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大量輸血の新展開② [critical care]

Massive Transfusion New Insights

CHEST 2009年12月号より

大量輸血の転帰

出血性ショックの治療法が大幅な進歩を遂げているにも関わらず、戦闘要員、非戦闘員のいずれの外傷においても早期死亡の原因の第一は未だに出血である。世界中の母体死亡原因の第1位は、分娩後大量出血である。さらに、出血および大量輸血は予定および緊急大手術患者の死亡率上昇にも関わっている。

大量輸血を要した患者はどのような転帰に至るのであろう。患者全般についての大量輸血に関するデータはほとんどないのが現状である。様々な原因(外傷46%、消化管出血21%、AAA破裂14%)により大量輸血(濃厚赤血球液投与量が10単位を超える)が行われた患者を対象とした単一施設研究では、43名に対し合計で赤血球濃厚液824単位、新鮮凍結血漿457単位および血小板370単位が投与されたことが報告されている。この施設では当該年間の血液製剤総使用量の16%が大量輸血を要した43名に投与されていた。全生存率は60%であった。患者の44%に重篤な凝固能障害が発生し(死亡率74%)、13名(31%)に高度の血小板減少症(血小板数<5万)が認められた。

大量輸血を要する外傷患者の死亡率は高く、19%から84%である。しかし、最近の研究で示されているデータによればこの患者群の死亡率は有意に低下し、近年では30%程度になっている(Table 2)。出血性ショックの重症度と赤血球濃厚液総投与量とが、死亡と直接的に関連している。

外傷患者の8% (5645名中479名)に赤血球濃厚液が投与され、その総投与量は5219単位、死亡率は27%であったというデータが単一施設研究で報告されている。赤血球濃厚液の大半(62%)は、外傷治療開始から24時間後までに投与されていた。大量輸血(>10単位の赤血球濃厚液を投与)を要した患者は全体のわずか3%(147名)に過ぎなかったが、この患者群に投与された赤血球濃厚液の合計量は、全赤血球濃厚液使用量の71%を占めた。大量輸血が行われなかった患者群と比べ大量輸血群の死亡率は有意に高く、39%であった。また、大量輸血群の患者のうち90%に新鮮凍結血漿、71%に血小板製剤が投与されていた。

大量輸血が無益な治療法で医療費の無駄遣いであるとは言えないだろうか?はじめの24時間に50単位を超える大量輸血が行われた外傷患者を対象とした後ろ向き単一施設研究1編における全死亡率は57%であった。この研究では、初日に75単位をこえる血液製剤を投与された患者と、51~75単位が投与された患者とでは、死亡率に有意差を認めないという興味深い結果が得られた。多重ロジスティック回帰分析では、死亡と関連する独立危険因子が一つだけ(BE< -12mmol/L)明らかになった(OR, 5.5; 95%CI, 1.44-20.95; p=0.013)。同様に、Comoらの研究でも大量輸血が無益となる明瞭な閾値は確認されていない。

大量出血、大量輸血と凝固能障害

多量の出血が続き大量輸血を要する症例では、決まって早々にひどい凝固能障害が出現する。病院到着時にはすでに凝固能が低下しているので赤血球濃厚液を投与すると、希釈性および消費性の凝固能障害のため、一段と凝固能が悪化する。最近の研究では、外傷による急性凝固能障害は全身の血流低下を伴い、凝固能低下と線溶亢進がその特徴であることが示されている。晶質液と赤血球濃厚液をいずれも大量に投与し、その他の血液製剤は使用しない方法が従来行われてきたが、これでは凝固能障害が一層低下してしまう。

大量輸血の標準目標としてこれまで受け入れられてきたのは、等張晶質液と血漿成分をほとんど含まない赤血球濃厚液を投与し、循環血液量と組織への酸素供給を適正に維持するというものである。しかし、この方法を実際に行うと、希釈性凝固能障害を招来する。そこへ低体温、アシドーシス、ショックによる肝機能低下、組織傷害によるDIC、広範な負傷による凝固因子および血小板消費量の増加といった状況が襲いかかると、凝固能障害はさらに進行し悪化の一途をたどる。したがって、現代の大量輸血プロトコルでは、止血能低下に起因する微小血管出血を食い止めるために、時機を逸することなく血漿および血小板製剤を投与するという重大目標が付け加えられている。

アシドーシス、低体温および凝固能障害がなす死の三つ巴

出血が制御不能になれば、低体温、凝固能障害およびアシドーシスは必発である。この三徴はいずれも危機的な異常であり、それぞれが他の二つの増悪を誘う。血を止め、三徴を正常化しなければ、急速に患者を死に至らしめる螺旋状サイクルに陥ることになる。この「血塗られた魔のサイクル」をFigure 1に図示した。大量輸血患者の生存率を向上させる試みとして、迅速かつ確実な出血の制御、より洗練された輸血療法、凝固能障害および止血機能障害に対する積極的な攻勢などの数多くの対策が講じられている。

教訓 晶質液と赤血球濃厚液をいずれも大量に投与して大量出血の管理を行うのは、希釈性凝固能障害を招く(助長する)のでよくありません。アシドーシス、低体温および凝固能障害は死の三徴です。
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