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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑤ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症における免疫抑制に関するエビデンス

敗血症患者において発生する問題を注意深く観察してみると、免疫抑制が原因となってその多くが引き起こされていることがありありと分かる。この点についても、敗血症死亡例の剖検研究で重要な所見が得られている。Torgersenらは外科系ICUに入室した敗血症患者235名の剖検所見についての研究を行った。約80%の症例において、死亡時には敗血症の原感染巣は明らかになっていなかった。剖検で肺炎の確定診断が得られた97例のうち、ICU滞在中に正しく肺炎と診断されていたのは52例に過ぎなかった。敗血症の原感染巣が不明であった症例の多くは、腹膜炎が原因であることが剖検で確認された。この研究から得られる重大な教訓は、ICU患者の多くは治療を行っていても感染が改善しないから良くならないのだということである。広域スペクトラム抗菌薬を使用し、感染源を制御する積極的な手段を講じても、感染が完治しなかったり、二次的に院内感染を発症したりするICU症例が多いのである。病原体の除去がうまくいかない重要な要因の一つが、患者の免疫能低下である。患者の免疫能を高めるような治療を行えば、患者の体が侵入した病原体を撃退することができる上に、新規の感染が発症するのを防ぐことになり、臓器不全を予防し生存率を向上させることができるかもしれない。

敗血症患者において免疫能が低下することを裏付けるエビデンスは他にもある。例えば、二次感染の起因菌となることの多い病原体についての研究でそのような知見が得られている。院内感染の起因菌には黄色ブドウ球菌のような毒性の高い細菌もあれば、正常免疫の患者にとってはとりたてて危険ではない病原体(例, Stenotrophomonas maltophilia, Acinetobacter baumannii、Candida albicans)もある。ICU死亡例の多くにおいて、最終的な死因がこのような比較的毒性の少ない病原体による敗血症であるということからも、敗血症が免疫抑制を招くという特徴が揺るぎないものであることが分かる。

潜在感染を起こすありふれたウイルスの再活性化についての研究でも、敗血症によって免疫が抑制されることを示す確固とした根拠が得られている。免疫抑制患者(HIV-1ウイルス感染患者や、化学療法中の患者など)においてはサイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスの再活性化が起こり得ることが、古くから知られている。同様に、敗血症患者でも相当数においてウイルスの再活性化が見られることが最近の研究で明らかにされている。Limayeらは重症患者120名を対象に、サイトメガロウイルス再活性化の発生頻度を検討した。対象患者のもともとの免疫能は正常で、調査時点においては多くが敗血症を発症していた。サイトメガロウイルス血症が33%に認められ、ウイルス血症のない患者と比べると入院期間が長く死亡率も高かった。Luytらは長期間の人工呼吸管理が行われている正常免疫能の重症患者を対象として類似の研究を行い、ウイルス活性化に起因する単純ヘルペスウイルス気管支肺炎が21%の症例で認められたことを報告している。これら二編の研究では臨床的に問題となるレベルのウイルス感染を発症していた患者の数はごく少数に限られていた可能性がある。つまり、入院以前には免疫能が正常であった重症患者において、入院の原因となった疾患が遷延するうちに免疫能が著しく低下し、潜伏感染しているウイルスが再活性化して、場合によっては臨床的にもそれが明らかになるということが以上の二つの研究で明らかにされたのである。

教訓 敗血症患者は免疫能が低下するため比較的病原性の弱い細菌(Stenotrophomonas maltophilia, Acinetobacter baumannii、Candida albicansなど)による二次感染を起こしやすかったり、サイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスの再活性化が起こったりします。
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