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敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス⑦ [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より

腹腔内感染による敗血症と高二酸化炭素血症

腹腔内感染による敗血症の初期
盲腸結紮・穿刺(CLP)による腹膜炎発生から3時間後までの敗血症早期における、敗血症性ショックおよび肺傷害の重症度はHCAによって低下することが明らかにされている。HCA群では動脈血二酸化炭素分圧が正常の群と比べ、低血圧になりにくく、中心静脈血酸素飽和度が維持され、血清乳酸濃度の上昇幅が小さかった。この実験経過中に、中心静脈圧は変化していないので、輸液量の差が低血圧の程度の差に影響を及ぼした可能性は低い。HCAによって、動脈血二酸化炭素分圧が正常の場合と比べ、肺胞気-動脈血酸素分圧較差が縮小し、肺血管透過性が低下することから、肺傷害の程度が軽くなる。HCAは肺胞への好中球浸潤を抑制するが、BALF中のIL-6やTNF-α濃度は動脈血二酸化炭素分圧が正常の場合と変わらない。肺内および血液中の細菌量はHCAによっては変化しないことが明らかになっているが、腹水中の細菌量についてもHCA群とnormocapnia群とのあいだに差は認められない。

完成した腹腔内感染による敗血症
Wangらは糞便性腹膜炎ヒツジモデルを用い、腹膜炎がすっかり成立した状態でHCAにすると、血行動態がドブタミンを投与したのと同じように改善することを示した。この実験では、全身麻酔下で侵襲的モニタリングおよび人工呼吸を行いながらメスのヒツジを用いて糞便性腹膜炎モデルが作成された。腹腔内に便を漏出させてから2時間後、HCA群、ドブタミン群もしくは対照群にヒツジを無作為に割り当て、死亡するまで経過を観察した。HCA群とドブタミン群では対照群と比べ、心拍数、心係数および酸素運搬量が増加し、乳酸濃度が低かった。肺の乾湿重量比、肺胞気-動脈血酸素分圧較差およびシャント率などの肺傷害の指標について比較したところ、ドブタミン群では対照群と有意差はなかったが、HCA群では対照群よりも肺傷害の程度が軽いことが分かった。しかし、HCAには対照群よりも生存時間を延長させるほどの効果は認められなかった。

腹腔内感染による敗血症の遷延例
肺炎による敗血症の遷延例と異なり、腹腔内感染による敗血症の遷延例では、高二酸化炭素環境に曝露されると肺傷害が軽減される。長時間の高二酸化炭素血症によって、二酸化炭素分圧が正常の場合よりも組織レベルでの肺傷害が緩和される。だが、おもしろいことに、高二酸化炭素血症にしても、肺胞の好中球浸潤や、肺内IL-6またはTNF-α濃度は低下しない。さらに、肺以外の感染による敗血症の遷延例の生存率は、HCAによっては変化しない。また、肺、血中、腹腔内のいずれにおいても、HCAには細菌量を変化させる作用はないことが確認された。

腹腔内感染による敗血症における腹腔内高二酸化炭素症
気腹によって二酸化炭素を腹腔内に直接投与すると有効であることを示す論文が続々と発表されている。つまり、腹腔内感染による敗血症においてHCAが安全で有用であることが、さらに強力に裏付けられているということである。開腹エンドトキシン血症モデルを用いた実験で、二酸化炭素気腹群はヘリウム気腹群よりも生存率が高いという結果が得られている。腹腔内に二酸化炭素を注入してから、開腹しエンドトキシンを撒布すると、二酸化炭素を注入しなかった場合よりも生存率が改善する。また、マウスおよびウサギを用いた盲腸結紮・穿刺による腹膜炎モデルの実験でも、二酸化炭素気腹によって生存率が上昇することが明らかにされている(fig. 5)。腹腔内二酸化炭素注入による以上のような保護作用は、HCAによるIL-10を介したTNF-αのダウンレギュレーションなどの免疫修飾作用によってもたらされると考えられている。ここで留意すべきなのは、以上のような効果は、腹腔内に限局したアシドーシスの作用によって得られるものであり、アシドーシスによる全身的な影響を通じて発揮されるものではないということである。

教訓 腹膜炎で敗血症になった場合は、肺炎による敗血症と異なり、遷延例でもHCAによって肺傷害の程度が緩和されます。二酸化炭素気腹で腹腔内を高二酸化炭素状態にすると腹膜炎による敗血症の生存率が上昇するという動物実験の結果が報告されています。
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