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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑨ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

治療法の進歩:血行動態管理

2001年にRiversらは重症敗血症/敗血症性ショックを対象とした救急部における早期目標指向型治療(early goal-directed therapy; EGDT)についての前向き試験の結果を公表した。早期目標指向型治療とは、晶質液を投与して前負荷を保ち、中心静脈血酸素飽和度の目標値を達成するために血液製剤and/orドブタミンを投与するという方法である。この治療法によって院内死亡率が低下し、これを行わない場合との死亡率の絶対差は16%であった。それからというもの、早期目標指向型治療は敗血症性ショック患者の治療における根本理念となり、その構成要素は「Surviving Sepsis」ガイドラインでも推奨されている。血行動態についての明確なエンドポイントを達成し、臓器血流を最適化するべく早い段階から積極的な治療を行うという考え方には、大方の臨床医が大筋では合意しているが、早期目標指向型治療の各構成要素を他の治療法と比較した場合の相対的有効性については異論がある。こういった議論を終結させるため、複数の研究(Australasian Resuscitation in Sepsis Evaluation Randomized Controlled Trial, Protocolized Care for Early Septic Shock trialおよびProtocolized Management in Sepsis trial)が現在進行中である。これらの研究では、早期目標指向型治療の各構成要素の有効性が詳細に検討されている。

敗血症性ショック患者を治療するに当たっては、血圧や血行動態パラメータの目標値を達成する目的で昇圧薬および強心薬を投与するという慣習が何十年にもわたり続いてきた。しかし、各薬剤と転帰の関係を検討する大規模無作為化比較対照試験が行われるようになったのはつい最近のことである。最新のSurviving Sepsisガイドラインでは、ノルアドレナリンまたはドブタミンが第一選択薬として推奨されている。アドレナリンやバソプレシンは第一選択薬としては推奨されていないが、場合によってはバソプレシンをノルアドレナリンと併用してもよいことになっている。先頃行われたCATS研究では、敗血症性ショック患者330名がアドレナリン単剤群またはノルアドレナリン+/-ドブタミン群のいずれかに無作為に割り当てられた。平均動脈圧70mmHgを維持するように昇圧薬の投与量を調整し、ノルアドレナリン群において心係数が2.5L/min/m2を下回る場合はドブタミンを追加することにした。主要転帰項目である28日後死亡率についてアドレナリン群とノルアドレナリン+/-ドブタミン群のあいだに有意差は認められなかった(40% vs 34%, P=0.31)。不整脈などの重篤な有害事象の発生率についても同等であった。動脈血pHおよび乳酸濃度は、治療開始後早期においてはアドレナリン群の方が有意に低かったが、時間が経つと差は消失した。したがって、この研究の結果からアドレナリンがノルアドレナリン+/-ドブタミンと同等の選択肢として並べることができる可能性があると考えられる。この点については、さらに詳細な研究が行われることが望まれる。

ショック患者ではドパミン投与が死亡の独立予測因子であることを明らかにした遡及的研究を検証する目的で行われたSepsis Occurrence in Actually Ill Patients-2というRCTで、ショック患者を対象としてノルアドレナリンとドパミンが比較された。総計1679名の患者が対象となり、その内訳は敗血症性ショック1044名、心原性ショック280名そして低容量性ショック263名であった。ノルアドレナリン群全体とドパミン群全体の死亡率には有意差はなかった(48.5% vs 52.5%)。サブグループ解析を行ったところ、敗血症性ショック群では死亡率に差はなく、心原性ショック群ではドパミンを投与された患者の方が死亡率が有意に高かった。ドパミン群の患者のうち四分の一において不整脈が発生し、ノルアドレナリン群における不整脈の発生頻度はこの半分であったことには注目すべきである。敗血症性ショック患者252名を対象にしたノルアドレナリンとドパミンを比較した別のRCTも先頃行われ、驚くほど酷似した結果が示された。

教訓 敗血症性ショック患者を対象としてアドレナリン単剤群vsノルアドレナリン+/-ドブタミン群を比較したところ、28日後死亡率に有意差は認められませんでした。ショック患者を対象としてノルアドレナリンとドパミンを比較したRCTでは、敗血症性ショック患者においては死亡率に差はありませんでしたが、心原性ショック患者ではドパミン群の方が死亡率が高いという結果が得られました。
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