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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑩ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症性ショック患者は相対的バソプレシン欠乏に陥っていることが多く、バソプレシンを投与すると血管のトーンが回復するという観測結果が得られている。そのため、敗血症性ショック患者に対するバソプレシン投与の有用性に熱い注目が集められている。敗血症性ショック患者にバソプレシンを使用するとカテコラミン投与量を減らすことができるという先行研究で示された知見を踏まえ、Vasopressin and Septic Shock Trial(VASST研究)が行われた。この研究ではノルアドレナリンにバソプレシン(0.01-0.03単位/分)を併用すると、ノルアドレナリン投与量を増やす場合と比べ28日後生存率が改善し、この効果はショック症状が最も重篤な患者群(ノルアドレナリン換算で15mcg/minを超える投与を要するショック)においてとりわけ大きいという仮説が検証された。この研究では敗血症性ショック患者778名が対象となり、全体の28日後死亡率に差は認められなかった(35.4% vs 39.3%)。しかし、ショック症状が軽い患者(ノルアドレナリン換算で15mcg/min以下の投与を要する程度のショック)において死亡率が最大11%低下することが分かった。仮説とは正反対の結果が得られたわけである。実験モデルを用いた研究では、敗血症性ショックにおいてバソプレシンに対する反応が低下する機序が示されている。VASST研究で得られた知見から、ショックの程度がそれほどひどくない敗血症性ショック患者に対する少量バソプレシン投与の有用性を検討する研究を今後行う必要性があることが分かり、多量のカテコラミンを要する患者にはバソプレシンを併用するという従来の治療法では敗血症性ショック患者の転帰は改善しないことが明らかになった。中等度~重症心不全、ACSまたは腸管虚血の患者ではバソプレシンが有害作用をもたらすことが懸念されるためVASST研究の対象から除外された。こういった症例にはバソプレシンを使用するべきではないことを銘記すべきである。

以上に紹介した諸研究で得られた知見から、敗血症患者における第一選択の昇圧薬はドパミンではなくノルアドレナリンであると言える。少なくとも同程度の昇圧作用が得られ、不整脈を招く危険性が有意に低いからである。アドレナリン単剤投与がノルアドレナリン±ドブタミンに代わる選択肢となり得ることが最新の研究で示されているが、まだまだエビデンスは不足しているため現時点ではアドレナリン単剤投与は第二選択に止まる。そしてVASST研究では、敗血症性ショックの中でも重症例においては、少量バソプレシン投与に生存率を改善する効果は期待できないことが明らかにされ、むしろ中等度以下の敗血症性ショックに対して少量バソプレシン投与が有効である可能性が浮かび上がった。

教訓 敗血症患者における第一選択の昇圧薬はドパミンではなくノルアドレナリンです。敗血症性ショック患者においてバソプレシンとノルエピネフリンの効果を比較検証したVasopressin and Septic Shock Trial (VASST)研究では、バソプレシン持続静注(0.01~0.03 U/min)を行った場合の敗血症性ショック患者の28日死亡率はノルエピネフリン持続静注(5~15mcg/min)を行った場合と同等であるという結果が示されています。
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