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大量輸血の新展開④ [critical care]

Massive Transfusion New Insights

CHEST 2009年12月号より

Gonzalezらの研究 :大量輸血(第一病日に濃厚赤血球液を10単位以上使用)を要した外傷患者97名を対象とした単一施設研究。生存率は70%であった。赤血球濃厚液を6単位投与するまではFFPは投与しないというプロトコルに従って治療が行われた。ICU入室までの平均輸血量は、赤血球濃厚液12単位、FFP5単位であった。ICU入室後24時間の平均輸血量は、FFP13単位、血小板36単位(6単位×6)、クリオプレシピテート40単位(10単位×4)、赤血球濃厚液10単位であった。凝固能障害の程度(ICU入室時のINR)が、生存率と相関していた(p=0.02; ROC, 0.71)。アシドーシスと低体温は迅速に是正されたが、凝固能障害の治療は困難を極めた。晶質液の大量投与と輸血量不足が凝固能低下を助長させたものと考えられた。著者らはこの研究で得られた知見を踏まえ、大量輸血プロトコルを変更し、治療開始後早期から赤血球濃厚液とFFPを1:1の比率で投与するよう改めた。

Holcombらの研究 :米国に所在する主だったレベル1外傷センター(外科の指導医あるいはチーフレジデントが病院内に24時間常駐し、各科専門医に24時間コンサルトできる体制が整備されている)16施設における、現行の大量輸血法と大量輸血(24時間で赤血球濃厚液を10単位以上投与)を要した外傷患者466名の記録を後ろ向きに検討した研究。生存率は41%から74%と施設によってばらつきがあった。平均FFP/PRBC比は0.32から0.87、平均PC/PRBC比は0.10から1.06であった。FFP/PRBC比、PC/PRBC比およびISSが30日後死亡率の独立予測因子であった。FFP/PRBC比が1.2を超えた場合は、超えなかった場合より30日後生存率が高かった(61% vs 53%; p<0.01)。PC/PRBC比についても同様に1.2を超えると30日生存率が上昇した(70% vs 44%; p<0.01)。統計モデルから、FFP/PRBC最適比は1:1であるという結果が得られた。この研究では、レベル1外傷センターで従来実施されている大量輸血法は施設によって大きく異なり、大量輸血後の生存率も施設間で大幅なばらつきがあるということが明らかにされた。

Scaleaらの研究 :ICU入室後24時間に赤血球濃厚液を投与された患者365名を対象とした2年間にわたる単一施設研究。250名の患者に、赤血球濃厚液とともにFFPが投与された。入室後24時間の平均輸血量は、赤血球濃厚液7±8単位、新鮮凍結血漿5±5単位であった。大量輸血(24時間で赤血球濃厚液を10単位以上投与)を要した患者は81名にとどまった。この81名のうち、PRBC/FFP比が1:1であったのは51名であった。大量輸血群についてのロジスティック回帰分析を行ったところ、PRBC:FFP=1:1で投与しても死亡率は減らないという結果が得られた(OR, 1.49; 95%CI, 0.63-3.53; p=0.37)。著者らは、非戦闘地域における外傷患者ではFFPを早い段階から投与する方法について再考を要すとしている。しかし、この研究には大量輸血を要する患者の標本数が少ないという問題がある。

Duchesneらの研究 :都会のレベル1外傷センターに収容され緊急手術が行われた外傷症例全例を対象とした4年にわたる後ろ向き単一施設研究。大量輸血(24時間で赤血球濃厚液を10単位以上投与)を要した135名の患者について検討。135名全員にFFPが投与されていた。単変量解析では、大量輸血が行われた患者のうちFFP/PRBC比が1:1であった場合と、1:4の場合では死亡率に有意差が認められた(26% vs 87.5%; p=0.0001)。大量輸血症例についての多変量解析では、FFP/PRBC比が1:4であると1:1の場合と比較し、一貫して死亡リスクが上昇することが判明した(相対危険度18.88; 95%CI, 6.32-56.36; p=0.001)。大量輸血が行われた患者でが、FFP/PRBC比が1:4の場合は1:1の場合より死亡率が高い傾向が認められた(21.2% vs 11.8%; p=0.06)。大量輸血を要する患者においてはFFP/PRBCを1:1に近づけると生存率向上に寄与すると結論づけられている。

Maegeleらの研究 :ドイツ外傷外科学会の外傷登録制度を用いた多施設後ろ向き研究。この制度では2002年以降のFFP使用例が登録されている。本研究は、2002年から2006年にかけて登録された100施設17,935名の患者を対象とした。重症外傷(ISS>16)で大量輸血(24時間で赤血球濃厚液を10単位以上投与)が行われた患者713名が、PRBCs/FFP比に応じて三群に分けられた。FFP投与量が赤血球濃厚液投与量に比して多いほど、急性期死亡率(6~24時間以内の死亡)と30日後死亡率が有意に低いことが明らかになった(Fig. 3)。

Sperryらの研究 :鈍的外傷により出血性ショックに至り受傷後12時間以内に8単位以上の赤血球濃厚液を投与された成人患者415名の臨床転帰を評価する目的で行われた多施設前向きコホート研究で得られたデータを用いた再調査研究。FFP/PRBC比が高い(>1:1.5; n=102)患者群は、FFP/PRBC比が低い(<1:1.5; n=313)患者群よりも24時間後時点における赤血球輸血量が有意に少なかった(16±9単位 vs 22±17単位; p=0.001)。粗死亡率には有意差は認められなかった(高FFP/PRBC比 28%; 低FFP/PRBC比 35%; p=0.202)。Cox比例ハザード回帰分析を行い重大な交絡因子について調整したところ、高FFP/PRBC比の輸血療法を実施すると死亡リスクが52%低下することが明らかになった(ハザード比, 0.48; 95%CI, 0.3-0.8; p=0.002)(Fig. 4)。高FFP/PRBC比の輸血療法を行っても、臓器不全または院内感染のリスクは上昇しないが、ARDSのリスクは2倍に増えることが分かった(ハザード比1.93; 95%CI, 1.23-3.02; p=0.004)。以上の結果から、FFP/PRBC比<1:1.5に起因する死亡リスクは受傷後早期に影響し、おそらく凝固能障害が進行し出血を制御できないことにより死に至るものと考えられる。この研究結果からも、大量輸血時の最適なFFP/PRBC比を検証する前向き試験の実施が妥当であることが支持されよう。

教訓 ベトナム戦争では戦傷者に対する乳酸リンゲル液大量投与が広まり、現在進行中のイラクやアフガニスタンにおける軍事行動ではRCC:FFP:PC=1:1:1の大量輸血法が広まっています。
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