排泄能が低下する。重症中毒では、振戦、反射亢進、クローヌスおよび歯車様固縮が見られる(以上の症状は治療域であっても出現することがある)。舞踏病アテトーシス、構音障害および失調が起こることもある。さらに重症化すると、眠気、混迷、痙攣があらわれ昏睡に陥る。心症状も珍しくないが深刻な結果になることは少ない。具体的には、非特異的なST-T変化、様々なAVブロック、QT延長、洞性徐脈などである。

長期投与(治療域)または過量摂取によって、尿細管細胞表面へのアクアポリン2の移動が起こりにくくなり腎性尿崩症が発生する。リチウムによって起こりうるその他の内分泌異常は甲状腺機能低下症および副甲状腺機能亢進症である。

血中リチウム濃度は一般的には中毒の発症とはあまり相関しない。組織への分布に時間がかかるため、摂取してから間もなく採血してリチウム濃度を測定すると、かなり高いことがある。リチウム中毒の治療は、血管内容量不足の是正、ナトリウム補充および十分な尿量の確保である。脱水の初期治療には生理食塩水を用いる。ナトリウムが不足すると腎からのリチウム再吸収が促進されるからである。

リチウムは透析で非常によく除去されるが、透析による転帰の改善を裏付けるエビデンスは不足している。透析実施の要否は、臨床所見(脳症など)、腎機能およびリチウム濃度(経過を追って繰り返し測定する)に基づいて判断する。もし透析を行うのであれば、組織から血管コンパートメントへのリチウムの再分布によって血中濃度の再上昇が起こりうるため、血清リチウム濃度がほぼゼロになるまで透析を続けるべきである。

中枢性筋弛緩薬と鎮静催眠薬

鎮静催眠薬、カリソプロドール(筋弛緩薬)およびバクロフェンは、眠気、運動失調、睡眠および呼吸抑制を引き起こす。ベンゾジアゼピンのみの過量摂取では、呼吸抑制から死亡に至ることは滅多にない。しかし、呼吸抑制を来す薬剤を複数同時に過量摂取した場合は、呼吸抑制が命取りになりうる。こういった薬剤を過量摂取すると、徐脈や低血圧が生ずる。鎮静催眠薬や中枢性筋弛緩薬は大半が、それ自体または代謝産物がGABAA受容体を活性化する。ただしバクロフェンはGABAB受容体に作用する。

各薬剤に特有の作用をTable 7にまとめた。このうち二、三の薬剤については特に注意点がある。バクロフェンの過量摂取は、低低温、低血圧、徐脈、昏睡および痙攣を引き起こす。抱水クロラールに特徴的な副作用は消化管出血、低血圧、QT延長、および頻脈性不整脈であり、TdPではない心室性不整脈の場合は、カテコラミンの作用が増強されていることが原因であると考えられていて、β遮断薬が有効かもしれない。γヒドロキシ酪酸およびその類似物質は高用量では中枢神経抑制や呼吸不全を起こす。カリソプロドールの過量摂取では昏睡やミオクローヌスが生ずる。

治療は保存的に行う。鎮静催眠薬、バクロフェンまたはカリソプロドールを長期間使用している患者では離脱症候群が発生するリスクがあるため、過量摂取してしまった場合でも、意識がはっきりしたら同じ薬を再開しなければならない。

教訓 三環系抗うつ薬中毒では、血管拡張(α遮断作用)および心筋抑制(ナトリウムチャネル遮断作用)による低血圧が見られます。十分アルカリ化(pH>7.55)しても心室性不整脈が続くのであれば、高張食塩水and/orリドカインを投与します。痙攣にはベンゾジアゼピンが有効です。標準的治療を行ってもショックが遷延する症例では脂肪乳剤が有効であるとする説もあります。
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