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敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス⑧ [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より

敗血症における高二酸化炭素血症の緩衝

敗血症における高二酸化炭素血症の作用は、高二酸化炭素血症もしくはアシドーシスそのもの働きによってもたらされると考えられている。前述の通り、HCAが免疫応答に及ぼす影響は、主にアシドーシスの働きによってもたらされるものであり、高二酸化炭素血症そのものの関与は小さい。しかし、この場合、アシドーシスの成因が代謝性ではなく高二酸化炭素血症性であるという点が重要なのである。pHの変化に関係なく、高二酸化炭素血症が直接的な作用を及ぼす可能性がある。その具体的な例として、二酸化炭素がタンパクの遊離アミノ基と結合してカルバミン酸塩ができると、ある種のタンパクの挙動や活性が変化することが挙げられる。例えば、ヘモグロビンである。二酸化炭素とヘモグロビンが結合してカルバミノ化合物ができると、ヘモグロビンの酸素親和性が変化する。敗血症において、HCAの作用を修飾する目的でHCAを緩衝するとどのような影響があらわれるかということも、重要な問題である。

肺炎に起因する敗血症
緩衝された高二酸化炭素血症、即ち、pHが正常で高二酸化炭素血症がある状態は、肺内に細菌を注入して作成した肺炎モデルの肺傷害を増悪させるという報告がある。酸性もしくはアルカリ性製剤を投与して緩衝を図ると、投与した製剤自体による影響によって実験の解釈が難しくなる。これを除外するために、動物を高二酸化炭素環境に曝露した後に、腎臓による緩衝作用でpHが正常化するのを待って上記の実験は行われた。pH正常化後、対象動物の肺内に大腸菌が注入され、6時間後までの肺傷害の程度が対照群(normocapnia群)と比較された。動脈血酸素分圧、肺コンプライアンス、炎症性サイトカインの肺内濃度などを測定し肺傷害の重症度を評価した。その結果、緩衝された高二酸化炭素血症のある群の方が、normocapniaの対照群と比較し、肺傷害が有意に重症であることが分かった。緩衝された高二酸化炭素血症があっても、好中球の貪食能が低下したり肺内の細菌量が増加したりすることはない、という興味深い結果も得られた。以上の知見は、細菌性肺炎による肺傷害の発生初期においてHCAが保護作用を示すことと、鮮やかな対比をなすものである。完成した肺炎や遷延した肺炎において、緩衝された高二酸化炭素血症がもたらす影響は、まだ分かっていない。

腹腔内感染に起因する敗血症
腹膜炎に起因する敗血症において、緩衝された高二酸化炭素血症はHCAとは異なる作用を発揮する。このことを示した研究でも、動物を高二酸化炭素環境に曝露した後に、腎臓による緩衝作用でpHが正常化するのを待って実験が行われた。pH正常化後、盲腸結紮・穿刺(CLP)を行い、6時間にわたって血行動態の変化と肺傷害が観察された。CLPによって発生した敗血症初期の血行動態悪化を、緩衝された高二酸化炭素血症が抑制することが分かった。ショックを緩和する効果の大きさは、HCAを上回らないまでも匹敵していた。しかし、緩衝された高二酸化炭素血症には、腹膜炎に起因する敗血症による肺傷害に対する抑制作用はなかった。緩衝された高二酸化炭素血症は、肺内もしくは血中の細菌量を増やすことはなく、動脈血二酸化炭素分圧が正常な場合と比べ肺傷害を悪化させることもないことが確認された。

教訓 HCAが免疫応答に及ぼす影響は、主にアシドーシスによってもたらされます。、高二酸化炭素血症そのものの関与はあまりないのですが、代謝性ではなく高二酸化炭素血症性のアシドーシスであるという点が重要です。HCAを緩衝してpH正常の高二酸化炭素血症にすると、肺炎による敗血症もしくは腹膜炎による敗血症に伴う肺傷害に対する保護作用がなくなります。一方、腹膜炎による敗血症では、pH正常の高二酸化炭素血症があると血行動態の悪化が抑制されます。
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