SSブログ

大量輸血の新展開⑦ [critical care]

Massive Transfusion New Insights

CHEST 2009年12月号より

大量輸血に伴う凝固能障害に対する遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子(rFⅦa)の有用性

止血の第一段階は、血小板凝集である。分子レベルでは、活性化血小板の表面で凝固因子の相互作用が発生する。組織因子と活性型第Ⅶ因子の複合体は、正常な止血過程を活性化する生理的因子である。遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子は、組織因子の結合促進、活性化血小板との結合促進および組織因子とは関係のない第X因子活性化、といった複数の作用を介して止血に貢献する。第Ⅶ因子には、第Ⅷ因子・第IX因子・vWFの各インヒビターの影響を受けずに作用を発揮するという利点もある。

大出血と激しい組織損傷を呈する外傷患者では、受傷後早期から著明な凝固能障害を来たし、成分輸血製剤の投与だけでは凝固能を是正することができないことがある。容量過負荷のリスクを避けつつ凝固能障害を迅速に補正したい場合には、FFPよりも遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子の方が有用である可能性がある。大量輸血に伴う止血機能異常に対する遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子の有効性については、依然として賛否両論があり、血栓性合併症の発生が憂慮され、静脈血栓塞栓症のリスクが増大する可能性があることが指摘されている。

外傷患者の出血を制御するのに遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子が有効かつ安全な補助製剤として作用するかどうかを評価する、無作為化プラセボ対照二重盲検試験が行われた。鈍的外傷患者(n=143)と貫通性外傷患者(n=134)が同時並行で対象とされた。大量出血を伴う外傷患者を、rFⅦa群またはプラセボ群に無作為に割り当てた。標準的な治療を行った上で、割り当て試験薬を、初回は8単位目の赤血球濃厚液投与直後、二回目および三回目は初回の1時間後および3時間後に投与した。rFⅦaはそれぞれ、200mcg/kg、100mcg/kg、100mcg/kgを投与した。鈍的外傷患者では、rFⅦaの使用によって赤血球濃厚液投与量が有意に減少し(2.6単位減; p=0.02)、大量輸血(赤血球濃厚液20単位以上)を要する症例も有意に減った(14% vs 33%; p=0.03)。貫通性外傷でも赤血球濃厚液使用量の減少(1.0単位減;p=0.10)、大量輸血症例の減少(7% vs 19%; p=0.08)、死亡率低下、重篤な合併症の発生数減少といった、有意ではないが同様の傾向が認められた。血栓塞栓症の発生については有意差は認められなかった。rFⅦaの投与により、鈍的外傷患者に対する赤血球濃厚液投与量は有意に減少したが、死亡率には有意差は生じなかった。rFⅦaはこの研究で採用された投与量であれば、外傷患者に対し安全に使用することができる。

上記研究の対象となった外傷患者のうち、凝固能障害を呈した患者群についてのサブグループ解析では、rFⅦaを使用すると、血液製剤(RCC、FFP、PC)の投与量が有意に減少し、大量輸血を要する症例も有意に減る(29% vs 6%; p<0.01)ことが分かった。rFⅦaを凝固能障害のある外傷患者に投与すると、多臓器不全and/or ARDSが有意に減り(3% vs 20%; p=0.004)、一方、血栓塞栓症の発生率は同等であった(3% vs 4%; p=1.00)。以上から著者らは、凝固能障害のある外傷患者では、受傷後早期からrFⅦaを投与すると、その効能をとりわけ大いに得ることができると結んでいる。

別の研究では、戦傷者の大量輸血症例を対象に、早期(赤血球濃厚液投与量が8単位に達するより前)または晩期(8単位投与以降)にrFⅦaを投与し、その有効性が比較された。早期rFⅦa投与群の方が、血液必要量が有意に少なく(20.6単位 vs 25.7単位)、貯蔵赤血球濃厚液使用量も有意に少なかった(16.7単位 vs 21.7単位)。早期投与群および晩期投与群の死亡率(33.3% vs 34.2%)、ARDS(5.9% vs 6.8%)、感染(5.9% vs 9.1%)、血栓塞栓症(0% vs 2.3%)については有意差は認められなかった。この研究では、大量輸血を要する外傷患者に対しrFⅦaを早期に投与すると、赤血球濃厚液使用量が20%減少するということが分かった。しかし、大量輸血中の外傷患者におけるrFⅦaの薬力学は、個人差が非常に大きいことが指摘されており、大量出血の治療にrFⅦaを使用する際には、もっと早い段階でもっと少ない量を投与すべきだという意見もある。rFⅦaの有効性を確立するには、さらに臨床試験を重ねる必要がある。

分娩後大量出血や、その他の原因による大量出血で、標準的な治療を行っても出血の制御が困難な症例では、rFⅦaが有効である可能性があることが数多くの文献で指摘されている。しかし、その大半は、二、三編の比較対照なしの研究に依拠した意見である。rFⅦaの使用に関する臨床ガイドラインが登場してきてはいるが、危機的出血症例におけるrFⅦaの投与時期、最適投与量、有効性および安全性をもっと正確に評価することのできるしっかりした臨床試験を行いエビデンスを揃える必要がある。

参考記事:脳出血に第Ⅶ因子は効果なし 

教訓 容量過負荷のリスクを避けつつ凝固能障害を迅速に補正したい場合には、FFPよりも遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子の方が有用かもしれません。大量輸血に伴う止血機能異常に対する遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子の有効性については、依然として賛否両論があり、血栓性合併症の発生が憂慮され、静脈血栓塞栓症のリスクが増大する可能性があることが指摘されています。重症鈍的外傷を対象としたrFⅦaの第3相試験は死亡率改善効果を示す可能性が低いということで2008年6月に途中で中止されました。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。