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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑮ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

まとめ

将来的には、免疫を標的にした敗血症治療が検査and/or臨床所見によって各患者に適した形で行われるようになるであろう(例, 単球のHLA-DR発現が低下している患者に対するGM-CSFの投与)。同様に、フローサイトメトリによるT細胞上のPD-1/PD-1リガンド発現の定量評価や全血刺激後サイトカイン産生量の迅速分析などが、免疫修飾療法の指標として行われるようになる可能性がある。日和見病原菌(StenotrophomonasやAcinetobacterなど)感染症例やサイトメガロウイルスまたは単純ヘルペスウイルスの再活性化を来した症例は、免疫増強療法の一番良い候補である。敗血症で炎症反応が亢進している場合に免疫刺激療法を行えば悪化するかもしれないし、自己免疫反応を引き起こしたりするのではないかという懸念が生ずるが、全身性炎症反応の様々な段階にある患者(敗血症もしくは外傷)を対象として強力な免疫刺激作用のあるインターフェロンγ、G-CSFおよびGM-CSFを用いた臨床試験では、炎症反応の増悪や自己免疫反応などの有害事象は認められなかった。これには、治療に対する反応が鈍い敗血症患者の大半は免疫能が極度に低下していて炎症亢進状態にはなり難いという事情も関係している。

敗血症とは、体内に侵入した病原体と宿主免疫反応とのあいだに繰り広げられる死闘であると言えよう。病原体は宿主の防御能のうち特定の部分を無効にするという策を弄して優位に立とうとする。免疫細胞のアポトーシスを誘導したり、単球におけるMHCクラス2分子の発現を抑制したり、negative pathwayに関与する共刺激分子の発言を誘導したり、サプレッサー細胞を増やしたりするのが病原体による宿主防御能攻撃策の具体例である。免疫学が進歩を遂げ、敗血症の病態生理についての知見が蓄積されるのにしたがい、新しい治療法の方向性が見えてきた。免疫能が低下していることが確かな患者を対象として免疫刺激剤の有効性を検証する緻密な試験を行う必要がある。治療効果が期待される多くの免疫修飾剤について、敗血症以外の疾患を対象として臨床試験が行われているところである。これらの免疫修飾剤の安全性は高く、実用化に耐えうる。免疫療法には多岐にわたる効果があり、感染症領域における目覚ましい進歩を今後担うであろう。

教訓 敗血症治療の分野でこれからの発展が期待されるのは、免疫能を正確に評価する検査法とその結果に基づいた免疫修飾療法です。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑭ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症患者の麻酔管理

敗血症患者の治療に関連して前項までに紹介した原則の大半は、敗血症患者の周術期管理にもそのまま適用することができる。したがって、敗血症患者の麻酔管理についてはいくつかの点についてのみ手短に述べることにする。敗血症患者の管理においていかなる時も何よりも優先しなければならないのは、蘇生のABCである。まず、手術室へ安全に搬送できる程度に患者の状態が落ち着いているかどうかを確認する。まだ気管挿管が行われていない症例では、安全な搬送に少しでも不安があれば気道を確保しなければならない。中心静脈路が留置されていれば、輸液療法の指標となり得る中心静脈圧の測定、中心静脈血酸素飽和度の測定(Surviving Sepsis Campaign推奨)、ノルアドレナリンをはじめとする血管作動薬の投与などが可能である。多くの場合、中心静脈路が必要である。急速輸液に必要な大口径の末梢静脈路および一拍ごとの動脈圧測定に必要な動脈圧ラインも大半の症例では留置すべきである。ICUまたは救急部で抗菌薬が投与されていなければ、速やかに投与する。

麻酔薬の投与に先立ち、適切な輸液療法が行われ血管内容量が補正されていることを確認する。多くの麻酔薬は前負荷を減らし(静脈が拡張するため)、心筋収縮力を低下させand/or交感神経の緊張を低下させるので、麻酔導入中に動脈圧が急激に下がることがある。局所麻酔薬による脊髄クモ膜下麻酔または硬膜外麻酔も交感神経の緊張を激減するので、敗血症患者に実施すると高度低血圧を来すことになる。したがって、敗血症患者の腹部または胸部手術に対する麻酔法として選択されるのは、通常は全身麻酔である。敗血症患者では凝固系に異常があることが多いので、その場合には脊髄クモ膜下麻酔や硬膜外麻酔が禁忌であることも全身麻酔が選択される理由である。しかし、症例によっては区域麻酔が適応となることもある。数多くの基礎的研究で、麻酔薬が免疫反応を修飾させることが明らかにされているが、そうした研究の大半が、in vitro実験や動物モデル実験によるもので、臨床的にも当てはまるかどうかは分からない。現時点では、敗血症に対する宿主免疫反応の修飾作用という面からとりたてて推奨される薬剤はない。

敗血症になると胃内容が空虚になるのに時間がかかるようになり、誤嚥の危険性が増すため、敗血症患者はフルストマックであると考えなければならない。稀ではあるが術中に高血圧を呈する敗血症患者もいるが、この場合は短時間作用性の降圧薬を投与する。急激に低血圧に陥ることがあるからである。敗血症患者ではARDSなどの肺合併症が発生することが珍しくない。肺容量を維持し酸素化を改善するのにPEEPが有用である。

教訓 敗血症患者の麻酔では、安全な搬送、輸液とノルアドレナリン投与による血行動態の維持および抗菌薬投与が重要です。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑬ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

免疫療法による敗血症患者の生存率向上

敗血症になると免疫エフェクタ細胞がアポトーシスにより大幅に減少することが明らかにされている(fig.2)。このことを踏まえ、抗アポトーシス作用を持つ免疫刺激性サイトカインのIL-7に期待が寄せられている(fig. 4)。IL-7には、リンパ球の増殖を誘導し、エフェクター機能を回復させ、さらに感染部位への遊走能を向上させるはたらきがある。敗血症におけるIL-7の有用性を裏付ける強力な理論的根拠を示した研究の成果が次々に発表されている。遷延性ウイルス感染患者の免疫能がIL-7投与によって回復するとか、慢性ウイルス性疾患や敗血症の動物モデルにIL-7を投与すると生存率が改善するといった結果が報告されている。現在、C型慢性肝炎、HIV感染もしくは癌患者の免疫能をIL-7投与によって高める効果を検討する臨床研究が行われている。IL-7は安全性が非常に高く、副作用により投与を断念しなければならなくなることはまずないと言ってよい。

敗血症の免疫療法になり得ると期待されている第二の方法は、T細胞表面に発現しnegative pathwayに関わる共刺激分子の阻害である。新しく発見された免疫抑制受容体PD-1が、宿主の免疫反応を修飾する上で不可欠の作用を発揮することが分かったのが、この治療法の進展に関わる重要な知見である。PD-1は主にCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の表面に誘導されて発現する。PD-1を介したシグナル伝達によってT細胞の増殖、サイトカイン産生、細胞毒性作用などが阻害される。敗血症患者の循環血液中T細胞ではPD-1の発現が増加していることが分かっている。そして、敗血症動物モデルを用いた実験ではPD-1が関与する経路を阻害することによって生存率が向上するという結果が得られている。動物実験ではPD-1を阻害すると病原体除去能が改善することが明らかにされている。腫瘍学領域において現在行われている臨床試験では、抗PD-1製剤が目覚ましい臨床的効果を発揮することが示されている。このように、PD-1阻害薬が免疫修飾薬として有効である可能性が裏付けられているのである。

第三の方法は、体外循環による血液浄化である。この治療法が依拠する概念は、宿主の炎症反応は血液濾過によって循環血液中の炎症性メディエイタを除去すれば制御することが可能である、というものである。血液濾過有効説は、炎症促進性サイトカインが産生され増えすぎた分を除去すれば炎症反応が減弱するはずである、ということを根拠としている。付け加えると、血液濾過を行うと、炎症促進性サイトカインだけでなく抗炎症性サイトカインも除去される。血液濾過はサイトカインを完全に阻害するのではなく、単に血中濃度を低下させるに過ぎない、という点がこの治療法の利点である。血液濾過フィルタや透析関連器具の材質等は進歩を遂げており、血液浄化の実施はより容易になり、効率も向上している。敗血症患者に血液浄化を行うと、臨床所見が改善し、循環血液中のサイトカインが減少するという報告もある。

参考記事
敗血症に対する免疫療法-年来の仇敵に対する新攻略法①
敗血症に対する免疫療法-年来の仇敵に対する新攻略法②

教訓 敗血症患者において、免疫エフェクター細胞のアポトーシスによる大幅な減少を防ぐには、抗アポトーシス作用や免疫活性化作用を有するサイトカイン(IL-7およびIL-15)の投与が有効である可能性があります。現在、IL-7の癌、HCVおよびHIV感染に対する治療効果を検証する臨床試験が進行中です。抗PD-1抗体は抗がん剤として治験が進んでいます。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑫ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症と活性化プロテインC

活性型ドロトレコギンα(DrotAA)の敗血症治療における位置づけは、今以って激しい議論の的である。Recombinant Human Activated Protein C Worldwide Evaluation in Severe Sepsis(PROWESS) 試験ではDrotAAの使用によって死亡率が低下する(絶対リスク差6.1%, 95%信頼区間 1.9-10.4%; P=0.005)という結果が得られた。そして、DrotAAは敗血症に伴う凝固系および炎症反応の異常に照準を合わせた治療薬として熱い期待を集めた。しかし、後続研究ではどのサブグループについても生存率改善を裏付ける一貫した結果は得られず、重篤な出血を来す危険性と対象患者の適切な選択についての懸念が払拭されなかった。成人または小児を対象とした無作為化プラセボ対象比較試験についてのメタ分析では(2008年)、全対象患者または各サブグループにおいてDrotAAを投与しても生存率は向上しないという結果が報告されている。敗血症におけるDrotAAの是非をめぐる懸念が解消されず議論が続いている状況を鑑みて計画されたPROWESS-SHOCK試験が現在進行中である。この試験は、DrotAAの位置づけを決定する極めて重要な役割を果たすに違いない。(訳注;PROWESS-SHOCK試験はXigris[レジスタードトレードマーク][DrotAA]を投与しても主要エンドポイントである28日後全死因死亡率はプラセボと比較し低下しないという結果に終わったため、Eli Lilly社は2011年10月25日にXigris[レジスタードトレードマーク]の販売中止を表明した。)現時点では、DrotAAの有効性が最も高いと考えられるのは、予測死亡率が高く(APACHEスコア25点以上、多臓器不全)、敗血症発症から24時間以内に投与を開始することが可能で、出血の危険性が高くない(重篤な凝固能異常や血小板数3万未満に該当しない)といった条件を満たす患者である。最新のSurviving Sepsis ガイドラインでは、重症敗血症患者もしくは死亡リスクの高い患者においてDrotAAの適応があるとされているが、その推奨レベルは以前のガイドラインより下がり、グレード2bに位置づけられている。また、術後30日以内の患者における適応を裏付けるエビデンスレベルも後退した(グレード2c)。

参考記事:活性化プロテインCは急性肺傷害に効果なし

教訓 PROWESS-SHOCKは敗血症性ショック症例における活性化プロテインCの効果を検証するphaseⅢ試験として行われました。残念ながら有効性が確認されず、活性化プロテインC製剤のXigrisは販売中止に追い込まれました。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑪ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症における副腎皮質ステロイドの有効性

少量の副腎皮質ステロイドを敗血症患者に投与すると多様な全身作用が得られ、敗血症の病態生理を緩和することができる可能性がある。その一つが血管トーンの改善である。この作用は、副腎皮質ステロイドが平滑筋のカテコラミンに対する感受性を向上させ、一酸化窒素の産生量を減少させる働きによって得られる。実際に、敗血症性ショックに対する副腎皮質ステロイドの有用性を検討した二編の大規模RCTでは、副腎皮質ステロイド使用群では非使用群に比べ昇圧薬投与中止までの期間の中央値が最長2日短縮するという結果が得られている。とは言え、副腎皮質ステロイドの少量投与によって敗血症性ショック患者の生存率が改善するのか?という問題に対する答えはまだはっきりしていない。生憎、先に紹介した二編のRCTには多くの違いがあり、示されている結果の中には相反するものある。二つのうち先に行われたAnnaneらの研究では、もう一編よりも対象患者が重症で、敗血症性ショック発症から8時間以内に患者登録が行われた。ハイドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの二剤が併用され(またはプラセボが投与され)、投与期間は7日間であった。そして、ACTH負荷試験に反応しなかった症例では、副腎皮質ステロイド使用群の方が生存率が高いという結果が示された。この研究に遅れて行われたCorticosteroid Therapy of Septic Shock(CORTICUS)試験では、敗血症発症から72時間以内に患者が登録され、敗血症の原因としては腹腔内感染が最も多かった。対象患者はハイドロコルチゾン群(漸減しながら11日間投与)もしくはプラセボ群に無作為に割り当てられた。この研究は当初目標の800名の標本数に達する前に中止され、最終的に対象となった499名についての解析では28日後死亡率の差は認められず、ACTH負荷試験に反応しなかった症例についてのサブグループ解析でも死亡率の差はなかった。そして、副腎皮質ステロイド使用群の方が重複感染の発生頻度が高いという結果が得られた。一方、先行するAnnaneらの研究では感染発生率の差は示されていない。この二編の研究を統合して解釈することは困難であり、副腎皮質ステロイド投与が有益である患者もしくは有害である患者を臨床診療の現場で予測する方法は現時点では存在しないと考えられる。副腎皮質ステロイド投与の成否を決定する要因は、以上に述べたような敗血症による免疫状態の変化であろう。今のところ、副腎皮質ステロイド少量投与を標準的治療として推奨することはできないが、敗血症ショック発症初期で通常の治療法では改善が見られない場合には一考に値する。またこの際、ACTH負荷試験の結果を考慮する必要はない。副腎皮質ステロイドを使用する場合には、ショック症状が軽快すれば投与量を漸減しなければならない。最新のガイドラインでは副腎皮質ステロイドの推奨程度が低いが(グレード2C)、以上のように投与するのであればガイドラインとも齟齬しない。

教訓 CORTICUS研究ではステロイド投与群の方が対照群よりも死亡率がやや高いという結果が得られました。この研究は目標標本数に達する前に中断されましたが、標本数を増やしたとすれば、ステロイドが有益であるというよりむしろ有害であるという結果をより顕著に示すことになったかもしれない、という見解が示されています。敗血症治療において副腎皮質ステロイド少量投与は標準的治療ではありません。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑩ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症性ショック患者は相対的バソプレシン欠乏に陥っていることが多く、バソプレシンを投与すると血管のトーンが回復するという観測結果が得られている。そのため、敗血症性ショック患者に対するバソプレシン投与の有用性に熱い注目が集められている。敗血症性ショック患者にバソプレシンを使用するとカテコラミン投与量を減らすことができるという先行研究で示された知見を踏まえ、Vasopressin and Septic Shock Trial(VASST研究)が行われた。この研究ではノルアドレナリンにバソプレシン(0.01-0.03単位/分)を併用すると、ノルアドレナリン投与量を増やす場合と比べ28日後生存率が改善し、この効果はショック症状が最も重篤な患者群(ノルアドレナリン換算で15mcg/minを超える投与を要するショック)においてとりわけ大きいという仮説が検証された。この研究では敗血症性ショック患者778名が対象となり、全体の28日後死亡率に差は認められなかった(35.4% vs 39.3%)。しかし、ショック症状が軽い患者(ノルアドレナリン換算で15mcg/min以下の投与を要する程度のショック)において死亡率が最大11%低下することが分かった。仮説とは正反対の結果が得られたわけである。実験モデルを用いた研究では、敗血症性ショックにおいてバソプレシンに対する反応が低下する機序が示されている。VASST研究で得られた知見から、ショックの程度がそれほどひどくない敗血症性ショック患者に対する少量バソプレシン投与の有用性を検討する研究を今後行う必要性があることが分かり、多量のカテコラミンを要する患者にはバソプレシンを併用するという従来の治療法では敗血症性ショック患者の転帰は改善しないことが明らかになった。中等度~重症心不全、ACSまたは腸管虚血の患者ではバソプレシンが有害作用をもたらすことが懸念されるためVASST研究の対象から除外された。こういった症例にはバソプレシンを使用するべきではないことを銘記すべきである。

以上に紹介した諸研究で得られた知見から、敗血症患者における第一選択の昇圧薬はドパミンではなくノルアドレナリンであると言える。少なくとも同程度の昇圧作用が得られ、不整脈を招く危険性が有意に低いからである。アドレナリン単剤投与がノルアドレナリン±ドブタミンに代わる選択肢となり得ることが最新の研究で示されているが、まだまだエビデンスは不足しているため現時点ではアドレナリン単剤投与は第二選択に止まる。そしてVASST研究では、敗血症性ショックの中でも重症例においては、少量バソプレシン投与に生存率を改善する効果は期待できないことが明らかにされ、むしろ中等度以下の敗血症性ショックに対して少量バソプレシン投与が有効である可能性が浮かび上がった。

教訓 敗血症患者における第一選択の昇圧薬はドパミンではなくノルアドレナリンです。敗血症性ショック患者においてバソプレシンとノルエピネフリンの効果を比較検証したVasopressin and Septic Shock Trial (VASST)研究では、バソプレシン持続静注(0.01~0.03 U/min)を行った場合の敗血症性ショック患者の28日死亡率はノルエピネフリン持続静注(5~15mcg/min)を行った場合と同等であるという結果が示されています。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑨ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

治療法の進歩:血行動態管理

2001年にRiversらは重症敗血症/敗血症性ショックを対象とした救急部における早期目標指向型治療(early goal-directed therapy; EGDT)についての前向き試験の結果を公表した。早期目標指向型治療とは、晶質液を投与して前負荷を保ち、中心静脈血酸素飽和度の目標値を達成するために血液製剤and/orドブタミンを投与するという方法である。この治療法によって院内死亡率が低下し、これを行わない場合との死亡率の絶対差は16%であった。それからというもの、早期目標指向型治療は敗血症性ショック患者の治療における根本理念となり、その構成要素は「Surviving Sepsis」ガイドラインでも推奨されている。血行動態についての明確なエンドポイントを達成し、臓器血流を最適化するべく早い段階から積極的な治療を行うという考え方には、大方の臨床医が大筋では合意しているが、早期目標指向型治療の各構成要素を他の治療法と比較した場合の相対的有効性については異論がある。こういった議論を終結させるため、複数の研究(Australasian Resuscitation in Sepsis Evaluation Randomized Controlled Trial, Protocolized Care for Early Septic Shock trialおよびProtocolized Management in Sepsis trial)が現在進行中である。これらの研究では、早期目標指向型治療の各構成要素の有効性が詳細に検討されている。

敗血症性ショック患者を治療するに当たっては、血圧や血行動態パラメータの目標値を達成する目的で昇圧薬および強心薬を投与するという慣習が何十年にもわたり続いてきた。しかし、各薬剤と転帰の関係を検討する大規模無作為化比較対照試験が行われるようになったのはつい最近のことである。最新のSurviving Sepsisガイドラインでは、ノルアドレナリンまたはドブタミンが第一選択薬として推奨されている。アドレナリンやバソプレシンは第一選択薬としては推奨されていないが、場合によってはバソプレシンをノルアドレナリンと併用してもよいことになっている。先頃行われたCATS研究では、敗血症性ショック患者330名がアドレナリン単剤群またはノルアドレナリン+/-ドブタミン群のいずれかに無作為に割り当てられた。平均動脈圧70mmHgを維持するように昇圧薬の投与量を調整し、ノルアドレナリン群において心係数が2.5L/min/m2を下回る場合はドブタミンを追加することにした。主要転帰項目である28日後死亡率についてアドレナリン群とノルアドレナリン+/-ドブタミン群のあいだに有意差は認められなかった(40% vs 34%, P=0.31)。不整脈などの重篤な有害事象の発生率についても同等であった。動脈血pHおよび乳酸濃度は、治療開始後早期においてはアドレナリン群の方が有意に低かったが、時間が経つと差は消失した。したがって、この研究の結果からアドレナリンがノルアドレナリン+/-ドブタミンと同等の選択肢として並べることができる可能性があると考えられる。この点については、さらに詳細な研究が行われることが望まれる。

ショック患者ではドパミン投与が死亡の独立予測因子であることを明らかにした遡及的研究を検証する目的で行われたSepsis Occurrence in Actually Ill Patients-2というRCTで、ショック患者を対象としてノルアドレナリンとドパミンが比較された。総計1679名の患者が対象となり、その内訳は敗血症性ショック1044名、心原性ショック280名そして低容量性ショック263名であった。ノルアドレナリン群全体とドパミン群全体の死亡率には有意差はなかった(48.5% vs 52.5%)。サブグループ解析を行ったところ、敗血症性ショック群では死亡率に差はなく、心原性ショック群ではドパミンを投与された患者の方が死亡率が有意に高かった。ドパミン群の患者のうち四分の一において不整脈が発生し、ノルアドレナリン群における不整脈の発生頻度はこの半分であったことには注目すべきである。敗血症性ショック患者252名を対象にしたノルアドレナリンとドパミンを比較した別のRCTも先頃行われ、驚くほど酷似した結果が示された。

教訓 敗血症性ショック患者を対象としてアドレナリン単剤群vsノルアドレナリン+/-ドブタミン群を比較したところ、28日後死亡率に有意差は認められませんでした。ショック患者を対象としてノルアドレナリンとドパミンを比較したRCTでは、敗血症性ショック患者においては死亡率に差はありませんでしたが、心原性ショック患者ではドパミン群の方が死亡率が高いという結果が得られました。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑧ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

集中治療専門医は、自施設のアンチバイオグラム(各種注射用抗菌薬に対する臨床分離株の薬剤感受性パターン)を把握し、予測的に使用する抗菌薬を適切に選択できるように努めなければならない。各施設の実状に合わせたプロトコルを作成すれば、抗菌薬を選択するのに当たって上述のような注意点を確実に押さえることができる。別の方法として、グラム陰性菌に感受性のある抗菌薬を含む予測的多剤併用療法を起因菌が分離され薬剤感受性が判明するまで実施するというものがある。この方法は上述のプロトコルと組み合わせることもできる。この方法によって適切な抗菌薬が選択される可能性が高くなることが示されているが、選択すべき抗菌薬は施設ごとの感受性によって異なると考えられる。起因微生物が分離され感受性が判明したら、当初の広域スペクトラム療法からより狭域スペクトラムの抗菌薬へと変更する。この縮小(deescalation)策をとることによって、抗菌薬の予測的選択を最善なものとすることができる上に、抗菌薬耐性、薬剤毒性、ICUにおいてよく見られる病原体であるクロストリジウム・ディフィシルの増殖などの原因となる薬剤の使用を最小限に抑えることができる。

抗菌薬療法において留意すべきもう一つの重要な点は、適切な量を投与することである。我々の施設で行った研究では、フルコナゾールの投与量不足が、カンジダ血流感染治療中の死亡の独立予測因子であることが明らかにされている。適切な投与量が重要であることについては、正しい認識が近年広まってきている。というのも、新しい抗菌薬の開発が進んでいなかったり、使用している抗菌薬に対する感受性が「感受性有り」の範囲であっても最小発育阻止濃度(MIC)が高い細菌に患者が感染している場合は転帰が悪いという観測結果が知られるようになってきたりしているからである。例えば、最新のClinical and Laboratory Standards Instituteの感受性限界点を適用すると、バンコマイシンのMICが2mcg/mL以下のMRSA分離株はバンコマイシンに感受性があることになるが、MRSA感染に対してバンコマイシンを投与されている症例では、分離されたMRSAのバンコマイシンのMICが1mcg/mL以下の場合よりも2mcg/mLの場合の方が死亡率が高いことがいくつかの研究で明らかにされている。同様に、MICの高いグラム陰性菌に感染している患者は死亡率が高いことが分かっている。以上の知見から、こういった細菌による感染の治療には確実に感受性がある他の抗菌薬(例;MRSA肺炎にリネゾリド)を使用すべきなのかもしれない。

他にも、抗菌薬の投与法を見直し、細菌を撃滅するのに必須であるPK/PD(薬物動態/薬力学)を最適化し、耐性菌の増加という難問を解決しようとする取り組みが行われている。中でも最も熱心に研究が行われている投与法は、βラクタム薬の持続投与と間欠的に長時間(3-4時間)かけて投与する方法である。この投与法が有効であると考えられているのは、当該細菌のMICを上回る薬物濃度が維持される時間を最長化すればβラクタム薬のPK/PDに適うからである。重症患者の薬物動態データを基にしてモンテカルロシミュレーションを行った初めての試みでは、ピペラシリン/タゾバクタム、セフェピムおよびメロペネムの長時間もしくは持続投与によってPK/PDの目標達成度が向上することが明らかにされた。標本数は少ないものの、臨床データでもこのような投与法によって患者の転帰が改善することが示されている。ただし、一方では転帰の改善を否定するデータも報告されている。PK/PDの最適化がもっとも役立つ臨床状況は、腎機能が正常でMICが高いと予測される病原体にやられている可能性が高い患者(例えば、近い過去に抗菌薬を投与されていたり、入院期間がすでに長期に及んでいたりする患者)を治療する場合である。このような患者群を対象とした研究が今後行われることが期待される。

教訓 重症感染症を治療する際には、自施設のアンチバイオグラムの把握、deescalation(はじめは広域スペクトラムの抗菌薬を予測的に投与し感受性が判明したら狭域スペクトラムの抗菌薬に変更)、投与量不足の回避、PK/PDに適った適切な投与計画が大切です。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑦ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

治療法の進歩:抗菌薬療法

感染症専門家と集中治療専門家が協働し指導力を発揮して敗血症の治療指針が作成され、Surviving Sepsis Campaignと銘打ったガイドラインにまとめられた。その概略をtable 1にまとめた。「敗血症セット治療(sepsis bundles)」を早い段階から適用し、決められた治療法を漏れなく実施すれば、生存率が有意に改善することが数多くの研究で明らかにされている。敗血症の治療を成功させる二つの鍵は、感染源の迅速な制御と、血行動態の速やかな安定化による臓器血流回復・維持である。感染源の除去または縮小のための介入(外科的ドレナージなど)が必要であれば、遅滞なく実施しなければならない。生存率を改善するには、直ちに抗菌薬を投与することが非常に重要である。敗血症性ショック患者を対象とした有名な研究では、適切な抗菌薬投与の開始が一時間遅れるごとに死亡率が7.6%ずつ上昇することが示されている。

抗菌薬の予測的選択の成否も重要なポイントである。起因菌に対する抗菌活性のある抗菌薬が選択されなかった場合は転帰が不良で、入院期間が延長したり死亡率が上昇したりすることが明らかにされているからである。感染源から起因菌を予測するだけでなく、薬剤耐性菌の宿主危険因子についても配慮しなければならない。例えば、多剤耐性菌定着歴や比較的最近の抗菌薬使用歴などが宿主危険因子である。市中感染と院内感染とのあいだには違いがあり、一般的には院内感染では耐性菌(MRSAや緑膿菌など)が起因菌であることが多いため、両者を区別することが重要である。さらに、医療関連感染の危険因子についても評価しなければならない。居住場所が老人ホームや長期療養施設であるとか、近い過去の入院歴、透析クリニックへの通院、点滴外来での化学療法や抗菌薬投与、在宅医療(経静脈投与、創傷ケアまたは専門的な看護ケアなど)はいずれも耐性菌感染の危険因子となり得る。このような危険因子を保有する患者の起因菌は院内感染の起因菌と類似していることが多い。不適切な抗菌薬投与の原因として頻度が高いのが、医療関連感染の危険因子の有無についての認識不足である。抗菌薬が適切に選択されなければ、転帰は悪化する。この理路は肺炎についてもっともよく当てはまることが証明されているが、一筋縄ではいかない状態に陥った腹腔内感染やカテーテル関連血流感染などの他の部位の感染を治療する際にも念頭に置くべきである。

教訓 敗血症性ショック症例では、適切な抗菌薬投与の開始が一時間遅れるごとに死亡率は7.6%ずつ上昇します。院内感染や医療関連感染では耐性菌の存在を考慮して抗菌薬を選択します。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑥ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

免疫療法とバイオマーカ

免疫能を変化させる治療法(宿主免疫反応の強度を増幅または低下させる薬剤の使用)を有効に行うには、患者の炎症反応が亢進しているのか低下しているのかを見極めるよい方法がないことが、大きな障壁として立ちはだかる。免疫系の状態を反映する特定のマーカ(バイオマーカ)の血中濃度を定量できれば、大きな福音となるかもしれない。バイオマーカの定量評価によって治療方針を決定するこの方法を検討した研究が、つい先頃行われた。この研究では、フローサイトメトリを行い循環血液中の単核球におけるHLA-DRの発現が低下していることが分かった患者には、免疫能を活性化する作用のある顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を投与し、免疫エフェクタ細胞の増幅を促進・誘導した。小規模な第Ⅱ相試験ではあったが、HLA-DRの発現が低下している敗血症患者にGM-CSFを投与すると、人工呼吸期間、ICU在室期間および入院期間が短縮するという結果が得られた。HLA-DRの他にも、T細胞疲弊のマーカ(プログラム細胞死-1[PD-1]やPD-リガンド1)や制御性T細胞(T細胞活性化を強力に阻害する作用がある)のマーカなどが、免疫エフェクタ細胞の免疫表現型を明らかにするバイオマーカとなりうる。表現型を反映するマーカと、希釈全血を用いて炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの産生能を評価する免疫機能検査を組み合わせれば、患者の免疫能がどのような状態にあるのかを正確に判断することができるのではないかと期待されている。小児敗血症患者を対象として最近行われた臨床研究では、リポ多糖(LPS)で刺激した血液検体を用いてTNF-α産生量を測定し、TNF-α産生量が200pg/mL未満の患者にはGM-CSFが投与された。GM-CSFを投与された患者の血液のTNF-α産生能は改善し、GM-CSFを投与されなかった場合と比べ、新規院内感染発生数が大幅に減った。

宿主免疫能を反映する指標として臨床応用できる可能性があるマーカは、単球のHLA-DR発現の他にもある。例えば、CD4陽性およびCD8陽性T細胞の細胞表面発現マーカである。T細胞は様々なタンパクを発現する。このタンパクにはT細胞活性を増幅または抑制するいずれかの作用があり、かつ、フローサイトメトリを行えばタンパクの発現の程度を迅速に評価することができる。我々の研究室では、以上で紹介した免疫修飾タンパクのT細胞における発現量を定量評価し、重症度の指標(SOFAスコア)との相関を検討した(fig. 3)。この図に示した結果は先行発表のものではあるが、CD8陽性T細胞を活性化する共刺激分子(CD28およびOX40)の発現が減ると、重症度が高くなる(SOFAスコアが高くなる)という逆相関の関係があることが明らかになった。我々はまた、T細胞を不活化する共刺激分子の発言についても研究を進めている。細胞表面におけるタンパク発現についての以上のような研究結果と、プロカルシトニンのような他の敗血症マーカについての研究で得られた知見を組み合わせれば、宿主の免疫能をより総合的に捉えることができるであろう。プロカルシトニンは敗血症のマーカとしては感度と特異度に問題があるとはいえ、高値が続く場合は転帰不良であることを示す。色々なマーカのどれとして、必ずしもその一つだけで患者の免疫能の全体像を明らかにできるわけではないが、複数の検査を適切に組み合わせれば免疫能をより正確に評価することができるようになるだろう。そうすれば、各症例にぴったりあつらえた目標指向型の治療が可能となると考えられる。

教訓 宿主免疫能を反映する指標として臨床応用できる可能性があるマーカには、単球のHLA-DR発現やCD4陽性およびCD8陽性T細胞の細胞表面発現マーカなどがあります。複数の検査を組み合わせることによって患者の免疫能を正確に評価できるのではないかと期待されています。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑤ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症における免疫抑制に関するエビデンス

敗血症患者において発生する問題を注意深く観察してみると、免疫抑制が原因となってその多くが引き起こされていることがありありと分かる。この点についても、敗血症死亡例の剖検研究で重要な所見が得られている。Torgersenらは外科系ICUに入室した敗血症患者235名の剖検所見についての研究を行った。約80%の症例において、死亡時には敗血症の原感染巣は明らかになっていなかった。剖検で肺炎の確定診断が得られた97例のうち、ICU滞在中に正しく肺炎と診断されていたのは52例に過ぎなかった。敗血症の原感染巣が不明であった症例の多くは、腹膜炎が原因であることが剖検で確認された。この研究から得られる重大な教訓は、ICU患者の多くは治療を行っていても感染が改善しないから良くならないのだということである。広域スペクトラム抗菌薬を使用し、感染源を制御する積極的な手段を講じても、感染が完治しなかったり、二次的に院内感染を発症したりするICU症例が多いのである。病原体の除去がうまくいかない重要な要因の一つが、患者の免疫能低下である。患者の免疫能を高めるような治療を行えば、患者の体が侵入した病原体を撃退することができる上に、新規の感染が発症するのを防ぐことになり、臓器不全を予防し生存率を向上させることができるかもしれない。

敗血症患者において免疫能が低下することを裏付けるエビデンスは他にもある。例えば、二次感染の起因菌となることの多い病原体についての研究でそのような知見が得られている。院内感染の起因菌には黄色ブドウ球菌のような毒性の高い細菌もあれば、正常免疫の患者にとってはとりたてて危険ではない病原体(例, Stenotrophomonas maltophilia, Acinetobacter baumannii、Candida albicans)もある。ICU死亡例の多くにおいて、最終的な死因がこのような比較的毒性の少ない病原体による敗血症であるということからも、敗血症が免疫抑制を招くという特徴が揺るぎないものであることが分かる。

潜在感染を起こすありふれたウイルスの再活性化についての研究でも、敗血症によって免疫が抑制されることを示す確固とした根拠が得られている。免疫抑制患者(HIV-1ウイルス感染患者や、化学療法中の患者など)においてはサイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスの再活性化が起こり得ることが、古くから知られている。同様に、敗血症患者でも相当数においてウイルスの再活性化が見られることが最近の研究で明らかにされている。Limayeらは重症患者120名を対象に、サイトメガロウイルス再活性化の発生頻度を検討した。対象患者のもともとの免疫能は正常で、調査時点においては多くが敗血症を発症していた。サイトメガロウイルス血症が33%に認められ、ウイルス血症のない患者と比べると入院期間が長く死亡率も高かった。Luytらは長期間の人工呼吸管理が行われている正常免疫能の重症患者を対象として類似の研究を行い、ウイルス活性化に起因する単純ヘルペスウイルス気管支肺炎が21%の症例で認められたことを報告している。これら二編の研究では臨床的に問題となるレベルのウイルス感染を発症していた患者の数はごく少数に限られていた可能性がある。つまり、入院以前には免疫能が正常であった重症患者において、入院の原因となった疾患が遷延するうちに免疫能が著しく低下し、潜伏感染しているウイルスが再活性化して、場合によっては臨床的にもそれが明らかになるということが以上の二つの研究で明らかにされたのである。

教訓 敗血症患者は免疫能が低下するため比較的病原性の弱い細菌(Stenotrophomonas maltophilia, Acinetobacter baumannii、Candida albicansなど)による二次感染を起こしやすかったり、サイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスの再活性化が起こったりします。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント④ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

剖検研究で得られた敗血症についての知見

治療アルゴリズム(下記参照)が進歩するのに伴い、敗血症患者の大半が当初の炎症亢進期を乗り切り、敗血症が遷延し免疫抑制の進行が特徴の状態に陥るようになっている。敗血症死亡例の剖検研究を通じて、敗血症における免疫抑制の発生機序とその影響の大きさについての重要な知見が得られた。我々は、敗血症で死に瀕している患者のベッドサイドで組織を採取し、自然免疫系および獲得免疫系の細胞がアポトーシスにより激減していることを明らかにした(fig. 2)。減少した免疫細胞の種類は、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、B細胞、樹状細胞および単球などである。こういった免疫エフェクタ細胞が失われる点には特に注目すべきである。本来であればT細胞のクローン増幅がおこるべき重症感染時に、むしろ免疫細胞が失われているからである。小児および新生児の敗血症死亡例を対象とした後続の剖検研究でも、免疫細胞が著減していることが明らかになり、先行する成人の剖検研究の結果を裏付ける結果が示された。つまり、免疫エフェクタ細胞の大幅な減少は、あらゆる年齢層の敗血症に共通して認められる所見だということである。

CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の減少や、単球もしくはマクロファージの減少が宿主免疫に及ぼす影響を明らかにすれば、新しい知見が得られる。CD4陽性T細胞は「ヘルパーT細胞」として知られていて、他の多くの免疫細胞の活性を調整するはたらきがある。例えば、抗原刺激に対してCD4陽性T細胞はインターフェロンγなどのサイトカインを分泌する。インターフェロンγは単球またはマクロファージの活性化を誘導する。CD4陽性T細胞には、B細胞の増幅を誘導するサイトカインを分泌する作用があり、その結果、抗体産生能が上昇する。CD8陽性T細胞は感染に対する攻撃を受け持つ細胞で、細菌またはウイルスなどの病原体に侵入され感染した宿主細胞を認識し、その細胞を溶解させる。また、CD8陽性T細胞は潜伏ウイルスの再活性化を防ぐ上でも重要な役割を果たしている。マクロファージは成熟単球であり、抗原提示によってT細胞を活性化する働きを持っている。その上、マクロファージは病原体を捕捉し破壊する貪食細胞としての専門機能も担っている。以上のように様々な免疫細胞が減少することによる影響がすべて絡み合い、外から侵入する病原体を撃退する宿主の力が大幅に低下するのである。

数多くの重要な免疫細胞が失われるのに加え、生き残った細胞がアポトーシスに陥った細胞を貪食する機能も阻害される。既に述べた通り、敗血症になると免疫エフェクタ細胞がアポトーシスによって死滅する。すると、死滅した細胞を除去する機能に特化した食細胞が、死んだ細胞を直ちに処理する。壊死細胞が貪食されると、食細胞からのTNF-αの放出が刺激され炎症促進反応があらわれるが、アポトーシス細胞が貪食されるとIL-10やTGF-βなどの抗炎症サイトカインが放出され免疫抑制反応が誘導される。重要な各種免疫細胞の減少に、こういった作用が拍車をかけて、宿主の免疫防御能が一層低下する。敗血症に伴う免疫抑制を引き起こす別の機序として、HLA-DRなどの細胞表面分子の発現低下、T細胞疲弊、サプレッサー細胞(制御性T細胞およびミエロイド由来サプレッサー細胞)の増加などが挙げられる。

我々の研究グループが最近行った剖検研究では、宿主の実質細胞が免疫反応を修飾する作用を持っている可能性があるという興味深い知見が得られた。また、内皮および上皮細胞が、免疫細胞の機能を大きく変化させる作用を持つ様々な免疫抑制分子を発現することが最新の研究で明らかにされている。臓器の実質細胞にこういった免疫制御分子が発現する程度が、その臓器が敗血症による影響を受けやすいか受けがたいかを決定している可能性がある。敗血症で死亡した患者の肺組織に免疫組織化学染色を施したところ、敗血症ではない対照患者の肺組織と比べ、ヘルペスウイルス侵入メディエイタ(herpes-virus-entry-mediator)という免疫抑制作用のある分子の発現に強力なup-regulationがかかっていることが分かった(2011年未公表データ)。このことが、肺が他の臓器より院内感染に弱い一因であるのかもしれない。

教訓 重症感染のときには、本来であれば免疫系細胞は増殖しなければなりませんが、敗血症になると自然免疫系および獲得免疫系の細胞がアポトーシスにより激減します。アポトーシス細胞を貪食する機能も低下します。
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