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敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス⑤ [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より

細菌による組織傷害に高二酸化炭素血症性アシドーシスが及ぼす影響

細菌感染によって肺およびその他の臓器が傷害される機序は複雑で、宿主の反応、菌体外毒素・エンドトキシン・その他の細胞壁成分による傷害、細菌の拡散と組織侵入による直接的な傷害などが関与している。敗血症に対する宿主の反応は、免疫能の発揮そのものであるとともに、臓器傷害の原因としても作用する。さらに、感染プロセスの段階によって、組織傷害が生ずる様々な過程の態様は異なる可能性がある。

HCAと宿主の反応
感染の過程における高二酸化炭素血症の影響の一部は、宿主免疫応答の変化を通じてもたらされる。すでに述べたとおり、HCAは有効な殺菌に必要な様々な事象を広範囲に抑制する。細菌感染におけるHCAの中心的作用は、細胞免疫に対する影響である。中でも特に食細胞および免疫応答の統合に対する影響が大きい。好中球とマクロファージによる貪食作用は、侵入してきた細菌を撃破するのに必要な宿主反応を発揮するために不可欠である。しかし、細胞毒性物質という兵器の貯蔵庫である好中球は、細胞外へ侵攻し宿主の組織に打撃を与えることがある。これが肺傷害発生の原因となる。敗血症以外の原因による肺傷害モデルで示されているHCAの肺保護作用は、少なくとも部分的には、好中球の集簇and/or好中球機能の阻害を通じて発揮されるものと考えられている。以上の知見は、好中球減少動物モデルではALIが重症化しない、とか、好中球減少症患者において好中球数が増加してくるとALIが悪化するといった過去に報告された観察結果とも合致する。細菌感染による敗血症がある場合には、HCAによって好中球機能が低下すると、敗血症が重症化したり転帰が悪化したりする有害作用を招くおそれがある。

細菌感染初期vs 感染遷延
細菌による傷害に対するHCAの影響は、感染の時期によって良い作用であったり悪い作用であったりする。つまり、感染の初期なのか、感染が完全に成立または遷延化してしまっているのかによってHCAによる影響の有様が異なるのである。細菌性肺炎の初期には、宿主の炎症反応が活発である。このときHCAによる抗炎症作用が発揮されると、宿主の炎症反応が緩和され、組織の傷害が抑制される可能性がある。エンドトキシンによる傷害がHCAによって軽減されることもすでに明らかにされている。したがって、細菌感染初期にはHCAによって肺およびその他の臓器傷害が軽減されるものと考えられる(Fig. 2)。反対に、感染が成立または遷延した例においては、組織への細菌の直接的な侵入および蔓延の方が重要なポイントとなる。HCAが招く免疫抑制作用、特にその中でも好中球機能の抑制によって、宿主が発揮する殺菌能が減弱するおそれがある。つまり、大量の細菌が跋扈し感染による傷害がすでに起こっている状況では、HCAによる免疫抑制作用のせいで組織障害が拡大するかもしれない。重症症例では、我々の前に現れる時点ですでに感染が成立していることが多い。また、重症患者は肺保護戦略が実施されるなかで長期にわたり高二酸化炭素血症に晒されることが珍しくない。以上を踏まえると、HCAが前述のような有害作用をもたらす可能性は、臨床に大きな影を投げかけることになる(fig. 2)。

教訓 細菌性肺炎の初期には、HCAによる抗炎症作用が発揮されると、宿主の炎症反応が緩和され、組織の傷害が抑制される可能性があります。肺炎がすでにすっかり成立したり遷延したりしている時期には、HCAによる細胞性免疫抑制作用のせいで組織障害が拡大するかもしれません。


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